バイタルサイン

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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第42話 《バイタルサイン》

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 昼の11時くらいに、シングルベッドなのにも関わらずに2人で眠っていた。俺はスマホを見てからそろりと起き上がろう……として、腰に違和感がした。
「……いったぁ!」
 おそらく昨日は蒼柳に犯されまくったおかげで腰が立たないのだろうと踏んで、俺は隣ですやすやと眠る美男に文句を告げる。
「お前のせいで腰が痛いよ……。でも、俺を見てくれてありがとう」
 そして俺は熟睡している蒼柳の唇に軽く触れて、夏休みの課題に取り組んだ。
 今やろうとしているのは”バイタルサイン”の必要性である。レポートと実際にやってくる実技練を踏まえた課題の1つだ。蒼柳は知らないが、俺は少しずつレポートやらドリルをやっているので、夏休み序盤ではあるがあともうちょいぐらいだ。
 そんな俺はプリントに問われている『あなたにとってのバイタルサインはなんだと思いますか?』という問いかけに、このような回答をする。

『バイタルサインは看護師と患者間の中でなくてはならならいものです。患者様が具合を悪くても言えない場合や、把握しきれていない場合は看護師がバイタルサインによって読み取って医師に伝えたり、看護行為をしたりします』
 記述はまだまだ続くのだが、最後はこのように締めたのだ。
『バイタルサインは看護師と患者様にとって必要不可欠なのです』
 パソコンに打ち込んで軽く伸びをすれば「ぐぅ~」と腹が鳴る。昨日はなにも食べずに行為に励んでしまったものだから、腹が空くのは当然だ。だから俺は、眠っている白潤イケメンを揺すり起こしてご飯を食べようと誘う。
「蒼柳、起きて。……お腹減ったから、ご飯食べようよ」
「うぅ……、りざとさん、早いっすよ~。寝させてください~」
「……もう13時くらいなんだけど。じゃあ、先に待っているから、顔洗ってきなよ」
「……はいっす~」
 もぞもぞしている蒼柳を差し置いて、俺はリビングに向かい昼食の準備をす
る。……とはいっても、ほとんどレンジでチンするだけだ。
 作っておいた野菜炒めにキャベツの乗った生姜焼きはレンジで温めて、わかめスープは火にかけた。でも、もう1品。
 卵液に白だしを入れて混ぜて、その間に油を敷いた四角いフライパンを中火にかける。温まったら台ふきんで温度を下げて弱火にしてから卵液を少しずつ入れていく。固まったら菜箸でくるくるっと巻いて片方に引き寄せて卵液を入れる。
 その工程を繰り返していけば、ふわりと香るだしの匂いがキッチンに充満した。出来上がって火を止めて、まな板にだし巻き卵を置いてほどよく冷めるのを待つ。
 するとそこへ欠伸をしながらキッチンへやってきた蒼柳が「いい匂いっす~!」とはしゃいでいたのだ。
 屈託なく笑う蒼柳が新鮮で俺はドキドキしつつも、ほかほかの野菜炒めなどを彼に手渡す。
「ほら、もうできるから準備していて。……早く食べないと、俺は空腹で死にそうだから」
「俺の味を知っちゃったからっすか?」
「ド下ネタ言うな、バカ」
 反論しつつも顔を赤らめてしまう俺に蒼柳は軽やかに笑って料理を持って行ってくれたり、箸や皿を持って行ってくれたりしてくれた。
 料理が並んで2人して「いただきます~」と手を合わせて食事をして……俺はふと思ってしまう。こんな幸せな時間が続いて欲しいがゆえのことだから。
「俺、蒼柳にとって”バイタルサイン”みたいな存在になりたい」
「え、どうしたんすか、突然?」
 急に告げられた蒼柳は野菜炒めを食し、だし巻き卵を1切れ食べようとしている最中であった。疑問を抱いているような彼に俺はわかめスープをちびりと飲んで、告白のような宣言をしたのだ。
「俺と蒼柳が”バイタルサイン”みたいに、互いを必要としてずっと居られるような、そんな存在になれたら幸せだなって」
「…………利里さん」
 鋭くて切れ長な瞳を大きくしたかと思えば、蒼柳は息を呑むように俺へ笑いかけたのだ。眩しすぎる笑顔に俺は毒されているのに、俺の胸は高鳴って慣れずにいる。
「大丈夫っすよ。じゃあ互いを必要とするぐらい」
 ――愛し合いましょうね?
 蒼柳の告白に俺はノックアウトして顔から蒸気が出てしまう。それでも美形彼氏は「ふふっ」なんて軽やかに笑って生姜焼きを食べるのだからムカつく。だから俺も熱を冷ますように、麦茶をたらふく飲んだのだ。
 俺にとっての”バイタルサイン”は悪夢の原因で、今でも夢に出ることもあるしトラウマでもある。
 でも、大好きな人の為ならば乗り越えられるかな。
 いや、乗り越えて前に進もう。――だってその人も、俺のことを必要としてくれるから。俺を見てくれるヒトに出会えたのだから、そのヒトの為に……俺は頑張ろう。
 そう決意できたのは、目の前で俺の食事をおいしそうに食している愛しい彼であったのだった。

~fin~
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