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第6話 笑顔は《化粧》

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「そりゃあ過去問にもらいに行くのは当然でしょ。えっと、俺のスマホのファイル探せば……」
 ……というか、去年は知らないけどおととしはこうやって、先輩方に過去問をもらっていたって慎さんが言っていたんだよな~。「友達が聞きに行ってくれた」って聞いたな。
 ――俺は友達がいなかったのに、慎さんは周囲から好かれていたよな。……なんだか複雑。
 スマホをいじり、画像ファイルを探していくと、年間3年分は出てきた。生理学に物理学、心理学など様々な分野が揃っている。単位履修済みなものもあるが、現役生にとってはこれからの試験で役に立つはずだ。……最初の試験は3週間後にある。
「うん。やっぱりあった。改めてだけど、俺は乾 利里。蒼柳くんより上だし、留年しているから無理しないで欲しいけれどさ、同じ学年だからなるべく敬語じゃなくていいから」
「あ、はい、いや。うす……」
「早速だけど、ファイル送りたいから連絡先交換してくれないかな?」
「あざっす! ありがたいです!」
 安心したように笑いかける蒼柳の表情に利里も笑いかけた。
 ……同学年にはなったけど、やっぱり他人だから気を遣わせたか…。どうせクラスメートとか、クラスの女の子たちに言われて代表で来た……ていう感じだけど、 
 ――ちょっとかわいそう。
 厄介者の自分を押し付けた彼らを想像してはため息を吐いて連絡アプリを交換する利里に、その張本人は少し首を傾げていた。どうやら利里がテスト範囲だけを聞きに行った自分が嫌なのではないかと思ったらしい。
「すんません。やっぱり、気にさわった、とか。その、あの……」
「あぁ、違うよ~。蒼柳くんが俺みたいなの相手をさせるのがかわいそうだな~って、思っただけ。気にしないで」
「え……?」
「じゃあ交換しよっか。はい、これが俺の連絡先。アニメのトプ画で背景もそうだけど気にしないで~」
「あ、はい」
(また困らせた。やっぱり俺って、人を困らせるのが得意だな)
 なんて自虐的なことを考えては苦笑を浮かべていて、でもどう言えば良いのか分からないでいる蒼柳に利里は申し訳なさを感じる。困らせたくはなかった。それはそうだ。自分が傷つくのが怖くて、言われたら嫌だから先回りをしただけだ。
 ――交換した連絡先の彼の背景には大きな時計塔が映っている。そしてトプ画には。
(うわぁ~。彼女とのツーショット。こいつ、やはりリア充か…。でもこれ以上、自分の妬みで困らせるのは良くないよな~)
 だからまた薄っぺらい笑みを浮かべる。だが現役生は気づいていないようで、少し安心を抱いた表情を見せていた。やはり笑うのは良いことらしい。笑うのは女でいう”化粧”。自分の醜い性格を隠してくれる。
 ――いや俺の場合は、”ぼかす”かな。
「時計塔いいね~。かっこいいな~。あとトプ画は彼女さん、かな? いいじゃ~ん。青春じゃん~」
「そう……すか? あざっす」
「うん。俺には無理だったけど、やっぱり青春はすべきだよ~。って、過去問だよね。ごめん、久しぶりにクラスメートと話せたから、飛ばしすぎたよ。反省、反省……」
(早く彼を解放させてあげないと。俺みたいな奴と関わってはいけない)
 ――俺は、”欠陥品”。看護学生の欠陥品。
 その後は覚えていない。とりあえず過去問集をファイルで送信をして、テストのポイントをなんとなくだが教えた気がする。こんないかにも要領が良さそうな人間に言っても軽蔑されるだろうけれど、もう嫌なんだ。
 ――俺みたいな思いをさせるのは。
 それから家に帰ってからふて寝した。自分の醜さを、愚かさが苦しくて堪らなかった。
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