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9.緊急事態発生。

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豊の言葉に呆れている様子のレジーナは深い溜息を吐く。

「あんた何言ってんの…?相変わらずね。…まぁいいわ。あなたたちが契約コントラクトすることを願ってるから。じゃあまた。」

そそくさと帰ってしまうレジーナに豊は疑問に思いつつも何かを考え込んでいるリィナに笑いかける。まぶしいくらいの笑顔で笑いかけられリィナは驚きつつも彼は尋ねるのだ。

「そうだ!リィナ!…外に出ようよ!」

「外に?…か?」

「うん!缶詰めになって勉強してても、訓練しててもダメだと思うし!」

「…まあ、志郎がそう言うなら。」

「ほんと!??」

真っすぐな黒い瞳に吸い込まれそうになるのをリィナは感じるが当の本人は気が付いていない。そんな彼はリィナの手を取って駆けだすのだ。

「じゃあ外に出よ~!息抜きも大事だぁ~!」

「…うん。そうだな…。」

豊の笑顔にリィナも少し笑顔を見せるのであった。


ここはとある異空間。そこには男女含めて数人の人間が居た。…いや人間ではない。彼らは書物なのだ。特別な意志を持つ書物なのである。そんな彼らのうちの1人は舌打ちを軽くしてから空間を出る。

「あの人間ムカつく~。僕のリィナに笑い掛けられてさ~?…ちょっと挨拶にでも行ってくるから。良いでしょ?」

青年の言葉に皆が頷けば彼はにこりと笑った。

「さぁ~て?…どういたぶってあげようかな~。…はぁ。……早くリィナが食べたいな。」

枢要の罪の1人はリィナを思い浮かべてはリィナの元へ繰り出すのであった。


外に出てベンチに腰掛ける豊は考え事をしている。…それはもし自分がリィナと契約コントラクトをしてからのことであった。

(もしもリィナと契約コントラクトをすれば…俺は焚書士になる。…でも、リィナの能力を使うたびにリィナが苦しむ…んだよな。…それっておかしくないか?…意思疎通をして能力を使わせてもらうのに、リィナが苦しむなんて。)

「おい。志郎。…何を考えている?」

「…へっ?あっ!リィナ何か言ってた?ごめん!今、考え事してて…。」

「私との契約コントラクトのことでか?」

「!???なんで…分かったの?俺…顔に出てた?」

呆れた様子のリィナに悟られた豊は申し訳なさそうな表情を見せる。そして誤魔化そうとして別の話題を振ろうとするのだが彼女に阻まれてしまった。書物であるにも関わらずどこか意志を見せつけるような美しいアメジストの瞳に吸い込まれそうになる。

「…本当は嫌だけどな。……お前の相棒パートナーとして契約コントラクトしてやってもいい。」

「えっ!??どう…して?」

リィナが言葉を発しようとしたその時であった。

「それは困るな~?リィナは僕のモノ、なんだよ?君みたいな貧弱な人間に契約コントラクトされるとさ~?僕が困るんだよね~?」

突如として現れた茶髪の長い2束に束ねた三つ編みの…中性的な見た目だが恐らく少年であろうか?彼がにこりと笑ってリィナ声を掛ける。するとリィナは身体を凍り付かせて一言呟いた。

「…ライグン。なんで…?枢要の罪が…こんな場所に?」

”ライグン”と呼ばれた少年にリィナが言葉を発するのだが…身体を震わせて動けないでいる彼女の様子に豊は不審に思う。しかしそんな彼を置いてライグンは言葉を綴らせる。

「枢要の罪だからこそ、結界が張られているこの場所にも来れるんだよ?…食事、いや、”暴食”なんて人間なら誰でも持っている感情でしょ?意志の力で張られている結界ならなおさら来れちゃうよ?…僕は暴食の罪なんだから…ね?」

ゆっくりと歩み寄りながらリィナに笑いかける姿に豊は戦慄し彼女を守るように前に出る。…しかしそれが気に喰わなかったのだろう。ライグンは豊にも笑った。…酷く冷たい笑みをして。

「君は邪魔。……リィナから離れないと殺すよ?」

「!!??なっ?」

「リィナも言ってやってよ?…僕がどれだけ君が大好きなのかを。…書物として”食べたい”くらい…ね?」

そして舌なめずりをするライグンの、枢要の罪こと暴食の罪に豊も彼に戦慄した。


-ギーン!!!ギーン!!!

大きな古時計が鳴り響いたかと思えばそれは警報であった。

「ルーク司書官!!街中にて結界が壊されました!!!…枢要の罪が襲撃に来たと思われます。」

「ん~?大物がやって来たね~?場所はドコ?」

「C地区の森林公園です!」

部下の言い放った”森林公園”という言葉にルークは眉をひそめるが、重い身体を起してから隣に居るレジーナに向けて言った。

「面倒だけど君の能力を借りるよ?レジーナ?」

「その為に私が居るんでしょ?…分かってるわ。」

ルークの言葉に頷いた彼女は書物へと戻りルークの手元へと戻る。そんな彼女にルークは呟くのだ。

「…あの人であることを願う…か。違うだろうけどね。」

謎の言葉を呟いて席を立つルークであった。
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