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43.役者が揃った。
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驚くべき人物に再開し、豊は嬉しさが込みあがる。
…小夜は生きていたんだ。俺と同じ世界に飛ばされただけで、ちゃんと生きていて…。
しかし彼は久しく見た妹の姿に疑念を感じる。確かに小夜の姿はしているのだが…彼女は人形のように動かず、ただ椅子の上に座っていたのだ。しかもこれだけ大きな声を出しても、彼女はピクリともしない。
―ただ、そこに座って豊とリィナを無言で迎えただけである。だから豊は急に心配になったのだ。
…もしかして、小夜は。…死んでいるんじゃ?
すると豊の行動は早かった。眠っているか死んでいるか分からない最愛の妹に駆け寄ろうとするのだが…それを枢要の罪が黙って見るはずは無いのだから。
「…危ないっ!!! 志郎!」
「っえ?」
すると豊の咄嗟の行動を引き留めた…妹の小夜と瓜二つの”書物”の声に彼は立ち止まれば…禍々しい黒い稲妻のようなものが彼の前を激しい勢いで通りかかったのだ。寸での所で豊は避けたおかげで怪我は無かったが、攻撃を仕掛けてきた”傲慢”の罪のリッチは侮蔑するように舌打ちをした。
―だが唖然としている豊に向けて嫌な笑みを浮かべては、自身が放った武器を見せつけたのだ。…その暗黒に満ちた槍…だが見慣れている姿にリィナも目を見張ったのだ。
「…それは、データフォース。なのか?」
「いやぁ~違うな。そんなお前らみたいな甘っちょろい武器じゃねぇんだよ。…”反魂”の書?」
「……」
豊を模倣として作られた”書物”ではあるが、あまりにも本人とはかけ離れているリッチの悪態ぶりにリィナは無言になってしまう。…まるで、自分が人間に利用されていた時の出来事を想起してしまうぐらいだ。だからリィナは以前のような人間など信じぬような、そんな目つきで彼を睨んだ。
―だがそんな彼女を救う人間がここに居る。
「残念だけど。お前みたいな冷徹で残忍な奴の武器なんかよりも、リィナみたいな綺麗で羽みたいに軽くて思いやりのある武器の方がよっぽど良いね。…この高飛車野郎」
「…志郎」
彼の温かい言葉に彼女は隠れて微笑んだ。とても自分を労わってくれる…そんな優しい言葉を。
―だが馬鹿にされた張本人はケラケラと嘲るようにまっすぐな彼の言葉を跳ね除けては、自身の武器を振り回して見せた。…いかにも”対戦したい”と挑発するような態度で。
「この武器は漆黒の強さって言ってな~。お前らみたいな甘ちゃんじゃ、この槍の強さに呑まれて絶望の淵に立たせるような武器なんだぜ? …それを俺は扱えるんだ。すげぇだろ?」
「凄くないね。だから君はその力に呑まれてる。…死んでいるかもしれなくて、もしかしたら生きていても苦しんでいるかもしれない小夜のことなど、気にもしない。そんな冷酷な俺になっている」
「はっ。”書物”は本来”感情”などないぜ? シスコン野郎が何をほざいて―」
「残念だけど、君みたいな心が醜い”書物”を、俺は初めて知ったよ」
豊の挑発にリッチは憤りを感じたのだろう。彼はダークフォースを豊に向けて術を放とうとした。
「お前みたいな奴は…死ね」
黒い稲妻が豊に向けて放たれ、豊はその攻撃を避けようとするものの強大すぎて受けてしまいそうになる。
―しかしリィナは、データフォースにはなってはいなかったが、先ほどの攻撃を受けて情報が補充されていた。だから彼女は豊を守るようにデータフォースとなって彼を守るのだ。…自身で術を唱えて。
『シールドデータ! …発動』
そしてリィナは豊を禍々しい術から守ったのだ。りぃなのおかげで無傷で済んだ豊はデータフォースとなっているリィナに礼を告げる。…普段よりも白銀に輝いているように見えるのは気のせいか?
「ありがとう、リィナ。…おかげで助かったよ」
『だから意思疎通させろと何べんも言っているだろう。…まぁ良い。相棒を失っては元も子もないからな』
「…そんな冷たいこと言わなくても」
『違う。これは私の知識が言っているんだ』
やはり冷たい様子の彼女に豊は何とも言えない気持ちにはなるのだが…そんなことよりも、術を外されてさらに憤りを感じているリッチは攻撃を仕掛けようとした。…その時。
「おや? 随分騒がしいと思えば、ジェシーから聞いている”来客”ではありませんか?」
その声に耳を傾けると…何となく自分の嫌な上司であるルークを想起させてしまうような人物に出会った。だがその彼は上司よりも穏やかかつ穏便な態度で豊に接するのだ。
―そして言い放つ。
「ようこそ。枢要の罪の秘密基地へ。…あぁ、大丈夫ですよ。…役者は揃っていますから」
「…えっ?」
困惑をする豊と舌打ちをするリッチの両者にルークに似た人物は自己紹介を始めたのだ。…残り少ない枢要の罪を引き連れて。
「初めまして。…僕は”強欲”の罪のアリディルと言います。浴衣姿の青年は”憂鬱”の罪のチオロサアド。そして、大きな鏡を背負っている少女は”虚飾”の罪のマリー。…そして―」
すると今度は手に携えている”書物”を掲げてから彼は寂しげな表情を見せた。…その”書物”の題名は。
「”暴食”の罪…ライグン」
そう。彼はまだ復帰が出来ていない書物のライグンを携えて豊の前に躍り出た。そしてその表情は…朗らかでもあるがどこか憎悪に満ち溢れている彼の姿に戦慄する。
―豊はまんまと枢要の罪に囲まれてしまったのだ。…どうなるのか見当がつかない、この状況を。
…小夜は生きていたんだ。俺と同じ世界に飛ばされただけで、ちゃんと生きていて…。
しかし彼は久しく見た妹の姿に疑念を感じる。確かに小夜の姿はしているのだが…彼女は人形のように動かず、ただ椅子の上に座っていたのだ。しかもこれだけ大きな声を出しても、彼女はピクリともしない。
―ただ、そこに座って豊とリィナを無言で迎えただけである。だから豊は急に心配になったのだ。
…もしかして、小夜は。…死んでいるんじゃ?
