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33.幸福と絶望の狭間で。
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会いたかったが会いたくは無かった。…という矛盾が生じるルークではあるが、そんな彼のことなどお構いなしな”強欲”の罪であるアリディルは、2冊へ彼のことを懐かしむように語る。
「アドには言っていませんでしたっけ? この子が僕の教え子のジェシー。ジェシー・クラウス君。…僕が人間であっても無くても、彼を自分の養子にしてしまいたいほど、努力家で、真面目で、素直で…優しい子なんですよ~。 …最近はめっきりと会っていなかったから…まさか、こんなにも立派に育って…。とても感慨深いです……」
懐かしむように微笑むアリディルの表情にルークは泣き出しそうになってしまった。やはり会いたかった気持ちの方が強かったのかもしれない。…言葉に出して鏡に願ってしまうほど、わずかな可能性に答えてくれた恩師に感謝の礼をしたいが…彼は自分にとっては敵だ。最大の敵だ。…”焼却”しなければならない。そんな複雑な感情の狭間で揺れるルークに1人の青年が彼の服装をみてふと呟く。
「ふ~ん…。なんかディルと容姿が似てるな? そのシルクハットとか髪型…服装…とか。そう思わないか、…マリー?」
すると”虚飾”の罪であろう幼い少女はルークを一瞥してから”憂鬱”の罪のアドことチオロサアドに返事をする。
「…うん。なんか…、似てる。…どうして?」
「趣味が同じとか…か?」
図星を突かれた気がした。”あなたを真似て…あなたを思って”つい買ってしまった”シルクハット”を。ルークは2冊に見破られたような感覚を抱く。
しかし彼の心境など知らず不思議に思っている2冊にディルは彼らに少し微笑んでからこのような答えを提示した。
「今の彼の収入は存じませんが、…あの頃は”書物戦争”の終結で何もかもが不足していた時代。シルクハットや服なんて高級な物もなかなか買えないけれど、そんな夢も今の彼は叶えてしまうとは。…感慨深いですね~」
そう答えて2冊に微笑むアリディルはルークにとっては目の毒である。そんな顔を自分以外の前でしないで欲しかった。
…僕が大好きな先生の笑顔だから。…先生の笑顔は太陽のように温かくて優しい笑顔だから。
そしてわざと顔を俯かせるルークではあるがアリディルの次の言葉で目を覚ますのだ。
「君達は新たな指数によって生まれたから知らないのは当然ですよね~。…そんな時代もあったんですよ?」
「「へぇ~…」」
指数……? なんだそれは?
”指数”という存在にルークは先ほどの要らぬ心情などは忘れ、優雅に微笑んでいる恩師に向けて今の空気をわざと壊すように古びたジッポライターの上蓋をカチャリと開けて着火させる。あまり望んではいない行為ではあるが致し方無い。彼の行動にアドとマリーは顔を強張らせてしまうが逆にディルは…まだ笑っていた。
「あぁ~、懐かしい! それは僕が昔使っていた奴ですね~。…いや~、あの頃は煙草を吸っていると『カッコいいのではないか?』とふと思ってしまって…高かったのだけれど、形から入ろうと思って買ったは良いものの…結局は吸えなくて、それで君に呆れられて―」
「昔のことを掘り返さないで頂けませんか? ……私はあなたとは決別…いや死別しました」
「…ジェシー」
「…もう、そんな風に余裕ぶって言わないで下さい。…”強欲”の罪のアリディルさん?」
「………」
自分でも驚くほど冷静な声が出てしまった。これが自分に枷をして名乗り続けるルークのおかげだと彼はふと思う。だがそんな愛弟子…いや、変わってしまった、もしくは自分が変えてしまったルークにディルは心なしか悲しみを抱くもののその気持ちを振り払いこのような交渉をするのだ。
「ジェシー…いや。今は”ルークさん”と呼んだ方がよろしいですね。枢要の罪である僕が代表をして、このようなご提案をさせて頂きたいのです」
”ルークさん”…本当はジェシーと呼んで欲しいがこの気持ちを切り離さないといけない。…過去の自分と決別せねば。
…自分は悪魔だ。冷酷で残忍で”心”など持たない悪魔なんだ。過去を振り返るな!
