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19話 《嘘》の笑み
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更衣室へと向かう利里と蒼柳はなぜか話さないでいた。利里があまり話したがっていないのもあるが、他にもある。
(乾さん、なんか傷ついたような顔していた。なんでこんなにも)
――心が痛いのだろう?
蒼柳は自身の胸に手を置いた。
本当は返却されたテストの自慢をしたかった。バイトや束縛彼女とのデートなどで忙しかったが、どのテストも90点台は取れていたので褒めて欲しかったのだ。
ほかの女子からは「蒼柳くんすご~い!」なんて褒めてきてはテスト明けの打ち上げでもしようとも誘われたが、丁重に断った。
そんなことよりも利里と実技練をして、一緒に進級して、勉強などをして……早く親友になりたいという気持ちの方が強いのだ。どうしてそんな気持ちになっているのかが自分にも分からない。
なのに……。
「あの、乾さん」
「ん~、なに~?」
更衣室へと入り、蒼柳と利里は服を脱いでいく。蒼柳はジーンズを脱いで黒ズボンに履き替えて上を脱いでナース服へ素早く着替える。
だが利里の方はパーカーを脱いでから下のダボついたズボンをゆっくりと脱いで、洗い立てのナース服に腕を通そう……とする最中であった。
蝋燭のように白い儚げな肌とふわふわしていそうなカラダつきに、蒼柳はふと思ってしまった。
(かわいいフォルムしているな……)
なんとなくじっと見つめていると、利里は「ふん!」と先ほどよりも手早く着替えていくのだ。
「どうせ俺の身体見て、だらしない身体しているなって思ったんでしょ」
「えっ、それは違うし!」
「いいよ、知っているし。分かっているし」
「だから違いますって~! ちょっとかわいい身体しているな~って思ったんすよ~」
「……はい?」
「どういうこと?」というような分かるほどの疑問を抱いている様子の利里に、蒼柳は自分の言葉に羞恥を抱いた。
(な、なに言っているんだ! そんなキモいこと言って――)
だから慌てて別の話題に逸らそうとする蒼柳だが、利里は違った反応を見せる。
「ふふっ! あははっ!」
「え、乾さん?」
すると利里は肩を震わせて笑いながらナース服に着替えた。水色の衣装に包まれた小柄な彼は、少し顔を赤らめて呟く。
「お前が不意な言葉を言っちゃったって言うのが伝わってさ、お前の方がかわいいよ」
「はい?」
すると今度は蒼柳が疑念を抱いて首を傾げて見せれば、また肩を揺すって軽やかに笑うのだ。その軽やかに笑う姿に、蒼柳は鋭い瞳を大きくさせたのだ。
「ふふっ! 今日は特に気を遣わせてごめんね。俺、正直に思っちゃうし、言っちゃう癖があるからさ。親友だって勝手に思っている人が、俺を必要としてくれないな~なんて思って、……ちょっと悲しかったんだ」
「それが、その、慎さんって方ですか?」
「うん。俺の親友で、その……まぁ、憧れっていうか、なんていうか」
(好きな人って言いたいけど、そしたら蒼柳に引かれるよな。せっかく仲良くなれたのに)
利里は目を伏せて更衣室からロッカーへと向かい、《清拭》に使うものを取り出していた際、蒼柳はふと言い出したのだ。
「……憧れている人が友達に取られるだけで、乾さんは傷ついたような顔をするんすか?」
「えっと、それは……」
不意に言葉を突かれ、利里は顔を強張らせた。――それを彼は見逃さない。
「乾さんは正直なんすよね? だったら、憧れている人がただの友達と昼食べただけで、あんな悲しい顔をするんすか? それって、それだけその人のことを本当に思っているからじゃないんすか?」
まっすぐな言葉と黒い瞳に見つめられて、利里の胸が苦しくなる。その通りだからだ。ただの親友で、憧れているだけの人を取られただけでこんなにも切なくて、嫌な思いを抱くのは不自然なのは――自分でも分かっていた。
だがそれでも。自分のような奴が、蒼柳のようなキラキラしていて、コミュニケーション能力も高くて、完璧人間な人間と少しでも仲良くしたい、そんな卑屈な欲があった。
「ははっ、蒼柳は完璧だけど、そこは違うよ~。慎さんは俺の大事な親友だから、重い気持ちを自分のなかで消化できなくて、顔に出ただけだから」
「そうっすか……」
「ほら、早くやろう。よ~し、頑張って18時過ぎには帰るぞ~!」
薄っぺらな笑みを浮かべて実習室へと向かう小柄な利里に、蒼柳は少し不満そうな顔をした。本音を言わない利里へ隠れて不服そうな表情を陰でしたのだ。
(乾さん、なんか傷ついたような顔していた。なんでこんなにも)
――心が痛いのだろう?
