赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《参上》

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 大量の人間が押し寄せ、ヨルは聖の背中に乗り込んで人々を避けながらフレイヤに近づこうとする。――しかし、その瞬間に人間たちが襲い掛かってわざとヨルに近づこうとした。
 ヨルは軽く舌打ちを打ち、「後方に回れ!」聖へ叫んで艶やかな毛皮にしっかりと掴まって退避をする。その姿を見てフレイヤは退屈そうに眺めた。
「その人間たちは私のしもべよ。私に魅了された人間を私は操れるの。――だからこの人間は私のもの、私の道具。人間じゃなくってよ、炎を操る毒蛇さん?」
 そうは言っても人間は人間だ。これ以上、無実な人間を殺したくないのがヨルなのだ。でもそれは巨狼である聖も同じ。……彼もまた、終焉の戦いで失ってしまった人間を殺したくはないのだ。
 襲い掛かる人間たちを蹴り上げるか、室内にあるテーブルやら椅子で殴り飛ばし動けなくさせるぐらいしか攻撃ができないでいる二人へフレイヤは嘲笑った。
「災厄なら災厄らしく人間に危害を加えればどうなの? 後世の毒蛇と巨狼はみっともないわね。――人一人も殺すのも躊躇わないなんて」
 言葉が出そうにも今は大勢来る人間たちの処理に手一杯で反論ができない。だから悪女は高らかに笑うのだ。
「あぁ無様ね! 人間の重しにされて窒息されるか、その前に殺して自分の業に後ろめたさを感じて自害するか……あはっは!!! 素敵な舞踏会になって、私は楽しいばかりだわ!」
 もういっそのこと、罪のない人間たちを焼き殺してしまおうかと思った。自分の災厄の能力であれば、この舞踏会ほど焼き殺せるはずだ。――人間を掴み上げようと手を伸ばした。
 ――ヨル!
 頭の片隅にちらついた男が居た。褐色肌で、大男で青い澄んだ瞳をした……変態だが明朗で温和なシスターだ。彼を思うたび、自分が苦しくなった。
 人なんて小さな生き物を殺せば、自分を選んでくれた――信じてくれた彼はどんな顔をするだろうかと思うと、胸が痛くなった。
「……シギュン」
 ヨルは業火の災いを引っ込めた――瞬間、爆発音が聞こえたのである。ドォォン!!! とかなりの地響きが鳴って振り向けば……着物を着た少女がでかいバズーカ砲を持ち上げていたのだ。
「助けに参りましたわ、お兄さま方! 早く、シギュンさんをお探しになって!!」
 バズーカ砲はフレイヤの方に向けられていた。……燐が大勢の黒服を連れて現れたのである。
 二人は呆然とした。そして片一方の責任者は「俺の……ホテルが」と悲嘆に暮れていたので、ヨルはうなだれている狼の首や頭を撫でて「なんかごめん……」なんて謝罪した。
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