バイタルサイン

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
8 / 43

第7話 気になる《人》

しおりを挟む
 あの人、真面目で優しい人だけど、
 ――なんだが、自虐的な人だった。

「蒼柳く~ん、実技練(実技練習)終わったし、一緒にかえろ~」
「私もかえりた~い! サイゼでごはん、食べにいこうよ~」
「蒼柳くんのおかげで過去問もゲットできたしね! まじでありがと!」
 ……また女子の連中が。俺には俺を束縛して優越に浸っている彼女が居るから、なるべく近づいて欲しくないし。しかも、利用しておいてなんだこれは?
「ねぇ~、黙っていないで行こうよ~?」
「ごめん。ベッドメーキングの実技練も疲れたし、バイトもあるから、またにしてくれない?」
 バイトは今日、ないけど。ただ、特に香水臭い奴。こんな香水の匂いがキツイ女は苦手だ。というか、下品な感じがする。
 ――というか、看護で『体臭に関しては気を付けて、特にはやめてください』って習ったじゃん。覚えてないのか、バカ女。
 その茶髪の馬鹿そうな女はわざとらしく肩を落とした。
「そっか~……。じゃあまたこんどね~」
「うん、じゃあまた」
 —―キャー!!!
 ……うるさ。
 見た目にしか興味のないバカな人たちを差し置いて、俺は逃げるように帰るのだ。

『ねぇ真緒、また女の子に絡まれなかった? 私、心配で夜も――』
 連絡アプリでいつもの時間に、いつもの連絡を送った。だが少し遅れたからか。俺の束縛系彼女からとんでもない長文メッセージが届いて、一気に身体を重くさせる。
「うるせぇな~。顔は好みだけどさ~、束縛が激しすぎだろ。俺を絞殺させる気か~?」
(あ~、明日は校内実習。たしか《コミュニケーション》だったか? そういえば――)

「へぇ~、明日コミュニケーションの授業か~。懐かし~」
「あの、乾さんも実習に出たんすか?」
「さすがに出席するよ……。でも授業単位は履修りしゅう済みだから、テストがね~。やばいな」
 そう言って懐かしんでいる先輩は、俺の校内実習実習の計画表を読んで懐かしんでいた。やはり留年している先輩だから、看護学生の大変さは重く感じる。
「あっ、思い出した!」
 すると乾さん大きな瞳を真剣さながらにしておいて、こんな話をした。
「校内実習の計画書、その通りにいかないって思った方が、あとで悩まずに済むと思う」
(どういう意味だ?)
「え、あ、わかりました」
 でも俺はなぜだが聞けなかった。どうして聞かなかったのかは分からない。
 ――ただ、この人が”脅し”とか”マウント”目的で言ったからかな~と内心で思ったからなのかもしれない。
 俺はこの人が、この留年した先輩に興味を示してみた。
 
「計画書はちゃんと書いたつもりだけど、あれじゃあだめなのか?」
 電車を降りて徒歩で家路に着く。「ただいま~」と帰りの挨拶をすれば母親から返事があった。「ご飯できているから食べて!」とのこと。「お兄ちゃん、帰り遅くなるから~!」とも言っている。
 俺には嫌いだが尊敬している兄が居て、おそらく今日は恋人と出かけているのだろう。……だがだ。俺の兄貴はホモなのだ。情けない話だが、前に漫画を借りに行ったら、キモイ男のきわどい表紙を堂々と読んで……しこたま抜いていた。めっちゃキモかった。
 —―カチャリ。
 自室へと入り、重すぎるリュックサックを床に置く。そして流れるようにベッドに寝転ぼう……とする前に、机に向かった。リュックサックから校内実習のプリントを取り出して、見つめてみるがなにが悪いのか分からない。
 ――あの人の意図が分からない。ただ、丸い大きな瞳とくせっ毛な黒髪で、男の割には小柄だなと感じた。話すとフランクで、後輩の自分にも物腰柔らかくて、利用しようとくわだてていたのに、嫌な顔もしなかった。……でも、気になった部分があった。
「あの人。乾先輩って」
 ――損している気がする。もっと自分に自信を持っても良いのに。
「真緒~! 早くごはん食べて~!」
「は~い!」
 疑問の残ったプリントをリュックにしまい込み、俺はスマホで乾先輩に軽い連絡をした。『今日はありがとうございました! これからもよろしくおねがいします!』

 ――翌朝。打ち込んでから連絡があった。文面は相変わらずフランクで、丁寧だけれど……優しいヒト。
『寝落ちしてた~。ごめん! こちらこそ、よろしくね~』
 それだけで良いのに、次の言葉も添えられていたその言葉で確信したのだ。
『校内実習ファイト! 応援しているから!』
 ……はは。この人って、
「ふふっ。変だけど、優しい人だな」
 軋む身体を起こして、俺は朝食を摂りに行った。先輩のことをもっと知ってみたい。だって、こんなにも優しい人を嫌えるほど、俺はそこまで嫌な奴じゃないって思いたいから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...