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第21話 《素直な》意見
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ケラケラと大笑いをする蒼柳の表情に利里は胸を高鳴らせるが、自分のなかで疑問符を持った。
(なんだ、さっきの? こいつの顔がイケメンだから、ドキッとしたのかな?)
「ははっ! あははっ……はぁ~、あ、すんませんでした。俺、なに笑っているんだろう。……すいません」
一応の謝罪をする蒼柳ではあったので、利里は軽く息を吐いては思う。
(どうせ美男な蒼柳の顔を見て、男なりに良いな~なんて思っちゃったんだ。気にしないっと!)
「やっぱり、怒っています?」
「怒っていないよ。ふと余計なこと思っただけ」
「なんすか、余計なことって?」
「そんなことより早く実技練終わらせるぞ~! ほら、今日は《清拭》の練習するからな」
「……は~い」
今度は蒼柳が疑念を抱いているが、利里は誤魔化して実技練に励む準備をした。
実技練をするクラスメートたちが練習をする1室にて。利里と蒼柳も実技練の準備をする。
大小のピッチャーにはそれぞれ温水と水を用意して、利里が持ってきていたタオル類やら使用して《清拭》を行うことにした。
カーテンレールで仕切りを張り、初めは蒼柳がするとのことで利里が上着だけボタン付きのパジャマに着替えていく。
「あの、乾さん。さっきの、余計なことってなんすか?」
「え、なに急に?」
パジャマに着替え終わり、ベッドに寝転ぶ利里へ蒼柳は少し不安げな顔をしてちょうどいい湯温を作っていく。42度くらいのお湯にした。
「だって気になるじゃないっすか。俺、すげぇ不謹慎に笑っちゃったし、そこまでちゃんと謝らなかったし……」
「なにを今さら」
「だからあの、すみません……でした」
寝っ転がる利里の上にバスタオルを敷いてなるべく肌の露出を防ぐ。これは看護行為の一環で患者のプライバシーや個人の尊重に関わるからだ。
普段よりも意気消沈している蒼柳に利里は軽く笑ってから正直に言った。
「なんか勘違いしているらしいけど、俺は怒ってないよ。ちょっと、蒼柳の笑った顔が、まぁ、羨ましかったというか、なんていうか……」
「それは、どういう意味で?」
バスタオルの下からボタンを外し、握手をするように手を握る。――利里の手は男の割に柔らかかった。
「ちょっと、かっこいいなというか、かわいかった、というか……」
「……そうっすか」
「まぁ、その前に永礼さんの件もあるから、あの子には謝らないとな~。どうせ、お前にとっては、”かっこいい”なんていつも言われていそうだけどさ。男の俺でもかっこいいな~って思ったよ」
(ちょっと気持ち悪かったかな? まぁ、俺なりの意見だし)
すると握っていた手が強くなった。どうして強くなったのかが分からない利里は声を掛ける前に、蒼柳は片腕をするりと脱がせる。
――真っ白で白すぎる肌がさらけ出されたかと思えば、蒼柳はまだ手を握っていたのだ。
「俺、嬉しいっすよ。……乾さんに言われたの、嬉しかった」
――――ドキッ……!
また心臓が掴まれたような既視感に襲われて、利里は言葉にしようか迷う。
(な、なんでまた? 俺は、今まで慎さんに片想いをしていて、今はアニメのリンツちゃんに片想いしているかわいそうな奴だし! 蒼柳は友達みたいな存在で……)
「だから、あの、俺は本当に嬉しかったっすから」
「あぁ、うん……」
流れる動作で手を離され、タオルをお湯に浸して、利里の腕を拭く。だがしかし……。
「冷たい」
「え?」
率直な意見を述べる利里に蒼柳が硬直すれば、彼は指摘をしてきたのだ。
「お湯が冷めすぎているし、拭く前にタオルを自分の腕とかで温度を確認すべきだし、今回は練習とはいえ使い捨ての手袋は使うべきだよ。お前、脱がすのすごい上手なんだから、もったいないよ」
「……それ、貶しているのか、褒めているのか分からないんすけど?」
「優秀な看護学生は、留年していて落ちこぼれの奴には言われたくないってか?」
にやりと悪戯に笑えば、蒼柳は怒りを超えて呆れる。だが彼も負けてなどいない。
「じゃあ乾さんがやってくださいよ! 俺に文句を言うのなら!」
「俺、拭き方は何度も復習をしているから分かるけど、湯温とかは自信ないぞ。脱がせ方も下手だろうし」
「じゃあ言わないでくださいよ~」
「正直な意見を言っただけだよ。……じゃあ、一緒にちょうどいい湯温とか、拭き方とかやってみるか~」
そして2人は四苦八苦しながらも、《清拭》の実技練を終え、備品を片付けてカギを事務室へと戻して一緒に帰るのであった。
(なんだ、さっきの? こいつの顔がイケメンだから、ドキッとしたのかな?)
