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《事件2》
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『今日はヨルとごはんを買いに行きました。ヨルは赤いかみをキラキラさせて、わたしと買いものをしました。とても嬉しかったです。また明日もいきたいです。』
土日を挟んで提出をしたシギュンの三行日記は、ブリーシンガルとクラスメートに賞賛の嵐を巻き起こした。
文章の主語、助動詞、動詞の使い方もさることながら、敬語もしっかりと使用されている。だからブリーシンガルも高評価して、クラスに発表をしたのだ。――もちろん、クラスの皆も拍手を送るさなかで、シギュンの頬を赤らめるようないじり方もされた。
「ヨルって子が彼女の名前だったんだ~。へぇ~!」
「日本語の”夜”、”night”って意味だな。変わった名前だな~」
シェリーやレイフロが率直な感想を述べると、シギュンはカっと熱くなり「う……ん」などと口籠ってしまった。
ヨル相手であれば、口説きたいがあまり情熱を並べて、ヨルを熟れた果実のようにさせて――頂かせてもらう、というのが通例だ。
だがクラスメートはクラスメート。ヨルとは立場が違うので反応しても、身悶えることしかできない。
そんな彼にブリーシンガルは便底眼鏡の奥でにこりと微笑み、シギュンの背中を叩いてこんなことを言い出した。
「シギュンさん。そのヨルって子の話も聞きたいし、素敵な文章の奨励もさせていただきたいわ。……あとで職員室に来てね」
「え、あ……アリガトウ、ゴザイマス」
「えぇ。――待っているから」
見え透いた瞳は瞳が自分と同じ青く澄んでいて、でも瞳が潤って反射をしてきらめいているような印象を受けた。
(ブリーシンガル先生の素顔って、どんな美人さんなのでしょう?)
シギュンは背中を押された延長で歩いていき、席に座ってから考え込む。シギュンのリュックには、ヨルからもらったお守りが付けられていた。
放課後となり、シギュンは職員室へ足を向けて「失礼します!」と一生懸命練習した挨拶の言葉で入室をすれば、席にはブリーシンガルしか居なかった。
――さすがにシギュンでさえも不自然に感じた様子だ。
「あれ? ほかの先生方は……?」
「ほかの先生方はクラスの面談で別室にいるわ。諸事情もあるみたい」
「先生は大丈夫なのですか?」
「私は後からでも構わないと伝えているから、――さぁ、座って」
簡単な席とテーブルが用意されており、テーブルには茶色の液体が注がれていた。少しぱちぱちするような音もする。「それはなんですか?」一礼をして席に座ると、ブリーシンガルは「茶葉をソーダで割ったものよ」と口元に笑みを浮かべた。
不思議な飲み物にシギュンは戸惑いを抱くと、ふふっと口端を綻ばせ、自身にも置いていた飲み物にも指さす。
「アイスティーソーダっていう飲み物なの。ガムシロップは入っているのだけれど、お好みでミルクを入れても美味しいわ。まぁ飲んでみて?」
「はい、えっと……いただきます」
手を合わせ口に付けると、なんとも不思議な味わいがした。紅茶なのに紅茶ではない。でもお酒なわけでもないのにカクテルを飲んでいるような、大人で甘みのある味わいだ。ほのかに茶葉の苦みも感じるが、炭酸とガムシロップのおかげで相殺されている。
(おいしい……! ヨルにも作って欲しい!)
驚きと美味しさのあまりどんどん飲んでいくと、お代わりもあるからなんて言うブリーシンガルは容器に入れた液体を注いでいく。だからシギュンは口に運ぶのをやめて「アリガトウございます!」そうにこやかに笑った。
「いえいえ。最近はめきめき日本語が上手になったわね。それも、恋人のため? いえ、――将来の夫のためかしら?」
夫発言にシギュンは噴き出して気管に入ってしまった。ゲホゲホとむせて吐き出しては、ふぅと息を吐いて、にこやかに微笑みブリーシンガルを見つめる。
――彼女の青い瞳は見えない。
「なんで、そのことを知っているのですか。私はクラスメートにも言っていませんよ」
不思議なのは当然だ。本当に伝えていないのだから。
だがブリーシンガルは一旦、企んだように首肯しては便底眼鏡を外した。……白い肌に整った骨格と潤った肌、そして輝きを秘めた青い瞳にシギュンは吸い込まれ、魅了されてしまう。
ブリーシンガルの美貌にうっとりしてしまうシギュンへ、彼女は微笑みを絶やさない。――まるで女神のように聡明でしたたかな輝きを放っていた。
「あなたを調べたからよ。あなたの旦那の雫石 ヨル……前世の名前は、ヨルムンガンド。――私たち、”神”の敵だもの」
……神? 神ってどういう意味?
「あの! 神ってどういう意味」
――なん、ですか?
