バイタルサイン

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
上 下
4 / 43

第3話 報われない《恋》

しおりを挟む
「あれ、りっくんじゃん~。久しぶり~」
しんさんもお疲れ様! 実習キツそうだね……。やつれているし、書いている腕も軽く震えているし」
「あぁ、やっぱり実習がきついからっているのもあるから……かな。手も腱鞘炎けんしょうえんかもね~。まぁ痛くはないし、いっかな~って」
 相手は奈々切ななぎり 慎介しんすけという看護学生だ。利里の1回目……そう、現役時代の頃の仲の良い同級生かつ親友だ。理由は知らぬが、彼も1度だけ留年をしてしまったのだが、今は持ち直して無事に2年生となったのである。実習期間であるのでなかなか会えずにいるが、慎介は利里にとってはある意味、特別な存在なのだ。――親友じゃ片付けられない、ある想いを秘めているのだから。
「あ~、実習終わって欲しい~。もう疲れた~。に癒されてぇ~」
(彼女、か……)
 その言葉に利里は一瞬だけ顔を曇らせたが、また普段の調子に戻ってちょっかいを掛ける。
「なんだよ~、またかよ~。この幸せ者!」
「ははっ。りっくんにもできるって、……多分」
「なんだと~、慎さんのくせに~。社会人時代からの恋人だからってちょーしに乗んな!」
 内心では笑ってなどいないが、表面上では笑いながら利里は弁当を広げて食していく。今日はタンドリーチキンにミニトマトを添え、なおかつインゲンのベーコン巻きまで加えたものだ。バターライスをフォークですくって食べようとすると、今度は奈々切が席を立ってしまう。彼は「もう実習の時間だから先に行くわ~」そう言って黒バックに書類を詰め込んだのだ。茶色の眼鏡を外して、ケースに入れ、バックに入れてしまうのも名残惜しい。
(あぁ、慎さん帰るのか。でも少しでも居られて良かったな)
 ――どうせ叶わぬ”恋”だし。
 明らかに悲しそうな顔をする利里が気になったのだろう。彼の恋心など知りもしない奈々切は少し首を傾けては、笑って彼の頭に手を添えてぐしゃぐしゃにしたのだ。乱雑だが温かい手に利里の心は跳ねて動揺をした。……だが、彼女持ちでノーマルな彼は気がつかない。
「ま、実習が終わったらメシでも行こうよ」
「あ……あ、うん!」
「じゃあ俺行ってくるね~。じゃあね~!」
 そう言って立ち去ってしまう意中の相手に、利里は笑いながらも内心では興奮をして食事を摂るのである。…食事はやはり味気なかった。―だが、彼らの姿を見ていた者が。彼はコンビニ弁当をレンチンしに来たのだが、2人の姿を見てあることを思いついたのだ。
(あの乾って人、2年生と仲が良いのか…)
 ――これは使える。
 蒼柳は少し笑って、その場から立ち去り、仲間を含めたクラスメートに報告会をするのであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...