魔王はマリオネットを奪う。

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
14 / 18

第14話 現状との食い違い【3】

しおりを挟む
「あ~…ハイドのお説教だ~。しかも今回はお父様にも怒られちゃうな~…」
「あらら…。本当にアークって気味が悪いくらい私に帰って欲しいのね…。ますます帰りたくないわ…」
「おじょーさまがそんなこと言わないでよ~」
 作戦が失敗したランジアは現在、ルルの部屋にて髪を遊ばれていた。ルルもそうだが、ランジアの水色の髪も背中を覆うくらいはある。そんな彼女の髪をルルは楽しげにいてはツインテールにしたり、編み込みにしてみたり、お団子にしたりしているのだ。
 だが結局は少女らしく片側を編み込んでからもう片方の髪の束に寄せて結んだ。普段は髪の毛など弄りもしないランジアはとても嬉々としていたが…ルルも同様であった。
「ランジアちゃんは髪の毛がつやつやね。…最初に撫でた時も、手触りが良かったもの。羨ましいわ」
「そうなの…かな。でも私はおじょーさまをして造られたからさ~」
「…そう、なの」
「おじょーさまも髪の毛だって綺麗だから、そうしたんじゃないの?」
 するとルルは少し悲哀に満ちた顔をした。疑問を抱くランジアへルルは自身のこれまでの生い立ちを語るのだ。
「そうかもしれないわね…。私は、親にも、兵士にも、学校の子にも…好かれていたとは思うし、自分もそうであろうと努力はしたわ。…でも、それをするたびに、自分が」
 ―壊れていく気がしたの。
「…壊れるって?」
 幼いランジアには分からないようで不思議な顔をしていた。そんな彼女にルルは少し考え込みこのような答え方をした。
「う~ん…人間で言う”死んじゃう”ってことかな」
「…死んじゃうのは、どうして?」
 再度の問い掛けにルルは儚くも哀しげな表情を浮かべる。その表情にランジアは心を奪われるが、そんな少女に構わずにルルは言葉を続けたのだ。
「私が家を出たのは、家でさえもイイコの私を演じるのが辛かったから。…死んでしまいたいほど、辛くて苦しくて、でも誰にも話せなかったの」
「…なんで”辛い”って話せなかったの?」
「……周囲がイイコの私を望むから。それに応えてしまう自分がいるから…かしらね。今もそうだけれど、本当の私はプライドが高いしワガママなのよ。だからイイコなんかじゃないわ」 
 自分自身が分かっているルルにランジアは驚嘆してしまう。生みの親であるアークでさえも聞いていなかったからだ。まさか銘家の、しかもアークから崇拝さえされている聖女のお嬢様がこんなにもはっきりと自分の人間性を把握しているなんて思いも依らなかった。
 …おじょーさまも大変だったんだ。よく分からないけれど…。
 するとランジアはルルの陶器のように白く細い手のひらに触れては、優しげな顔をした。
 その顔は自分が昔、アークや両親から好かれていた「天使のようだ」と言われていた表情を想起させる。だが今は嫌では無かった。
「―偽物の自分をつくっていたんだね。だからおじょーさまは辛かったんだね」
 ランジアの言葉にルルは正直に答えた。
「えぇ、辛かったわ。でもね、その”マリオネット”の私を、物好きな人に助けられて今に至るの。…たとえ自分が大悪党になって、本物の魔王になってしまった…そんな変な人だけれど」
 ―ずっと、いつまでも、一生涯居たいと願う人に出会ったの。
「…それって―」
 彼女の言葉にランジアは驚く。だがルルは微笑んで席を立ちあがり、ランジアの手を引いてある場所へ連れて行くのだ。どこへ連れて行かれるのかと思えばルルは思いっきり微笑んだ。
「ソエゴンとハイド君を驚かせる為に、お菓子を作りましょう!」
「…お菓子?」
「そう。最近頑張って練習しているお菓子なのだけれど…今日は上手くいく気がするの。ランジアちゃんも居るし!」
 そして1人と1体はキッチンに降り立ち、ソエゴン手製のエプロンを身に着けてあるお菓子を作るのだ。
 それは狩りから帰って来たソエゴンと、ハイドを驚かせた。
 ―いびつな形をした焼きたてのアップルパイはなにかしら思う節はあった。だがルルとランジアが笑顔を見せてアフタヌーンティーを開催してくれたおかげなのだろうか。普段よりもとても美味しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...