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第30話 《告白》
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電車に揺られて、蒼柳は利里の看護助手の見学に向けての話をしていた。今日の患者さんのコンディションは普段よりは良いらしい。身体が寝たきりで声を発することも筆談もままならないので”文字盤”というもので会話をするようだ。
話を聞く限り蒼柳は期待されている気がして……自分とは別世界の人間だななんて思う。
(やっぱりこいつは俺と違う世界の人間なんだな~。なんで俺によくしてくれるんだろう?)
とか思いながら話を聞き終えて電車を降りる。ちらりとスマホを見たが、メッセージは入っていなかった。
「あの、利里さん。興味があるんで、聞いていいっすか?」
「ん~? どうしたの急に」
「いや、あの……その、……よし!」
なぜか意気込む蒼柳に利里は首を傾げるが、彼はこんな問いかけをしたのだ。
「利里さんが求める恋人の条件ってなんすか?」
「……はい?」
なんだいきなり、というような利里に蒼柳は「えっと、あの……」とか言って、1つ咳払いをした。
「まぁ、お世話になっている人がどういう人が恋人にしたいというのは、モテ男の俺して、気になるんすよ!」
「おい、さらっと自慢したな」
「そういうわけで、どうなんですか! まさか本当にロリ女児が良いなんて――」
「違いますからね、本当に!」
またさらりと侮辱というか、いじりが入ったので利里は軽くあしらいつつ、少し考える。……利里は気づいていないようだが、蒼柳は真剣な瞳で彼の歩調に合わせた。
(恋人の条件……条件、か。というか、なんで急に?)
――無駄に意識するからやめて欲しいのだけれど。
でも答えなければ答えないで、自分は『ロリ女児が好き』という誤解に繋がるのは明白なので、利里は顎を上に向けたかと思えば……好みというよりは自分の望んでいることを告げるのだ。
「俺を裏切らないで、俺だけを見てくれていればそれでいい……かな」
「え、優しいとか、かわいいとかじゃなく? ていうか、好みじゃないし」
だがそれでも利里は自分の思いを綴っていく。
「だって、たとえ優しくてもさ。自分だけの一方通行の片思いはしんどいから。かわいくても裏切るのなら俺は嫌。それだったら、俺のことをちゃんと見てくれる人だったら、なにも望まないよ」
「……そうっすか」
「あは、なんかごめん。重い話して」
途端、急に黙り込んでしまう蒼柳に利里は「なんでいきなり好みのタイプを聞いたの?」と尋ねるものの、少し黙って……笑いかけたのだ。
「じゃあ、男でも関係ないっすよね? 慎さんって人の、片想いしていたみたいだし!」
「いや、待て! 急にどうしたんだよ? なんかお前変だし――」
「そっか~、なら余計に安心した! 利里さん、あざ~す!」
「……もう、わけが分からん」
しかし蒼柳は楽しげな様子で突然、利里の手に触れてから繋いだのだ。ぎょっとする利里ではあったが、蒼柳はまた笑ってから射抜くような視線を送る。
――急に触れられた衝撃と、伝わる体温に利里は勘違いそうになるが……勘違いは当たりそうだ。
「だって、……俺は利里さんの傍で支えたいから」
「えっ、なに急に?」
(……どうしたんだ?)
動揺が隠せない利里に、蒼柳は普段とは打って変わり……今度は声に静寂を保たせた。……低めの心地よい声は無駄に利里に焦燥感と興奮を与えた。
「俺、利里さんが好きっす。だから、彼女と縁を切りました」
利里は一瞬どころか大きな黒目を見開いたかと思えば、口を開閉することしかできなかった。それぐらい驚愕した事実であったのもあるが、まさか自分のような奴が好きだなんて信じられない。思えないのだ。
だから口が勝手に開く。
「……でも、別れて1週間ぐらいしか経っていないし。それに俺なんて――」
「それは分かっています。だから保険を掛けない、裏切らない交際がしたいんす」
「それは……あの」
そして蒼柳は利里の手を握ったまま唇に近づけ、リップ音を奏でさせた。軽い音なのに利里の心臓がバクバクしてしまう。……でも、嫌ではなかった。ただ、よくわからない感情に浸ってしまう。動揺と期待が合わさったような、そんな気持ちを抱いて。
「俺は利里さんを裏切らない。だから」
――付き合ってください。
熱を帯びた言葉と手の甲がひどく火傷したようになって……自分の顔が熱くなる。
人に好かれる喜びがこんなにも心に伝わって、熱を帯びて余韻に浸れる欲を……利里は知ってしまったのだ。
話を聞く限り蒼柳は期待されている気がして……自分とは別世界の人間だななんて思う。
(やっぱりこいつは俺と違う世界の人間なんだな~。なんで俺によくしてくれるんだろう?)
