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27.誤算という”変化”。
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ルークの言葉にサラは不本意にも2つの想いが重なった。1つはリィナが、あの反魂の書が力を貸してくれるわけが無いということ。人間との契約を何度も破棄をした書物だ。そんな簡単に行くわけは無い。力を貸してくれるほど彼女が”お人よし”だとは思えない。…しかしもう1つの想いもあった。
「…アスカを、助けて欲しい。俺の、大切な…相棒で、それで…」
「それで?大切な相棒…以外な関係でも?場合によっては、君を少~しだけ焼かないといけないんだけど。…意志なんか持たれたら困るからね。」
「…なんでも、ないです。」
ルークの冷淡な口調にサラは吐き出したい想いを打ち明けられずにいる。…本当は、アスカは自分にとってかげがえのない存在で、大切で大事で…でもそんな”意志”を持っていると知られたりすれば、自分のこの想いは消えてしまうから。分かっているから。
「じゃあ、今は医務室にリィナが居ると思うから。サラ?僕と一緒に行くかい?」
彼の問い掛けにサラは顔を青ざめてから首を軽く振り、単体で医務室へと向かった。
…アスカに対するこの”想い”は自分にとっては良くないと。異質な気持ちだと自覚しながら。
…私は機械の中で育った。機械と遊んで日々を過ごしていたのだ。…私にとってはどんなお稽古よりも…それが1番だったから。
『アスカお嬢様!また機械を弄っていたのですか!そんな綺麗な手を油塗れにして!…卿・ミスリアの令嬢として、あなたにはちゃんとした教養付けないと…!良いですか?あなたは卿・ミスリア家のお世継ぎとして…』
またダンスの先生からのお叱りだ。そんなのどうだっていい。私は機械と共に居たいんだ。父さんが築き上げてきたこの機械達を、そして母さんの魔法の知恵で与えてくれた機械の性能を。私は企業を大きくさせるよりも機械と共に居たいんだ。…だから先生の叱責は聞いてもいない。頭の中では自分もどんな機械を造ろうかと想像して、想起しては機械達と遊ぶのが私の日々であった。それがたとえ両親にとっては都合が悪いとしても、それでも良かった。…だって私は機械達と遊ぶ方が、ピアノのレッスンよりも、ダンスよりも、食事のマナーよりも…ずっと自分らしくいられたのだから。
しかしそんな日々は長くは続かない。
『えっ!???機械を…売ってしまうの?父さん?…どうして?』
それは突然であった。なんと卿・ミスリア家の機械を国の為に売ろうとしていたのだ。…なぜ?
そんなことは許せない!大事な機械達を…失いたくない!だから私は食事中であるにも関わらず、父さんに初めて苦言を言ってしまった。母さんだって何も言っていないけれど、辛そうな顔をしているじゃないか!父さんと母さんの大事な、機械達を国の為に?……なんでそんなことを?許せない!
今思えば、幼かった私はその頃の状況を分からずにいたのだろう。当時は枢要の罪と人間達によって交戦中である”書物戦争”のことを、当時の裕福な私にとっては、世間を知らずにのうのうと機械と遊んでいる私にとっては、無知であり把握してもいなかった。
父さんに『お国の為に自分たちが造った機械を排出しないといけない。』そう言って父さんは悲しそうな表情を見せていた。…そんなの私が許さない!機械達を守るんだ。
だから言ってしまったのだ。私が機械達を守ると。戦争に持っていくのなら!私だって行ってやろうじゃないか!
『父さん。私は父さんや母さんの造ってくれた機械達を守りたい。…持っていくというのなら…』
…私も戦争に参加する!