尋ねようとした途端、身体の力が入らなくなって崩れ落ち、急激に眠くなってしまった。そのおかげで声を出そうにも出せない。
意識を保とう、床に手を伸ばして……愛しいヒトの名前をなぞる。
「ヨ、ル……」
シギュンは急激な眠りで倒れてしまった。その姿を見届けたブリーシンガルは自身のバック漁り、宝石が散りばめられた金の首飾り――ブリーシンガルを首元に巻く。
「さて、シギュンの後世は拘束するとして。……あとはあの災厄たちを、この子がおびき寄せられるエサになるかどうか、か」
……まぁこの子は私の術が使えなさそうだし、この方法で正解ね。
眠ったシギュンを置いて、つかつかヒールを鳴らし別室を開ければ――大勢の人間が人形のようになにも見ない瞳をして、佇んでいた。
ブリーシンガルは悪女のようなひどい笑みをした。
「さぁ、……パーティの始まりよ」
シギュンは気づかずに眠ったままであった。
土日を挟んで提出をしたシギュンの三行日記は、ブリーシンガルとクラスメートに賞賛の嵐を巻き起こした。
文章の主語、助動詞、動詞の使い方もさることながら、敬語もしっかりと使用されている。だからブリーシンガルも高評価して、クラスに発表をしたのだ。――もちろん、クラスの皆も拍手を送るさなかで、シギュンの頬を赤らめるようないじり方もされた。
「ヨルって子が彼女の名前だったんだ~。へぇ~!」
「日本語の”夜”、”night”って意味だな。変わった名前だな~」
シェリーやレイフロが率直な感想を述べると、シギュンはカっと熱くなり「う……ん」などと口籠ってしまった。
ヨル相手であれば、口説きたいがあまり情熱を並べて、ヨルを熟れた果実のようにさせて――頂かせてもらう、というのが通例だ。
だがクラスメートはクラスメート。ヨルとは立場が違うので反応しても、身悶えることしかできない。
そんな彼にブリーシンガルは便底眼鏡の奥でにこりと微笑み、シギュンの背中を叩いてこんなことを言い出した。
「シギュンさん。そのヨルって子の話も聞きたいし、素敵な文章の奨励もさせていただきたいわ。……あとで職員室に来てね」
「え、あ……アリガトウ、ゴザイマス」
「えぇ。――待っているから」
見え透いた瞳は瞳が自分と同じ青く澄んでいて、でも瞳が潤って反射をしてきらめいているような印象を受けた。
(ブリーシンガル先生の素顔って、どんな美人さんなのでしょう?)
シギュンは背中を押された延長で歩いていき、席に座ってから考え込む。シギュンのリュックには、ヨルからもらったお守りが付けられていた。
放課後となり、シギュンは職員室へ足を向けて「失礼します!」と一生懸命練習した挨拶の言葉で入室をすれば、席にはブリーシンガルしか居なかった。
――さすがにシギュンでさえも不自然に感じた様子だ。
「あれ? ほかの先生方は……?」
「ほかの先生方はクラスの面談で別室にいるわ。諸事情もあるみたい」
「先生は大丈夫なのですか?」
「私は後からでも構わないと伝えているから、――さぁ、座って」
簡単な席とテーブルが用意されており、テーブルには茶色の液体が注がれていた。少しぱちぱちするような音もする。「それはなんですか?」一礼をして席に座ると、ブリーシンガルは「茶葉をソーダで割ったものよ」と口元に笑みを浮かべた。
不思議な飲み物にシギュンは戸惑いを抱くと、ふふっと口端を綻ばせ、自身にも置いていた飲み物にも指さす。
「アイスティーソーダっていう飲み物なの。ガムシロップは入っているのだけれど、お好みでミルクを入れても美味しいわ。まぁ飲んでみて?」
「はい、えっと……いただきます」
手を合わせ口に付けると、なんとも不思議な味わいがした。紅茶なのに紅茶ではない。でもお酒なわけでもないのにカクテルを飲んでいるような、大人で甘みのある味わいだ。ほのかに茶葉の苦みも感じるが、炭酸とガムシロップのおかげで相殺されている。
(おいしい……! ヨルにも作って欲しい!)
驚きと美味しさのあまりどんどん飲んでいくと、お代わりもあるからなんて言うブリーシンガルは容器に入れた液体を注いでいく。だからシギュンは口に運ぶのをやめて「アリガトウございます!」そうにこやかに笑った。
「いえいえ。最近はめきめき日本語が上手になったわね。それも、恋人のため? いえ、――将来の夫のためかしら?」
夫発言にシギュンは噴き出して気管に入ってしまった。ゲホゲホとむせて吐き出しては、ふぅと息を吐いて、にこやかに微笑みブリーシンガルを見つめる。
――彼女の青い瞳は見えない。
「なんで、そのことを知っているのですか。私はクラスメートにも言っていませんよ」
不思議なのは当然だ。本当に伝えていないのだから。
だがブリーシンガルは一旦、企んだように首肯しては便底眼鏡を外した。……白い肌に整った骨格と潤った肌、そして輝きを秘めた青い瞳にシギュンは吸い込まれ、魅了されてしまう。
ブリーシンガルの美貌にうっとりしてしまうシギュンへ、彼女は微笑みを絶やさない。――まるで女神のように聡明でしたたかな輝きを放っていた。
「あなたを調べたからよ。あなたの旦那の雫石 ヨル……前世の名前は、ヨルムンガンド。――私たち、”神”の敵だもの」
……神? 神ってどういう意味?
「あの! 神ってどういう意味」
――なん、ですか?
尋ねようとした途端、身体の力が入らなくなって崩れ落ち、急激に眠くなってしまった。そのおかげで声を出そうにも出せない。
意識を保とう、床に手を伸ばして……愛しいヒトの名前をなぞる。
「ヨ、ル……」
シギュンは急激な眠りで倒れてしまった。その姿を見届けたブリーシンガルは自身のバック漁り、宝石が散りばめられた金の首飾り――ブリーシンガルを首元に巻く。
「さて、シギュンの後世は拘束するとして。……あとはあの災厄たちを、この子がおびき寄せられるエサになるかどうか、か」
……まぁこの子は私の術が使えなさそうだし、この方法で正解ね。
眠ったシギュンを置いて、つかつかヒールを鳴らし別室を開ければ――大勢の人間が人形のようになにも見ない瞳をして、佇んでいた。
ブリーシンガルは悪女のようなひどい笑みをした。
「さぁ、……パーティの始まりよ」
シギュンは気づかずに眠ったままであった。
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