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第34話 《予感》
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――また崖の上だ。久方に見た夢である。
でも、今日は違う人物が居たのだ。普段なら自分を突き飛ばす相手が対面になっているのに、その人は俺よりも崖の先に居たのだ。……もう落ちそうになってしまいそうだ。だから俺は叫んだ。
「慎さん!」
今にも落ちそうになっている慎さんへ「危ないよ!」と俺は手を差し伸べる。
でも慎さんはすごく疲れていて、なにもかも絶望したかのような淀んだ瞳で……身を投げてしまった。……ガタン! と音がしたので、俺は覗き込もうと――
「あっ、ゆめ、夢……かぁ……」
ベッドから起き上がった俺は息を吐き出して水を飲もうとして……隣に誰か居るの気配を感じた。そろりと布団を軽く持ち上げると、そこには透き通っていて白潤の顔をした寝顔があった。蒼柳がすやすやと安らかに眠っていた。
美麗すぎる顔に先ほどの夢が払拭され、逆に苛立つ。でも、嫌な苛立ちではない。……羨ましいを通り越した結果だ。
「こいつ、寝顔までイケメンかよ。ムカつく」
(まぁでも、いっか。でも俺はな――)
朝の5時。利里は布団を這い出て水を一気に飲んでから、リュックにしまってあるまとめノートを手にして、復習をしていく。
顔面偏差値は整形をしない限り釣り合わないが、勉学だったら釣り合えるようになりたい。
「釣り合えるような人間になってみせる。絶対に……」と利里は心に誓うのだ。朝の5時ではあるが、7月なのでカーテンを開ければ眩しい光が差し込むだろう。
ただ、安堵した表情で眠る美男を起こしたくなくて、利里は照明の光を極小にして勉学に励む。「んんぅ……」なんて寝首を搔く姿もあったが、微笑ましさも感じた。
7時になって利里はスマホで両親に連絡を入れてから、慎介の連絡を見る。……どうやら既読にはなっているが、返事がきていなかった。
「ちょっと残念だけど、忙しいんだろうな~。まっ、いいか! おーい、蒼柳! 起きなって!」
眠っている蒼柳に駆け寄り揺すり起こすと、彼は「ねむい……」と言ってうずくまってしまうので、叩き起こす。
「ほら起きろ! 朝ご飯食べていないし、授業にも遅れんぞ~!」
「……授業サボって利里さんの家に行って、朝ごはんが食べたいっす」
急なおねだりにさすがの利里はたじろいで、呆気に取られてしまう。
「お前、俺は今日の授業が午後しかないからいいけど、お前はあるだろ? 授業単位落とすぞ?」
すると蒼柳は大きな欠伸をして伸びをしてから、片手で目頭を掻いた。
「大丈夫っすよ~。その授業は予習済みだし、終盤なんで大丈夫っす。それよりおなかが空いたっす~」
「本当にお前ってさ……ズルいよね。そういうところ」
「そんなことより、朝ごはん食べたいっす~。……家に連れてって?」
寝顔も甘える図々しさも腹立たしさを覚えるほど見惚れてしまうが、あえて言わなかった。そして2人はホテルを出て、利里の家で作った朝食を摂るのだ。
今日の朝ごはんは塩サバとほうれん草のお浸しに、わかめの味噌汁と大根のサラダとだし巻き卵を添えてご飯をよそった。蒼柳が嬉しそうに笑って「いただきます!」と手を合わせて食している姿に、利里は幸福を抱いた。
学校に向かうと、やけに騒々しかったので2人は人をかき分けて、教員室へと行く。「腹痛で……」と電話で伝えておいた蒼柳ではあるが、午前中の欠勤表を書いたかと思えば、ちゃっかり資料ももらっていた。
(こいつ、まじでずる賢いよな)
訝しむような視線で送る利里ではあるが、普段は忙しい教員室は人があまりにも少ないのだ。
「人があまりいない?」
ふと利里が呟くと、欠勤表を担当している先生が悩んだような、やるせないような顔をして言い放つ。
「2人とも、午後の授業はやりますが、その前に全校集会をします。大事な話だから来てください」
先生の言葉に利里と蒼柳はお互い首を傾げあい、「わかりました」と答えた。全校集会は体育館で行うらしい。すると利里は今日の夢を思い出し悪寒を覚えた。
――今日の夢はなにかの予言、か?
