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第17話 《恋煩い》
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にこにこしながらメッセージを読んでいる乾さんに、俺はなんだか違和感を覚えた。どうしてだがそれは分からない。ただなんとなく、白い小鳥が自分以外で幸せそうな表情を見て、なんとなく苛立ちを感じたのだ。
(なんだ、この気持ち。……さっきも感じたけど、なんか)
――変だ。
ふと思いながら微笑んでいる利里の姿を見て、また茶化そうとしたとき……今度は切なげな表情を見せたのだ。
「あ、そっか。慎さん、今日は居たけど」
――友達と食べているんだ。
すると乾さんは切なげな表情を見せて薄っぺらな笑みをしていた。
(慎さん? それに、その人がどうして友達と食べているだけで、そんなに悲しそうなんだ?)
疑問に抱きながら声を掛けようとする蒼柳に、利里は構わずに文面を読んでいく。もちろん心の中でだ。
『今日は友達と食べていたんだ~』
『しかも彼女の話もできてさ~、話が盛り上がったよ~』
『りっくんも、がんば!』
(やっぱり、俺は1番になれない。ただの友達にも、……負けるんだ。当たり前だけど彼女にも負けるんだ。こんなにも慎さんのことを――思っているのに)
自分の顔が硬直していく。こんなにも自分自身が重たい存在だとは思いも依らなかった。
正直すぎるし勉強もできないし、実技練さえもままならない自分に優しくしてくれた。笑いかけてくれた。たまに掛ける縁眼鏡の顔を見るだけで……胸が高鳴った。
……彼が笑うだけで、優しくされるだけで自分という存在が確立されて嬉しかった。”親友”だなんて勝手に思っているだけだが、それでも嬉しかった。
利里のなかで”慎助”という存在はかけがえのない、大切なヒトであったのだ。
「ははっ、あはっ、あはっ……」
「乾、さん?」
乾いた笑い方をする利里に蒼柳は少々心配になる。授業が始まるまであともう少し、という時間でか細く、切なく笑う小鳥に、利里が心配でならない。「あの、なにかあったんすか?」
尋ねてみると、利里は薄っぺらな笑みを見せて「あのさ……」と最後に声を掛けたのだ。
「今日、時間があったさ、実技練に付き合ってくれないかな? 俺、友達いないし。もちろん嫌だったら構わないよ。ごめんね。俺もそろそろ、友達見つけなきゃね。本当に断っても構わないから」
どうしてか普段の調子ではない利里に今度は蒼柳が不審に思った。だがあえて言葉には出さない。
「いや、大丈夫っすよ。……じゃあ、また放課後に来ますから」
「うん。ありがとう」
丁寧だが、ひねくれた様子の利里に、蒼柳は少し戸惑いつつも承諾をして立ち去ろうとする。すると彼はひどく冷めたように視線を落としてスマホに視線を向けていた。
(乾さん、なにかあったのかな? どうしてだか笑っていたし、でも)
――悲しそうな笑い方をしていた。誰かに裏切られたような、そんな笑い方をしていた。
蒼柳は利里が叶わぬ恋をしているのを知らない。知る由もない。だがこれだけは言える。
蒼柳自身は気づいてはいないが、利里に惹かれつつある。だがその気持ちが恋なのか”人間”としての好意なのか。
それさえも彼には分からない。
(なんだ、この気持ち。……さっきも感じたけど、なんか)
――変だ。
ふと思いながら微笑んでいる利里の姿を見て、また茶化そうとしたとき……今度は切なげな表情を見せたのだ。
「あ、そっか。慎さん、今日は居たけど」
――友達と食べているんだ。
すると乾さんは切なげな表情を見せて薄っぺらな笑みをしていた。
(慎さん? それに、その人がどうして友達と食べているだけで、そんなに悲しそうなんだ?)
疑問に抱きながら声を掛けようとする蒼柳に、利里は構わずに文面を読んでいく。もちろん心の中でだ。
『今日は友達と食べていたんだ~』
『しかも彼女の話もできてさ~、話が盛り上がったよ~』
『りっくんも、がんば!』
(やっぱり、俺は1番になれない。ただの友達にも、……負けるんだ。当たり前だけど彼女にも負けるんだ。こんなにも慎さんのことを――思っているのに)
自分の顔が硬直していく。こんなにも自分自身が重たい存在だとは思いも依らなかった。
正直すぎるし勉強もできないし、実技練さえもままならない自分に優しくしてくれた。笑いかけてくれた。たまに掛ける縁眼鏡の顔を見るだけで……胸が高鳴った。
……彼が笑うだけで、優しくされるだけで自分という存在が確立されて嬉しかった。”親友”だなんて勝手に思っているだけだが、それでも嬉しかった。
利里のなかで”慎助”という存在はかけがえのない、大切なヒトであったのだ。
「ははっ、あはっ、あはっ……」
「乾、さん?」
乾いた笑い方をする利里に蒼柳は少々心配になる。授業が始まるまであともう少し、という時間でか細く、切なく笑う小鳥に、利里が心配でならない。「あの、なにかあったんすか?」
尋ねてみると、利里は薄っぺらな笑みを見せて「あのさ……」と最後に声を掛けたのだ。
「今日、時間があったさ、実技練に付き合ってくれないかな? 俺、友達いないし。もちろん嫌だったら構わないよ。ごめんね。俺もそろそろ、友達見つけなきゃね。本当に断っても構わないから」
どうしてか普段の調子ではない利里に今度は蒼柳が不審に思った。だがあえて言葉には出さない。
「いや、大丈夫っすよ。……じゃあ、また放課後に来ますから」
「うん。ありがとう」
丁寧だが、ひねくれた様子の利里に、蒼柳は少し戸惑いつつも承諾をして立ち去ろうとする。すると彼はひどく冷めたように視線を落としてスマホに視線を向けていた。
(乾さん、なにかあったのかな? どうしてだか笑っていたし、でも)
――悲しそうな笑い方をしていた。誰かに裏切られたような、そんな笑い方をしていた。
蒼柳は利里が叶わぬ恋をしているのを知らない。知る由もない。だがこれだけは言える。
蒼柳自身は気づいてはいないが、利里に惹かれつつある。だがその気持ちが恋なのか”人間”としての好意なのか。
それさえも彼には分からない。
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