「ははっ! あははっ……はぁ~、あ、すんませんでした。俺、なに笑っているんだろう。……すいません」
一応の謝罪をする蒼柳ではあったので、利里は軽く息を吐いては思う。
(どうせ美男な蒼柳の顔を見て、男なりに良いな~なんて思っちゃったんだ。気にしないっと!)
「やっぱり、怒っています?」
「怒っていないよ。ふと余計なこと思っただけ」
「なんすか、余計なことって?」
「そんなことより早く実技練終わらせるぞ~! ほら、今日は《清拭》の練習するからな」
「……は~い」
今度は蒼柳が疑念を抱いているが、利里は誤魔化して実技練に励む準備をした。
実技練をするクラスメートたちが練習をする1室にて。利里と蒼柳も実技練の準備をする。
大小のピッチャーにはそれぞれ温水と水を用意して、利里が持ってきていたタオル類やら使用して《清拭》を行うことにした。
カーテンレールで仕切りを張り、初めは蒼柳がするとのことで利里が上着だけボタン付きのパジャマに着替えていく。
「あの、乾さん。さっきの、余計なことってなんすか?」
「え、なに急に?」
パジャマに着替え終わり、ベッドに寝転ぶ利里へ蒼柳は少し不安げな顔をしてちょうどいい湯温を作っていく。42度くらいのお湯にした。
「だって気になるじゃないっすか。俺、すげぇ不謹慎に笑っちゃったし、そこまでちゃんと謝らなかったし……」
「なにを今さら」
「だからあの、すみません……でした」
寝っ転がる利里の上にバスタオルを敷いてなるべく肌の露出を防ぐ。これは看護行為の一環で患者のプライバシーや個人の尊重に関わるからだ。
普段よりも意気消沈している蒼柳に利里は軽く笑ってから正直に言った。
「なんか勘違いしているらしいけど、俺は怒ってないよ。ちょっと、蒼柳の笑った顔が、まぁ、羨ましかったというか、なんていうか……」
「それは、どういう意味で?」
バスタオルの下からボタンを外し、握手をするように手を握る。――利里の手は男の割に柔らかかった。
「ちょっと、かっこいいなというか、かわいかった、というか……」
「……そうっすか」
「まぁ、その前に永礼さんの件もあるから、あの子には謝らないとな~。どうせ、お前にとっては、”かっこいい”なんていつも言われていそうだけどさ。男の俺でもかっこいいな~って思ったよ」
(ちょっと気持ち悪かったかな? まぁ、俺なりの意見だし)
すると握っていた手が強くなった。どうして強くなったのかが分からない利里は声を掛ける前に、蒼柳は片腕をするりと脱がせる。
――真っ白で白すぎる肌がさらけ出されたかと思えば、蒼柳はまだ手を握っていたのだ。
「俺、嬉しいっすよ。……乾さんに言われたの、嬉しかった」
――――ドキッ……!
また心臓が掴まれたような既視感に襲われて、利里は言葉にしようか迷う。
(な、なんでまた? 俺は、今まで慎さんに片想いをしていて、今はアニメのリンツちゃんに片想いしているかわいそうな奴だし! 蒼柳は友達みたいな存在で……)
「だから、あの、俺は本当に嬉しかったっすから」
「あぁ、うん……」
流れる動作で手を離され、タオルをお湯に浸して、利里の腕を拭く。だがしかし……。
「冷たい」
「え?」
率直な意見を述べる利里に蒼柳が硬直すれば、彼は指摘をしてきたのだ。
「お湯が冷めすぎているし、拭く前にタオルを自分の腕とかで温度を確認すべきだし、今回は練習とはいえ使い捨ての手袋は使うべきだよ。お前、脱がすのすごい上手なんだから、もったいないよ」
「……それ、貶しているのか、褒めているのか分からないんすけど?」
「優秀な看護学生は、留年していて落ちこぼれの奴には言われたくないってか?」
にやりと悪戯に笑えば、蒼柳は怒りを超えて呆れる。だが彼も負けてなどいない。
「じゃあ乾さんがやってくださいよ! 俺に文句を言うのなら!」
「俺、拭き方は何度も復習をしているから分かるけど、湯温とかは自信ないぞ。脱がせ方も下手だろうし」
「じゃあ言わないでくださいよ~」
「正直な意見を言っただけだよ。……じゃあ、一緒にちょうどいい湯温とか、拭き方とかやってみるか~」
そして2人は四苦八苦しながらも、《清拭》の実技練を終え、備品を片付けてカギを事務室へと戻して一緒に帰るのであった。
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