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第17話 魔王を奪う【3】

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 …寒い。でも、身体が…動かない。どうして?
「んんぅ…、さむ…い…」
 ルルが寒さのあまり身をじらせようとすると、自分は誰かに抱かれているような、そんな感覚を得た。…だがその手はとても冷たくて、まるで人間ではないかのように感じる。だからルルはなぜか動きづらい身体を無理矢理動かし、目元を擦った。だが辺りは真っ暗で自分は誰に抱えられているのかさえ分からない。しかし、女の直感は働いた。
 …この人はソエゴンじゃない。ソエゴンはこんなに体が冷たくも無いし、身勝手な行動などしない。だったらこの人は…アークが送り込んだ
 しかしそうとは分からない。もしかしたらどこかの盗賊がルルを売ろうと企み、行動に移したのではないか。その可能性もあると判明しルルは恐怖に苛まれた。
 ―だから彼女は行動に移したのである。彼女は自分の精一杯の力を振り絞り、抱えられている人間を突き飛ばしたのだ。
「離してっ!!」
 すると突き飛ばされた人間は声を発したのだ。…それはルルに聞き馴染みのある声の主であった。
「…ルルシエお嬢様。俺はハイドです」
「ハイド…君? でもどうして?」
「急遽ですが、このままあなたを魔術騎士団の元へ引き渡すようにとアーク様に要請をされました」
 その事実に驚愕したルルは声を上げて断った。…なぜならば、こんな形でソエゴンと別れたくは無かったからだ。
「そんなの嫌よ! 私はソエゴンの所に帰らせて頂くわ。あなた達の身勝手な行動に付き合え―」
「それはあなたもです」
 あまりにも急すぎる展開にルルは躊躇ためらわずにハイドを見ようとするのだが、彼の水色の瞳はルルのことなど目に映すことは無い。ただ、アークに支配される人造人間サイボーグと化していたのだ。
「あなたはあの”魔王”を信じられるのですか。”魔王”はただ、自分の”孤独”を埋めたいが為にルルシエお嬢様をだけなのです」
「…そう簡単に言わないで頂きたいのだけれど」
 大きな瞳を鋭くさせるルルに構わずハイドはアークが命じた通りのセリフを淡々と述べていくのだ。
「あの”魔王”はルルシエお嬢様で遊び、道楽をしている…ただのなのです。お嬢様は、とてもから、あのような怪物を放って置けないのでしょう」
「…言いたいことはそれだけかしら?」
 ルルの一言にハイドは戦慄を感じた。どうやら怒っている様子だとハイドを操作しているアークは彼女を宥めるような言い方をする。…早くルルを元の居場所へ帰らせる為に。
「そんなことよりも。夜の森は危険ですから、早くと一緒に―」
 ―――バチィッン!!!
 ソエゴンを侮辱するハイドが許せずルルは彼に強烈な平手打ちをした。するとハイドは痛みで手を抑えたのかと思えば、その衝撃で思考を巡らせる。…ハイドが自我を取り戻し掛けているのを悟ったアークはなんとか魔術でハイドを操作しようと試みるが、予想外の展開に陥るのだ。
「残念だけれど、私はどんなにソエゴンが大悪党だと、”魔王”だと言われていても…私は彼を信じるわ。たとえそれが」
 ―ハイド君を通じてアークが止めようとしても。
 気が付いていた様子のルルにハイド…いや、アークは騒然とした。そして彼女は飲まされた薬の呪縛から逃れるように、ソエゴンの城へと駆け込むように逃げるように戻るのだ。
 ―嵐は轟音を立てて雨が降りそうな曇天であった。

 ルルとハイドの探知が終わったのだがソエゴンは眉をひそめた。どうやらハイドとルルが別行動を取ったようだ。空間に地図を浮かばせてルルが今、どこへ向かっているのかを探知をすると…ソエゴンは息を呑むのだ。どこか焦っている様子のソエゴンにランジアは問い掛けると…彼は”転送魔術”を用いてルルの場所へ向かおうとする。その行動にランジアは不思議に思うのだが、そんな少女にソエゴンは真剣な表情を見せて言い放った。
「…ルルが危ない道を潜り抜けようとしている。…早く助けないと」
 ―ルルが危ない。
 そう言い渡し術を発動させようとするソエゴンにランジアもついて行きたいと言い放ったのだ。不思議に思うソエゴンにランジアは目を伏せて彼に謝罪と理由を明らかにする。
「おじょーさまを危険な目に遭わせたし、ハイドも心配だから」
 彼女の真っすぐな声にソエゴンは顔を和らげて承諾をする。そしてソエゴンとランジアは”転送魔術”使用し、現場に向かうのだ。
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