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《学校》
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日本に来日をして一か月か二か月か経った頃。――シギュンは日本語を学ぶため、都内にある日本語学校に通うことになった。
それはシギュンが日本にまだ不慣れだからというのもあるし、ヨルに「お前は普通に人間と触れ合えるのだから、普通の人間と交流をした方がいい」などと勧めてくれたからである。
しかしシギュンとしては、ヨルが唯一行っている在宅ワークの秘書をやりたい……なんて言っていたのだが、ほかの人間と関りを持った方がシギュンの為になるからと聞かなかったのだ。
だが、確かに入学をして良かったなと思う一面は多数あった。
自分のような褐色肌の生徒も居れば、きれいな白い肌を持った人間も居る。髪色も金髪や黒髪、人工的に染め上げた髪色を持つ者も居た。
皆それぞれ出身地は違い、アメリカから中国から韓国、オーストリアなど……複数の国が入り交ざっている。
そう思うと、サンクチュアリでしか知らなかった世界の大きさにシギュンは自分の無知さを再度確認し、ちゃんとこの日本という国で学び直そうと腹を括ることができた。
ヨルの手製弁当はほかの生徒からかなり好評である。
「うわぁ~! シギュンの弁当、良いな~。ハンバーグに、エビピラフとか、羨ましい!」
「しかもスープも付いているじゃん! 相変わらず料理上手だよね~」
共通語の英語で話しかけてくる生徒に、シギュンは嬉しさを抱きながら「作ってくれたんです」そう自慢をする。
ちなみに今日の弁当はエビピラフに煮込みハンバーグに、ブロッコリーとトマトのマリネに野菜炒めと、付け合わせにパンプキンスープが付いていた。
しかも今日は時間があったからか、デザートのアップルパイまで付いてきた。
「へぇ~、料理上手な彼女さんだな~。イブクロ、掴まれた……って言う、日本語で合っているか?」
そばかすを散らかせた白人で金髪の髪をしたアメリカ国籍の友人、レイフロが嬉々とした顔をしたシギュンへ笑いかけた。彼はシギュンの学校で一番仲良くしてもらっている存在である。
彼女……というより、将来の旦那ではあるが、彼女と言っているヨルの存在にシギュンは少し恥ずかしそうに軽く頷く。――周囲がヒューヒューなんて騒いだ。
「シギュンも隅に置けないよな~。やはり彼女持ちとはね~」
「でもシギュンくらいなら居ても当然でしょ? 見た目も良いし、性格も穏やかで優しいし丁寧だし」
シギュンの近くでベーグルサンドを食す女性、レイフロと同じアメリカ国籍だが褐色肌で黒い瞳の彼女……シェリーは自身と周囲を納得させるように頷かせた。
確かにそうだな、なんて言う声も上がりシギュンは褒められたことへ嬉しさと楽しさを実感する。
(これもヨルのおかげですね……。今日もヨルと待ち合わせて帰るから、ちゃんと教えないとです)
内心でヨルに感謝をし、周囲にもアリガトウゴザイマスと日本語でにっこりと笑いかければ、皆も嬉しそうに笑って茶化してきたのだ。
授業が最終講義となった頃。そろそろ疲れて眠くなる時間帯であった。
「つまり、日本では主語を省くケースが多々あります。『今日は眠いから』という構文があったとしたら、英語では『I,m sleepy,now.』と主語をはっきりさせます。ですが日本では、主語や物事を省略する傾向が強いのです。……その時には思い切って、誰が、なにを? というように、しっかりと把握させた方が良いでしょう」
長い金髪をなびかせた便底眼鏡の先生……ブリーシンガルが説明をしてホワイトボードへペンを走らせる。
すると生徒たちもノートやらルーズリーフにシャーペンで書き込んでいるので、シギュンも負けずにウサギ柄のペンで書き込んだ。――ヨルが買ってくれたものだ。
ブリーシンガルは続けて話す。
「またここからが難しい話ですが、日本語では助詞と助動詞というものがあります。助詞は、『は』、『が』など本体では意味がありません。主語とセットで使います」
(まずいです……。眠い、です……)
欠伸をするのを耐えたいが大きく口を開けようとしたシギュンは、右手で塞いだ。
「そして助動詞というのは『できる』『眠い』などと言った動きの状態を表します。ですが日本人は謙虚な文化があるので、断定的にできるというわけではなく『~できると思う』などと助動詞と動詞を織り交ぜた使い方もしますので、皆さんも混乱をしないように」
ブリーシンガルが壁時計を一瞥した。15時30分手前である。――最後の講義が終わる頃合いだ。彼女は息を吐いた。
「それでは皆さん。今日の課題は『日本語で三行日記を書く』というのにしましょう。もちろん三行以上でも可です。ひらがな、カタカナ、習いたての漢字を駆使して書いても良いので、ちゃんと書くように。――以上」
そしてブリーシンガルは教壇から降りてヒールの音を鳴らして去った。胸が大きく、足も長く、腰にくびれがあるプロポーションが良い体形に、シギュンは普段から思うことがある。