すると豊の行動は早かった。眠っているか死んでいるか分からない最愛の妹に駆け寄ろうとするのだが…それを枢要の罪が黙って見るはずは無いのだから。
「…危ないっ!!! 志郎!」
「っえ?」
すると豊の咄嗟の行動を引き留めた…妹の小夜と瓜二つの”書物”の声に彼は立ち止まれば…禍々しい黒い稲妻のようなものが彼の前を激しい勢いで通りかかったのだ。寸での所で豊は避けたおかげで怪我は無かったが、攻撃を仕掛けてきた”傲慢”の罪のリッチは侮蔑するように舌打ちをした。
―だが唖然としている豊に向けて嫌な笑みを浮かべては、自身が放った武器を見せつけたのだ。…その暗黒に満ちた槍…だが見慣れている姿にリィナも目を見張ったのだ。
「…それは、データフォース。なのか?」
「いやぁ~違うな。そんなお前らみたいな甘っちょろい武器じゃねぇんだよ。…”反魂”の書?」
「……」
豊を模倣として作られた”書物”ではあるが、あまりにも本人とはかけ離れているリッチの悪態ぶりにリィナは無言になってしまう。…まるで、自分が人間に利用されていた時の出来事を想起してしまうぐらいだ。だからリィナは以前のような人間など信じぬような、そんな目つきで彼を睨んだ。
―だがそんな彼女を救う人間がここに居る。
「残念だけど。お前みたいな冷徹で残忍な奴の武器なんかよりも、リィナみたいな綺麗で羽みたいに軽くて思いやりのある武器の方がよっぽど良いね。…この高飛車野郎」
「…志郎」
彼の温かい言葉に彼女は隠れて微笑んだ。とても自分を労わってくれる…そんな優しい言葉を。
―だが馬鹿にされた張本人はケラケラと嘲るようにまっすぐな彼の言葉を跳ね除けては、自身の武器を振り回して見せた。…いかにも”対戦したい”と挑発するような態度で。
「この武器は漆黒の強さって言ってな~。お前らみたいな甘ちゃんじゃ、この槍の強さに呑まれて絶望の淵に立たせるような武器なんだぜ? …それを俺は扱えるんだ。すげぇだろ?」
「凄くないね。だから君はその力に呑まれてる。…死んでいるかもしれなくて、もしかしたら生きていても苦しんでいるかもしれない小夜のことなど、気にもしない。そんな冷酷な俺になっている」
「はっ。”書物”は本来”感情”などないぜ? シスコン野郎が何をほざいて―」
「残念だけど、君みたいな心が醜い”書物”を、俺は初めて知ったよ」
豊の挑発にリッチは憤りを感じたのだろう。彼はダークフォースを豊に向けて術を放とうとした。
「お前みたいな奴は…死ね」
黒い稲妻が豊に向けて放たれ、豊はその攻撃を避けようとするものの強大すぎて受けてしまいそうになる。
―しかしリィナは、データフォースにはなってはいなかったが、先ほどの攻撃を受けて情報が補充されていた。だから彼女は豊を守るようにデータフォースとなって彼を守るのだ。…自身で術を唱えて。
『シールドデータ! …発動』
そしてリィナは豊を禍々しい術から守ったのだ。りぃなのおかげで無傷で済んだ豊はデータフォースとなっているリィナに礼を告げる。…普段よりも白銀に輝いているように見えるのは気のせいか?
「ありがとう、リィナ。…おかげで助かったよ」
『だから意思疎通させろと何べんも言っているだろう。…まぁ良い。相棒を失っては元も子もないからな』
「…そんな冷たいこと言わなくても」
『違う。これは私の知識が言っているんだ』
やはり冷たい様子の彼女に豊は何とも言えない気持ちにはなるのだが…そんなことよりも、術を外されてさらに憤りを感じているリッチは攻撃を仕掛けようとした。…その時。
「おや? 随分騒がしいと思えば、ジェシーから聞いている”来客”ではありませんか?」
その声に耳を傾けると…何となく自分の嫌な上司であるルークを想起させてしまうような人物に出会った。だがその彼は上司よりも穏やかかつ穏便な態度で豊に接するのだ。
―そして言い放つ。
「ようこそ。枢要の罪の秘密基地へ。…あぁ、大丈夫ですよ。…役者は揃っていますから」
「…えっ?」
困惑をする豊と舌打ちをするリッチの両者にルークに似た人物は自己紹介を始めたのだ。…残り少ない枢要の罪を引き連れて。
「初めまして。…僕は”強欲”の罪のアリディルと言います。浴衣姿の青年は”憂鬱”の罪のチオロサアド。そして、大きな鏡を背負っている少女は”虚飾”の罪のマリー。…そして―」
すると今度は手に携えている”書物”を掲げてから彼は寂しげな表情を見せた。…その”書物”の題名は。
「”暴食”の罪…ライグン」
そう。彼はまだ復帰が出来ていない書物のライグンを携えて豊の前に躍り出た。そしてその表情は…朗らかでもあるがどこか憎悪に満ち溢れている彼の姿に戦慄する。
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