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第22話 《恋情》か分からない
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……乾さんの手、柔らかくて温かくて、すべすべしていた。
「ただいま~」
家に着くなり、俺は母さんの声に反応をしないで部屋に入ってしまった。なんというか、今は1人になりたかった。このよく分からない気持ちを、どうにか自分で片付けたかった。
兄は今日も帰りが遅いらしい。仕事か恋人とのデートかどちらかであろう。
――俺の兄は、休みが固定ではないのだ。不規則なのである。
だが、同性が好きで腐男子の兄の力を借りるべき日も近いのかなとか思う自分も居た。なんとなくだが。
「ふぅ……。俺にとっての乾さんって、」
――なんなんだよ?
俺は息を盛大に吐き出して、ベッドに寝転んでしまう。普段なら風呂入ってからしかしない行為だ。だが、今はこの渦巻いたよく分からない気持ちを……乾さんに対して抱く違和感を解き明かしたかった。
布団の中に入り、うずくまり俺は悶々として考えようとする。いつもは束縛系に彼女に連絡をしないと彼女から説教を受けるのだが、そんなことなどどうでもいい。
「乾さんと出会って少ししか経っていないし、ろくなことしていないのに、」
――なんだよ、これ?
乾さんと話すと自分をさらけ出せることができた。偽りの自分から抜け出せた。たまに見せる心底笑っている顔と、白くて儚げでふわふわしたカラダ……。
(カラダ……?)
その言葉に俺はふとしたシーンを思い出す。それはホモの兄が読んでいた漫画を興味本位で読んだときだ。
数ページをめくりながら、いわゆる”濡れ場”のシーンで「うげぇ……」となって閉ざしたのだが、あまりにも衝撃的過ぎて頭に残っているのだ。
――小柄な黒髪少年が大男に正上位で巨大なブツを挿入されて、
「ちがう、ちがう!! お、俺は、乾さんを……そんな目で見ているわけでは!!!」
しかし想像をして顔を火照らせる自分も居た。どうしてこんな気持ちになったのかが分からない。
だが良かったことに、俺の叫びは母さんには気づかれなかった。恐らくは布団に包まっていたから声がくぐもっていて聞こえづらかったのだろう。
しかし俺の頭はわけが分からぬまま。――こんな気持ちで接しても良いのかさえ
分からない。
(やっぱり、今日の実技練がいけないんだ!)
――でも、またやりたいな。乾さんとちゃんと触れ合える機会だし……。
乾さんを動物のような扱いをしているように聞こえるだろうが、そんなかわいらしい気持ちだったらこんな思いなどしない。
「俺は、いったい……乾さんのことを、本気で思っているのか?」
自問自答をする前に、俺はホモである兄の存在を呪った……のと同時に、兄に嫉妬をする気持ちが増長する。
兄は同性であっても堂々と付き合える強さがあるから。
なんとなくスマホを見る。彼女からの連投メッセージを押しのけ、俺は乾さんのアイコンを押して拡大させた。
熱弁をしていた”リンツ”という、絹のように細い長い金髪で、青く輝く瞳で小柄な少女のアイコンを見て、俺はため息を吐いてしまう。分かってはいるのだが……。
「アニメ好きな人とはいえ普通は女の子が好き……だよな~」
なんだが悲しくなってスマホを閉じようとすれば、メッセージが入った。――自分が今、てんやわんやになっている張本人からだ。
俺はなぜだが興奮と不安の入り交ざった感情でスマホをタップした。
『蒼柳~、今日はマジでありがとう~。助かったよ~!』
『蒼柳にもキツイこと言ってごめんね。嫌だったら、ちゃんと言うんだぞ~』
『じゃあまた学校で! お疲れ~』
――トクンッ……。
沁みるような優しさに俺はどうしてだが胸が熱くなり、心臓を抑える。必死で抑えて、抑え込んで……この気持ちに決着をつけたかったが、様子見だと自負した。
そして尊敬はしているが嫌いな兄へ、久しぶりにメッセージを送るのだ。
『よく分からない気持ちになった。なんとかしろ、クズ』
「まお~、ごはんできたから~!」
「はーい」
俺はスマホの充電をして、乾さんと兄の返答を密かに待機するのであった。
「ただいま~」
家に着くなり、俺は母さんの声に反応をしないで部屋に入ってしまった。なんというか、今は1人になりたかった。このよく分からない気持ちを、どうにか自分で片付けたかった。
兄は今日も帰りが遅いらしい。仕事か恋人とのデートかどちらかであろう。
――俺の兄は、休みが固定ではないのだ。不規則なのである。
だが、同性が好きで腐男子の兄の力を借りるべき日も近いのかなとか思う自分も居た。なんとなくだが。
「ふぅ……。俺にとっての乾さんって、」
――なんなんだよ?
