書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
4 / 49

4.気取り屋な人間は書物と疎通する。

しおりを挟む
ルークに腹を殴られたおかげで鈍痛にもがいていた豊ではあるが数分蹲ってからは少しずつだが痛みが治まっていったような感覚がした。自身の腹部を撫でてから起き上がって見せれば豊に驚いた少女、反魂の書リィナが驚いていた。彼女は驚いてから言葉を少しずつ話していく。

「あの人に…、あの人に殴られて。その…あの…、人間?大丈夫?」

拙い彼女の言葉に豊は軽く笑ってしまった。突然笑い出す豊にリィナは彼が殴られておかしくなったのではないかと錯覚する。

「ふふっ!あっはは!」

「おい!人間!殴られておかしくなったのか?私を庇ったから…」

「ふふっ。…君の責任じゃないよ。ちょっと君が可愛い言葉遣いをするもんだから、笑っちゃっただけ。ごめんね?」

「なっ…?!…可愛いって。お前やっぱり…変。」

リィナに溜息を吐かれても豊は軽く笑ってから彼女に自身の上着を掛けた。薄暗い部屋ではあるがやはり気になるのは彼女の全身に及ぶ傷跡である。豊はそれが痛々しくて見ていられなかった。だから彼は彼女が呆然とした顔で自分を見ている中でゆっくりと笑う。

「君の…リィナの傷跡が見ていられないから。だから…今はこれで勘弁してね?」

「…お前は本当に、」

「お前じゃなくて豊。志郎 豊。名前で呼んでよ?ね?」

豊がにっこりと笑えばリィナは少し驚いてから恥ずかしそうに呼ぶ。

「…シロウ。」

「ははっ。それ苗字だし?リィナはツンデレだな~?」

「ツンデレ?なんだそれは?」

「知らないならそれでいいよ~。」

-グギュゥゥ~…。

ホコリ臭い壁に倒れてしまえば急に腹の虫が鳴った。キョトンとするリィナに豊は照れたように笑って言う。

「あはは…。妹の病院に行こうとした時にこっちの世界に来たから…ちょうどお腹が…。」

「ふふっ!!あははっ!」

リィナが先ほどのむくれた顔が綻んだかと思えば笑っていた。恥ずかしそうにする豊にリィナは笑いながら彼に問い掛ける。

「ははっ!お前は…シロウは、気取り屋なのか?もしくは格好付けなのか?」

「気取り屋も格好付けも…ほとんどキザって意味じゃん…。俺ってそういうタイプなの?」

「ふふっ。お前はそういう人間なんだな!ふふふっ!!!」

「もう…笑いすぎだって…。」

肩を揺らして笑うリィナに豊は腹を擦りながら彼女の笑みを愛おしく思った。


こちらは図書館の奥にある管理室。そこに2人の人間が居た。2人は牢屋に居る1人の人間と1冊の書物の会話を観察し、そして楽しげに笑っている姿を見て驚く。

「リィナが…反魂の書が笑っている…!笑っている所なんて初めて見ました。」

1人の人間、アスカはリィナの笑っている姿に驚きを隠せずにいればもう1人の人間、ルークは豊の存在に笑みを浮かばせている。そして席を立ち図書館へと行こうとするルークにアスカは疑問を投げた。

「??ルークさん。彼らの監視はもうよろしいのですか?志郎君もこのままじゃ可哀想ですし…。」

「あぁ。志郎君もリィナも早いうちに出させるよ。…でもその後に、ね?」

「…その後に、ですか?」

ルークの企みに薄々と気付いているアスカではあるが何も言わない。彼女は気づいている。表面上では笑ってはいるがルークは名前の通り悪魔のような冷酷さ、冷たさを持っている事実を。そんな絶対零度の持ち主であるからこそ焚書士として地位のある司書官になれたという事実も、アスカは分かっていた。

「さぁ~て?彼のお手並み拝見と行きましょうか。…ねぇ?拘泥の書レジーナ?」

傍らに持つ書物に語り掛けるルークの姿にアスカは恐怖を覚えるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...