とか思いながら話を聞き終えて電車を降りる。ちらりとスマホを見たが、メッセージは入っていなかった。
「あの、利里さん。興味があるんで、聞いていいっすか?」
「ん~? どうしたの急に」
「いや、あの……その、……よし!」
なぜか意気込む蒼柳に利里は首を傾げるが、彼はこんな問いかけをしたのだ。
「利里さんが求める恋人の条件ってなんすか?」
「……はい?」
なんだいきなり、というような利里に蒼柳は「えっと、あの……」とか言って、1つ咳払いをした。
「まぁ、お世話になっている人がどういう人が恋人にしたいというのは、モテ男の俺して、気になるんすよ!」
「おい、さらっと自慢したな」
「そういうわけで、どうなんですか! まさか本当にロリ女児が良いなんて――」
「違いますからね、本当に!」
またさらりと侮辱というか、いじりが入ったので利里は軽くあしらいつつ、少し考える。……利里は気づいていないようだが、蒼柳は真剣な瞳で彼の歩調に合わせた。
(恋人の条件……条件、か。というか、なんで急に?)
――無駄に意識するからやめて欲しいのだけれど。
でも答えなければ答えないで、自分は『ロリ女児が好き』という誤解に繋がるのは明白なので、利里は顎を上に向けたかと思えば……好みというよりは自分の望んでいることを告げるのだ。
「俺を裏切らないで、俺だけを見てくれていればそれでいい……かな」
「え、優しいとか、かわいいとかじゃなく? ていうか、好みじゃないし」
だがそれでも利里は自分の思いを綴っていく。
「だって、たとえ優しくてもさ。自分だけの一方通行の片思いはしんどいから。かわいくても裏切るのなら俺は嫌。それだったら、俺のことをちゃんと見てくれる人だったら、なにも望まないよ」
「……そうっすか」
「あは、なんかごめん。重い話して」
途端、急に黙り込んでしまう蒼柳に利里は「なんでいきなり好みのタイプを聞いたの?」と尋ねるものの、少し黙って……笑いかけたのだ。
「じゃあ、男でも関係ないっすよね? 慎さんって人の、片想いしていたみたいだし!」
「いや、待て! 急にどうしたんだよ? なんかお前変だし――」
「そっか~、なら余計に安心した! 利里さん、あざ~す!」
「……もう、わけが分からん」
しかし蒼柳は楽しげな様子で突然、利里の手に触れてから繋いだのだ。ぎょっとする利里ではあったが、蒼柳はまた笑ってから射抜くような視線を送る。
――急に触れられた衝撃と、伝わる体温に利里は勘違いそうになるが……勘違いは当たりそうだ。
「だって、……俺は利里さんの傍で支えたいから」
「えっ、なに急に?」
(……どうしたんだ?)
動揺が隠せない利里に、蒼柳は普段とは打って変わり……今度は声に静寂を保たせた。……低めの心地よい声は無駄に利里に焦燥感と興奮を与えた。
「俺、利里さんが好きっす。だから、彼女と縁を切りました」
利里は一瞬どころか大きな黒目を見開いたかと思えば、口を開閉することしかできなかった。それぐらい驚愕した事実であったのもあるが、まさか自分のような奴が好きだなんて信じられない。思えないのだ。
だから口が勝手に開く。
「……でも、別れて1週間ぐらいしか経っていないし。それに俺なんて――」
「それは分かっています。だから保険を掛けない、裏切らない交際がしたいんす」
「それは……あの」
そして蒼柳は利里の手を握ったまま唇に近づけ、リップ音を奏でさせた。軽い音なのに利里の心臓がバクバクしてしまう。……でも、嫌ではなかった。ただ、よくわからない感情に浸ってしまう。動揺と期待が合わさったような、そんな気持ちを抱いて。
「俺は利里さんを裏切らない。だから」
――付き合ってください。
熱を帯びた言葉と手の甲がひどく火傷したようになって……自分の顔が熱くなる。
人に好かれる喜びがこんなにも心に伝わって、熱を帯びて余韻に浸れる欲を……利里は知ってしまったのだ。
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