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《ヒキニートのリリシスト》
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鏡梨は引きニートではあるが祖父の代から営んでいる地域の地元銭湯『湯花』の孫息子である。
目鼻立ちがはっきりしていて端麗。かつ髪は最近切っていないおかげでミディアムくらいあり、一見すれば小柄な美少女にも見える。しかも母や父の遺伝や引きこもっているせいで細くて色白ときたら、なんてことない。……本当に口さえ開かなければ美少女だ。
そんな彼は両親には内緒にしている趣味を差し置いて、銭湯業務に励んだ。
銭湯業務といっても色々ある。サウナタオルの交換や洗濯や店番で客の相手をしたり、濡れた床を掃除したり、揉め事があったら制裁したりなど色々だ。
そんな彼は男風呂に入って掃除をしていた。シートワイパーで拭く仕事である。
「お~、きょうちゃん今日も働いて偉いな!」
「やっぱり音大通っているよりも良かったよ、なぁ?」
「あぁ、まぁ……そうですね」
ここの常連は話し好きの店主こと鏡史によって話を聞いているようだ。相槌を打ちつつも鏡梨はあまり納得していない。――自分も好きで辞めたわけではないのだから。
素裸のじいさん二人は「なぁ?」なんて顔を見合わせた。局部がしょぼくれて伸び放題である。
「でもきょうちゃんもマスターに似て怒ると怖いからな。顔がべっぴんなのにもったいない」
「うるさいですよ。ほら、風呂に入ったんならさっさと出て井戸端会議でもなんでもしてください。――はっきり言って邪魔です」
「お~怖い……。年寄りにも優しくせんかね」
「はいはい」
適当な相槌を打っておき鏡梨はタオル籠をぶら下げてサウナ室へと入る。「失礼します~」一応丁寧口調で告げれば……やっぱり居た。
「おう、鏡梨。今日も相変わらず可愛いな」
「……周さん、あのねぇ」
腕にも背中にも色が入った刺青を持った太った男、周がにたりと笑い自分の股間を見せつけてくる。鏡梨は太い息を吐いた。……やくざに関しては父親の鏡史から言われていることがある。
――とりあえず関わるな。極力。
だそうだ。だから鏡梨はタオルを変えてから立ち去ろうとする。
「お前が女だったら今頃、俺のベッドで喘がせていただろうな~。『あん、やめてぇ~』な~んて言って」
下品極まりない言葉にむっとしつつも、鏡梨は「俺はそんな軽い奴じゃないので」そう言って出て行った。
周がにたりと奥の金歯が光った。
それから水温の確認や塩素を加えたりなどして一息吐こうとした時……二人の連れが居た。足に薔薇の刺青をした男が、男の背中を異様なまでに近づき流している。
鏡梨は舌打ちした。
「あん、そこぉ……、健さんやめてよ」
「ここが良いんだろ、薫? おっと手が滑って――」
股間に手を掛けようとした瞬間に鏡梨ががつんと拳で叩いてやった。もちろん二人にだ。そのまま蔑んだような、見下すような視線を向ける。
「ここで犯すもんなら出禁にしますからね。あと、ちゃんと足洗ってくださいよ。水虫とか付くから」
「……いてて。薫のビンタも痛いけれど、きょうちゃんの拳も痛いな。……3Pでもする」
――か? などと言わせずにアッパーを入れて気絶させる鏡梨に、薫が心配を抱いているが「この人はそんなやわじゃないの知っているでしょう?」なんていう視線を向けてその場を立ち去った。……もちろん、水虫対策で足も洗った。
講習会へ行き終わった鏡史に「もう店番は良いよ」そう言われ鏡梨は部屋へと駆け込んだ。
もともと人と接するのは得意ではない。短気なせいで揉め事が多くなってしまうからだ。学校を中退したのもその一つである。
