上 下
3 / 18

第3話 困った魔王【2】

しおりを挟む
 今日はクオリエ産のラベンダーのハーブティーに果実のロールケーキである。普段であればルルと楽しくアフタヌーンティーを過ごすのだが…今日はそういう風にはいかなさそうだ。
「それでソエゴン。私を幸せに出来ないってどういう意味かしら?」
 ラベンダーティーを一口飲んでから、ルルは少々怒った様子でソエゴンに話し掛けてきた。彼女が怒っているのはソエゴンの…彼の自己肯定感の低さと自分がどれだけソエゴンに、彼に助けられたのかを分かって欲しいから。
 ―どんなに周囲がソエゴンと結婚をするのを止められても、両親に怒鳴られても、それでもルルはソエゴンが大好きで愛している人間なのだ。
 だからルルは彼に振り向いてもらう為に、ソエゴンよりは下手ではあるが料理や掃除は少しずつだが出来るようになったし、体型維持為に適度な運動がてら大嫌いなバレエの練習もきっちりしているし、大好きなソエゴンの料理やデザートを食べすぎないように腹八分目を目指して食しているのだ。
 ―今まで努力が簡単に実ってきたルルの人生ではあったが…ソエゴンのに関してはなかなか上手くいかない。
 だからルルは簡単に堕ちてくれないソエゴンに腹が立ってしまうようで…。
「私がこの前作ったヨーグルトソースのフルーツサラダは美味しいって言ってくれたわよね?」
「うん…美味しかったよ」
 それは本当である。食後のデザートとして美味しく頂いた。
「私、ちゃんと体型維持の為に大嫌いなバレエの練習もしているし毎日体重を計測して日記に付けているのだけれど…太ったように見えるかしら?」
 そんなことはない。むしろ背筋がピンと伸びているし、ルルが踊るバレエはとても魅力的だ。だからソエゴンは彼女に率直な言葉を掛ける。
「ううん…。ルルは綺麗だし、嫌いだって言っているバレエの姿の君を見ると…心が奪われそうなくらい…その、綺麗だな…って」
「…じゃあ、何が不満なのかしら?」
 そしてロールケーキを食すルル。作ってくれたフルーツロールケーキは上には苺とブルベリー、そして木苺が乗せてある。また粉砂糖が振られてあるので見た目がとても可愛らしい。しかも生クリームにクリームチーズが混ぜ込んであるおかげで爽やかさの中に甘さが広がりとてつもないくらい美味なのだ。
 …相変わらず美味しい。美味しすぎるけれど…。やっぱり私がソエゴンのように器用に作れないから結婚してくれないのかしら。…魔術だって使えないし…。
 そんな悶々と考えながら食すルルにソエゴンはラベンダーティーを一口飲んでから意を決したように言い放った。
「不満なんてないよ。ただ…ルルは僕とは違ってなんだから」
「…それってどういう意味?」
 ルルの顔が強張った。だからソエゴンは意味が通じていないのだと思い込んで彼女に説明をする。…本来であれば自分とは出会わなかった方が良かったていで話すように。
「言っている通りだよ。僕は世間から見られれば人々にとって恐怖でしかない怪物なんだよ。そんな人間がルルみたいなお嬢様で、綺麗で素敵な女性と付き合っちゃいけないし…幸せにもなってはいけないんだ。だからルルは―」
 ―――ガタンッ!!!
 紅茶の水面が揺れる。何事かと思って見ると目の前には…怒っている様子のルルがそこに居た。しかもかなり怒っているのか息を切らしているのが伺える。
 …ルルを怒らせるのもこれで何度目かな。やっぱり僕は―
 ―人を不幸にする人間なんだ。
 だがルルは肩を震わせながら叫ぶようにうつむくソエゴンへ言い放った。
「そんなことないわ。どうしてあなたは自分自身を傷付けるような言葉しか言えないの!??」
「…だってそうじゃないか」
「私はあなたに出会えて幸せよ。だから―」
「僕もルルと出会えて幸せな日々を送れたよ。…でも付き合うとか、結婚なんて考えられない。僕なんかと結婚なんてルルの将来にも良くない」
「そんな…」
 悲しげな表情を見せるルルにソエゴンは考えを巡らせる。
 …ルルは僕よりも若いし考えも幼い。だったら僕よりも素敵な人に出会えて結婚してくれる方が、僕は幸せだから。ルルのとして幸せだから。
「じゃあ…そんなあなたに聞くわ」
「なんだい?」
 するとルルは意を決したような顔をして言葉を言い放った。
「どうして私を”転送魔法”で帰らせないの?」
 不意に突かれた言葉にソエゴンは頭を捻った。
 …どうしてだろう?
 ルルが家に戻りたくないと言うからなのか、ルルが家に戻って苦しい思いを…”マリオネット”のようになってしまうからと危惧しているからなのか。
 今のソエゴンには分からないがただ1つ言えるのは…。
 ―――ズキンッ…。
 …この胸の痛みはなに?
 ―だがその原因も分からない。だから彼はルルの問い掛けにこのように答えた。
「…ルルが帰りたいのなら、寂しいけれど帰っても良いよ」
「…そんな」
 ルルの両目から一筋の涙が零れた。だがソエゴンは気づかない。
「帰りたくなかったら帰らなくても…って、ルル?」
「…そっか、そうなのね」
 涙を零すルルにさすがのソエゴンも慌てふためく。
「あの、大丈夫じゃない…よね。お茶、飲む?」
 涙を零しながらルルは席を立ち上がり、戸惑っている様子のソエゴンへ向けて言い放った。
「部屋にこもっているわ。…夕食、出来たら言ってね」
 ―――パタンッ…。
 寂しく閉ざされた扉を見てはソエゴンも悲しげな表情を見せた。
「ルル……、僕は―」
 ―君にそんな顔をさせたくなかったのに。
 そしてソエゴンは溜息を吐いてから窓に映る外を一瞥した。…なぜなら殺気のような気配を感じたから。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...