6 / 43
第5話 はっきりとしていてまろやかな
しおりを挟む
5月下旬なので夏に近づいてきている。だから時刻が17時を指そうとしても、窓からの夕日は朗らかで明るいものであった。
「あ~、疲れた~。もうむりだ~」
好きなアニソンを聴きながら集中をしたおかげで、意外にも勉強がはかどった利里は、大きく伸びをしてから椅子を引き、数歩歩いて自販機へと向かう。そして自分へのご褒美にロゴが刻まれている缶のミルクティーを購入した。
彼はこのミルクティーを勉強終わりに飲むのが、至福の時間である。脳を酷使していたから甘いものを摂取する為でもあるが、このまろやかな味わいの中に直接的ではっきりとしている甘さは、利里にとっては心地が良いのだ。
彼ははっきりとした、白黒とした味わいを持ち合わせているミルクティーに心底惚れこんでいる。
携帯決済をしてミルクティーを購入し、自身が座っていた場所へ戻って席に着いた。力を込めてプルタブを「プシュリ」と開けて肌から感じる、程よく冷えている甘味を味わう。
(うまい。うますぎる)
授業は16時過ぎに終わるので現在、学生ホールはまばらだが人が居座っていた。今の期間は実習をしている2年生以外は授業である。特に3年生は2年生の実習が終われば、2か月間の実習になる。また、それが終わったら今度は2年生で、次が1年生というのが、この区立藍坂看護専門学校の実習形態だ。まばらにいる生徒の中で、とんでもない分厚さを誇っている書籍に付箋を貼っている生徒がちらほら。……おそらくは。
……3年生は、国試(国家試験)対策か。自分もうまくいっていたらその勉強をしていたんだよな~。
ミルクティーを一気に飲み干して立ち上がり、空き缶入れに捨ててはなんとなく思いを走らせる。……自分がうまくいったときの話だ。もう、今の自分には縁もゆかりもない。そして立ち上がったついでに自販機のラインナップをなんとなく見つめていった。無糖茶やコーラやエナジードリンクやら……種類は様々だ。
――そんな時であった。
「あの、すいません。乾先輩……でしたっけ。同じクラスの」
高い場所から、低音だが透き通った声にかけられて利里は振り向く。目は鋭さを感じるが、今はやんわりとしていて好印象。鼻筋が通っていて、背も高くて、自分みたいな人間とは関わらなさそうな人間に話しかけられたので、平凡な顔つきをしている利里はたじろいだ。
「あ、はい。あ、えっと――」
(あ、この人……)
「蒼柳くん、だっけ? 俺、人の名前とか覚えるのが得意だから、合っている気がするけれど……」
すると蒼柳は、目をぱちくりしては強く頷いていた。
「すげぇ……。俺、乾先輩と話したことなかったのに……?」
「背は高いし、ルックスいいし、女の子がちらほら居たから覚えていたんだ。あ、嫌みじゃないよ。俺はとんでもないほど、普通の顔をしているからさ」
……クラスに入ったときに女子の群れができていてうらやましすぎたけどな!
