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第2話 困った魔王【1】
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…ルルと出会ってからもう4年かぁ~。僕ももう…いい歳だよね。でもこれで、”婚期”は逃したかな~…。
「はぁ~…。惨めだ…」
感傷に浸りながらもシーツを干す魔王ことソエゴン。彼は本当の意味で”おじさん”と言われてもおかしくない年齢になってしまった。彼自身、年齢に関しても気にしているような人間なので肩を下げては嘆いている様子である。…関してもとは一体どういう意味なのか。
―なぜならば、この森の”魔王”と聞けば誰もが震えあがり恐れてしまう人間が彼、ソエゴンなのだから。人を射殺しそうな鋭い目つきに鋭い大きな牙、そして大柄な体格をした大男…それが彼、ソエゴンなのである。だが彼は獣でも怪物でもない。人間の子である。原因があるとすれば彼の父親の容姿を大半受け継いでしまったせいだ。だが打って変わり性格は母親に似て穏やかで平和主義である。
そんな彼は幼少期から多くの人間にいじめられ、馬鹿にされてきた。彼は同じ人間と仲良くしたかったのだが、世間が…周囲の人間がそれを許さなかったのだ。
しかも不幸なことに、彼の容姿さえも許し愛してくれた両親は…早くに亡くなってしまった。彼が…ソエゴンが魔術学校を首席で卒業をした時に。
莫大な遺産と魔術師として成功を果たしたソエゴンを世間はさらに僻み罵った。彼の畏怖もあったただろうが、世間の人間はソエゴンに対し勝手な都合を付けては彼を阻んだのである。
―ソエゴンはただ人間と仲良くなりたかったのに。
だがどんな努力をしても報われず、彼は諦めて1人”孤独”を選んでは危険な森に城を建てて住んだのだ。…それでも悪評は絶たなかったが、それでも彼は孤独に苛まれて生きてきた。
―しかしこの孤独が続くかと思っていたソエゴンに大きな転機が訪れたのだ。それは今から4年くらい前に魔物に襲われていた少女…であったが、今は可憐で美しい女性へと成長をした大切な存在。
「ソエゴン~、お茶はまだかしら~?」
「あぁルル、もうシーツは干し終わったからちょっと待って―」
―――ギュッ…。
突然抱き着かれた美女…ルルことルルシエ・ヴァイスバードにソエゴンは何度目かの溜息を吐いた。昔から積極的な女の子ではあったのだが、最近は日を増すごとにボディタッチやらアプローチを見せるものだから困っているのである。困っているというと嘘にはなるが…でも実際問題はやはり困っているという方がソエゴンにとっては近いだろう。
そんな彼は抱き着いてくる可憐な女性、ルルへ言葉を掛けた。
「ねぇルル、離さないと今日のアフタヌーンティーの為に焼いたロールケーキあげないよ」
「…ロールケーキは食べたいけど、ソエゴンが結婚を承諾してくれるまで離さないわ」
…またそれか。
そう。ソエゴンが困っているのは彼女がソエゴンと結婚をしたいということだ。初めは遺産目当てかと疑念を持ったが、それは違うだろう。
だって彼女は、ルルは銘家の娘なのだ。しかも”魔術騎士団”という魔術に関しての精鋭部隊かつ兵士を養えるほどのご令嬢。だが事情があって彼女はソエゴンの所へ避難しており、たまに来る魔術騎士団や雇われの勇者達をソエゴンが魔術で倒してしまうというのがオチなのだが。
しかし、そのおかげで最近出来た高等魔術も扱え、しかも高等魔術でさえも3つくらいは使用できるようになった。それが出来るようになったのは彼女を助けようとする人間達のおかげではあるが。…そして追記としては、”魔王”という存在ではあるが、人間と触れ合える機会を得られたので楽しさもあった。
―だが今はルルをどう言い包めて平和なアフタヌーンティーを楽しむか。それが先決だ。だから彼は艶やかな黒髪を揺らし、陶器のような純白で細い腕で自身に抱き着くルルに恥ずかしながらも手を伸ばす。
―自分の手はこんなにもゴツくて、人を殺めそうなほど醜い手をしているのに。
…どうしてこんな僕に結婚なんてせがむんだろう。ルルなら選びたい放題だろうに。
だが素直なソエゴンは率直に告げてしまったのだ。こんな自分では彼女を、ルルを幸せに出来ないと分かっているから。
「ルル、早く手を離して。僕はどうせ―」
―君を幸せに出来ないから。
「……っあ」
言ってはいけないことを言ってしまったと自覚するにはもう時すでに遅し。するとソエゴンに抱き着いていた彼女は驚いたような顔をしたかと思えば、怪訝な表情を見せて言い放った。
「どうしてそんなこと言うの。私、言ったわよね? あなたと結婚したいって」
「あ…いや、その…」
「こんなにアプローチしているのにどうして私と結婚したくないの。私のこと…嫌い?」
嫌いという発言にルルが悲しそうな、泣き出しそうな表情を見せるのでソエゴンは慌てて思考を巡らせる。
…ルルのことは本当に好きだけど、僕と居たら不幸になっちゃうだろうし…。それに―
「嫌いじゃないよ。僕もルルのこと大好きだよ」
「…だったら結婚を―」
「でもそういう訳にはいかないんだ。…もうやることは終わったからお茶でも飲んで話し合おうよ。これからの―」
―僕達の関係を。
するとルルは抱き着いていたか細い腕を離したかと思えば…ソエゴンの男らしく逞しい手を握った。
「…ルル」