蒼柳は自身の胸に手を置いた。
本当は返却されたテストの自慢をしたかった。バイトや束縛彼女とのデートなどで忙しかったが、どのテストも90点台は取れていたので褒めて欲しかったのだ。
ほかの女子からは「蒼柳くんすご~い!」なんて褒めてきてはテスト明けの打ち上げでもしようとも誘われたが、丁重に断った。
そんなことよりも利里と実技練をして、一緒に進級して、勉強などをして……早く親友になりたいという気持ちの方が強いのだ。どうしてそんな気持ちになっているのかが自分にも分からない。
なのに……。
「あの、乾さん」
「ん~、なに~?」
更衣室へと入り、蒼柳と利里は服を脱いでいく。蒼柳はジーンズを脱いで黒ズボンに履き替えて上を脱いでナース服へ素早く着替える。
だが利里の方はパーカーを脱いでから下のダボついたズボンをゆっくりと脱いで、洗い立てのナース服に腕を通そう……とする最中であった。
蝋燭のように白い儚げな肌とふわふわしていそうなカラダつきに、蒼柳はふと思ってしまった。
(かわいいフォルムしているな……)
なんとなくじっと見つめていると、利里は「ふん!」と先ほどよりも手早く着替えていくのだ。
「どうせ俺の身体見て、だらしない身体しているなって思ったんでしょ」
「えっ、それは違うし!」
「いいよ、知っているし。分かっているし」
「だから違いますって~! ちょっとかわいい身体しているな~って思ったんすよ~」
「……はい?」
「どういうこと?」というような分かるほどの疑問を抱いている様子の利里に、蒼柳は自分の言葉に羞恥を抱いた。
(な、なに言っているんだ! そんなキモいこと言って――)
だから慌てて別の話題に逸らそうとする蒼柳だが、利里は違った反応を見せる。
「ふふっ! あははっ!」
「え、乾さん?」
すると利里は肩を震わせて笑いながらナース服に着替えた。水色の衣装に包まれた小柄な彼は、少し顔を赤らめて呟く。
「お前が不意な言葉を言っちゃったって言うのが伝わってさ、お前の方がかわいいよ」
「はい?」
すると今度は蒼柳が疑念を抱いて首を傾げて見せれば、また肩を揺すって軽やかに笑うのだ。その軽やかに笑う姿に、蒼柳は鋭い瞳を大きくさせたのだ。
「ふふっ! 今日は特に気を遣わせてごめんね。俺、正直に思っちゃうし、言っちゃう癖があるからさ。親友だって勝手に思っている人が、俺を必要としてくれないな~なんて思って、……ちょっと悲しかったんだ」
「それが、その、慎さんって方ですか?」
「うん。俺の親友で、その……まぁ、憧れっていうか、なんていうか」
(好きな人って言いたいけど、そしたら蒼柳に引かれるよな。せっかく仲良くなれたのに)
利里は目を伏せて更衣室からロッカーへと向かい、《清拭》に使うものを取り出していた際、蒼柳はふと言い出したのだ。
「……憧れている人が友達に取られるだけで、乾さんは傷ついたような顔をするんすか?」
「えっと、それは……」
不意に言葉を突かれ、利里は顔を強張らせた。――それを彼は見逃さない。
「乾さんは正直なんすよね? だったら、憧れている人がただの友達と昼食べただけで、あんな悲しい顔をするんすか? それって、それだけその人のことを本当に思っているからじゃないんすか?」
まっすぐな言葉と黒い瞳に見つめられて、利里の胸が苦しくなる。その通りだからだ。ただの親友で、憧れているだけの人を取られただけでこんなにも切なくて、嫌な思いを抱くのは不自然なのは――自分でも分かっていた。
だがそれでも。自分のような奴が、蒼柳のようなキラキラしていて、コミュニケーション能力も高くて、完璧人間な人間と少しでも仲良くしたい、そんな卑屈な欲があった。
「ははっ、蒼柳は完璧だけど、そこは違うよ~。慎さんは俺の大事な親友だから、重い気持ちを自分のなかで消化できなくて、顔に出ただけだから」
「そうっすか……」
「ほら、早くやろう。よ~し、頑張って18時過ぎには帰るぞ~!」
薄っぺらな笑みを浮かべて実習室へと向かう小柄な利里に、蒼柳は少し不満そうな顔をした。本音を言わない利里へ隠れて不服そうな表情を陰でしたのだ。
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