その時の両親の顔は今でも覚えている。とても怒っていた。いつもは朗らかに笑っている両親たちに怒られてしまった。『そんなことで戦争に狩りだされるのはアスカの為にもならない!』と。…でも、それよりも私は機械が大好きだから。機械と遊んで弄って、オイルに塗れてしまった手を見て笑ってしまうほどのおかしな令嬢だから。戦争で死んだとしても機械と共に居れたら…それで幸せだから。
そして私は焚書士としてからではなく、まずは雑用からなんでも手伝った。お国の為と言いながら、機械と共に居たいという心を封印して。壊れていく機械達を見ては静かに涙を流したものだ。
…戦争が収束を迎え、新米焚書士として初めて出会った書物は、顔は怖そうだけれど、でも、私が秘めていた心を見透かすように少しはにかんでいた。…今でも変わらない逞しい両腕と少しゴツゴツとした手で私の頭を撫でてくれたのは、私の中で鮮明に覚えている。だって…。
『よっ!小さいの。俺は”暴露”の書のサラだ。よろしくな。相棒?』
少し八重歯がちらりと見えた強面のお兄さんの姿に私の鼓動は跳ねてしまった。掴まれて離さずにいたのだ。その時、初めて私は機械以外で心をときめかせてしまったのだから。…彼が書物だと知りながら。
医務室へと向かっているサラではあるが、内心では半ば諦めかけている。あの人間嫌いな反魂の書が対応してくれるかなんて聞かなくても分かる。恐らく無理だ。だけどそれでも藁にも縋る思いで彼は医務室のドアを開けたのだ。
「おい!リィナは居るか?…ちょっと、いや。頼みが…」
…ある、という言葉でサラは驚いた。なぜならばあの人間嫌いなリィナが、自分を利用とする者ならば何でも契約を破棄するような、人間嫌いのリィナが…人間の隣で眠っていたのだから。その人間は書物を漁りながら勉強をしている最中であったようで、椅子に座って眠っているリィナを傍目にしてからサラに向けて軽く笑った。その人間、志郎 豊は焦燥感を抱いているサラに小声で話す。
「ごめんな?サラ。リィナはこの通り、眠っていて…。俺で良ければ話は聞くけど?」
「あ…あぁ。すまん。でも、これはリィナにしか頼めないこと、というか…。」
「アスカ書簡のことでしょ?リィナも助けられないかって心配しててさ~。…だからこの3日間は図書館の書物の情報をメモ機能で読み込んで、俺に書き写してくれたんだ。…今は大丈夫だけど、俺も出動出来ないぐらい動けなくて…。だからリィナが気を遣ってくれたみたい。」
豊の言葉にサラはさらに驚いてしまう。
…リィナが?あの人間嫌いなリィナが、能力は使用はしていないが、アスカの為に…他者の為に働いて、人間に気を遣った…だと?そんなの、今までは無かったのに…。
リィナの変わりようにサラは驚いていた。しかし過去のリィナを知らずにいる豊はリィナに声を掛けようとして辞める。彼女がとんでもないほど眠りが深いことを知っていたのもあるが、それ以前に彼女を気遣っての行動であった。そんな1人と1冊の様子を見てサラは自分の中に抑え込んでいた何かを吐き出してしまうのだ。
「…俺も。お前らみたいに、アスカと分かち合えて、それで…お前らみたいな、優しい関係に…なりたい。」
その言葉に豊は呆気に取られたかと思えば、少し笑っていた。でもそれは人や書物を卑下するような笑いでは無い。やっとサラが彼自身の、自分の気持ちを分かってくれたというを豊は噛みしめたかったのだ。
だから豊は胸を張って言い放つ。まだまだ新米ではあるし頼りにもならない。でも、もしかしたら変えられるかもしれない、書物と人間の隔たりを失くす為に自分が尽くせることをしたいと願うのだ。
「なれるよ!きっと!…だからアスカ書簡を救おう!絶対!!!」
豊の心強い言葉にサラは強く頷いたのであった。
「…アスカを、助けて欲しい。俺の、大切な…相棒で、それで…」
「それで?大切な相棒…以外な関係でも?場合によっては、君を少~しだけ焼かないといけないんだけど。…意志なんか持たれたら困るからね。」
「…なんでも、ないです。」
ルークの冷淡な口調にサラは吐き出したい想いを打ち明けられずにいる。…本当は、アスカは自分にとってかげがえのない存在で、大切で大事で…でもそんな”意志”を持っていると知られたりすれば、自分のこの想いは消えてしまうから。分かっているから。
「じゃあ、今は医務室にリィナが居ると思うから。サラ?僕と一緒に行くかい?」
彼の問い掛けにサラは顔を青ざめてから首を軽く振り、単体で医務室へと向かった。
…アスカに対するこの”想い”は自分にとっては良くないと。異質な気持ちだと自覚しながら。
…私は機械の中で育った。機械と遊んで日々を過ごしていたのだ。…私にとってはどんなお稽古よりも…それが1番だったから。
『アスカお嬢様!また機械を弄っていたのですか!そんな綺麗な手を油塗れにして!…卿・ミスリアの令嬢として、あなたにはちゃんとした教養付けないと…!良いですか?あなたは卿・ミスリア家のお世継ぎとして…』
またダンスの先生からのお叱りだ。そんなのどうだっていい。私は機械と共に居たいんだ。父さんが築き上げてきたこの機械達を、そして母さんの魔法の知恵で与えてくれた機械の性能を。私は企業を大きくさせるよりも機械と共に居たいんだ。…だから先生の叱責は聞いてもいない。頭の中では自分もどんな機械を造ろうかと想像して、想起しては機械達と遊ぶのが私の日々であった。それがたとえ両親にとっては都合が悪いとしても、それでも良かった。…だって私は機械達と遊ぶ方が、ピアノのレッスンよりも、ダンスよりも、食事のマナーよりも…ずっと自分らしくいられたのだから。
しかしそんな日々は長くは続かない。
『えっ!???機械を…売ってしまうの?父さん?…どうして?』
それは突然であった。なんと卿・ミスリア家の機械を国の為に売ろうとしていたのだ。…なぜ?
