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38.心境の革命。
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アスカの淀んでいた、常闇の世界が消え失せたかと思えば、ガラスのように”呪い”が弾け飛んだ。…だが油断は出来ない。まだアスカの周囲に黒い陰りが見えていたのだから。
しかしそんなことよりも、アスカはサラが取った行動が分からずにいる。つまり困惑しているのだ。サラがどういう風の吹きまわしで自身の唇に口づけをしたのかを、今の彼女にとっては嬉しいハプニングではあるが動揺さえしている。だから、驚いた様子で彼を見つめているのだが…その張本人であるサラは首を傾げているのだ。
「…なんか、おかしなことしたか? …変だな。あのキザ野郎の情報では”ショージョ”漫画? の十八番で『うるさい口だな?』って言えば何とかなるって言ってたんだけど…」
『どんだけ昔の少女漫画だよ!』というツッコミはさておき。サラの行動に興奮と羞恥を抱いたアスカは開いた口が塞がらない様子だ。
「なっ…何言ってんの!?? それは…その…、まぁ情報としては合っているけれど…急展開すぎるわ! サラのバカ! 志郎君も馬鹿!! もう~大変な時に使わないで―」
「大変だからしたんだろ。…俺も悪いけどお前が、アスカが勝手に自己嫌悪して死のうとしていたんだから。…だからお前に…その。”キス”したんだ。初めての契約の時…みたいに」
自分が好意を抱いている”モノ”が恥ずかしげな表情を浮かべる姿に、アスカはときめいては胸を高鳴らせる。そして彼女を渦巻いていた、”憂鬱”が薄れていくのだ。
そして今、彼女が抱いている”憂鬱”を排除させる為に、サラは弱っている彼女の軽い身体を抱いては自身の胸の内を晒す。彼の真剣みを帯びた瞳にアスカは鼓動を早くさせた。
「話の続きだ。…俺はアスカがくれた温かいこの”感情”を、”意志”を焼却されたくは無かった。今だって無い。…でも”書物”は”意志”なんて持ってしまったら焼却されて、本当にただの都合の良い”書物”になるのが…今の俺は嫌だった。…だって、こんな温かい気持ちを、お前のことを想う気持ちを…俺は失いたくは無かったから」
サラは自身が抱いていた気持ちを吐露しては、アスカをまっすぐに見つめる。髪の毛と同じ鮮やかな翠色の瞳に惹かれて、彼女は湧き立つ嬉しさと共に彼に願いを請う。…それは、今のサラにしか、”意志”を持っている彼が出来ること。
「…サラの気持ちを聞けてすごく嬉しい。でも…私のせいでサラに”意志”を宿らせてしまったから。それでも…私は…、サラが、好き…だから」
意識の中でさえもアスカは十分には回復はしていない。だが、サラを愛おしそうに見て、そして目を潤ませて涙を零しそうにする彼女に彼もまた驚く。
…つまりお互い、両想いであったのだ。たとえ人間と”書物”であっても、すれ違っていても、互いを愛しているのだ。…だがそれも、今日これまで。
―この世界の理には”書物”は”意志”を持ってはならないと。持てば即、その部分だけ”焼却”されると。そんな残酷な運命であるから。
しかしまだ”意志”は奪われてなどいない。嬉しさのあまり涙を零して笑うアスカの…相棒の姿を見ては、彼女が育んでくれた”意志”を持ち…そして最後に優しく笑い掛けた。
「…お前もそうだったのか。…じゃあ最後だな。…”意志”を持つ俺を見るのは」
「うん。…だからサラ。…お願い。最後の思い出に―」
―”キス”をして?
