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"狼"の非日常への階段

不幸ヤンキー、”狼”に触れる。【1】

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とある真夜中にて。建物の13階の窓を開け空を見上げている1人の青年が居た。-黄色の地色に黒と青が入り交ざる模様が入った上着を肩に掛けた銀髪の青年…。その青年は真夜中であるにも関わらず散歩をしたいようである。普通の人間であれば外へ出るのであれば玄関から出るはずだが…彼は何にも臆せずに窓を全開に開けて飛び降りたのだ。一般人であれは確実に死ぬであろう高さから垂直に落ちていき銀髪の青年は死ぬだろうと誰もが思うだろう。-しかし、彼は違った。
急速に落ちていく体を抱き青年は小さく呟いた。
「-翼よ。我に従え。」
急落下していく体がふわりと宙に浮かんだかと思えば、彼の上着はまるで羽のように…生き物のように大きく上下に翼を広げ空へと舞い上がる。…月明かりに照らされて飛行する姿は、まるで鳥のような…蝶のような、とても神秘で艶やか(あでやか)な姿をしていた。
慣れた様子で大空へと飛び上がり闇夜へ駆けて行けば青年は高層マンションの屋上へとゆっくりと降り立ち、翼を元の上着の状態へと変化させる。
夜景を見渡してゆっくりと深呼吸をした青年は自身の後頭部をそっと撫でた。…青年のうなじには”狼”の入れ墨が入っており彼は決意を固めた様子で言い放つ。
「”狼”の争いは始まったばかりだ。-僕は絶対に。…絶対に”一匹狼(ロンリーウルフ)”の称号を取らなきゃ。…絶対に。」
-ビル風により大きな突風が彼自身を襲えば…髪の毛で隠されていた青年の右目が薄い紫色であった。その透き通った紫の瞳は青年の言葉に覚悟を持たせた事実に変わりはない…。

季節は6月の下旬頃。少し梅雨が上がり晴れ間が広がっている中で…とあるビックニュースが校内で流れていたのである。
「ねぇねぇ。-あの”不幸の花人(ふこうのはなびと)”が…あの”連続凍死事件”の犯人を取り押さえたんだって~!」
「偶然出くわして殴って気絶させた…って聞いてるけど?」
「でもすごいよね!!!なんか警視総監から直々に賞を貰ったってテレビでやってた!!」
「顔怖ぇしあんま話したことなかったけどすんげ~奴だな。彼岸花って。」
なんと不幸ヤンキーこと彼岸花 幸(ひがんばな さち)の話題で持ちきりなのである。ここに当の本人が居ればクラスメートに囲まれて話し掛けられていたのだが…哀しいかな。-彼は変態狼の手腕により体を開発されつつあるので今頃は朝寝坊をして学校へ急ぐものの、不良に絡まれて喧嘩をして遅刻…というルートであろう。
そんな彼のことなどつゆ知らず。クラスメートたちが幸の話をしていると、とある女子生徒がこんな言葉を発した。
「あ~!!!そういえばジュジュ!結構、彼岸花君と話してるじゃん?なんか連絡先とか知らないの???」
会話に参加せずに今日の授業の予習をしていた桐峯 ジュジュ(きりみね じゅじゅ)は友人に突然話題を振られるて固まった後、このような返答をした。
「???知らないけど?どうして?」
「だって!まぁ!ジュジュは百歩譲ってそんな風に思っていないだろうケド~?…気があるんじゃないの~?彼岸花君って?」
意外と勘の鋭いジュジュの友人が尋ねてみれば彼女は疑問を抱いた表情を浮かべ空を見上げる。-少し曇ってはいるがうっすらと太陽が顔を覗かせており何を思ってか、ジュジュはやんわりと首を横に振るのだ。
「まさか~?私は彼岸花君とお友達になりたいなぁ~って思ってるけど…。彼岸花君は私のこと鬱陶しいって思ってる感じがしたし…。でも!彼岸花君が悪い人じゃないってことが証明されて、私は嬉しいよ~!」
