書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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14.望郷に映る出会い。

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恩師と出会ったのは…そう。まだ人間と書物が分かち合えていなかった頃。…書物の中で最高峰とされている”枢要の罪”が指揮を執り、人間と書物が大きな戦争をしていた…”書物戦争”が終結した頃であった。
圧倒的に優位であった書物側ではあったが、人間達の暴動で多くの書物は焼却されて灰と化してしまった。しかしそれは人間達も同じで多くの兵士が深い戦禍を残して天国へと旅立った。…そんな深い悲しみに包まれた世界に堕ちてしまった両者は表面上では手を取り合い、互いを互いで満たすような、そんな関係であるのを願って平和協約を結ぼうと試みていたようだ。
…しかしその裏には多くの人間は書物などに…ただの”モノ”に屈するわけは無いと裏で画策をしていた、そんな時代。

『おかあ…さん?行っちゃうの?』

『ごめんね…。ジェシー…。ママはお国の為に働かないといけないから。……この戦争が終わったら、お父さんと一緒にご飯でも食べましょう。…だから、それまでは我慢…ね?』

『分かった。…お母さん。待ってるから。ずっと…。ずぅっと!!!』

『えぇ。”約束”よ?』

…でもそれはあり得なかった。果たすことは無かった。…違っていた。だってお母さんの白くて温かくて細い指と交えた約束は、果たされることは無かったのだから。

お母さんは幼い僕を置いて流行り病で亡くなってしまった。お父さんも戦争が長引いてとっくに亡くなっていたのにも関わらず。お母さんは看護師として必死に国の為に働いていたのだが…、患者から移った病気で僕を置いて旅立った。
…僕は1人。わずかに残された両親の遺産を手に戦争をしていた国から離れて、ただ1人でいた。両親に先に旅立たれて僕はとてつもない孤独に襲われた。…いや、襲っていた。両親を早くに亡くして、別の国へ行くのにも徒歩でしか分からずにいた子供に、文字を覚えたての幼い子供相手に何が出来たのだろう。お金の使い方など両親からちゃんと教わるはずであったのに失くしてしまった。……2人とも亡くなった。
そんな状況で背景であったのならなおさら分かるはずもないのだ。見知らぬ土地を訪れ空腹で死にそうになった僕に1人の商人が美味しいそうな、とても艶やかで美しい、赤いリンゴを幼い僕に向けて差出お金を要求したのだ。
…だがその商人は当時の僕を騙そうと持ち掛けてきたのだ。騙されそうになった時は自分でも分からずにいたのは本当のこと。…ぼったくられそうになったその時。とある男が自分に声を掛けてくれた。

『そこの君?…そのリンゴ、普通の値段よりも5倍は高いよ?それでも買うの?』

『えっ!??そう…なの?』

僕が驚きで目を見張ればその男の人は僕にリンゴを売ろうとしてきた商人に向けて、蔑むような、侮蔑するような目線を向けていた。

『あなたもこんな子供相手にぼったくるなんてね~。欲にもほどがあるんじゃない?…っま。僕に言われたくは無いだろうけどね~。』

シルクハットを被り金髪の髪をなびかせた、マントを羽織った男に僕は救われた。でもその男の人は何も言えないで無口になってしまった商人に啖呵を切っていたのにも関わらず、その料金通りのお金を店に渡したんだ。僕は不思議に思った。”なんでだろう?”って。でもその人はにっこりと微笑んでいた。

『小さな男の子相手にぼったくるのは感心しないけど、別にお金に欲があるのは良いと思うよ?…この国でも戦争の被害はあったんだ。でも、戦争が終わったんだから国もお金に関して程度を見直してるだろうね?それを見越せば、また貨幣というものに価値を見出すだろうし。…金だろうが物だろうが欲があるのは良い事だよ?…人間の生きる糧になる。明日への力になる。活力になる。…だから人間はその為に生きようともがいて生きるんだ。』

その言葉は心の中で今でも覚えている。両親を亡くして、孤独に支配され生きる意味を見出せないでいた幼い僕には、その人の言葉が、仕草や言動が自分に言われているような気がしたんだ。驚いている商人ではあったがふんだくるようにその人から金を奪ってリンゴを差し出した。
でもそのリンゴを受け取った男の人はなんて言ったと思う?ただあげたわけではつまらないでしょ?
…その人は僕ににっこりと笑ってから人差し指を向けて言ったんだ。

『君に生きることを強く望むのならこのリンゴをあげるよ?でも、それだけではつまらない。…どうしようかな~?』

『…お兄さんは僕にあげるつもりでリンゴを買ったわけではないの?』

すると眼鏡を掛けたその人は今度はリンゴを僕に差し出しだした。くれたんだって思って僕が両手を伸ばそうとしたらその人はこのような条件を出したのだ。

『そうだ!君が僕を先生だと思ってくれるのなら!このリンゴをあげるよ!…それが良い!それなら面白いし僕も退屈しない。』

突然の提案に僕は首を傾げて復唱する。

『えっ…先生?…僕の?』

『そう!先生。…君に色んなことを教えたいんだ。…僕の生徒になってくれるのなら。』

ちょうどお腹が空いていたし、リンゴは大好きだから僕はその人の…先生の話に承諾するように軽く頷いたんだ。そしたら先生は大輪に咲く向日葵のような明るい笑顔を見せてリンゴをくれた。そんな先生に子供ながら”変な人。”とか思ってしまったけれど。でもそのおかげで美味しそうなリンゴは受け取ることが出来たんだ。
無我夢中で食した甘いリンゴはとてつもなく美味しかった。ぺろりと食したリンゴを平らげた僕に先生は目を細めて頭を撫でてくれた。…でも温かい笑顔とは裏腹に冷たくて、とてつもなく冷たく感じたのを今でも覚えているのは…なぜ?
先生は僕を撫で終えてからまた笑っている。戦争が終わっても荒れている土地にも関わらず、そんな状況なのによく笑う人だなって子供ながら思ってしまう。
僕が不思議な顔をしていても”先生”は微笑みを絶やさないでいた。

『僕はアリディル。ディルって呼んで?…じゃあ君の名は?』

名前を尋ねられたからっていうのもあるしこの人は不思議だけど優しい人かなって思ったから。だから当時の無垢な僕は素直に名前を告げたんだよね。

『ジェシー!ジェシー・クラウス!!!』

それが恩師との…先生との最高で最悪な出会いだったのにも関わらず。

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