そんなことは許せない!大事な機械達を…失いたくない!だから私は食事中であるにも関わらず、父さんに初めて苦言を言ってしまった。母さんだって何も言っていないけれど、辛そうな顔をしているじゃないか!父さんと母さんの大事な、機械達を国の為に?……なんでそんなことを?許せない!
今思えば、幼かった私はその頃の状況を分からずにいたのだろう。当時は枢要の罪と人間達によって交戦中である”書物戦争”のことを、当時の裕福な私にとっては、世間を知らずにのうのうと機械と遊んでいる私にとっては、無知であり把握してもいなかった。
父さんに『お国の為に自分たちが造った機械を排出しないといけない。』そう言って父さんは悲しそうな表情を見せていた。…そんなの私が許さない!機械達を守るんだ。
だから言ってしまったのだ。私が機械達を守ると。戦争に持っていくのなら!私だって行ってやろうじゃないか!
『父さん。私は父さんや母さんの造ってくれた機械達を守りたい。…持っていくというのなら…』
…私も戦争に参加する!
その時の両親の顔は今でも覚えている。とても怒っていた。いつもは朗らかに笑っている両親たちに怒られてしまった。『そんなことで戦争に狩りだされるのはアスカの為にもならない!』と。…でも、それよりも私は機械が大好きだから。機械と遊んで弄って、オイルに塗れてしまった手を見て笑ってしまうほどのおかしな令嬢だから。戦争で死んだとしても機械と共に居れたら…それで幸せだから。
そして私は焚書士としてからではなく、まずは雑用からなんでも手伝った。お国の為と言いながら、機械と共に居たいという心を封印して。壊れていく機械達を見ては静かに涙を流したものだ。
…戦争が収束を迎え、新米焚書士として初めて出会った書物は、顔は怖そうだけれど、でも、私が秘めていた心を見透かすように少しはにかんでいた。…今でも変わらない逞しい両腕と少しゴツゴツとした手で私の頭を撫でてくれたのは、私の中で鮮明に覚えている。だって…。
『よっ!小さいの。俺は”暴露”の書のサラだ。よろしくな。相棒?』
少し八重歯がちらりと見えた強面のお兄さんの姿に私の鼓動は跳ねてしまった。掴まれて離さずにいたのだ。その時、初めて私は機械以外で心をときめかせてしまったのだから。…彼が書物だと知りながら。
医務室へと向かっているサラではあるが、内心では半ば諦めかけている。あの人間嫌いな反魂の書が対応してくれるかなんて聞かなくても分かる。恐らく無理だ。だけどそれでも藁にも縋る思いで彼は医務室のドアを開けたのだ。
「おい!リィナは居るか?…ちょっと、いや。頼みが…」
…ある、という言葉でサラは驚いた。なぜならばあの人間嫌いなリィナが、自分を利用とする者ならば何でも契約を破棄するような、人間嫌いのリィナが…人間の隣で眠っていたのだから。その人間は書物を漁りながら勉強をしている最中であったようで、椅子に座って眠っているリィナを傍目にしてからサラに向けて軽く笑った。その人間、志郎 豊は焦燥感を抱いているサラに小声で話す。
「ごめんな?サラ。リィナはこの通り、眠っていて…。俺で良ければ話は聞くけど?」
「あ…あぁ。すまん。でも、これはリィナにしか頼めないこと、というか…。」
「アスカ書簡のことでしょ?リィナも助けられないかって心配しててさ~。…だからこの3日間は図書館の書物の情報をメモ機能で読み込んで、俺に書き写してくれたんだ。…今は大丈夫だけど、俺も出動出来ないぐらい動けなくて…。だからリィナが気を遣ってくれたみたい。」
豊の言葉にサラはさらに驚いてしまう。
…リィナが?あの人間嫌いなリィナが、能力は使用はしていないが、アスカの為に…他者の為に働いて、人間に気を遣った…だと?そんなの、今までは無かったのに…。
リィナの変わりようにサラは驚いていた。しかし過去のリィナを知らずにいる豊はリィナに声を掛けようとして辞める。彼女がとんでもないほど眠りが深いことを知っていたのもあるが、それ以前に彼女を気遣っての行動であった。そんな1人と1冊の様子を見てサラは自分の中に抑え込んでいた何かを吐き出してしまうのだ。
「…俺も。お前らみたいに、アスカと分かち合えて、それで…お前らみたいな、優しい関係に…なりたい。」
その言葉に豊は呆気に取られたかと思えば、少し笑っていた。でもそれは人や書物を卑下するような笑いでは無い。やっとサラが彼自身の、自分の気持ちを分かってくれたというを豊は噛みしめたかったのだ。
だから豊は胸を張って言い放つ。まだまだ新米ではあるし頼りにもならない。でも、もしかしたら変えられるかもしれない、書物と人間の隔たりを失くす為に自分が尽くせることをしたいと願うのだ。
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