書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
42 / 49

42.会えないと思っていたのに。

しおりを挟む
 を通じて枢要の罪が居る…と言われている通路を1人と1冊は歩いていく。緊張はかなりある。とんでもなくある。
 当たり前だ。あの”暴食”の罪であるライグンはかなり強かったし、アスカを死に至らしめようとさせた”憂鬱”の罪に関しても…対戦はしてはいないが、他の焚書士が参戦しても全滅であったと聞いているのだから。
 ―でもそれでも、豊はこの世界の理を覆したかった。…”書物”が人間と本当の意味で分かち合いと彼は願っているのから。なぜ執拗に思ってしまうのだろうと彼は考えたことはあった。この世界では”書物”は人間にとってはただの”モノ”に過ぎない…その理論に違和感を感じたからというのもあるが……本当は。

 …リィナ”反魂”の書と分かち合いたかったからかな…。だって、俺にとってはこの子は人間に見えてしまうし、それに―

「おい、志郎。お前でも緊張なんてするんだな。…あの恐れ多いルーク司書官には歯向かうくせに」

 豊に連れ添うようにして並んで歩くリィナに、彼は考え事を中断しては彼女へ苦言を呈した。というか、彼女は自分のことを何だと思っているのだという疑問も感じてしまう。

「リィナ…、俺を何だと思ってるの。…さすがに最強の”書物”だって言われている枢要の罪に緊張しない方がおかしいでしょ?」

「おかしいのはいつものことだから、私はてっきり意気揚々と敵陣に乗り込んで行くのだと思ってはいたのだが?」

「…俺を馬鹿にしてる?」

「いや、率直な私の知識が言っている」

 相変わらずの彼女の毒舌に豊は深い溜息を吐く。そして今度は持っている羽のように軽い腕時計を見つめてから、彼は一旦立ち止まったのだ。何事かと思いリィナは文句を言おうとした…が、彼は彼女の細い手首に金色に輝く腕時計を巻いたのだ。

「…何をしてるんだ。お前は」

 暗くてよく見えないが不可解な表情をしているだろうという彼女の声に、豊は巻き終えてからゆっくりと笑うのだ。

「意気揚々としているわけでは無いけど、リィナが心配だからさ。だからリィナにこの腕時計を託すよ」

「…何故だ?」

「だって、君は―」

 すると豊はなぜか唇を閉ざしてから切り替えるような発言をした。

「いや。まだ言うには…かな。…この任務を遂行してから言うよ」

「はぁ?」

 何かを伝えようとした豊ではあるが、先を急ぐようにリィナの手を引っ張っては暗い通路を進んで行く。…豊は言いたいが言えなかった。だって言ってしまえば…彼女が困惑してしまうかも知れないから。
 
 …無事に帰って来たらこの気持ちを伝えよう。…この気持ちがあるから、俺はこの世界で図太く生きられたから。

 そして彼らは長かった通路を歩いていくと…大きな扉がそこにあった。緊張が走るが今回はあくまでを結ぶこと。戦闘では無い。果たして彼らは…枢要の罪は自分達の、新米の焚書士である自分の言葉に耳を傾けてくれるのかは心配ではある。
 ―でもそれでも、この世界の理を変えたいから。だから豊は息を呑んで扉を大きく開け放った。

 
 もともとはどうしてから枢要の罪のアジトへと侵入が出来るのか…という疑問についてはルークから説明は受けていた。恐らくは”虚飾”の罪と呼ばれる書物が鏡を利用して、枢要の罪を陰ながらサポートしていたからだと聞いている。
 だが何故ルークはそのことを知っていて、しかも協定を結ばせようと指令を下したのだろう。鏡に関しては監視カメラから分析したからだという理屈は分かるが…どうして頑なに拒み続けていた枢要の罪との協定を結ぼうとしたのだろうか?
 疑問があるものの豊は扉を開ければ…そこには誰かが座っていた。とてつもなく広い室内にガラスケースの入った”書物”が鎮座されていて、その中心に人間が居る。しかし、その人間は起き上がることはない。ただそこに座っていた。
 …すると突然、ある場所から光が吐出したのだ。あまりの眩しさに目を塞ぐ豊とリィナではあるが…光が止んだかと思えば、今度は男が登場したのである。彼は唖然としている豊に向けてあくどく笑った。

「よぉ、異質コンビ。噂には聞いてるぜ」

 …誰だ、こいつ?

