書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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39.確固たる責任と意志。

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 眠たげな表情を見せているリィナと共に豊は真剣な表情で廊下を歩いている。やけに焚書士達がルークの書斎に群がっているなとは感じるが、彼は大群を押し退けてルークの書斎へノックをする。
 …彼は先ほど言い放った自分の責任と覚悟に呑み込まれそうになるのだが、その気持ちに負けぬように返事をしない書斎に訪れるのだ。

 ―時は遡る。…それは、サラやアスカが決めていた覚悟であったが豊はそれに反論をした時のことである。

『えっ…、サラの”意志”を、焼いてしまうんですか?』

『はい。…それは私達、いや焚書士であるが故、いえ。…この世界の理ですから』

 先ほどのサラの寂しげな表情を思い返しては、アスカはベットから起き上がって豊に説明をしている。…そう。この世界の”書物”は”意志”を持ってはならない。…それを覆すことは出来ないのだ。
 しかしそれでも、アスカやサラは顔を見合わせて微笑んでから手を強く握る。…懇情の別れのかのように、強く握りしめて。…その姿に豊は黙って見てられなかったのだ。

『そんなのおかしいです! なんでですか、どうしてお互いの気持ちが知れたのに、そんな悲しいことをするんですか?』

 彼らよりも泣き出しそうな表情を見せる豊にアスカは戸惑いを見せる。すると今度はサラが片手で豊の頭をぐしゃぐしゃにしていた。…文句を言おうとする豊ではあるが、サラの寂しげだが覚悟を持ち合わせた顔に彼も戸惑う。…やはりサラのゴツゴツした男らしい手も…酷く冷たかった。

『まぁお前のおかげでこうやって”想い”も告げられたんだし、アスカも救えたんだ。それだけでさえも万々歳じゃねぇのか?』

『…でも―』

『お前、自分の言った言葉を覚えているか? ”『どちらも選べるってあり得ない』”って言葉を…さ。…俺はアスカを救いたかったし、”想い”だって言えたんだ。…それに俺自身が消えるわけじゃねぇんだよ。…俺の”記憶”が消えるだけだぜ?』

『…”記憶”って言ったって、アスカ書簡との楽しかったこととか、辛くても頑張れたこととか…そういうのが消えるんだろ?』

 豊の言葉にサラは寂しげな顔をしつつも彼の頭に乗せた手を離してから、握手を求めた。どういう意図なのか分からないでいる豊にサラは哀しげに微笑むのだ。

『俺の”記憶”が、”意志”が消えても、こうやってお前の”記憶”の中には俺は存在する。…だからそれで良いだろ? あ~もう。リィナと違ってお前は”書物”に対して、に対しても何故だが深く関わろうとするから困るんだよな~』

『……』

『ほら、手ェ出せ。俺の”意志”があるうちにさ。だから早く―』

 ―――パシンッッン……。
 
 軽くだが豊はサラの手を払ったのだ。それを見たアスカは少々驚いて言葉を発そうとしたのだが…リィナは大きな欠伸をして振り払った豊に目を向ける。
 リィナは分かっているのだ。この青年…志郎 豊という奇妙で甘っちょろい正義感を抱えている人間が、こんな悲しい結末をしたくないという感情でサラの手を振り払ったのだと。…豊に育てられた叡智えいちは邪魔な存在である”意志”を彼女の根底に根を生やして花を咲かせようとしている。
 …まるで、相棒パートナーに似て”書物”であっても人間であっても…他者を想い労わる心が育ったように。

『サラは身勝手すぎるよ! たとえサラやアスカ書簡が納得してると言ったって、俺は出来ない! …俺は、アスカ書簡を想って、気遣うサラの存在を知っているんだから!』

 気持ちは嬉しいが、駄々っ子のような言い方をする豊にサラはめんどくさいような表情を浮かべていた。

『…お前なぁ。だったらどうやって―』

『……俺がルーク司書官に話を着ける』

『はっ?』

 すると豊の行動は早かった。戸惑いを見せるアスカや唖然としているサラに見向きもせず、集中治療室からそそくさと退出をする。彼の行動を予期していたリィナも眠たげな瞳を庇いつつ彼の後をついて行くのだ。
 そんな彼らの姿を見てサラは声を掛ける。どういう訳なのかを知りたいからだ。するとリィナが欠伸交じりで言い放つのだ。

『サラ。お前が何を言っても志郎は聞かない。…志郎は頑固で変な正義感を振るからな~…。…まぁ好きにしてやってくれ。…お前たちのことを”想って”いるからなんだ』

『…はぁ? それってどういう?』

 するとリィナはサラと動揺しているアスカに振り向いては真剣な瞳で見つめた。アメジストに輝くその目はまるで磨かれたように美しさを放っていた。そんな彼らにリィナは手短に言うのだ。

『お前らのが離れないように、志郎は戦いに行くんだ。…すまないがこれで失礼する。…アスカ。お前は眠ってろ。じゃあまた』

 そして前しか見えていない豊の後をついて行く彼女の姿と変化に彼らは驚いている。…人間など毛ほども理解しようとしていなかった”書物”が、人間に労りの言葉を掛けるなど予想だにしていなかった。―


 真剣な表情をしている豊と眠たげに目を擦るリィナの異質コンビを見たルークは、明らかに失礼な態度で溜息を吐いては疲れた様子で自身の肩を回していた。

「はぁ~…。何なの、今日は一体。…厄日かな~? まぁいいや。…んで、…?」

 こちらは枢要の罪は来るわ、変な感情を植え付けられるわ、レジーナの能力を使いすぎて疲弊してるわで散々であるにも関わらず。…この青年は意を決したような覚悟が見える表情をしていた。だから彼には通じないを言ってしまったのだが…通じなかったようだ。

「ルーク司書官。俺は今から冗談では済まされないような。…この世界にとっては、理としては異質であるとしても、異常であったとしても…、俺の”意志”は曲げられません」

「…はぁ。だから何言って―」

 すると豊は深く、深く頭を下げて伝えるのだ。…己の”意志”で。

「”感情”を…”意志”を持ってしまった”暴露”の書、サラを焼かないで下さい」

 豊の衝撃的な発言にルークは目を見開き、リィナは欠伸を抑えながら”メモ機能”でその光景を記録するのであった。
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