「そ、そうすか?」
「それで、俺になにか用事かな? 先生か誰かに伝言……とか」
蒼柳は首を振って「違います」と言ってきた。男でも見惚れるイケメンが凡庸(ぼんよう)な自分に用事など持つわけなどない。…するとあることが頭に過った。
――あぁ、それなら納得だな。
言いづらそうな顔をしている蒼柳に、利里はその気持ちを解放させるような手助けをするのだ。
「当てようか。この学校の過去問を聞きに来たんでしょ。年間の」
「どうしてそれが……?」
驚いた表情を見せる蒼柳に利里は表面上では笑ったが、内心では冷たい表情を浮かべている。
(そんなのお見通しだよ。やっぱり俺はそういう存在…か)
だが表情は、一言二言しか話していない、利用しようとしかしていない現役生を、傷つけぬように笑うのだ。
「あ~、疲れた~。もうむりだ~」
好きなアニソンを聴きながら集中をしたおかげで、意外にも勉強がはかどった利里は、大きく伸びをしてから椅子を引き、数歩歩いて自販機へと向かう。そして自分へのご褒美にロゴが刻まれている缶のミルクティーを購入した。
彼はこのミルクティーを勉強終わりに飲むのが、至福の時間である。脳を酷使していたから甘いものを摂取する為でもあるが、このまろやかな味わいの中に直接的ではっきりとしている甘さは、利里にとっては心地が良いのだ。
彼ははっきりとした、白黒とした味わいを持ち合わせているミルクティーに心底惚れこんでいる。
携帯決済をしてミルクティーを購入し、自身が座っていた場所へ戻って席に着いた。力を込めてプルタブを「プシュリ」と開けて肌から感じる、程よく冷えている甘味を味わう。
(うまい。うますぎる)
授業は16時過ぎに終わるので現在、学生ホールはまばらだが人が居座っていた。今の期間は実習をしている2年生以外は授業である。特に3年生は2年生の実習が終われば、2か月間の実習になる。また、それが終わったら今度は2年生で、次が1年生というのが、この区立藍坂看護専門学校の実習形態だ。まばらにいる生徒の中で、とんでもない分厚さを誇っている書籍に付箋を貼っている生徒がちらほら。……おそらくは。
……3年生は、国試(国家試験)対策か。自分もうまくいっていたらその勉強をしていたんだよな~。
ミルクティーを一気に飲み干して立ち上がり、空き缶入れに捨ててはなんとなく思いを走らせる。……自分がうまくいったときの話だ。もう、今の自分には縁もゆかりもない。そして立ち上がったついでに自販機のラインナップをなんとなく見つめていった。無糖茶やコーラやエナジードリンクやら……種類は様々だ。
――そんな時であった。
「あの、すいません。乾先輩……でしたっけ。同じクラスの」
高い場所から、低音だが透き通った声にかけられて利里は振り向く。目は鋭さを感じるが、今はやんわりとしていて好印象。鼻筋が通っていて、背も高くて、自分みたいな人間とは関わらなさそうな人間に話しかけられたので、平凡な顔つきをしている利里はたじろいだ。
「あ、はい。あ、えっと――」
(あ、この人……)
「蒼柳くん、だっけ? 俺、人の名前とか覚えるのが得意だから、合っている気がするけれど……」
すると蒼柳は、目をぱちくりしては強く頷いていた。
「すげぇ……。俺、乾先輩と話したことなかったのに……?」
「背は高いし、ルックスいいし、女の子がちらほら居たから覚えていたんだ。あ、嫌みじゃないよ。俺はとんでもないほど、普通の顔をしているからさ」
……クラスに入ったときに女子の群れができていてうらやましすぎたけどな!
「そ、そうすか?」
「それで、俺になにか用事かな? 先生か誰かに伝言……とか」
蒼柳は首を振って「違います」と言ってきた。男でも見惚れるイケメンが凡庸(ぼんよう)な自分に用事など持つわけなどない。…するとあることが頭に過った。
――あぁ、それなら納得だな。
言いづらそうな顔をしている蒼柳に、利里はその気持ちを解放させるような手助けをするのだ。
「当てようか。この学校の過去問を聞きに来たんでしょ。年間の」
「どうしてそれが……?」
驚いた表情を見せる蒼柳に利里は表面上では笑ったが、内心では冷たい表情を浮かべている。
(そんなのお見通しだよ。やっぱり俺はそういう存在…か)
だが表情は、一言二言しか話していない、利用しようとしかしていない現役生を、傷つけぬように笑うのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】
新羽梅衣
BL
平凡な大学生の吉良紡は今をときめくスーパーアイドル・東雲律の大ファン。およそ8年前のデビュー日、音楽番組で歌う律の姿を見て、テレビに釘付けになった日を今でも鮮明に覚えている。
歌うことが唯一の特技である紡は、同級生に勝手にオーディション番組に応募されてしまう。断ることが苦手な紡は渋々その番組に出演することに……。
緊張に押し潰されそうになりながら歌い切った紡の目に映ったのは、彼にとって神さまのような存在ともいえる律だった。夢見心地のまま「律と一緒に歌ってみたい」とインタビューに答える紡の言葉を聞いて、番組に退屈していた律は興味を持つ。
そして、番組を終えた紡が廊下を歩いていると、誰かが突然手を引いてーー…。
孤独なスーパーアイドルと、彼を神さまと崇める平凡な大学生。そんなふたりのラブストーリー。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる