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第7話 気になる《人》
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あの人、真面目で優しい人だけど、
――なんだが、自虐的な人だった。
「蒼柳く~ん、実技練(実技練習)終わったし、一緒にかえろ~」
「私もかえりた~い! サイゼでごはん、食べにいこうよ~」
「蒼柳くんのおかげで過去問もゲットできたしね! まじでありがと!」
……また女子の連中が。俺には俺を束縛して優越に浸っている彼女が居るから、なるべく近づいて欲しくないし。しかも、利用しておいてなんだこれは?
「ねぇ~、黙っていないで行こうよ~?」
「ごめん。ベッドメーキングの実技練も疲れたし、バイトもあるから、またにしてくれない?」
バイトは今日、ないけど。ただ、特に香水臭い奴。こんな香水の匂いがキツイ女は苦手だ。というか、下品な感じがする。
――というか、看護で『体臭に関しては気を付けて、特に香水はやめてください』って習ったじゃん。覚えてないのか、バカ女。
その茶髪の馬鹿そうな女はわざとらしく肩を落とした。
「そっか~……。じゃあまたこんどね~」
「うん、じゃあまた」
—―キャー!!!
……うるさ。
見た目にしか興味のないバカな人たちを差し置いて、俺は逃げるように帰るのだ。
『ねぇ真緒、また女の子に絡まれなかった? 私、心配で夜も――』
連絡アプリでいつもの時間に、いつもの連絡を送った。だが少し遅れたからか。俺の束縛系彼女からとんでもない長文メッセージが届いて、一気に身体を重くさせる。
「うるせぇな~。顔は好みだけどさ~、束縛が激しすぎだろ。俺を絞殺させる気か~?」
(あ~、明日は校内実習。たしか《コミュニケーション》だったか? そういえば――)
「へぇ~、明日コミュニケーションの授業か~。懐かし~」
「あの、乾さんも実習に出たんすか?」
「さすがに出席するよ……。でも授業単位は履修済みだから、テストがね~。やばいな」
そう言って懐かしんでいる先輩は、俺の校内実習実習の計画表を読んで懐かしんでいた。やはり留年している先輩だから、看護学生の大変さは重く感じる。
「あっ、思い出した!」
すると乾さん大きな瞳を真剣さながらにしておいて、こんな話をした。
「校内実習の計画書、その通りにいかないって思った方が、あとで悩まずに済むと思う」
(どういう意味だ?)
「え、あ、わかりました」
でも俺はなぜだが聞けなかった。どうして聞かなかったのかは分からない。
――ただ、この人が”脅し”とか”マウント”目的で言ったからかな~と内心で思ったからなのかもしれない。
俺はこの人が、この留年した先輩に興味を示してみた。
「計画書はちゃんと書いたつもりだけど、あれじゃあだめなのか?」
電車を降りて徒歩で家路に着く。「ただいま~」と帰りの挨拶をすれば母親から返事があった。「ご飯できているから食べて!」とのこと。「お兄ちゃん、帰り遅くなるから~!」とも言っている。
俺には嫌いだが尊敬している兄が居て、おそらく今日は恋人と出かけているのだろう。……だが同性だ。俺の兄貴はホモなのだ。情けない話だが、前に漫画を借りに行ったら、キモイ男のきわどい表紙を堂々と読んで……しこたま抜いていた。めっちゃキモかった。
—―カチャリ。
自室へと入り、重すぎるリュックサックを床に置く。そして流れるようにベッドに寝転ぼう……とする前に、机に向かった。リュックサックから校内実習のプリントを取り出して、見つめてみるがなにが悪いのか分からない。
――あの人の意図が分からない。ただ、丸い大きな瞳とくせっ毛な黒髪で、男の割には小柄だなと感じた。話すとフランクで、後輩の自分にも物腰柔らかくて、利用しようと企てていたのに、嫌な顔もしなかった。……でも、気になった部分があった。
「あの人。乾先輩って」
――損している気がする。もっと自分に自信を持っても良いのに。
「真緒~! 早くごはん食べて~!」
「は~い!」
疑問の残ったプリントをリュックにしまい込み、俺はスマホで乾先輩に軽い連絡をした。『今日はありがとうございました! これからもよろしくおねがいします!』
――翌朝。打ち込んでから連絡があった。文面は相変わらずフランクで、丁寧だけれど……優しいヒト。
『寝落ちしてた~。ごめん! こちらこそ、よろしくね~』
それだけで良いのに、次の言葉も添えられていたその言葉で確信したのだ。
『校内実習ファイト! 応援しているから!』
……はは。この人って、
「ふふっ。変だけど、優しい人だな」
軋む身体を起こして、俺は朝食を摂りに行った。先輩のことをもっと知ってみたい。だって、こんなにも優しい人を嫌えるほど、俺はそこまで嫌な奴じゃないって思いたいから。
――なんだが、自虐的な人だった。
「蒼柳く~ん、実技練(実技練習)終わったし、一緒にかえろ~」
「私もかえりた~い! サイゼでごはん、食べにいこうよ~」
「蒼柳くんのおかげで過去問もゲットできたしね! まじでありがと!」
……また女子の連中が。俺には俺を束縛して優越に浸っている彼女が居るから、なるべく近づいて欲しくないし。しかも、利用しておいてなんだこれは?
