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《怖いけれど優しいヒト》
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燐が深々と礼をするが、彼女のひどい火傷のような膿んだような傷跡にシギュンは絶句してしまう。なんと声を掛ければ良いのかわからないでいたのだ。その様子を見たヨルは立ち尽くしているシギュンへ声を掛ける。
「おい、シギュン。……大丈夫か?」
「はっ! あ、の……、シギュンと申します。よろしく、お願いします!」
とりあえず自己紹介をせねば! と考えて、シギュンも深々と礼をする。すると火傷の少女……燐は「顔を上げてくださいな」そう言ってシギュンの顔を上げさせて、ふわりと笑うのだ。
「私の顔が怖いのは承知ですが、そこまで怯えないでください。産まれた時からなのですよね、この傷跡は。……少しは治った方なのですが、あなたを怯えさせるつもりはないんです」
「えっと、あの……」
「まだ打ち解けるのは早いのは分かっておりますが、そんな緊張をなさらないで。……私は家族になる者には怒りもしますが、自分の家族を守れるような……そんな強い女性になりたいのです」
滔々と語る燐にシギュンは呆気に取られるが、彼女の覚悟にも魅せられたような気がした。……つまり彼女が言いたいのは。
「私を、家族だと認めて下さるのですか?」
すると燐は爛々と輝く森林のような右目と淀んだ左目を瞬かせ強く頷くのだ。
「あたりまえですよ。ヨル兄さまが決めたお相手ですもの。ヨル兄さまを傷つけることがない限り、あなたを兄さまの妻として見させてくださいな?」
儚げに微笑んだその美少女さにシギュンの心臓が掴まれた。彼女もヨルの遠い親戚でキョウダイであるからかもしれないが、丁寧な口調としぐさ、そして芯の強く美しい女性には惹かれるところがあったからだ。――だが自分には夫となるヨルが居るので、頭を振ったシギュンは誤魔化すように燐の手を取って握手をする。燐の右手は滑らかで陶器のように美しかった。
「こ、こちらこそ! まだまだ至らない点がありますが、よろしくお願いします!」
「ふふっ。でも、そうですね……。まだしないとは思いますけれど」
燐はシギュンの手を取りさらに笑った。左手は枯れ木のようにがさついていた。
「浮気なんてしたら、あなたを地獄に落としますから」
「え?」
恐怖の発言にシギュンの思考は一旦停止をし、傍から聞いていたヨルと聖は情けないくらい首を振っていた。
ショッピングモールへと周回をする四人ではあるが、燐の護衛の黒服はさりげない感じで彼女を守っている。シギュンは隣にいるヨルを引っ張ってから小声で尋ねるのだ。
「リンさんのおうちはゴクドウだって仰っていましたよね? 一体どういうことを……?」
「あぁ……、まぁ、うん。簡単に言ったら、金を貸して期日までに返さなかったら取り返すまで働かせる、みたいな? ……これ以上は、話さないでおくよ」
げんなりとした様子で話すヨルに疎いシギュンは疑問符を表したが、一応頷いておいた。
そんな彼らに聖は三人に向けて提案を持ちかける。
「ちょっと喫茶店にでも寄らないか~? 久しぶりに兄さんに会えたんだしさ~!」
「あら、それは良いですわ。聖兄さまもグッドアイディアですわね」
「ははっ。燐に言われるとなんだか照れるな~」
二人がにこやかに笑いかけるのでヨルは「いいよ」と言い、シギュンも続けようとして……視界がぐらついた。眩暈のような、辺りがぐらぐらしてチカチカする感覚に陥って崩れようとするシギュンを、ヨルが気づいて必死になって抱える。
「シギュン! 大丈夫か? ……やっぱり、俺の毒が原因か」
「毒って、兄さんのかい?」
「……あぁ。こいつは俺には触れられるが、……その代わり俺の毒に充てられるんだ」
皮肉だな、俺がお前を苦しめているのだなんて……なんて思っているヨルに、尋ねてきた聖は唾を吞み込んで「じゃあ、どうすれば助かる?」そう尋ねると、ヨルは頬を染めてか細い声で答える。
「……毒を吸い出すんだ。唇を通して」
「あら。結構ロマンチストですわね」
燐が医療班にスマホで呼びかけようとしていた手をやめる。それだったらさっさとキスでもなんでもして、シギュンを助ければ良いだけの話だ。さぁさぁ、早くキスでもなさってという他人事を言う燐と、じゃあ俺も見ておこうかな~なんて言う聖にヨルは激しく動揺した。
(いや、ここは人通り多いし! いくら俺たちが目立つからって、さすがに公衆の面前で……)
「うぅ……、ヨル……。苦しい、です……」
しかし隣で支えているシギュンは非常に辛そうな顔をしていて、このまま毒に充てられ続けて苦しむのも嫌であった。――それは避けなければならなかった。
だからヨルは意気込んでは「シギュン……」そう呼びかけてから、薄い唇に渇いた厚い唇を重ね、絡めるように舌を入れて吸い出した。
「んんぅ……んぅう……、シ、ギュン……」
必死に毒を吸い出しているのはヨルにとっては救命行為だが、ほかの人間は違う。赤い髪の美青年が顔を熟れたトマトのように必死になって、褐色肌で金髪の男にキスをする光景は……なんとも不思議で魅惑的であった。
そのおかげでスマホで写真を撮る人間が続出した。
「うひゃ~、こりゃまたロマンチックな……。なぁ、燐?」
「そうですわね。意外と男同士でも見られることに、私は驚いていますわ」