慎助が崖から落ちた夢を思い出すも、そんなわけなどないと振り払い、急いで体育館へ向かった。
でも、今日は違う人物が居たのだ。普段なら自分を突き飛ばす相手が対面になっているのに、その人は俺よりも崖の先に居たのだ。……もう落ちそうになってしまいそうだ。だから俺は叫んだ。
「慎さん!」
今にも落ちそうになっている慎さんへ「危ないよ!」と俺は手を差し伸べる。
でも慎さんはすごく疲れていて、なにもかも絶望したかのような淀んだ瞳で……身を投げてしまった。……ガタン! と音がしたので、俺は覗き込もうと――
「あっ、ゆめ、夢……かぁ……」
ベッドから起き上がった俺は息を吐き出して水を飲もうとして……隣に誰か居るの気配を感じた。そろりと布団を軽く持ち上げると、そこには透き通っていて白潤の顔をした寝顔があった。蒼柳がすやすやと安らかに眠っていた。
美麗すぎる顔に先ほどの夢が払拭され、逆に苛立つ。でも、嫌な苛立ちではない。……羨ましいを通り越した結果だ。
「こいつ、寝顔までイケメンかよ。ムカつく」
(まぁでも、いっか。でも俺はな――)
朝の5時。利里は布団を這い出て水を一気に飲んでから、リュックにしまってあるまとめノートを手にして、復習をしていく。
顔面偏差値は整形をしない限り釣り合わないが、勉学だったら釣り合えるようになりたい。
「釣り合えるような人間になってみせる。絶対に……」と利里は心に誓うのだ。朝の5時ではあるが、7月なのでカーテンを開ければ眩しい光が差し込むだろう。
ただ、安堵した表情で眠る美男を起こしたくなくて、利里は照明の光を極小にして勉学に励む。「んんぅ……」なんて寝首を搔く姿もあったが、微笑ましさも感じた。
7時になって利里はスマホで両親に連絡を入れてから、慎介の連絡を見る。……どうやら既読にはなっているが、返事がきていなかった。
「ちょっと残念だけど、忙しいんだろうな~。まっ、いいか! おーい、蒼柳! 起きなって!」
眠っている蒼柳に駆け寄り揺すり起こすと、彼は「ねむい……」と言ってうずくまってしまうので、叩き起こす。
「ほら起きろ! 朝ご飯食べていないし、授業にも遅れんぞ~!」
「……授業サボって利里さんの家に行って、朝ごはんが食べたいっす」
急なおねだりにさすがの利里はたじろいで、呆気に取られてしまう。
「お前、俺は今日の授業が午後しかないからいいけど、お前はあるだろ? 授業単位落とすぞ?」
すると蒼柳は大きな欠伸をして伸びをしてから、片手で目頭を掻いた。
「大丈夫っすよ~。その授業は予習済みだし、終盤なんで大丈夫っす。それよりおなかが空いたっす~」
「本当にお前ってさ……ズルいよね。そういうところ」
「そんなことより、朝ごはん食べたいっす~。……家に連れてって?」
寝顔も甘える図々しさも腹立たしさを覚えるほど見惚れてしまうが、あえて言わなかった。そして2人はホテルを出て、利里の家で作った朝食を摂るのだ。
今日の朝ごはんは塩サバとほうれん草のお浸しに、わかめの味噌汁と大根のサラダとだし巻き卵を添えてご飯をよそった。蒼柳が嬉しそうに笑って「いただきます!」と手を合わせて食している姿に、利里は幸福を抱いた。
学校に向かうと、やけに騒々しかったので2人は人をかき分けて、教員室へと行く。「腹痛で……」と電話で伝えておいた蒼柳ではあるが、午前中の欠勤表を書いたかと思えば、ちゃっかり資料ももらっていた。
(こいつ、まじでずる賢いよな)
訝しむような視線で送る利里ではあるが、普段は忙しい教員室は人があまりにも少ないのだ。
「人があまりいない?」
ふと利里が呟くと、欠勤表を担当している先生が悩んだような、やるせないような顔をして言い放つ。
「2人とも、午後の授業はやりますが、その前に全校集会をします。大事な話だから来てください」
先生の言葉に利里と蒼柳はお互い首を傾げあい、「わかりました」と答えた。全校集会は体育館で行うらしい。すると利里は今日の夢を思い出し悪寒を覚えた。
――今日の夢はなにかの予言、か?
慎助が崖から落ちた夢を思い出すも、そんなわけなどないと振り払い、急いで体育館へ向かった。
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