少し甘えるような、恥じらうような声でアスカが尋ねれば、サラは一瞬だけ唖然としつつも応えるように…触れるだけのキスをした。
…彼女に取り巻いていた”呪術”は見事に解呪され、2人は意思疎通させた状態のさなかで愛を誓ったのだ。
集中治療室にて。サラが契約をしてアスカの意識に入ってから数時間は経過していた。サラがなかなか帰っては来ない為、気になってはいるが手を出せずに無言のままでいる青年がそこに居る。その隣には重要な場であるにも関わらず、疲れてしまったのだろう”書物”の少女が深い眠りに落ちていた。
だが青年こと…志郎 豊は眠れないし、眠れやしない。勝手に気を張ってしまう。
…”指南”の書が教えてくれた通りにやっているのか心配だし、俺のとっておきのアドバイスもいくつか教えておいたけど…、何やってんだよ~? サラ~。このまま帰って来ないんじゃ…。
「んんぅ…。サ…ラ」
「…アスカ書簡!!」
眠っているはずのアスカが弱々しくではあるが声を上げた。そして今度は彼女と意思疎通してたはずのサラが意識から飛び出して来た。
寂しげだがどこかやり切ったような、満足といった様子の彼に豊は彼に駆け寄ろうとするのだが。…隣で図々しく肩に頭を乗せているリィナが居るので、安堵の息を吐きつつもサラが無事に帰ってきたことを伝える為に、彼女を起き上がらせようとした。
「リィナ~、起きて~! 起きてよ~!!!」
「うぅ…。うるさぁい…。あと10時間は寝させろ…。眠い…」
「アスカ書簡が起きようとしているし、サラも無事に帰って来たんだ!」
「…おそらはきれいだし、心もきれいだ~」
「なに寝言言ってんの…。良いから早く―」
相変わらずのリィナに呆れるが、肩を揺り動かして豊は必死に彼女を起こそうとする。彼の必死な様を見て軽く微笑みを見せるサラと、そして…。
「はい。意思疎通した状態でしたが…サラと見た心の景色は綺麗だったし、私の心も綺麗になれましたよ?」
「…えっ?」
起き上がったアスカは今まで以上に優しげな表情を見せてはサラに笑い掛けていた。だがその彼は少々恥ずかしそうな、そんな表情を見せている。…しかしそんなことよりもだ。
様子を見に来ていた担当医はアスカの容体を見ては…さらに驚いた表情をしていたのだ。なぜならば…。
「…吐血を、していない? 目覚めたら確実に致死量を超える程の吐血をすると思っていたのですが…。アスカ書簡が…吐血さえも、咳き込みさえもしていない? すぐにバイタルチェックを…」
そう。アスカは不可能だと言われている枢要の罪の、”憂鬱”の罪による”呪術”を解いたのだ。…だが彼女はそれと引き換えに失ってしまうモノもあるのだが。
しかし喜び勇んで皆はアスカの無事に安堵した。それはもちろん、サラもであった。
しかしそんなことよりも、アスカはサラが取った行動が分からずにいる。つまり困惑しているのだ。サラがどういう風の吹きまわしで自身の唇に口づけをしたのかを、今の彼女にとっては嬉しいハプニングではあるが動揺さえしている。だから、驚いた様子で彼を見つめているのだが…その張本人であるサラは首を傾げているのだ。
「…なんか、おかしなことしたか? …変だな。あのキザ野郎の情報では”ショージョ”漫画? の十八番で『うるさい口だな?』って言えば何とかなるって言ってたんだけど…」
『どんだけ昔の少女漫画だよ!』というツッコミはさておき。サラの行動に興奮と羞恥を抱いたアスカは開いた口が塞がらない様子だ。
「なっ…何言ってんの!?? それは…その…、まぁ情報としては合っているけれど…急展開すぎるわ! サラのバカ! 志郎君も馬鹿!! もう~大変な時に使わないで―」
「大変だからしたんだろ。…俺も悪いけどお前が、アスカが勝手に自己嫌悪して死のうとしていたんだから。…だからお前に…その。”キス”したんだ。初めての契約の時…みたいに」
自分が好意を抱いている”モノ”が恥ずかしげな表情を浮かべる姿に、アスカはときめいては胸を高鳴らせる。そして彼女を渦巻いていた、”憂鬱”が薄れていくのだ。
そして今、彼女が抱いている”憂鬱”を排除させる為に、サラは弱っている彼女の軽い身体を抱いては自身の胸の内を晒す。彼の真剣みを帯びた瞳にアスカは鼓動を早くさせた。