少し緑かかった髪に彼女がふんわりと優しく笑えば-まるで妖精のような天使のような愛らしく、そして、可愛らしい微笑みに男子たちはノックアウト。-ひれ伏している男子も数人居た。そんな男子たちの反応に再び疑問を抱く天然なジュジュの様子に苦笑する友人たちであった。

ホームルームが始まる5分前。幸以外のクラスメート全員が着席し担任の先生が引き戸を開けた。
「はーい。席に着け~。今日の日直…の前に。時期外れだが、転校生を紹介するぞ~。」
ヒソヒソと声を小さくして話し出す生徒を傍目に黒板に転校生の文字を書いてから廊下に居る転校生に向けて声を掛ける。
「準備が出来たからこっちに来い。久遠(くおん)。」
「あ…。はい。」
クラスメートが転校生に目をやれば…皆は少し驚いていた様子であった。-長い前髪右目に下ろし緑色のサングラスを掛けた少し小柄な人間。照明のライトに照らされるのは…銀色に染まった髪の毛だ。しかも線が細いのでパッと見れば女子に…いや、少し大きめな等身大の人形のように整っている顔立ちにクラスは彼の異様さに戸惑いを見せる。そんな彼らの反応を予期していたのであろう、青年は少し苦笑を浮かべてから自己紹介を始める。
「初めまして…。久遠 勇翔(くおん ゆうと)と言います。-えっと…。よろしくお願いします…。」
勇翔が軽くお辞儀をすればクラスメートたちは乾いた拍手を彼に送りヒソヒソと無礼にも話し出すのだ。
「…なんか。またヤンキー?」
「すんごい色白…。キレイ…。」
「-人形みたいだな…?」
「なんでサングラスしてるの。-カッコつけ?」
小声で騒ぎだすクラスメートに担任は大きな咳払いをしてから彼の補足をしていく。
「久遠の両親は転勤族らしくてな。もともとはこの地域に住んではいたんだが…」
担任が話を進めようとしたその時に猛スピードで走り抜ける音と共に急ブレーキをかけるように鋭い亀裂が入ったような高い音が鳴り響いた。-この音の正体は転校生の勇翔以外は誰もが知っている。
(((…来たな?)))
担任とクラスメートが呆れたような表情を見せてはいるが勇翔は戸惑いを隠せずにいれば…轟音を鳴らして息切れをしている赤髪の青年…彼岸花 幸のご登場である。
「お…遅れて…、すんません。また…ちょっと、絡まれて…。」
息切れをして汗を拭う幸に担任は険しい顔つきになってからクラスメートの前で説教を始めるのだ。
「彼岸花!!!先生はお前がニュースで凶悪犯の逮捕に協力したって聞いた時は喜びのあまり先生は泣いてたんだぞ?!」
「…それは。うっす。」
「でもそれと遅刻は別問題だ!!!-どんな事情であれ、社会に出たら遅刻なんてもってのほか!」
「はいっす…。」
幸の異名”不幸の花人”と恐れられている彼に臆せず叱りつける担任にクラスメートたちはいつもの調子である者は話し込み、ある者は予習や課題を内職し、ある者はこっそりとスマホをいじる…というカオスな光景に置いてけぼりにされる転校生…久遠 勇翔ではあったが…とある瞬間から一転し彼はある運命を感じる羽目になる。
くどくどと自身を怒鳴りつける担任の普段の調子に慣れている幸は自分よりも大きな視線を逸らし窓でも見て気分を紛らわそうとしたその時。-転校生の勇翔と目が合った。すると勇翔が一瞬唖然としたかと思えば幸に確かめるような言葉を発していたのだ。
「…さっちゃん?-ねぇ!さっちゃんだよね?」
「……?は?」
どこも誰かも知らぬが自身を”さっちゃん”とまるで女の子のように呼ぶ人物は、友人が少なすぎる幸の脳内辞典に1人しか居ない。-だがそれでも、あまりピンと来ないでいたので幸は檄(げき)を飛ばしまくる担任の話を無視して黒板に書いてある文字を、名前を読んで…驚いた。
「久遠 勇翔…。クオン ユウト…。翔ぶ…?って!"フライ”!!!って!?お前!?フライか?-でもそれにしては…髪は白いし…痩せてるし…?小柄ではあったけど…?」