率直な意見を告げている二人に対し、キスをされているシギュンはまだまだへたくそなヨルのキスに不満があったようで、追加で熱いキスを送ったという。
「おい、シギュン。……大丈夫か?」
「はっ! あ、の……、シギュンと申します。よろしく、お願いします!」
とりあえず自己紹介をせねば! と考えて、シギュンも深々と礼をする。すると火傷の少女……燐は「顔を上げてくださいな」そう言ってシギュンの顔を上げさせて、ふわりと笑うのだ。
「私の顔が怖いのは承知ですが、そこまで怯えないでください。産まれた時からなのですよね、この傷跡は。……少しは治った方なのですが、あなたを怯えさせるつもりはないんです」
「えっと、あの……」
「まだ打ち解けるのは早いのは分かっておりますが、そんな緊張をなさらないで。……私は家族になる者には怒りもしますが、自分の家族を守れるような……そんな強い女性になりたいのです」
滔々と語る燐にシギュンは呆気に取られるが、彼女の覚悟にも魅せられたような気がした。……つまり彼女が言いたいのは。
「私を、家族だと認めて下さるのですか?」
すると燐は爛々と輝く森林のような右目と淀んだ左目を瞬かせ強く頷くのだ。
「あたりまえですよ。ヨル兄さまが決めたお相手ですもの。ヨル兄さまを傷つけることがない限り、あなたを兄さまの妻として見させてくださいな?」
儚げに微笑んだその美少女さにシギュンの心臓が掴まれた。彼女もヨルの遠い親戚でキョウダイであるからかもしれないが、丁寧な口調としぐさ、そして芯の強く美しい女性には惹かれるところがあったからだ。――だが自分には夫となるヨルが居るので、頭を振ったシギュンは誤魔化すように燐の手を取って握手をする。燐の右手は滑らかで陶器のように美しかった。
「こ、こちらこそ! まだまだ至らない点がありますが、よろしくお願いします!」
「ふふっ。でも、そうですね……。まだしないとは思いますけれど」
燐はシギュンの手を取りさらに笑った。左手は枯れ木のようにがさついていた。
「浮気なんてしたら、あなたを地獄に落としますから」
「え?」
恐怖の発言にシギュンの思考は一旦停止をし、傍から聞いていたヨルと聖は情けないくらい首を振っていた。
ショッピングモールへと周回をする四人ではあるが、燐の護衛の黒服はさりげない感じで彼女を守っている。シギュンは隣にいるヨルを引っ張ってから小声で尋ねるのだ。
「リンさんのおうちはゴクドウだって仰っていましたよね? 一体どういうことを……?」
「あぁ……、まぁ、うん。簡単に言ったら、金を貸して期日までに返さなかったら取り返すまで働かせる、みたいな? ……これ以上は、話さないでおくよ」
げんなりとした様子で話すヨルに疎いシギュンは疑問符を表したが、一応頷いておいた。
そんな彼らに聖は三人に向けて提案を持ちかける。
「ちょっと喫茶店にでも寄らないか~? 久しぶりに兄さんに会えたんだしさ~!」
「あら、それは良いですわ。聖兄さまもグッドアイディアですわね」
「ははっ。燐に言われるとなんだか照れるな~」
二人がにこやかに笑いかけるのでヨルは「いいよ」と言い、シギュンも続けようとして……視界がぐらついた。眩暈のような、辺りがぐらぐらしてチカチカする感覚に陥って崩れようとするシギュンを、ヨルが気づいて必死になって抱える。
「シギュン! 大丈夫か? ……やっぱり、俺の毒が原因か」
「毒って、兄さんのかい?」
「……あぁ。こいつは俺には触れられるが、……その代わり俺の毒に充てられるんだ」
皮肉だな、俺がお前を苦しめているのだなんて……なんて思っているヨルに、尋ねてきた聖は唾を吞み込んで「じゃあ、どうすれば助かる?」そう尋ねると、ヨルは頬を染めてか細い声で答える。
「……毒を吸い出すんだ。唇を通して」
「あら。結構ロマンチストですわね」
燐が医療班にスマホで呼びかけようとしていた手をやめる。それだったらさっさとキスでもなんでもして、シギュンを助ければ良いだけの話だ。さぁさぁ、早くキスでもなさってという他人事を言う燐と、じゃあ俺も見ておこうかな~なんて言う聖にヨルは激しく動揺した。
(いや、ここは人通り多いし! いくら俺たちが目立つからって、さすがに公衆の面前で……)
「うぅ……、ヨル……。苦しい、です……」
しかし隣で支えているシギュンは非常に辛そうな顔をしていて、このまま毒に充てられ続けて苦しむのも嫌であった。――それは避けなければならなかった。
だからヨルは意気込んでは「シギュン……」そう呼びかけてから、薄い唇に渇いた厚い唇を重ね、絡めるように舌を入れて吸い出した。
「んんぅ……んぅう……、シ、ギュン……」
必死に毒を吸い出しているのはヨルにとっては救命行為だが、ほかの人間は違う。赤い髪の美青年が顔を熟れたトマトのように必死になって、褐色肌で金髪の男にキスをする光景は……なんとも不思議で魅惑的であった。
そのおかげでスマホで写真を撮る人間が続出した。
「うひゃ~、こりゃまたロマンチックな……。なぁ、燐?」
「そうですわね。意外と男同士でも見られることに、私は驚いていますわ」
率直な意見を告げている二人に対し、キスをされているシギュンはまだまだへたくそなヨルのキスに不満があったようで、追加で熱いキスを送ったという。
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