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22.新たな宿敵。

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リィナに微笑みかけたライグンは豊をなど気にせずに彼女の手を握った。自分と同じ冷たい手に触れてリィナは書物はやはり人間ではないのだと実感してしまう。そんな彼女の気持ち…という情報を感じたのか、ライグンは深い溜息を吐くのだ。

「あ~あ。…やっぱりこの人間のせいで、リィナ?君は変わってしまったね。…機械みたいに表情が無くて何も映すことのない、綺麗な紫色アメジストの輝きは、どこへ行ってしまったの?…あんなに澄んでいて、穢れもなく、そして美しい瞳だったのに。…まるで宝石みたいに淀んでもいない輝きを放っていたのに。」

また再び溜息を吐くライグンにリィナは昔の自分を思い出した。人間など許さない、分かり合おうともしない、自分を曝け出そうともしなかった自分の過去を振り返る。それは、本来の書物であれば少し異質ではあるが普通であったのかもしれない。書物は書物。…ただのモノなのだから。

…でも。今は違う。…たとえ今が異質へと完全に変わり果てたとしても。…”私”という存在があっていいんだ。

そういう風に思えたのはこの暴食の罪と同じくらいキザだが、熱い信念と甘っちょろい正義を抱え、それでもリィナを守ろうとする小さな騎士…志郎 豊。彼はリィナとライグンが手を取って熱い視線を送っていたのを気に喰わず、彼女の手を取って自分の背後へと隠すようにして彼女を守る。まだ新米の焚書士ではあるが、リィナにとってはこれからも成長を共にする相棒で小さな騎士。そんな彼はリィナに向けて叫ぶ。

「リィナ!行くよ!!!契約コントラクトの準備は良い?」

有無を言わせずように笑って言い放つ豊にリィナも応えるようにして1人と1冊は一緒に言葉を乗せるのだ。

「「我思う故に我にあり。かの者に力を宿し、そして力を与えたまえ!!!反魂の力よ!…我の手に宿りて、そして、導け!!!」」

するとリィナは白銀の槍…強大な情報データフォースは豊の酷使された両腕や両手を庇うように羽のように軽く、そして扱いやすかった。試しに振り回したい所ではあるがここは医務室だ。さすがに物品を壊すのは避けたい。だから豊は自分が今の使える出来るだけの脚力でライグンの前から逃げ出した。

「はぁっ?卑怯でバカな人間だな~?…まぁいいや。…楽しませてもらうよ。」

余裕のある枢要の罪の暴食を司るライグンは鏡を通して豊の追跡をおこなった。…そしてなんとなく予想がついたのでと連絡を取る。

「君の力が必要なんだ。図書館から出て外に通じる結界を壊してくれ。…出来るよね?」

するとその枢要の罪はライグンの言う通り結界を破壊したのだ。鏡から豊が怯える姿にいやらしく笑いながらもライグンは鏡を通してに感謝を述べる。

「ありがとね~。君の…」

…”虚飾”の罪の力だね。

鏡に映った幼い少女は、少し嬉しそうな表情を見せていたのであった


走りながらも豊はリィナと意思疎通リンクさせて意見交換をする。

「どうする?…室内まで壊されたら大変だよ!どうしよう!!!」

『…お前。その前にリンクしてるんだから脳内で話せ…。まぁいい。この巨大な図書館には外へ通じる通路があるだろ?』

リィナの問い掛けに豊は瞬時に頭を巡らして思い出す。今でもたまには行くし、よく息抜きでリィナと一緒に行く公園の通路だからだ。思い出した豊は走りながらも冷静に伝える。

「うん。あるね…。あそこを通って公園で焚書士の勉強の息抜きしてたし。」

『そこへ行け。あそこの通路には結界が張り巡らされている。暴走した書物を気絶させるほどの巨大な結界だ。…そこへ行けば、時間稼ぎにはなる。…そこで作戦を練るんだ。…枢要の罪だから、私の知識からは計り知れない何かもあるかもしれないが…。』

「…?まぁ!なんとかなるよ!!オッケー!じゃあそっち向かうから!」

リィナの妙案に乗った豊は走りながら外へ通じる通路を通ってからいったん立ち止まり、息を整える。強大な情報データフォースの形態のままのリィナに人間の姿に戻ったら?と言おうとして…彼は驚き目を見張った。なんと通路を覆っていた結界がガラスのように壊れてしまったのだ。図書館中に警報のアラートが響き渡る中で1人の青年、いや書物のライグンはニタニタと笑いながら豊の前に現れ、そして右腕を鎌にして好戦的な視線を向ける。

「鬼ごっこはここでおしまい。…さぁ。殺し合いをしようよ。…お前が僕に殺されるのは目に見えてるけどね?」

そう発言してから、ライグンは右手を鎌に状態で突進をしてきた。豊を殺す気満々である。しかし豊も負けてはいない。データフォースでライグンの鎌に立ち向かい振り払った。何となくではあるがライグンの鎌からは文字のような物も吸い取られた気がした。データフォースが少し重みを増したからだ。だから豊はライグンと距離感を取り向かってくる攻撃に新たな術を唱える。

文字吸引の情報アプソルションデータベース!発動!…文字を食べろ!!!」

「??!なに?なにその…技?」

するとライグンの鎌が文字化して吸い込まれるようにデータフォースに注ぎ込まれた。さすがに重みの増したデータフォースに豊は顔を歪めつつも驚いているライグンに向けて言い放つ。

「行け!!!戦略の情報タクティクスデータベース!…これで!終わりだ!!!」

白銀の槍でライグン向けて術を放てばまばゆい光が辺りを照らした。


憂鬱の罪ことチオロサアドは辺りなど気にせずに散歩していた。人間によって造られて建築された建造物の姿にチオロサアドことアドは何となく呟く。

「こういうのを作るにも俺たちの力が必要だと思うんだけど。…懸命に働いて、でも、それでも少ない賃金でさ。…それで落ち込んでしまう。…憂鬱になるのは仕方がないと思うんだけど。」

「それは違うと思います。…憂鬱の罪!」

声がする方へ振り向けば1人の女性と共に多くの兵士…いや、焚書士がアドを見つめていた。恐怖を堪えているような感覚を感じるが…その前に。

…ピンクローズの髪の人。…これは使える。

アドがにたりと笑えばアスカは小型銃をアドに向けていたのであった。
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