「話の続きだ。…俺はアスカがくれた温かいこの”感情”を、”意志”を焼却されたくは無かった。今だって無い。…でも”書物”は”意志”なんて持ってしまったら焼却されて、本当にただの都合の良い”書物”になるのが…今の俺は嫌だった。…だって、こんな温かい気持ちを、お前のことを想う気持ちを…俺は失いたくは無かったから」
サラは自身が抱いていた気持ちを吐露しては、アスカをまっすぐに見つめる。髪の毛と同じ鮮やかな翠色の瞳に惹かれて、彼女は湧き立つ嬉しさと共に彼に願いを請う。…それは、今のサラにしか、”意志”を持っている彼が出来ること。
「…サラの気持ちを聞けてすごく嬉しい。でも…私のせいでサラに”意志”を宿らせてしまったから。それでも…私は…、サラが、好き…だから」
意識の中でさえもアスカは十分には回復はしていない。だが、サラを愛おしそうに見て、そして目を潤ませて涙を零しそうにする彼女に彼もまた驚く。
…つまりお互い、両想いであったのだ。たとえ人間と”書物”であっても、すれ違っていても、互いを愛しているのだ。…だがそれも、今日これまで。
―この世界の理には”書物”は”意志”を持ってはならないと。持てば即、その部分だけ”焼却”されると。そんな残酷な運命であるから。
しかしまだ”意志”は奪われてなどいない。嬉しさのあまり涙を零して笑うアスカの…相棒の姿を見ては、彼女が育んでくれた”意志”を持ち…そして最後に優しく笑い掛けた。
「…お前もそうだったのか。…じゃあ最後だな。…”意志”を持つ俺を見るのは」
「うん。…だからサラ。…お願い。最後の思い出に―」
―”キス”をして?
少し甘えるような、恥じらうような声でアスカが尋ねれば、サラは一瞬だけ唖然としつつも応えるように…触れるだけのキスをした。
…彼女に取り巻いていた”呪術”は見事に解呪され、2人は意思疎通させた状態のさなかで愛を誓ったのだ。
集中治療室にて。サラが契約をしてアスカの意識に入ってから数時間は経過していた。サラがなかなか帰っては来ない為、気になってはいるが手を出せずに無言のままでいる青年がそこに居る。その隣には重要な場であるにも関わらず、疲れてしまったのだろう”書物”の少女が深い眠りに落ちていた。
だが青年こと…志郎 豊は眠れないし、眠れやしない。勝手に気を張ってしまう。
…”指南”の書が教えてくれた通りにやっているのか心配だし、俺のとっておきのアドバイスもいくつか教えておいたけど…、何やってんだよ~? サラ~。このまま帰って来ないんじゃ…。
「んんぅ…。サ…ラ」
「…アスカ書簡!!」
眠っているはずのアスカが弱々しくではあるが声を上げた。そして今度は彼女と意思疎通してたはずのサラが意識から飛び出して来た。
寂しげだがどこかやり切ったような、満足といった様子の彼に豊は彼に駆け寄ろうとするのだが。…隣で図々しく肩に頭を乗せているリィナが居るので、安堵の息を吐きつつもサラが無事に帰ってきたことを伝える為に、彼女を起き上がらせようとした。
「リィナ~、起きて~! 起きてよ~!!!」
「うぅ…。うるさぁい…。あと10時間は寝させろ…。眠い…」
「アスカ書簡が起きようとしているし、サラも無事に帰って来たんだ!」
「…おそらはきれいだし、心もきれいだ~」
「なに寝言言ってんの…。良いから早く―」
相変わらずのリィナに呆れるが、肩を揺り動かして豊は必死に彼女を起こそうとする。彼の必死な様を見て軽く微笑みを見せるサラと、そして…。
「はい。意思疎通した状態でしたが…サラと見た心の景色は綺麗だったし、私の心も綺麗になれましたよ?」
「…えっ?」
起き上がったアスカは今まで以上に優しげな表情を見せてはサラに笑い掛けていた。だがその彼は少々恥ずかしそうな、そんな表情を見せている。…しかしそんなことよりもだ。
様子を見に来ていた担当医はアスカの容体を見ては…さらに驚いた表情をしていたのだ。なぜならば…。
「…吐血を、していない? 目覚めたら確実に致死量を超える程の吐血をすると思っていたのですが…。アスカ書簡が…吐血さえも、咳き込みさえもしていない? すぐにバイタルチェックを…」
そう。アスカは不可能だと言われている枢要の罪の、”憂鬱”の罪による”呪術”を解いたのだ。…だが彼女はそれと引き換えに失ってしまうモノもあるのだが。
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