上 下
24 / 38

《学校》

しおりを挟む
 日本に来日をして一か月か二か月か経った頃。――シギュンは日本語を学ぶため、都内にある日本語学校に通うことになった。
 それはシギュンが日本にまだ不慣れだからというのもあるし、ヨルに「お前は普通に人間と触れ合えるのだから、普通の人間と交流をした方がいい」などと勧めてくれたからである。
 しかしシギュンとしては、ヨルが唯一行っている在宅ワークの秘書をやりたい……なんて言っていたのだが、ほかの人間と関りを持った方がシギュンの為になるからと聞かなかったのだ。
 だが、確かに入学をして良かったなと思う一面は多数あった。
 自分のような褐色肌の生徒も居れば、きれいな白い肌を持った人間も居る。髪色も金髪や黒髪、人工的に染め上げた髪色を持つ者も居た。
 皆それぞれ出身地は違い、アメリカから中国から韓国、オーストリアなど……複数の国が入り交ざっている。
 そう思うと、サンクチュアリでしか知らなかった世界の大きさにシギュンは自分の無知さを再度確認し、ちゃんとこの日本という国で学び直そうと腹を括ることができた。
 ヨルの手製弁当はほかの生徒からかなり好評である。
「うわぁ~! シギュンの弁当、良いな~。ハンバーグに、エビピラフとか、羨ましい!」
「しかもスープも付いているじゃん! 相変わらず料理上手だよね~」
 共通語の英語で話しかけてくる生徒に、シギュンは嬉しさを抱きながら「作ってくれたんです」そう自慢をする。
 ちなみに今日の弁当はエビピラフに煮込みハンバーグに、ブロッコリーとトマトのマリネに野菜炒めと、付け合わせにパンプキンスープが付いていた。
 しかも今日は時間があったからか、デザートのアップルパイまで付いてきた。
「へぇ~、料理上手な彼女さんだな~。イブクロ、掴まれた……って言う、日本語で合っているか?」
 そばかすを散らかせた白人で金髪の髪をしたアメリカ国籍の友人、レイフロが嬉々とした顔をしたシギュンへ笑いかけた。彼はシギュンの学校で一番仲良くしてもらっている存在である。
 彼女……というより、将来の旦那ではあるが、彼女と言っているヨルの存在にシギュンは少し恥ずかしそうに軽く頷く。――周囲がヒューヒューなんて騒いだ。
「シギュンも隅に置けないよな~。やはり彼女持ちとはね~」
「でもシギュンくらいなら居ても当然でしょ? 見た目も良いし、性格も穏やかで優しいし丁寧だし」
 シギュンの近くでベーグルサンドを食す女性、レイフロと同じアメリカ国籍だが褐色肌で黒い瞳の彼女……シェリーは自身と周囲を納得させるように頷かせた。
 確かにそうだな、なんて言う声も上がりシギュンは褒められたことへ嬉しさと楽しさを実感する。
(これもヨルのおかげですね……。今日もヨルと待ち合わせて帰るから、ちゃんと教えないとです)
 内心でヨルに感謝をし、周囲にもアリガトウゴザイマスと日本語でにっこりと笑いかければ、皆も嬉しそうに笑って茶化してきたのだ。
 授業が最終講義となった頃。そろそろ疲れて眠くなる時間帯であった。
「つまり、日本では主語を省くケースが多々あります。『今日は眠いから』という構文があったとしたら、英語では『I,m sleepy,now.』と主語をはっきりさせます。ですが日本では、主語や物事を省略する傾向が強いのです。……その時には思い切って、誰が、なにを? というように、しっかりと把握させた方が良いでしょう」
 長い金髪をなびかせた便底眼鏡の先生……ブリーシンガルが説明をしてホワイトボードへペンを走らせる。
 すると生徒たちもノートやらルーズリーフにシャーペンで書き込んでいるので、シギュンも負けずにウサギ柄のペンで書き込んだ。――ヨルが買ってくれたものだ。
 ブリーシンガルは続けて話す。
「またここからが難しい話ですが、日本語では助詞と助動詞というものがあります。助詞は、『は』、『が』など本体では意味がありません。主語とセットで使います」
(まずいです……。眠い、です……)
 欠伸をするのを耐えたいが大きく口を開けようとしたシギュンは、右手で塞いだ。
「そして助動詞というのは『できる』『眠い』などと言った動きの状態を表します。ですが日本人は謙虚な文化があるので、断定的にできるというわけではなく『~できると思う』などと助動詞と動詞を織り交ぜた使い方もしますので、皆さんも混乱をしないように」
 ブリーシンガルが壁時計を一瞥した。15時30分手前である。――最後の講義が終わる頃合いだ。彼女は息を吐いた。
「それでは皆さん。今日の課題は『日本語で三行日記を書く』というのにしましょう。もちろん三行以上でも可です。ひらがな、カタカナ、習いたての漢字を駆使して書いても良いので、ちゃんと書くように。――以上」
 そしてブリーシンガルは教壇から降りてヒールの音を鳴らして去った。胸が大きく、足も長く、腰にくびれがあるプロポーションが良い体形に、シギュンは普段から思うことがある。
 ……ブリーシンガル先生って、あの巨大な眼鏡を外したらモテそうなのに。
 なんとなく思いつつも大きく伸びをして、ノートに写したことを復習するのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...