鏡梨はパソコンで音楽を聴き始め、サンプルと共に歌詞を付けていく。Aメロ、Bメロ、サビにリリックを付けて、適当にヴァース(メロディ)とライム(韻)を踏んだ作詞を望み書き上げていく。
作曲も好きだがこの作業も好きであった。淡々とこなす作業よりも、じっくり時間をかけて考える時間が好きなのだ。
パソコンで曲を完成させる為に一休憩を……と思った時、下がやけに騒がしかった。怒号さえも聞こえる。
なんだと思って鏡梨はパソコンを置いて下へと向かうのだ。
「なに……これ?」
踊場へと向かえば、周さんと同じくらい、だが逞しい男がなにかを叫んでいた。「カガリはどこだ!??」とも聞こえる。
――鏡梨は戦慄した。
(嘘だ……。あのペンネームで人が探せるなんて思えない)
だがハッキングをすれば、と思って頭を振った。そんなことあるわけなどないと。
だが世は末恐ろしい。
「俺のマブダチがカガリはここにいるって聞いてんだ! デブ!」
「デブだとてめぇ、なにもんだ!」
すると男は待っていましたとばかりに両手を上げた。
「俺は白淵 双葉。――a.k.a早芽だ。俺はカガリを探している」
この厳つい男はなにを言っているのだと思った時、ふいに鏡梨は自分の曲がうなぎ上りになった理由を探した。
もしかしてこの男――
「ラッパーですか?」
震える声で放つ鏡梨に精悍だが髭のそり残しがある男は「ねぇちゃんになら通じそうだな」そう言って悪戯に微笑んだ。
数秒経ったのち「俺、男です」と告げると双葉はあからさまに悲しんでいた。
ムカついて「そのカガリって人はここには居ませんよ」と睨みつける。双葉の首筋にある大きな刺青がちらりと見えた。
「どうしてそんなことが言えんだ、べっぴんさん?」
「うっせぇなぁ……、いいから帰れ!」
客じゃなさそうなんので回し蹴りを食らわせれば受け止められて驚く。絶対に入ったかと思ったが。――だが入ったのは頭上からの拳であった。
「いい加減にしなさい。ほら、鏡梨も謝る。あんたもだ。――暴れるのなら出禁にするよ」
父の制裁により鏡梨と双葉は謝罪をし、双葉は意味深な笑みを零し銭湯へ入りに行った。
目鼻立ちがはっきりしていて端麗。かつ髪は最近切っていないおかげでミディアムくらいあり、一見すれば小柄な美少女にも見える。しかも母や父の遺伝や引きこもっているせいで細くて色白ときたら、なんてことない。……本当に口さえ開かなければ美少女だ。
そんな彼は両親には内緒にしている趣味を差し置いて、銭湯業務に励んだ。
銭湯業務といっても色々ある。サウナタオルの交換や洗濯や店番で客の相手をしたり、濡れた床を掃除したり、揉め事があったら制裁したりなど色々だ。
そんな彼は男風呂に入って掃除をしていた。シートワイパーで拭く仕事である。
「お~、きょうちゃん今日も働いて偉いな!」
「やっぱり音大通っているよりも良かったよ、なぁ?」
「あぁ、まぁ……そうですね」
ここの常連は話し好きの店主こと鏡史によって話を聞いているようだ。相槌を打ちつつも鏡梨はあまり納得していない。――自分も好きで辞めたわけではないのだから。
素裸のじいさん二人は「なぁ?」なんて顔を見合わせた。局部がしょぼくれて伸び放題である。
「でもきょうちゃんもマスターに似て怒ると怖いからな。顔がべっぴんなのにもったいない」
「うるさいですよ。ほら、風呂に入ったんならさっさと出て井戸端会議でもなんでもしてください。――はっきり言って邪魔です」
「お~怖い……。年寄りにも優しくせんかね」
「はいはい」
適当な相槌を打っておき鏡梨はタオル籠をぶら下げてサウナ室へと入る。「失礼します~」一応丁寧口調で告げれば……やっぱり居た。
「おう、鏡梨。今日も相変わらず可愛いな」
「……周さん、あのねぇ」
腕にも背中にも色が入った刺青を持った太った男、周がにたりと笑い自分の股間を見せつけてくる。鏡梨は太い息を吐いた。……やくざに関しては父親の鏡史から言われていることがある。