そう自分に言い聞かせてルークはディルの”提案”というものに耳を傾ける。すると”強欲”の罪はこのように伝えた。
「君の大切な部下が今、アドの…”憂鬱”の罪の呪術に囚われて、今、苦しんでいるそうですね。それは”虚飾”の罪であるマリーの能力を使って分かったんです。まぁそんな君に提案、というより…こちらからの”取引”…と言った方が良いでしょうか? 伝えてもよろしいですか?」
そして軽く微笑んでから突き放したルークに笑いかけるも彼は依然として顔を逸らしている。だが彼だって大人だ。複雑な思いを抱えたとしても対応しなければ仕事は務まらない。それがたとえ最大の敵だけれども、恩師で、大好きな人だとしても。だから彼は目を逸らしつつも軽く頷いて見せた。するとアリディルは少し笑みを浮かばせ"取引”を進める。
「まず1つ。……彼女を助けるには2つ方法があります」
「…2つ?」
訝しげな表情を見せるルークにアリディルは骸になってしまった両腕のうち、右手を上げてそして人差し指と中指を立てる。
なぜアリディルの両腕が骨しか無いのかが気にはなったが、その気持ちはわざと押し込んで塞ぎ込ませている。しかしルークの何かしら感じた視線を察したかのようにアリディルは少し笑った。
「僕の両腕が気になるとは思いますが、まぁそんなことよりもです。…1つ目はアド自身が彼女の呪いを解けば良い。…そしてもう1つもあるのですが、たとえ教えたとしてもルークさんにとっては規約違反だと判断してその”書物”を”焼却”するかもしれません。…やはり”書物”を焼かれるのは僕達の望む世界ではないですしね?」
悲しげな表情を見せながらルークに伝える”強欲”の罪であるアリディルにルークは心を揺さぶられそうになる。それはあの時の…身勝手な人間のせいで悲しみに打ちひしがれた昔の彼と同じような表情を見せていたから。
…そんな顔、見たくもないのに。
それでも意地でジッポライターを手にしているルークにアリディルは本題へと移るのだ。
「そこでです。アドの呪術を解く代わりに…”反魂”の書を、こちらへ渡して頂けませんか?」
突然の取引にルークは唖然してしまった。
「アドには言っていませんでしたっけ? この子が僕の教え子のジェシー。ジェシー・クラウス君。…僕が人間であっても無くても、彼を自分の養子にしてしまいたいほど、努力家で、真面目で、素直で…優しい子なんですよ~。 …最近はめっきりと会っていなかったから…まさか、こんなにも立派に育って…。とても感慨深いです……」
懐かしむように微笑むアリディルの表情にルークは泣き出しそうになってしまった。やはり会いたかった気持ちの方が強かったのかもしれない。…言葉に出して鏡に願ってしまうほど、わずかな可能性に答えてくれた恩師に感謝の礼をしたいが…彼は自分にとっては敵だ。最大の敵だ。…”焼却”しなければならない。そんな複雑な感情の狭間で揺れるルークに1人の青年が彼の服装をみてふと呟く。
「ふ~ん…。なんかディルと容姿が似てるな? そのシルクハットとか髪型…服装…とか。そう思わないか、…マリー?」
すると”虚飾”の罪であろう幼い少女はルークを一瞥してから”憂鬱”の罪のアドことチオロサアドに返事をする。
「…うん。なんか…、似てる。…どうして?」
「趣味が同じとか…か?」
図星を突かれた気がした。”あなたを真似て…あなたを思って”つい買ってしまった”シルクハット”を。ルークは2冊に見破られたような感覚を抱く。
しかし彼の心境など知らず不思議に思っている2冊にディルは彼らに少し微笑んでからこのような答えを提示した。
「今の彼の収入は存じませんが、…あの頃は”書物戦争”の終結で何もかもが不足していた時代。シルクハットや服なんて高級な物もなかなか買えないけれど、そんな夢も今の彼は叶えてしまうとは。…感慨深いですね~」
そう答えて2冊に微笑むアリディルはルークにとっては目の毒である。そんな顔を自分以外の前でしないで欲しかった。
…僕が大好きな先生の笑顔だから。…先生の笑顔は太陽のように温かくて優しい笑顔だから。
そしてわざと顔を俯かせるルークではあるがアリディルの次の言葉で目を覚ますのだ。
「君達は新たな指数によって生まれたから知らないのは当然ですよね~。…そんな時代もあったんですよ?」
「「へぇ~…」」
指数……? なんだそれは?