……ブリーシンガル先生って、あの巨大な眼鏡を外したらモテそうなのに。
なんとなく思いつつも大きく伸びをして、ノートに写したことを復習するのだ。
それはシギュンが日本にまだ不慣れだからというのもあるし、ヨルに「お前は普通に人間と触れ合えるのだから、普通の人間と交流をした方がいい」などと勧めてくれたからである。
しかしシギュンとしては、ヨルが唯一行っている在宅ワークの秘書をやりたい……なんて言っていたのだが、ほかの人間と関りを持った方がシギュンの為になるからと聞かなかったのだ。
だが、確かに入学をして良かったなと思う一面は多数あった。
自分のような褐色肌の生徒も居れば、きれいな白い肌を持った人間も居る。髪色も金髪や黒髪、人工的に染め上げた髪色を持つ者も居た。
皆それぞれ出身地は違い、アメリカから中国から韓国、オーストリアなど……複数の国が入り交ざっている。
そう思うと、サンクチュアリでしか知らなかった世界の大きさにシギュンは自分の無知さを再度確認し、ちゃんとこの日本という国で学び直そうと腹を括ることができた。
ヨルの手製弁当はほかの生徒からかなり好評である。
「うわぁ~! シギュンの弁当、良いな~。ハンバーグに、エビピラフとか、羨ましい!」
「しかもスープも付いているじゃん! 相変わらず料理上手だよね~」
共通語の英語で話しかけてくる生徒に、シギュンは嬉しさを抱きながら「作ってくれたんです」そう自慢をする。
ちなみに今日の弁当はエビピラフに煮込みハンバーグに、ブロッコリーとトマトのマリネに野菜炒めと、付け合わせにパンプキンスープが付いていた。
しかも今日は時間があったからか、デザートのアップルパイまで付いてきた。
「へぇ~、料理上手な彼女さんだな~。イブクロ、掴まれた……って言う、日本語で合っているか?」
そばかすを散らかせた白人で金髪の髪をしたアメリカ国籍の友人、レイフロが嬉々とした顔をしたシギュンへ笑いかけた。彼はシギュンの学校で一番仲良くしてもらっている存在である。
彼女……というより、将来の旦那ではあるが、彼女と言っているヨルの存在にシギュンは少し恥ずかしそうに軽く頷く。――周囲がヒューヒューなんて騒いだ。
「シギュンも隅に置けないよな~。やはり彼女持ちとはね~」
「でもシギュンくらいなら居ても当然でしょ? 見た目も良いし、性格も穏やかで優しいし丁寧だし」
シギュンの近くでベーグルサンドを食す女性、レイフロと同じアメリカ国籍だが褐色肌で黒い瞳の彼女……シェリーは自身と周囲を納得させるように頷かせた。
確かにそうだな、なんて言う声も上がりシギュンは褒められたことへ嬉しさと楽しさを実感する。
(これもヨルのおかげですね……。今日もヨルと待ち合わせて帰るから、ちゃんと教えないとです)
内心でヨルに感謝をし、周囲にもアリガトウゴザイマスと日本語でにっこりと笑いかければ、皆も嬉しそうに笑って茶化してきたのだ。
授業が最終講義となった頃。そろそろ疲れて眠くなる時間帯であった。
「つまり、日本では主語を省くケースが多々あります。『今日は眠いから』という構文があったとしたら、英語では『I,m sleepy,now.』と主語をはっきりさせます。ですが日本では、主語や物事を省略する傾向が強いのです。……その時には思い切って、誰が、なにを? というように、しっかりと把握させた方が良いでしょう」
長い金髪をなびかせた便底眼鏡の先生……ブリーシンガルが説明をしてホワイトボードへペンを走らせる。
すると生徒たちもノートやらルーズリーフにシャーペンで書き込んでいるので、シギュンも負けずにウサギ柄のペンで書き込んだ。――ヨルが買ってくれたものだ。
ブリーシンガルは続けて話す。
「またここからが難しい話ですが、日本語では助詞と助動詞というものがあります。助詞は、『は』、『が』など本体では意味がありません。主語とセットで使います」
(まずいです……。眠い、です……)
欠伸をするのを耐えたいが大きく口を開けようとしたシギュンは、右手で塞いだ。
「そして助動詞というのは『できる』『眠い』などと言った動きの状態を表します。ですが日本人は謙虚な文化があるので、断定的にできるというわけではなく『~できると思う』などと助動詞と動詞を織り交ぜた使い方もしますので、皆さんも混乱をしないように」
ブリーシンガルが壁時計を一瞥した。15時30分手前である。――最後の講義が終わる頃合いだ。彼女は息を吐いた。
「それでは皆さん。今日の課題は『日本語で三行日記を書く』というのにしましょう。もちろん三行以上でも可です。ひらがな、カタカナ、習いたての漢字を駆使して書いても良いので、ちゃんと書くように。――以上」
そしてブリーシンガルは教壇から降りてヒールの音を鳴らして去った。胸が大きく、足も長く、腰にくびれがあるプロポーションが良い体形に、シギュンは普段から思うことがある。
……ブリーシンガル先生って、あの巨大な眼鏡を外したらモテそうなのに。
なんとなく思いつつも大きく伸びをして、ノートに写したことを復習するのだ。
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