俺は息を盛大に吐き出して、ベッドに寝転んでしまう。普段なら風呂入ってからしかしない行為だ。だが、今はこの渦巻いたよく分からない気持ちを……乾さんに対して抱く違和感を解き明かしたかった。
布団の中に入り、うずくまり俺は悶々として考えようとする。いつもは束縛系に彼女に連絡をしないと彼女から説教を受けるのだが、そんなことなどどうでもいい。
「乾さんと出会って少ししか経っていないし、ろくなことしていないのに、」
――なんだよ、これ?
乾さんと話すと自分をさらけ出せることができた。偽りの自分から抜け出せた。たまに見せる心底笑っている顔と、白くて儚げでふわふわしたカラダ……。
(カラダ……?)
その言葉に俺はふとしたシーンを思い出す。それはホモの兄が読んでいた漫画を興味本位で読んだときだ。
数ページをめくりながら、いわゆる”濡れ場”のシーンで「うげぇ……」となって閉ざしたのだが、あまりにも衝撃的過ぎて頭に残っているのだ。
――小柄な黒髪少年が大男に正上位で巨大なブツを挿入されて、
「ちがう、ちがう!! お、俺は、乾さんを……そんな目で見ているわけでは!!!」
しかし想像をして顔を火照らせる自分も居た。どうしてこんな気持ちになったのかが分からない。
だが良かったことに、俺の叫びは母さんには気づかれなかった。恐らくは布団に包まっていたから声がくぐもっていて聞こえづらかったのだろう。
しかし俺の頭はわけが分からぬまま。――こんな気持ちで接しても良いのかさえ
分からない。
(やっぱり、今日の実技練がいけないんだ!)
――でも、またやりたいな。乾さんとちゃんと触れ合える機会だし……。
乾さんを動物のような扱いをしているように聞こえるだろうが、そんなかわいらしい気持ちだったらこんな思いなどしない。
「俺は、いったい……乾さんのことを、本気で思っているのか?」
自問自答をする前に、俺はホモである兄の存在を呪った……のと同時に、兄に嫉妬をする気持ちが増長する。
兄は同性であっても堂々と付き合える強さがあるから。
なんとなくスマホを見る。彼女からの連投メッセージを押しのけ、俺は乾さんのアイコンを押して拡大させた。
熱弁をしていた”リンツ”という、絹のように細い長い金髪で、青く輝く瞳で小柄な少女のアイコンを見て、俺はため息を吐いてしまう。分かってはいるのだが……。
「アニメ好きな人とはいえ普通は女の子が好き……だよな~」
なんだが悲しくなってスマホを閉じようとすれば、メッセージが入った。――自分が今、てんやわんやになっている張本人からだ。
俺はなぜだが興奮と不安の入り交ざった感情でスマホをタップした。
『蒼柳~、今日はマジでありがとう~。助かったよ~!』
『蒼柳にもキツイこと言ってごめんね。嫌だったら、ちゃんと言うんだぞ~』
『じゃあまた学校で! お疲れ~』
――トクンッ……。
沁みるような優しさに俺はどうしてだが胸が熱くなり、心臓を抑える。必死で抑えて、抑え込んで……この気持ちに決着をつけたかったが、様子見だと自負した。
そして尊敬はしているが嫌いな兄へ、久しぶりにメッセージを送るのだ。
『よく分からない気持ちになった。なんとかしろ、クズ』
「まお~、ごはんできたから~!」
「はーい」
俺はスマホの充電をして、乾さんと兄の返答を密かに待機するのであった。
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