上 下
36 / 38

《結婚式》

しおりを挟む
 ロキが自身の罪を授与し終えた頃には――ヨルはシギュンに支えてもらいながら呆然と立ち尽くしていた。
 あの燃えるような炎が、業が……絆が無くなってしまったかと思うと少し寂しさも感じられる。それだけあの業火の炎は自分にとって厄介ではあるが、大切な存在だったのかもしれない。
 そんな束の間に教会の扉が開け放たれた。
 息を切らして現れたのは人間の姿になった聖と、すすを付着させた燐――ついでに、黒服に囚われたドレス姿のフレイヤであった。彼女はひどく不服そうな表情を浮かべている。
「フレイヤじゃないか。予想通りだったけれど、やっぱり俺の子供たちには勝てなかったらしいな。殺されるよりいいんじゃないか?」
「……不服だわ。とてつもなくね!」
 眉間に顔を寄せてふて腐れた美女を尻目に、同じ深い緑色の瞳を持つ青年と少女は立ち尽くしたかと思えば、ヨルによく似た顔つきの男の姿に駆け寄り……抱き着いた。
 彼らもまた、ヨルと同じ気持ちだったのだろう。
「親父、どうしてここに……?」
「あの女から聞いたときは驚きましたが――どうして、お父さまが……」
 困惑と喜悦に挟まれる聖と燐ではあったが、そんな二人へロキは「俺のことよりもあの二人を見てみろ」なんて愉快な声で発した。
 ――純白のドレスを纏った褐色肌の大男に抱き留められている、一回り小さな赤い髪の青年の姿に二人は驚き声を上げる。
「ヨル兄さんにシギュンさん!? ていうか、シギュンさんが……花嫁姿に!?」
「シギュンさん素敵ですわ~! スマホで撮影しておかないと!」
 燐が着物の袖からスマホを取り出し撮影し始めた。「はい、ちーず、ですわ~」と先ほどの怒りはどこへやら、呑気に撮影をしている燐に聖は呆れた様子で息を吐く。……脅迫されたフレイヤは彼女の変貌ぶりに目を見張るものだ。
 はぁはぁと深呼吸をするヨルと、彼の身体を支えているシギュンではあるが……あることを思いついた。
 日本では同性同士で結婚することは認められていない。シギュンの母国であるサンクチュアリであったら可能ではあるが、今はできないだろう。
 しかし現在、ヨルの父親やキョウダイに観客も居る。――だから形ではあるができることもあるのだ。
「ヨル、こっちを向いてください」
「え、あ……うん」
 ヨルが振り向いた先には真剣な眼差しでシギュンが見つめていた。
「私はあなたを一生の旦那様として尽くし、愛します。……ヨルはどうですか」
 シギュンのまっすぐな言葉にヨルは気恥ずかしさが勝った。だが、意図していることはわかったような気がする。
 ここは教会で、シギュンは花嫁の姿をしているのだから。
 シギュンと一緒に居て、大変なことに巻き込ませてしまったし、自分の至らないところは多々あっただろう。
 だがそれでも、彼はいつも笑ってくれた。親身になって怒られた。泣かれた。――すべて自分が起因するものであった。
(だったら答えなんて……一つだよ)
 太陽が昇りステンドグラスに日が差し込む。……緑と青に染まったガラスの光を背にして、――ヨルは口づけを施した。
「俺もお前を一生愛するから。だからお互い、支え合おうな」
「……はい」
 二人は少人数の観客の前で――誓いのキスをしたのだ。
 明け方にまで及んだ大騒動。燐は許してはいないがロキと聖の計らいで、フレイヤは天界に帰ることになった。
 もともと、神であるので天界に居る存在なのだが、地上にも降り立てるそうだ。
 逆にロキは天界から追放されている身なので、聖や燐、そしてヨルを含め三人の子供たちが天界に掛け合えないか相談したそうだが――ロキ自身がやんわりと断り、鳥の姿になって旅立ってしまったのだ。
 そして今。聖に「結婚祝いだから!」と教会の近くに併設してある、スイートルームで眠りこけていたヨルではあるが、一緒に眠っていた花嫁姿のシギュンに目を落とし……唇にキスを落とした。少し気恥ずかしかった。
「どうして、親父は……自分の罪を晴らさずに、旅立ったのかな?」
 シギュンの金色の糸を掬いながら問いかける。だがシギュンはぐっすりと眠っていて起きることはない。
 ――苦しいと言っている花嫁姿の衣装で眠ってしまうほど疲れている様子の彼に、ヨルはごめんの代わりにキスをする。
 自身の炎は消えたはずだが、そこだけ熱いのだ。熱くて全身が火照ってしまう。
「んぅ……、ヨル?」
「あ、起きたか。おはよ」
「おはようです~。朝に寝たので眠いですし、やっぱりこの衣装だときついです……」
 かなり疲弊した様子のシギュンを見て、ヨルは息を吐いて「着替え、取り返したから脱がせてやるよ」そう言って欠伸をしているシギュンの上体を起こしてもらい、ドレスの後ろにあるチャックを下げていく。
(どうして親父は、自分の罪が晴れるかもしれないのに、天界という場所に行かなかったのかな?)
 ふと考え込みながら、チャックを下げ終えて「ほら、もう脱げるから」さらけ出されたシギュンの健康的な両肩を叩いて合図をした
 晴天だからか、晴れ間に恵まれたシギュンの姿は聖母のように美しく見えてしまう。……だから、なんとなく自分の父親が罪を認めて去ったのかが察せたような気がした。
(もしかして、親父はシギュンを見てなにかしら思って――)
「ねぇ、ヨル? この下着見て下さい。……はじめての夫婦の営みに最適ではありませんか?」
 シギュンは自身の下着を指さしたのは、深い緑と青をベースにした派手なビキニであった。
 さすがのヨルも顔を真っ赤にせざる負えない。
「シギュン、またハレンチなものを……」
「でもいいでしょう? じゃあ二人とも充電できましたし!」
 するとシギュンはヨルに抱き着き押し倒して、フレンチ・キスからのディープキスを送る。
 彼は知っているだろうか。――ヨルが起き抜けに奪った夫婦としてのキスをしたことを。だがわざと教えないヨルは、花嫁のキスに応じたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...