書物革命

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
1 / 49

1.疎通の扉を通る。

しおりを挟む
皆さんは焚書ふんしょ、そして、壺中の天こちゅうのてんという2つの言葉を知っているだろうか?この2つは意味が全くもって違う。

焚書ふんしょとは組織や社会にとって不利益である機密データや書物を焼き払うこと。昔はとある国で行われており、『本を焼く者はやがて人間さえも焼くようになるだろう』…ハインリヒ・ハイネという人物が提唱している。

壺中の天こちゅうのてんとは別世界という意味を表し、多くの物で溢れている世界のことを差す。
さて、ここから言いたいのはその壺中の天こちゅうのてんと言うのが現実の…いわば人間界であり、もう1つの世界、いや、書物が溢れている世界があるというのなら。もしも書物に感情があれば人間界に行きたがるであろう。
…なぜなら自分たちが焼かれなくて済むのだから。


ゆたか~!一緒に帰ろ~ぜ~!」

「今日は付き合ってもらうぞ~!このシスコンめ!」


「あはは…シスコンって。」
友人たちの楽しげな声と共に発せられた”シスコン”という言葉に溜息を吐くのはクラスの皆から頼りにされている、クラスのリーダー的存在である志郎しろう ゆたかだ。さすがにシスコン呼ばわりをされて多少の憤りと呆れを感じさせるが、彼らは悪気はなく、悪意も何もないのは十分分かっている。そんな友人たちの投げかけに豊は席を立った。

「今日も妹の看病見に行くんだ。…また誘ってよ?妹が回復したらお前らに妹の可愛さを見せつけてやる。」

「うわぁ~!出たよ!妹ちゃん自慢!…今度俺に紹介してあわよくば彼女に」

「やっぱお前に紹介すんのな~し!…さっ!行ってくるから!じゃね~!」

「おい~!豊~!!!?」
嘆き悲しむ友人をよそに豊は病院へと足を向けた。


「えっと…。花は昨日買ったし…、あとは…何だろう?…でも、まだ目が覚めないんだよな。ははっ…。」

乾いた笑いと共に豊は病院へと歩を進める。少し前までは元気であった妹は事故により植物状態とされてしまった。愛している妹が呼吸はするものの動かずにいる姿に豊は犯人へ深い憤りと、金は要らないから妹を…小夜さよを目覚めて欲しいくらいであった。
心の中で歌を歌う。小夜が好きだったこの歌を。…しかし雨が降って来たのか、瞳から雨粒が降り注ぐ。

「ズッ…。ズビッ…!…ダメだな!こんな姿見せちゃいけない!小夜が悲しむ!…小夜は絶対に意識を…取り戻…す?って、なんか燃えてる?」

泣きべそを掻きそうに自身を奮いだたせていれば目の前には燃えてる”何か”がそこにあった。

「??これで俺が見過ごしたら大変なことになるじゃん!とりあえず!!!火を消して…。」

豊はリュックから水筒を取り出して消火活動に励む。大きかった炎は段々と小さくなっていき炎は消えてしまった。安堵をして豊はこのまま去ろうとするのだが、燃えカスになってしまった”何か”が気になって仕方がない。だから彼は…何かそれに触れてしまった。

『助けてくれてありがとうございます。』

「!!??誰?誰が言ってんの?」

誰が自分に話し掛けているのかと周囲を見てみるが分からないでいる。そんな彼に声は言葉を紡いでいく。

『私があなたを導きます。…さあこちらへ。』

声がする方を見ればその何かが豊に話し掛けていたのだ。しかも辺りは真っ暗に包み込まれており、その”何か”が先ほどの焼かれてしまった姿から姿を変えたのである。…本の姿になって。
”疎通”と書かれていた本はヒラヒラと蝶のように飛んでから豊の姿から消えてしまったのだが、同時に辺りも光が見えてきた。