小学生の頃に確かに”フライ"と呼ばれていた幸の唯一の友人は居たのだが…やはり当てはまらないでいる。-なぜならその時の彼は今のように痩せては無く、ふくよかで髪色も黒かったのだから。しかし、そんな幸であってもフライこと勇翔は自身の緑かかったサングラスを外し、長めの前髪を上げて証拠を見せたのだ。-隠されていた片目が薄い紫色…アメジストのような美しい瞳にの存在に幸も、そして目の前にいるクラスメートや担任をも驚かせたのである。
「さっちゃん…!フライだよ!!!さっちゃんに…いつも君に助けられてばかりの…醜いアヒルの子。君に会えて…本当に嬉しいよ…。」
前髪を上げてにっこりと微笑んだ姿は当時よりも可憐で華奢な笑みをほころばせていたがあどけなさは変わらずにいた。

幸の住んでいる家は古びた一軒家である。もともとは祖父母で住んでいたのでローンも無い。あるのは固定資産税ではある役所に申請をしてほとんど免除となっているのだ。
小5に祖父を亡くし今年は祖母が天国へと旅立ったのであるが…2人は不幸ヤンキーこと幸に『ちゃんと1人でも生きていけるように働きな。』という遺言という名のメッセージのうちの一つを言い渡して亡くなったので、彼は自分の将来への貯金にプラスをして、居酒屋でのバイトをしてこの家を保たせている。意外とその約束を守っているのは幸が祖父母のことが大好きで尊敬しているからであろう。
手入れの行き届いた花壇や木々は祖父母が残してくれた財産の一つであるので幸が我流で手入れを施しているのだが…そこに異端者が現れたのだ。
「へぇ~。なんか趣(おもむき)あんね~。…俺、田舎暮らしとかしたことねぇけど、こんな感じなんだろうなぁ~…。」
年季の入ったちゃぶ台に置いてある淹れたての緑茶を啜った(すすった)場磁石 哉太(ばじしゃく かなた)はあまりの美味しさに目を見張る。
「!!!花ちゃん。お茶淹れるの上手だね~…。おにいさんびっくり。」
驚いている哉太に幸は溜息を吐く。
「…喫茶店で会おうって言ったのになんで俺の家なんだよ?」
すると哉太は茶菓子である菓子をつまんで茶を啜り一息ついてからこのような返しをした。
「喫茶店だと目につくしね~。-今、俺新たな仕事に追われてんの~。かくまってよ~?」
「仕事あんならそっちいけよ。つ~か大体、本当に何の仕事」
「一目避けるならホテルでもいいケド?-そんじゃあ今からホテルに!」
「…イエ。オレの家でヨカッタです。」
「だからなにそのカタコト~?まあいいや。-で?セックス無しと断言させて、花ちゃんが嫌だと言っていた自分の家をかろうじて案内して、苦虫を噛むような顔をさせている花ちゃんが俺を上がらせてくれたは…なんでよ?」
胡坐(あぐら)をかいたサングラスを掛けた奇妙な男…今日は控えめにデニムの上着ではあるが中のTシャツはわざと腹部が見えており、均等に割れている腹筋の横には”狼”の入れ墨を見せつけているそんな彼の格好など無視するように、幸はとある言葉を発したのだ。
「…”狼”の争いってなんだよ。そんで…”一匹狼”とか。」
小さく呟いた幸に哉太は茶の入った湯呑を傾けてから静かに告げていく。
「”狼”…”一匹狼”になるように育てられた人間は”能力者”として狼同士で争わせて…最終的に勝ち残った者ががその一匹狼になれるんだよ。-そいつは莫大な富はもちろん莫大な栄誉と地位も得られるって言われてる。…ちなみにこの前の雪乃宮だっけ?そいつもそう。まっ!俺と戦った挙句に花ちゃんがぶっ飛ばしたから棄権になってそいつはもう狼争いには参加は出来ないよ。…入れ墨も消えてるだろうし?」
「…はぁ?なんで争うんだよ?意味わかんねぇ~…?というか、なんで入れ墨が消えんだよ?入れ墨は消えねぇだろ?」
「そこは狼かつ文系の俺に言われても知りませ~ん。…あとはもう一つ。」
