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第14話 現状との食い違い【3】
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「あ~…ハイドのお説教だ~。しかも今回はお父様にも怒られちゃうな~…」
「あらら…。本当にアークって気味が悪いくらい私に帰って欲しいのね…。ますます帰りたくないわ…」
「おじょーさまがそんなこと言わないでよ~」
作戦が失敗したランジアは現在、ルルの部屋にて髪を遊ばれていた。ルルもそうだが、ランジアの水色の髪も背中を覆うくらいはある。そんな彼女の髪をルルは楽しげに梳いてはツインテールにしたり、編み込みにしてみたり、お団子にしたりしているのだ。
だが結局は少女らしく片側を編み込んでからもう片方の髪の束に寄せて結んだ。普段は髪の毛など弄りもしないランジアはとても嬉々としていたが…ルルも同様であった。
「ランジアちゃんは髪の毛がつやつやね。…最初に撫でた時も、手触りが良かったもの。羨ましいわ」
「そうなの…かな。でも私はおじょーさまを模倣して造られたからさ~」
「…そう、なの」
「おじょーさまも髪の毛だって綺麗だから、そうしたんじゃないの?」
するとルルは少し悲哀に満ちた顔をした。疑問を抱くランジアへルルは自身のこれまでの生い立ちを語るのだ。
「そうかもしれないわね…。私は、親にも、兵士にも、学校の子にも…好かれていたとは思うし、自分もそうであろうと努力はしたわ。…でも、それをするたびに、自分が」
―壊れていく気がしたの。
「…壊れるって?」
幼いランジアには分からないようで不思議な顔をしていた。そんな彼女にルルは少し考え込みこのような答え方をした。
「う~ん…人間で言う”死んじゃう”ってことかな」
「…死んじゃうのは、どうして?」
再度の問い掛けにルルは儚くも哀しげな表情を浮かべる。その表情にランジアは心を奪われるが、そんな少女に構わずにルルは言葉を続けたのだ。
「私が家を出たのは、家でさえもイイコの私を演じるのが辛かったから。…死んでしまいたいほど、辛くて苦しくて、でも誰にも話せなかったの」
「…なんで”辛い”って話せなかったの?」
「……周囲がイイコの私を望むから。それに応えてしまう自分がいるから…かしらね。今もそうだけれど、本当の私はプライドが高いしワガママなのよ。だからイイコなんかじゃないわ」
自分自身が分かっているルルにランジアは驚嘆してしまう。生みの親であるアークでさえも聞いていなかったからだ。まさか銘家の、しかもアークから崇拝さえされている聖女のお嬢様がこんなにもはっきりと自分の人間性を把握しているなんて思いも依らなかった。
…おじょーさまも大変だったんだ。よく分からないけれど…。
するとランジアはルルの陶器のように白く細い手のひらに触れては、優しげな顔をした。
その顔は自分が昔、アークや両親から好かれていた「天使のようだ」と言われていた表情を想起させる。だが今は嫌では無かった。
「―偽物の自分をつくっていたんだね。だからおじょーさまは辛かったんだね」
ランジアの言葉にルルは正直に答えた。
「えぇ、辛かったわ。でもね、その”マリオネット”の私を、物好きな人に助けられて今に至るの。…たとえ自分が大悪党になって、本物の魔王になってしまった…そんな変な人だけれど」
―ずっと、いつまでも、一生涯居たいと願う人に出会ったの。
「…それって―」
彼女の言葉にランジアは驚く。だがルルは微笑んで席を立ちあがり、ランジアの手を引いてある場所へ連れて行くのだ。どこへ連れて行かれるのかと思えばルルは思いっきり微笑んだ。
「ソエゴンとハイド君を驚かせる為に、お菓子を作りましょう!」
「…お菓子?」
「そう。最近頑張って練習しているお菓子なのだけれど…今日は上手くいく気がするの。ランジアちゃんも居るし!」
そして1人と1体はキッチンに降り立ち、ソエゴン手製のエプロンを身に着けてあるお菓子を作るのだ。
それは狩りから帰って来たソエゴンと、ハイドを驚かせた。
―いびつな形をした焼きたてのアップルパイはなにかしら思う節はあった。だがルルとランジアが笑顔を見せてアフタヌーンティーを開催してくれたおかげなのだろうか。普段よりもとても美味しかった。
「あらら…。本当にアークって気味が悪いくらい私に帰って欲しいのね…。ますます帰りたくないわ…」
「おじょーさまがそんなこと言わないでよ~」
作戦が失敗したランジアは現在、ルルの部屋にて髪を遊ばれていた。ルルもそうだが、ランジアの水色の髪も背中を覆うくらいはある。そんな彼女の髪をルルは楽しげに梳いてはツインテールにしたり、編み込みにしてみたり、お団子にしたりしているのだ。
だが結局は少女らしく片側を編み込んでからもう片方の髪の束に寄せて結んだ。普段は髪の毛など弄りもしないランジアはとても嬉々としていたが…ルルも同様であった。
「ランジアちゃんは髪の毛がつやつやね。…最初に撫でた時も、手触りが良かったもの。羨ましいわ」
「そうなの…かな。でも私はおじょーさまを模倣して造られたからさ~」
「…そう、なの」
「おじょーさまも髪の毛だって綺麗だから、そうしたんじゃないの?」
するとルルは少し悲哀に満ちた顔をした。疑問を抱くランジアへルルは自身のこれまでの生い立ちを語るのだ。
「そうかもしれないわね…。私は、親にも、兵士にも、学校の子にも…好かれていたとは思うし、自分もそうであろうと努力はしたわ。…でも、それをするたびに、自分が」
―壊れていく気がしたの。
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幼いランジアには分からないようで不思議な顔をしていた。そんな彼女にルルは少し考え込みこのような答え方をした。
「う~ん…人間で言う”死んじゃう”ってことかな」
「…死んじゃうのは、どうして?」
再度の問い掛けにルルは儚くも哀しげな表情を浮かべる。その表情にランジアは心を奪われるが、そんな少女に構わずにルルは言葉を続けたのだ。
「私が家を出たのは、家でさえもイイコの私を演じるのが辛かったから。…死んでしまいたいほど、辛くて苦しくて、でも誰にも話せなかったの」
「…なんで”辛い”って話せなかったの?」
「……周囲がイイコの私を望むから。それに応えてしまう自分がいるから…かしらね。今もそうだけれど、本当の私はプライドが高いしワガママなのよ。だからイイコなんかじゃないわ」
自分自身が分かっているルルにランジアは驚嘆してしまう。生みの親であるアークでさえも聞いていなかったからだ。まさか銘家の、しかもアークから崇拝さえされている聖女のお嬢様がこんなにもはっきりと自分の人間性を把握しているなんて思いも依らなかった。
…おじょーさまも大変だったんだ。よく分からないけれど…。
するとランジアはルルの陶器のように白く細い手のひらに触れては、優しげな顔をした。
その顔は自分が昔、アークや両親から好かれていた「天使のようだ」と言われていた表情を想起させる。だが今は嫌では無かった。
「―偽物の自分をつくっていたんだね。だからおじょーさまは辛かったんだね」
ランジアの言葉にルルは正直に答えた。
「えぇ、辛かったわ。でもね、その”マリオネット”の私を、物好きな人に助けられて今に至るの。…たとえ自分が大悪党になって、本物の魔王になってしまった…そんな変な人だけれど」
―ずっと、いつまでも、一生涯居たいと願う人に出会ったの。
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「…お菓子?」
「そう。最近頑張って練習しているお菓子なのだけれど…今日は上手くいく気がするの。ランジアちゃんも居るし!」
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