「これもダメ…なのかしら?」
大きな黒い瞳で可愛らしく訴えかけてくる美女にソエゴンは紅潮させ顔を俯かせてしまった。
「はぁ~…。惨めだ…」
感傷に浸りながらもシーツを干す魔王ことソエゴン。彼は本当の意味で”おじさん”と言われてもおかしくない年齢になってしまった。彼自身、年齢に関しても気にしているような人間なので肩を下げては嘆いている様子である。…関してもとは一体どういう意味なのか。
―なぜならば、この森の”魔王”と聞けば誰もが震えあがり恐れてしまう人間が彼、ソエゴンなのだから。人を射殺しそうな鋭い目つきに鋭い大きな牙、そして大柄な体格をした大男…それが彼、ソエゴンなのである。だが彼は獣でも怪物でもない。人間の子である。原因があるとすれば彼の父親の容姿を大半受け継いでしまったせいだ。だが打って変わり性格は母親に似て穏やかで平和主義である。
そんな彼は幼少期から多くの人間にいじめられ、馬鹿にされてきた。彼は同じ人間と仲良くしたかったのだが、世間が…周囲の人間がそれを許さなかったのだ。
しかも不幸なことに、彼の容姿さえも許し愛してくれた両親は…早くに亡くなってしまった。彼が…ソエゴンが魔術学校を首席で卒業をした時に。
莫大な遺産と魔術師として成功を果たしたソエゴンを世間はさらに僻み罵った。彼の畏怖もあったただろうが、世間の人間はソエゴンに対し勝手な都合を付けては彼を阻んだのである。
―ソエゴンはただ人間と仲良くなりたかったのに。
だがどんな努力をしても報われず、彼は諦めて1人”孤独”を選んでは危険な森に城を建てて住んだのだ。…それでも悪評は絶たなかったが、それでも彼は孤独に苛まれて生きてきた。
―しかしこの孤独が続くかと思っていたソエゴンに大きな転機が訪れたのだ。それは今から4年くらい前に魔物に襲われていた少女…であったが、今は可憐で美しい女性へと成長をした大切な存在。
「ソエゴン~、お茶はまだかしら~?」
「あぁルル、もうシーツは干し終わったからちょっと待って―」
―――ギュッ…。
突然抱き着かれた美女…ルルことルルシエ・ヴァイスバードにソエゴンは何度目かの溜息を吐いた。昔から積極的な女の子ではあったのだが、最近は日を増すごとにボディタッチやらアプローチを見せるものだから困っているのである。困っているというと嘘にはなるが…でも実際問題はやはり困っているという方がソエゴンにとっては近いだろう。
そんな彼は抱き着いてくる可憐な女性、ルルへ言葉を掛けた。
「ねぇルル、離さないと今日のアフタヌーンティーの為に焼いたロールケーキあげないよ」
「…ロールケーキは食べたいけど、ソエゴンが結婚を承諾してくれるまで離さないわ」
…またそれか。
そう。ソエゴンが困っているのは彼女がソエゴンと結婚をしたいということだ。初めは遺産目当てかと疑念を持ったが、それは違うだろう。
だって彼女は、ルルは銘家の娘なのだ。しかも”魔術騎士団”という魔術に関しての精鋭部隊かつ兵士を養えるほどのご令嬢。だが事情があって彼女はソエゴンの所へ避難しており、たまに来る魔術騎士団や雇われの勇者達をソエゴンが魔術で倒してしまうというのがオチなのだが。
しかし、そのおかげで最近出来た高等魔術も扱え、しかも高等魔術でさえも3つくらいは使用できるようになった。それが出来るようになったのは彼女を助けようとする人間達のおかげではあるが。…そして追記としては、”魔王”という存在ではあるが、人間と触れ合える機会を得られたので楽しさもあった。
―だが今はルルをどう言い包めて平和なアフタヌーンティーを楽しむか。それが先決だ。だから彼は艶やかな黒髪を揺らし、陶器のような純白で細い腕で自身に抱き着くルルに恥ずかしながらも手を伸ばす。
―自分の手はこんなにもゴツくて、人を殺めそうなほど醜い手をしているのに。
…どうしてこんな僕に結婚なんてせがむんだろう。ルルなら選びたい放題だろうに。
だが素直なソエゴンは率直に告げてしまったのだ。こんな自分では彼女を、ルルを幸せに出来ないと分かっているから。
「ルル、早く手を離して。僕はどうせ―」
―君を幸せに出来ないから。
「……っあ」
言ってはいけないことを言ってしまったと自覚するにはもう時すでに遅し。するとソエゴンに抱き着いていた彼女は驚いたような顔をしたかと思えば、怪訝な表情を見せて言い放った。
「どうしてそんなこと言うの。私、言ったわよね? あなたと結婚したいって」
「あ…いや、その…」
「こんなにアプローチしているのにどうして私と結婚したくないの。私のこと…嫌い?」
嫌いという発言にルルが悲しそうな、泣き出しそうな表情を見せるのでソエゴンは慌てて思考を巡らせる。
…ルルのことは本当に好きだけど、僕と居たら不幸になっちゃうだろうし…。それに―
「嫌いじゃないよ。僕もルルのこと大好きだよ」
「…だったら結婚を―」
「でもそういう訳にはいかないんだ。…もうやることは終わったからお茶でも飲んで話し合おうよ。これからの―」
―僕達の関係を。
するとルルは抱き着いていたか細い腕を離したかと思えば…ソエゴンの男らしく逞しい手を握った。
「…ルル」
「これもダメ…なのかしら?」
大きな黒い瞳で可愛らしく訴えかけてくる美女にソエゴンは紅潮させ顔を俯かせてしまった。
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