茶を飲み干してから哉太はわざと湯呑を強く置いてから幸に近づいて来る。なぜか怒っているような哉太の態度に幸は疑問を浮かべている。
「…???なんだよ。急に。」
「まぁ先天的になった狼と後天的になった狼は能力差に少しだけ差はあれど唯一違うのは…変わるんだよね~。性格はもちろん、瞳とか体形とか変化する奴もいるし…あとは髪色は白く…いや、”銀髪”になりやすい。」
「!!!!」
銀髪という言葉に驚く幸の耳元で哉太は小さく囁いた、
「ねぇ花ちゃん。俺はお前の前で狼争いの話はしたけど…一匹狼の話はしてねぇんだけど?-誰から聞いたの?」
一瞬サングラス越しから真剣な眼差しを見つめられる哉太に幸は驚くが口は割らない。
「-お前に話したくない。」
わざと視線を逸らそうとした幸の顎を強く掴んだ哉太は彼を自身に振り向かせて言い切った。
「ふぅん?-じゃあ聞くまで花ちゃんをイジメる。」
「へぇっ???」
すると哉太は突然、幸を押し倒し畳へと叩きつけ手を一回鳴らしたのだ。すると幸は動けなくなり舌打ちをすれば哉太は幸の緩んでいるネクタイをゆっくりと解き、ボタンを素早く外しながら言う。
「誰からかは知らないけど、俺以外の能力者と内通してんなら話は別。…俺はお前を敵とみなすだけ。」
「…ないつう???」
「誰かと関わっていないかってことだよ?-バカヤンキー?」
「っふぁっ!!!」
再び耳元で囁かれ変な声が出てしまう幸をよそに哉太は幸のワイシャツを脱がせる。
幸は先日に怪我を負っていたので体中が傷付き、そして右肩にあるのは哉太自身が付けた噛み跡がある。その光景に哉太はニヒルに笑いながらサングラスを取った。赤く透明な瞳は今度は罪人を戒めるよう炎を感じさせる。
首筋や噛み跡、そして薄く桜色に染まった乳首を舌でいやらしげに大きくなぞりわざと音を立たせる。
-ズビィッ。プッチュ…。ジュッッ…。
耳も首もさらに感じ、さらに乳首までも感じやすくなってしまった幸にとっては恥ずかしさで堪らないし拷問にも近い様子だ。しかも幸自身も触らなければ哉太も何もしゃべらずに行為をしている様子は幸に寂しさを感じさせてしまう。
「あ…やぁぁっ……。-なんでいつもみたいにしゃべんねぇの…?」
「……。」
「…なんか言ってくれよ…!!!」
「……。」
哉太の様子がおかしいことに気づいた幸ではあるが普段よりも怖く感じてしまう彼の様子や態度に…幸はなぜか泣いていた。すすり泣くような幸の様子に気づいた哉太は驚くが彼は続ける。
「お前…が、この前の奴みたいに!!!フライを殺すの…かなって!-俺の友達…を殺すのかなっておもった…から言えなかったんだよ!!!バカ!!!へんたい!アホ狼!!!」
泣いてるのだがキレてるのか分からないが泣きじゃくりながら話し出す幸に哉太は動きを止めて唖然としている。
「えっと…。花ちゃん泣いてるの?キレてんの?-俺もちょっと悪かったけど…。」
「どっちもだバカ!!!バカって言った方がバカなんだ!!!」
「…なにその小学生の方程式。-はぁ。俺の負けだよ。もう能力解くから。」
3回手で地面を叩き能力を解除させた哉太に泣きじゃくる顔を見せぬように幸は顔を両手で覆わせる。
「-友達いない人間が唯一の友達を守って悪いかよ!!!…どうせ俺は友達も親もいない!孤独な人間なんだ~!!!バカヤロ~!!!」
急に泣き出して悲しいことを言い出す幸に哉太は行為どころでは無くので溜息を吐いて立ち上がる。
「…はぁ。ちょっと台所借りるよ?水汲んでくるから。-そしたら話してくれる?…その”フライ”って子の話。」
「…うん。」
面倒な表情を浮かばせている哉太は台所から蛇口を捻り水を汲むのであった。




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