 しかし彼は言葉を遮ることはなくその男の声に耳を傾けた。…そして、何となく違和感を感じるのだが…男は気にせずに話を続けた。


「…俺達の支柱で、なおかつな存在…”指数”候補の1冊。その”反魂”の書の存在は…聞かずもがなだがな?」

 豊は男の…いや、青年の声に首を傾げた。見た目は自分とはまるで違う。自分よりも背が高く、美しい銀髪をなびかせたスーツ姿の人間…なのだが。
 ―だが彼は…豊はその違和感に気が付いてしまったのだ。

「俺の…声と同じ?」

「あぁ、気づいたか、志郎 豊。俺はな、この”指数”から最初に目覚めた”書物”…”傲慢”の罪の”リッチ”。…おかしいだろ~? 名前までお前みたいなバカと同じだとはな~?」

 ”傲慢”という名に相応しいほど傲慢かつ相手を見下す彼に豊は苛立ちを見せる。しかしリィナはそんなリッチに対し、彼の背後の人間…椅子に座っている人物を指したのだ。

「お前の安い挑発などどうでもいい。…その後ろに居るのが”指数”という人間なのか?」

 するとリッチは軽く舌打ちをする。またもや豊は憤りを感じた。

「…つまんねぇ反応すんな~お前。まぁいい。…そうだぜ? これが俺達の”指数”だ」

 照明がその人物を照らし出した。するとリィナも、そして豊も驚いてしまう。髪色は違うものの、その姿や見慣れた学生服は…。豊が目に入れても痛くないほど愛している人物…。

「…小夜!???」

 そう。志郎 小夜もこの世界に居たのだ。…枢要の罪としての支柱、”指数”となって。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿神のおかげで異世界『チート過ぎる』生活になった。

蒼真 空澄(ソウマ アスミ)
ファンタジー
※素敵なイラストは雀都様〈@sakutoart〉に作成して頂いたものです。 ※著作権は雀都様にあり、無断使用・無断転載はお控えください。 ある程度それなりの有名大学に進学。 特に学業でも何も問題すらない。 私はいつも思う。 「下らない。」 「つまらない。」 私がたまに出す口癖だけど。 でも本心だった。 昔から大人相手にしてきた事もあるけど。 相手の『目』を見れば、大体、嘘か本当かも判る。 だからこそウンザリする。 人間なんて嘘の塊でしかない。 大抵の事も苦労なく出来る。 友人なんて使いっ走りだ。 私の本心すら一切、気付かない馬鹿ばかり。 男なんて更に馬鹿で救いようがない。 私の外見のみ。 誰も内面なんて見ても居ない。 それに私の場合、金も親から定期的に貰ってる一人暮らし。 でも別に、それも実家に居ても変わらない。 親は常に仕事で居ない。 家には家政婦が定期的に来るだけ。 私には金を渡すだけ、ずっと今まで… そうやって生きてた。 家族旅行なんて一度もない。 家族での食事さえない。 親も所詮、金だけ。 私は人間が、一番嫌いだ。 私自身が人間な事すら嫌気がする。 そんな中でも普通を装って生活してた。 そんな私は、ある日を境に異世界へ。 どうやら私は死んだらしい… 別にそれは、どうでも良かったけど。 でも… 私の死は、神だと名乗る馬鹿のミスだった。 そんな私は慌てる様子をしてる馬鹿神を『誘導』してみた。 その馬鹿は… 本物の馬鹿神だった。 私が誘導したらアッサリ… まさかの異世界チート生活をする事になった。 私は内心、思う。 これは楽しめそうじゃないか? そんな形で始まった異世界生活。 私の場合は完全なチートだろう。 私専用にと得た『異能』もだけど。 更に、もう、それだけじゃなかった。 この異世界でなら誰の事すら気にする必要さえない!! だったら… 私は初めて本当の自由になれた気分だった。 そして初めて出会った『獣人』の言動にも困惑した。 動物でも、人間でもない… だけど、私に何を言いたいんだ? 全く判らない… それからだった。 私が判らない事もあったけど。 だから、相手の『提案』を一応は受けた。 その内容は『誰かを愛せるまで一緒に居る事』だった。 私が誰かを? 愛せる気すらないけど… それでも判らない日々を過ごしてく中に、また判らない感覚もある。 でもなぁ… 愛するって… 私は何をすれば? 判らないからこそ… 始まる異世界での恋愛チート物語を。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ねこの国のサム

榊咲
ファンタジー
ねこのくにに住んでいるサムはお母さんと兄妹と一緒に暮らしています。サムと兄妹のブチ、ニセイ、チビの何げない日常。 初めての投稿です。ゆるゆるな設定です。 2021.5.19 登場人物を追加しました。 2021.5.26 登場人物を変更しました。 2021.5.31 まだ色々エピソードを入れたいので短編から長編に変更しました。 第14回ファンタジー大賞エントリーしました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...