「ねぇ~、黙っていないで行こうよ~?」
「ごめん。ベッドメーキングの実技練も疲れたし、バイトもあるから、またにしてくれない?」
バイトは今日、ないけど。ただ、特に香水臭い奴。こんな香水の匂いがキツイ女は苦手だ。というか、下品な感じがする。
――というか、看護で『体臭に関しては気を付けて、特に香水はやめてください』って習ったじゃん。覚えてないのか、バカ女。
その茶髪の馬鹿そうな女はわざとらしく肩を落とした。
「そっか~……。じゃあまたこんどね~」
「うん、じゃあまた」
—―キャー!!!
……うるさ。
見た目にしか興味のないバカな人たちを差し置いて、俺は逃げるように帰るのだ。
『ねぇ真緒、また女の子に絡まれなかった? 私、心配で夜も――』
連絡アプリでいつもの時間に、いつもの連絡を送った。だが少し遅れたからか。俺の束縛系彼女からとんでもない長文メッセージが届いて、一気に身体を重くさせる。
「うるせぇな~。顔は好みだけどさ~、束縛が激しすぎだろ。俺を絞殺させる気か~?」
(あ~、明日は校内実習。たしか《コミュニケーション》だったか? そういえば――)
「へぇ~、明日コミュニケーションの授業か~。懐かし~」
「あの、乾さんも実習に出たんすか?」
「さすがに出席するよ……。でも授業単位は履修済みだから、テストがね~。やばいな」
そう言って懐かしんでいる先輩は、俺の校内実習実習の計画表を読んで懐かしんでいた。やはり留年している先輩だから、看護学生の大変さは重く感じる。
「あっ、思い出した!」
すると乾さん大きな瞳を真剣さながらにしておいて、こんな話をした。
「校内実習の計画書、その通りにいかないって思った方が、あとで悩まずに済むと思う」
(どういう意味だ?)
「え、あ、わかりました」
でも俺はなぜだが聞けなかった。どうして聞かなかったのかは分からない。
――ただ、この人が”脅し”とか”マウント”目的で言ったからかな~と内心で思ったからなのかもしれない。
俺はこの人が、この留年した先輩に興味を示してみた。
「計画書はちゃんと書いたつもりだけど、あれじゃあだめなのか?」
電車を降りて徒歩で家路に着く。「ただいま~」と帰りの挨拶をすれば母親から返事があった。「ご飯できているから食べて!」とのこと。「お兄ちゃん、帰り遅くなるから~!」とも言っている。
俺には嫌いだが尊敬している兄が居て、おそらく今日は恋人と出かけているのだろう。……だが同性だ。俺の兄貴はホモなのだ。情けない話だが、前に漫画を借りに行ったら、キモイ男のきわどい表紙を堂々と読んで……しこたま抜いていた。めっちゃキモかった。
—―カチャリ。
自室へと入り、重すぎるリュックサックを床に置く。そして流れるようにベッドに寝転ぼう……とする前に、机に向かった。リュックサックから校内実習のプリントを取り出して、見つめてみるがなにが悪いのか分からない。
――あの人の意図が分からない。ただ、丸い大きな瞳とくせっ毛な黒髪で、男の割には小柄だなと感じた。話すとフランクで、後輩の自分にも物腰柔らかくて、利用しようと企てていたのに、嫌な顔もしなかった。……でも、気になった部分があった。
「あの人。乾先輩って」
――損している気がする。もっと自分に自信を持っても良いのに。
「真緒~! 早くごはん食べて~!」
「は~い!」
疑問の残ったプリントをリュックにしまい込み、俺はスマホで乾先輩に軽い連絡をした。『今日はありがとうございました! これからもよろしくおねがいします!』
――翌朝。打ち込んでから連絡があった。文面は相変わらずフランクで、丁寧だけれど……優しいヒト。
『寝落ちしてた~。ごめん! こちらこそ、よろしくね~』
それだけで良いのに、次の言葉も添えられていたその言葉で確信したのだ。
『校内実習ファイト! 応援しているから!』
……はは。この人って、
「ふふっ。変だけど、優しい人だな」
軋む身体を起こして、俺は朝食を摂りに行った。先輩のことをもっと知ってみたい。だって、こんなにも優しい人を嫌えるほど、俺はそこまで嫌な奴じゃないって思いたいから。
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