書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
43 / 49

43.役者が揃った。

しおりを挟む
 驚くべき人物に再開し、豊は嬉しさが込みあがる。

 …小夜は生きていたんだ。俺と同じ世界に飛ばされただけで、ちゃんと生きていて…。

 しかし彼は久しく見た妹の姿に疑念を感じる。確かに小夜の姿はしているのだが…彼女は人形のように動かず、ただ椅子の上に座っていたのだ。しかもこれだけ大きな声を出しても、彼女はピクリともしない。
 ―ただ、そこに座って豊とリィナを無言で迎えただけである。だから豊は急に心配になったのだ。

 …もしかして、小夜は。…んじゃ?

 すると豊の行動は早かった。眠っているか死んでいるか分からない最愛の妹に駆け寄ろうとするのだが…それを枢要の罪が黙って見るはずは無いのだから。

「…危ないっ!!! 志郎!」

「っえ?」

 すると豊の咄嗟の行動を引き留めた…妹の小夜と瓜二つの”書物”の声に彼は立ち止まれば…禍々しい黒い稲妻のようなものが彼の前を激しい勢いで通りかかったのだ。寸での所で豊は避けたおかげで怪我は無かったが、攻撃を仕掛けてきた”傲慢”の罪のリッチは侮蔑するように舌打ちをした。
 ―だが唖然としている豊に向けて嫌な笑みを浮かべては、自身が放った武器を見せつけたのだ。…その暗黒に満ちた槍…だが見慣れている姿にリィナも目を見張ったのだ。

「…それは、データフォース。なのか?」

「いやぁ~違うな。そんなお前らみたいな甘っちょろい武器じゃねぇんだよ。…”反魂”の書?」

「……」

 豊を模倣として作られた”書物”ではあるが、あまりにも本人とはかけ離れているリッチの悪態ぶりにリィナは無言になってしまう。…まるで、自分が人間に利用されていた時の出来事を想起してしまうぐらいだ。だからリィナは以前のような人間など信じぬような、そんな目つきで彼を睨んだ。
 ―だがそんな彼女を救う人間がここに居る。

「残念だけど。お前みたいな冷徹で残忍な奴の武器なんかよりも、リィナみたいな綺麗で羽みたいに軽くて思いやりのある武器の方がよっぽど良いね。…この高飛車野郎」

「…志郎」

 彼の温かい言葉に彼女は隠れて微笑んだ。とても自分を労わってくれる…そんな優しい言葉を。
 ―だが馬鹿にされた張本人はケラケラとあざけるようにまっすぐな彼の言葉を跳ね除けては、自身の武器を振り回して見せた。…いかにも”対戦したい”と挑発するような態度で。

「この武器は漆黒の強さダークフォースって言ってな~。お前らみたいな甘ちゃんじゃ、この槍の強さに呑まれて絶望の淵に立たせるような武器なんだぜ? …それを俺は扱えるんだ。すげぇだろ?」

「凄くないね。だから君はその力に呑まれてる。…死んでいるかもしれなくて、もしかしたら生きていても苦しんでいるかもしれない小夜のことなど、気にもしない。そんな冷酷な俺になっている」

「はっ。”書物”は本来”感情”などないぜ? シスコン野郎が何をほざいて―」

「残念だけど、君みたいな心が”書物”を、俺は初めて知ったよ」

 豊の挑発にリッチは憤りを感じたのだろう。彼はダークフォースを豊に向けて術を放とうとした。

「お前みたいな奴は…死ね」

 黒い稲妻が豊に向けて放たれ、豊はその攻撃を避けようとするものの強大すぎて受けてしまいそうになる。 
 ―しかしリィナは、データフォースにはなってはいなかったが、先ほどの攻撃を受けて情報データが補充されていた。だから彼女は豊を守るようにデータフォースとなって彼を守るのだ。…自身で術を唱えて。

シールドデータ守護の情報! …発動』

 そしてリィナは豊を禍々しい術から守ったのだ。りぃなのおかげで無傷で済んだ豊はデータフォースとなっているリィナに礼を告げる。…普段よりも白銀に輝いているように見えるのは気のせいか?

「ありがとう、リィナ。…おかげで助かったよ」

『だから意思疎通リンクさせろと何べんも言っているだろう。…まぁ良い。相棒パートナーを失っては元も子もないからな』

「…そんな冷たいこと言わなくても」

『違う。これは私の知識が言っているんだ』

 やはり冷たい様子の彼女に豊は何とも言えない気持ちにはなるのだが…そんなことよりも、術を外されてさらに憤りを感じているリッチは攻撃を仕掛けようとした。…その時。


「おや? 随分騒がしいと思えば、ジェシーから聞いている”来客”ではありませんか?」
 
 その声に耳を傾けると…何となく自分の嫌な上司であるルークを想起させてしまうような人物に出会った。だがその彼は上司よりも穏やかかつ穏便な態度で豊に接するのだ。
 ―そして言い放つ。

「ようこそ。枢要の罪の秘密基地へ。…あぁ、大丈夫ですよ。…

「…えっ?」

 困惑をする豊と舌打ちをするリッチの両者にルークに似た人物は自己紹介を始めたのだ。…残り少ない枢要の罪を引き連れて。

「初めまして。…僕は”強欲”の罪のアリディルと言います。浴衣姿の青年は”憂鬱”の罪のチオロサアド。そして、大きな鏡を背負っている少女は”虚飾”の罪のマリー。…そして―」

 すると今度は手に携えている”書物”を掲げてから彼は寂しげな表情を見せた。…その”書物”の題名は。

「”暴食”の罪…ライグン」
 
 そう。彼はまだ復帰が出来ていない書物のライグンを携えて豊の前に躍り出た。そしてその表情は…朗らかでもあるがどこか憎悪に満ち溢れている彼の姿に戦慄する。

 ―豊はまんまと枢要の罪に囲まれてしまったのだ。…どうなるのか見当がつかない、この状況を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...