――とりあえず関わるな。極力。
だそうだ。だから鏡梨はタオルを変えてから立ち去ろうとする。
「お前が女だったら今頃、俺のベッドで喘がせていただろうな~。『あん、やめてぇ~』な~んて言って」
下品極まりない言葉にむっとしつつも、鏡梨は「俺はそんな軽い奴じゃないので」そう言って出て行った。
周がにたりと奥の金歯が光った。
それから水温の確認や塩素を加えたりなどして一息吐こうとした時……二人の連れが居た。足に薔薇の刺青をした男が、男の背中を異様なまでに近づき流している。
鏡梨は舌打ちした。
「あん、そこぉ……、健さんやめてよ」
「ここが良いんだろ、薫? おっと手が滑って――」
股間に手を掛けようとした瞬間に鏡梨ががつんと拳で叩いてやった。もちろん二人にだ。そのまま蔑んだような、見下すような視線を向ける。
「ここで犯すもんなら出禁にしますからね。あと、ちゃんと足洗ってくださいよ。水虫とか付くから」
「……いてて。薫のビンタも痛いけれど、きょうちゃんの拳も痛いな。……3Pでもする」
――か? などと言わせずにアッパーを入れて気絶させる鏡梨に、薫が心配を抱いているが「この人はそんなやわじゃないの知っているでしょう?」なんていう視線を向けてその場を立ち去った。……もちろん、水虫対策で足も洗った。
講習会へ行き終わった鏡史に「もう店番は良いよ」そう言われ鏡梨は部屋へと駆け込んだ。
もともと人と接するのは得意ではない。短気なせいで揉め事が多くなってしまうからだ。学校を中退したのもその一つである。
鏡梨はパソコンで音楽を聴き始め、サンプルと共に歌詞を付けていく。Aメロ、Bメロ、サビにリリックを付けて、適当にヴァース(メロディ)とライム(韻)を踏んだ作詞を望み書き上げていく。
作曲も好きだがこの作業も好きであった。淡々とこなす作業よりも、じっくり時間をかけて考える時間が好きなのだ。
パソコンで曲を完成させる為に一休憩を……と思った時、下がやけに騒がしかった。怒号さえも聞こえる。
なんだと思って鏡梨はパソコンを置いて下へと向かうのだ。
「なに……これ?」
踊場へと向かえば、周さんと同じくらい、だが逞しい男がなにかを叫んでいた。「カガリはどこだ!??」とも聞こえる。
――鏡梨は戦慄した。
(嘘だ……。あのペンネームで人が探せるなんて思えない)
だがハッキングをすれば、と思って頭を振った。そんなことあるわけなどないと。
だが世は末恐ろしい。
「俺のマブダチがカガリはここにいるって聞いてんだ! デブ!」
「デブだとてめぇ、なにもんだ!」
すると男は待っていましたとばかりに両手を上げた。
「俺は白淵 双葉。――a.k.a早芽だ。俺はカガリを探している」
この厳つい男はなにを言っているのだと思った時、ふいに鏡梨は自分の曲がうなぎ上りになった理由を探した。
もしかしてこの男――
「ラッパーですか?」
震える声で放つ鏡梨に精悍だが髭のそり残しがある男は「ねぇちゃんになら通じそうだな」そう言って悪戯に微笑んだ。
数秒経ったのち「俺、男です」と告げると双葉はあからさまに悲しんでいた。
ムカついて「そのカガリって人はここには居ませんよ」と睨みつける。双葉の首筋にある大きな刺青がちらりと見えた。
「どうしてそんなことが言えんだ、べっぴんさん?」
「うっせぇなぁ……、いいから帰れ!」
客じゃなさそうなんので回し蹴りを食らわせれば受け止められて驚く。絶対に入ったかと思ったが。――だが入ったのは頭上からの拳であった。
「いい加減にしなさい。ほら、鏡梨も謝る。あんたもだ。――暴れるのなら出禁にするよ」
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