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僕は愛しい人の傍に居たい。

見て欲しい。【1】

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リアラに施設へと呼ばれたアリッストは応接室へと通されたかと思えば、そこには豪華でなおかつ煌びやかな衣装を纏った茶髪の獣人が待ちくたびれた様子で座っていた。

「誰だ?」

素直な感想を述べれば青年はズッコケて悪気の無いアリッストを見上げる。それでも反省の色も見せないアリッストにリアラが溜息を吐く。

「この子は君と喧嘩して他の施設へ行ったルゥーダ君だよ?覚えてない?」

「…?全く覚えてないな。結局、誰だよ?こいつ。」

その言葉にまたもやズッコケるルゥーダにアリッストが逆に訝しげな表情を見せれば彼は苦々しげに笑いながら言い放つ。

「ま…まぁ?俺みたいな超絶美しい獣人を…そんな風に言えるのはアリッストさんぐらい…だよね?…そういうところが好きだから?いいんだけど?」

「???よく分かんねぇけど早く話をしろ。仕事に遅れる。」

「!!?仕事??アリッストさんみたいな超!超絶イケメンが!??仕事…すんの?」

信じられないといった様子のルゥーダではあるがアリッストは気にも留めずにいる。

「そんなことはどうでもいいから。早く話進めてくれ。…無いなら帰る。」

帰る素振りをするアリッストにルゥーダは待ったをかけた。

「ちょっと待った!!!…取引しない?この獣人から聞いたよ?…女神になった妹に会いたいんでしょ?」

「!!!?リアラ…、言ったのか。」

怖い顔で睨みつけるアリッストにリアラは悪気の無い様子である。そんな2人を見つつルゥーダは話を続ける。

「ロボットに飼われたけれどそいつの不注意が災いして亡くなった…はずだったけれど、その妹はロボットや獣人たち、それに他の種族に愛されていたようだったよね?…だからその獣人は、記憶のデータを入れたまま…ロボットとして転生して、今は”神”として崇められている。…でも”神”に会うには多額の金が必要だった。…だから自身を高額に設定させて資金を得ようとした。どう?俺の推理は合ってる?」

「……何が言いたい?」

顔を険しくさせたアリッストにルゥーダは1つの提案を出すのだ。

「俺が資金を賄っても構わないってこと。俺ね~石油王に飼われたの。しかも側近だし主人は俺の願いならどんなことも叶えてくれる。…ある条件さえ飲めば、アリッストさんの妹に会わせる機会を与えることも出来るかもしれない。」

「てめぇの自慢話なんざ聞きたかなかったけどよ…。その条件は何だよ?」

少し興味を持っているアリッストにルゥーダは軽く笑った。

「…俺の愛獣、一生の愛獣になること。」

「…はぁ?」

一瞬、時が止まったように思えたがリアラが自分をルゥーダに会わせた理由が分かったような気がした。


「くっしゅんっ!!!…アリッストさん。何の用事かな?」

「あんな奴どうでもいいのです!マナは私と”愛”についての勉強なのです!」

「あはは…。まぁそうなんだけどね?」

ハーメルンが淹れてくれたダージリンを頂きながらジゼルと一緒に恋愛小説を読んでいくマナではあるが内心ではアリッストのことが気になっていた。

(本当に何があったんだろう?終わったら来てくれるかな?)

「へっくしゅっん!!!ごめんね~ジゼルちゃん。マスクかなんかすべきだったよね。…君に移らないか心配だな~。」

マナの他愛の無い発言にジゼルは顔を赤らめて本を落としてしまった。どうしたものかと本を拾い上げて渡そうとすればジゼルは何かを唱えながら目を輝かせた。

「マナに優しくされた…。この気持ちをデータに…。……ダメなのです。複雑な感情だからかデータが大きすぎるのです…。」

少ししょんぼりとするジゼルにマナは先ほどの気持ちを学習しようとしたジゼルに拍手して笑う。

「凄いよ!ジゼルちゃん!…またそういう気持ちが芽生えるように僕も頑張るから!落ち込まないで?」

にっこりと微笑んで見せればジゼルは恥ずかしそうな表情をする。

「…ありがとうなのです。でも、不思議なのです。」

「???不思議?何が?」

するとジゼルはマナを見つめて言い放った。

「性行為をするのが”愛”の極論だと私は思っていたのです。…でも違う気がするのです。好きな人に心配されたり、想われたり、褒められたり…それも”愛”の形だと思ったのです。」

「…うん。ジゼルちゃんの言ってることは合ってる気がするよ。」

「でも、もっと分からない疑問もあるのです。…なぜマナはあの虎の獣人を想っているのです?」

「…えっ?」

言葉が出ないマナに追い打ちをかけるようにジゼルは疑問を述べていく。

「アイツは散々、獣人やらエルフやらと性行為をした最低野郎なのです。たとえ飼い主と動物の主従関係でさえも…マナは時折、アイツに対して喜んだり怒ったり…色んな感情を見せるのです。…それはなぜ?」

「えっと…それは……。その…。」

幼女の的を得た発言にマナが黙って考え込んでしまった。しかし、複雑な感情が分からない人形は自分なりの回答を出した。

「あっ!そっか!世話をしているだけだからです!アイツもアイツで一応は愛玩動物だから、マナが世話をしてやってるだけなのです!その一環なだけなのです!」

残酷な少女の推論を否定できないマナは悲しげに笑ってから誤魔化すようにジゼルの頭を撫でた。

「そう…かもね。うん…。」

「…マナ?顔色が悪いのですよ?大丈夫?」

「大丈夫だよ。…さっ!また本とか読もうか!これなら分かりやすい本かも!」

マナは自分の中にある疑問や悲哀に蓋を閉じてジゼルと接するのであった。
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