魔王はマリオネットを奪う。

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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第7話 秘密兵器【終】

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 ルルの言葉に助けられ、動揺していた気持ちを落ち着けられたソエゴン。だから彼は彼女へ礼を述べた。
「ありがとうルル。ちょっと気持ちが落ち着いたよ…」
「いいえ。まぁ深呼吸でもして落ち着いてから考えましょう。…大丈夫。あなたなら、ソエゴンならこの2人を助けられるわ」
 そして微笑むルルにソエゴンは内心では鼓動を跳ねさせ、顔を紅潮させてしまうがそれどころでは無いと自分に言い聞かせ、2人が息を吹き返すのを願って行動をする。
 とりあえずは自分と戦闘をしたことにより傷つけてしまった身体を癒せるような魔術を行うことにした。するとソエゴンは倒れている2人に右手をかざし、平行に沿わせるように動きながら術を唱えた。
「かの者達を…癒せグアリィーレ-guarire
 するとソエゴンの右手から煌びやかに輝く蝶や鳥、そして女神のような美しい女性が現れ2人を包み込むように傷を癒していく。その女神のような人物の顔に術を見ていたルルが聞こえるように呟いた。
「その女神様。…私にそっくりなのはどうしてかしら?」
「えっ…と、それは…」
「私に似ているのはどうしてなのよ?」
 少し期待を込めてルルが話し掛ければ、ソエゴンは先ほどよりももっと顔を赤くしてしまった。するとなんということか。普段であれば高等魔術を3つでも操れるほどの実力者であるにも関わらず、暴走してしまい術の高度が上昇してしまった。
 そのおかげでいつもは気にも留めない自分の小さな傷や跡でさえも癒してしまったようだ。しかも力が暴走したので少々疲れてしまった。2人とも服や怪我もだいぶ癒えたのでソエゴンは暴走しつつある魔術を急停止させ、息を荒くさせて言い放つ。
「はぁ…はぁ…。もう~、変なこと聞かないでよ~」
 普段は見て見ぬふりをする己の醜い手でさえも、癒しの魔術のおかげで今はすべすべで気持ちは良いのだが…。しかし術を乱されたルルへ注意をしようとすると、彼女はどこか悪戯に微笑んではソエゴンの手に触れて撫でるのだ。
「結果オーライだけど良かったわ…。あなたの傷だらけの手も治せるなんて…やっぱりソエゴンはとっても凄い人ね」
 そして笑い掛ける彼女に怒るに怒れないでいるソエゴン。自分の醜い手だったものが綺麗になり、触れて感動をしているルルに思いを馳せた。
 …ルルの手もすべすべで、でも小さくて…あったかい。ちょっと疲れちゃったけれど、こうやってまた自分の手を綺麗にさせたら…また触れてくれるのかな?
「どうしたのソエゴン。…また考えごとしてたわね?」
「あっ…えっと…、と、というか、この2人を何とかさせないとね!! あー、忙しい!!」
 名残惜しいがルルの手から離れ、見た目は回復させた2人を見つめて触れようとしたその時、再び機械のような音声が聞こえたのだ。
『外傷の損傷は完治しました。…しかしです』
「充電不足?」
『今すぐ”充電器”を取り変えるか、充電を行ってください』
 ”充電器”という単語にソエゴンは不審に思ったので、確認をしようと試みる。さすがに少女のランジアは気が引けたので、ハイドと呼ばれた青年の身体検査をしてみることにした。”充電器”という言葉に引っかかったからだ。
「充電器ってなんだろう…。う~ん…服の上からじゃよく分かんないな…」
 …別にこの子、男の子だって言うし、失礼だけど…
 するとソエゴンはハイドのネクタイを緩め、ボタンを外し、肌を曝け出させるのだが…やけに冷たい視線を感じて見てみると、ルルがかなり引いた様子で問い掛けたのだ。
「…ソエゴンってそういう趣味あったのね」
「え、なに急に?」
 するとルルは今まで見たことが無いほど軽蔑を見せる視線を向けて言った。
「それなら納得がいくわ。…女に興味が無いからに―」
「いや違うからね!?? ”充電器”って意味が分からないし、服の上からじゃ分からないから脱がせただけだからね?」
 そう、なら良かった…とそう言ってとても心から安堵しているルルを見てソエゴンも自身の誤解が解けて良かったなと思いつつ、ハイドの身体を観察してみた。
 ―すると左胸に小さな箱のようなモノが装着されていたのだ。なんだと思い手に触れると…微量だが静電気のような微弱な電流を感じたのである。
 …もしかして、これが”充電器”。ということはこの子達って…。
 なんとなくだが2人の謎が解けたような表情を見せるソエゴンは、脱がしたハイドの服を着せつつ困惑しているルルへ説明を施す。
「ルルの言った通り、この子達は人間よ。…恐らく精巧に造られて人間を模倣した」
 ―人造人間サイボーグさ。
人造人間サイボーグ? 私、知らないわ。それはどういう人間なの?」
 う~ん、と考え込んではハイドの黒いネクタイを締め終えてルルに人造人間サイボーグのことを話す。
人造人間サイボーグっていうのは、人体の一部以外は機械なんだよ。例えば心臓は本物だけどそれ以外は機械…みたいなね。要するに、半分機械で半分は人間って感じかな」
「ふ~ん。つまりそれを…アークが造ったのかしら?」
「恐らくね。…それだけ僕を殺したいんだって思うと悲しいけれど…この2人には罪は無いから」
 するとソエゴンは2人同時に起動させる為に寄り添わせくっつかせた。…動かない2人の手を握らせて。
 ―そして心を込めて術を唱えるのだ。
「空中に浮遊し漂う幾多数多いくたあまたの電子よ、我の言葉に従い…唸れライギアー-righiare!」
 ―――ビリリリリリィィィ!!!
 眩い光が輝いたかと思えば、2人の胸元に電流が与えられ…2体同時に覚醒した。
 
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