「???夢?かな?とりあえず病院に行って」

「ここには君の知っている人は居ないと思うけど?」

「!!!!?えっ?誰?」

現れた4人の人間のうち眼鏡を掛けた男性が話し掛けてきた。しかも驚くべきことに、豊はなぜか魔法陣のような奇妙なデザインが施された地面に立っていたのである。唖然とする豊に男性は微笑んで言い放つ。

「君が壺中の天の人間だね?僕はルーク・アリディル・ジェシー。…君がここに来られたのは”疎通の書”おかげだよ。…君が特別な人間の証だね。」

「…?何を言って?」

「そんな君にやってもらいたいことがある。」

突飛な言葉を言うルークと呼ばれた人物はさらに衝撃的な言葉を言い渡したのだ。

「君を本の管理もとい焼却をする仕事…焚書士として僕らに力を貸してほしいんだ。」

「……はい?」

唖然とする豊にそれでもルークは笑って言うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿神のおかげで異世界『チート過ぎる』生活になった。

蒼真 空澄(ソウマ アスミ)
ファンタジー
※素敵なイラストは雀都様〈@sakutoart〉に作成して頂いたものです。 ※著作権は雀都様にあり、無断使用・無断転載はお控えください。 ある程度それなりの有名大学に進学。 特に学業でも何も問題すらない。 私はいつも思う。 「下らない。」 「つまらない。」 私がたまに出す口癖だけど。 でも本心だった。 昔から大人相手にしてきた事もあるけど。 相手の『目』を見れば、大体、嘘か本当かも判る。 だからこそウンザリする。 人間なんて嘘の塊でしかない。 大抵の事も苦労なく出来る。 友人なんて使いっ走りだ。 私の本心すら一切、気付かない馬鹿ばかり。 男なんて更に馬鹿で救いようがない。 私の外見のみ。 誰も内面なんて見ても居ない。 それに私の場合、金も親から定期的に貰ってる一人暮らし。 でも別に、それも実家に居ても変わらない。 親は常に仕事で居ない。 家には家政婦が定期的に来るだけ。 私には金を渡すだけ、ずっと今まで… そうやって生きてた。 家族旅行なんて一度もない。 家族での食事さえない。 親も所詮、金だけ。 私は人間が、一番嫌いだ。 私自身が人間な事すら嫌気がする。 そんな中でも普通を装って生活してた。 そんな私は、ある日を境に異世界へ。 どうやら私は死んだらしい… 別にそれは、どうでも良かったけど。 でも… 私の死は、神だと名乗る馬鹿のミスだった。 そんな私は慌てる様子をしてる馬鹿神を『誘導』してみた。 その馬鹿は… 本物の馬鹿神だった。 私が誘導したらアッサリ… まさかの異世界チート生活をする事になった。 私は内心、思う。 これは楽しめそうじゃないか? そんな形で始まった異世界生活。 私の場合は完全なチートだろう。 私専用にと得た『異能』もだけど。 更に、もう、それだけじゃなかった。 この異世界でなら誰の事すら気にする必要さえない!! だったら… 私は初めて本当の自由になれた気分だった。 そして初めて出会った『獣人』の言動にも困惑した。 動物でも、人間でもない… だけど、私に何を言いたいんだ? 全く判らない… それからだった。 私が判らない事もあったけど。 だから、相手の『提案』を一応は受けた。 その内容は『誰かを愛せるまで一緒に居る事』だった。 私が誰かを? 愛せる気すらないけど… それでも判らない日々を過ごしてく中に、また判らない感覚もある。 でもなぁ… 愛するって… 私は何をすれば? 判らないからこそ… 始まる異世界での恋愛チート物語を。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】ねこの国のサム

榊咲
ファンタジー
ねこのくにに住んでいるサムはお母さんと兄妹と一緒に暮らしています。サムと兄妹のブチ、ニセイ、チビの何げない日常。 初めての投稿です。ゆるゆるな設定です。 2021.5.19 登場人物を追加しました。 2021.5.26 登場人物を変更しました。 2021.5.31 まだ色々エピソードを入れたいので短編から長編に変更しました。 第14回ファンタジー大賞エントリーしました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...