”指数”という存在にルークは先ほどの要らぬ心情などは忘れ、優雅に微笑んでいる恩師に向けて今の空気をわざと壊すように古びたジッポライターの上蓋をカチャリと開けて着火させる。あまり望んではいない行為ではあるが致し方無い。彼の行動にアドとマリーは顔を強張らせてしまうが逆にディルは…まだ笑っていた。
「あぁ~、懐かしい! それは僕が昔使っていた奴ですね~。…いや~、あの頃は煙草を吸っていると『カッコいいのではないか?』とふと思ってしまって…高かったのだけれど、形から入ろうと思って買ったは良いものの…結局は吸えなくて、それで君に呆れられて―」
「昔のことを掘り返さないで頂けませんか? ……私はあなたとは決別…いや死別しました」
「…ジェシー」
「…もう、そんな風に余裕ぶって言わないで下さい。…”強欲”の罪のアリディルさん?」
「………」
自分でも驚くほど冷静な声が出てしまった。これが自分に枷をして名乗り続けるルークのおかげだと彼はふと思う。だがそんな愛弟子…いや、変わってしまった、もしくは自分が変えてしまったルークにディルは心なしか悲しみを抱くもののその気持ちを振り払いこのような交渉をするのだ。
「ジェシー…いや。今は”ルークさん”と呼んだ方がよろしいですね。枢要の罪である僕が代表をして、このようなご提案をさせて頂きたいのです」
”ルークさん”…本当はジェシーと呼んで欲しいがこの気持ちを切り離さないといけない。…過去の自分と決別せねば。
…自分は悪魔だ。冷酷で残忍で”心”など持たない悪魔なんだ。過去を振り返るな!
そう自分に言い聞かせてルークはディルの”提案”というものに耳を傾ける。すると”強欲”の罪はこのように伝えた。
「君の大切な部下が今、アドの…”憂鬱”の罪の呪術に囚われて、今、苦しんでいるそうですね。それは”虚飾”の罪であるマリーの能力を使って分かったんです。まぁそんな君に提案、というより…こちらからの”取引”…と言った方が良いでしょうか? 伝えてもよろしいですか?」
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「…2つ?」
訝しげな表情を見せるルークにアリディルは骸になってしまった両腕のうち、右手を上げてそして人差し指と中指を立てる。
なぜアリディルの両腕が骨しか無いのかが気にはなったが、その気持ちはわざと押し込んで塞ぎ込ませている。しかしルークの何かしら感じた視線を察したかのようにアリディルは少し笑った。
「僕の両腕が気になるとは思いますが、まぁそんなことよりもです。…1つ目はアド自身が彼女の呪いを解けば良い。…そしてもう1つもあるのですが、たとえ教えたとしてもルークさんにとっては規約違反だと判断してその”書物”を”焼却”するかもしれません。…やはり”書物”を焼かれるのは僕達の望む世界ではないですしね?」
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…そんな顔、見たくもないのに。
それでも意地でジッポライターを手にしているルークにアリディルは本題へと移るのだ。
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