赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《妹》

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 車で三十分ほどが経ち、大型ショッピングモールへと着いた三人ではあるが、シギュンは母国とは違う街の風景にまたもや声を上げる。
 初めに着ていた服とは違っていて周囲は古風な服ではなく、ラフな服が多いことや家族連れが多い。自分の国は教会がメインだったので、ラフな服を着る者はたいてい刺青をしていて人相が悪かった。――だがこの国は、自分と同じ外国人もいるものの人相はさほど悪くはない。皆、幸せそうな感じがした。
 巨大なショッピングモールを車中で見て、シギュンはふぅと吐息を吐く。
「こんな大きい建物は初めてです……。すごいです!」
「俺も久しく見ていなかったな~。こんな場所あったっけ?」
 ヨルも久しぶりの日本を見て懐かしさを感じつつも疑問を抱けば、運転席にいる聖が少しニヤつきながら自慢げな顔をした。
「ここは大狼司グループが新しく開発したところでね~。いや~、そう褒めてくれると照れるな~」
「いや、褒めてないからな?」
 突っ込みを入れるヨルではあるが、聖はそれでも嬉しそうだ。しかしシギュンは二人の容姿もそうだが、名字も気になった。日本ではキョウダイでも名字が違うのかと思ったのだ。だから彼は呆れているヨルへの腕を引っ張る。「どうした?」ヨルが不安げな顔をするシギュンへ尋ねると、彼は思い切って聞いてみることにした。
「ヨルのおうちはヒジリさんとは違うのですか? 瞳以外、顔も全然違いますし、名字も違いますし……。それは、どうして?」
 尋ねては駄目だったかもしれないが聞かずにはいられなかったシギュンに、ヨルは合点が言った様子で「あぁ、それね」と答えを示した。
「聖も妹も遠い親戚なんだよ。キョウダイだとわかったのは、親戚の集まりで互いの能力を見て知ったんだ」
「……能力ですか?」
「あぁ、特に妹の能力は俺よりも怖いし強いからな~。初めて妹を怒らせて、喧嘩になったときにわかったっていうのもあるし。それに」
 ――俺が触れても、死ななかったから。
「だから本当に血の繋がっているキョウダイってわかったわけ」
「……ヨル」
 シギュンはヨルが今までどんな人生を歩んでここまで来たのかが猛烈に知りたくなったが、白色のベンツは駐車場へと向かっていた。
 大型の駐車場へと車を進めていくと、それぞれの車が停まっていたが、かなり幅のある車……そう、黒い車体のリムジンが黒スーツの男たちを携えて鎮座されていた。
「あれは、なんですか?」
 なんだかすごいものでも見てしまったかのようなシギュンにヨルは視線を向けた。
「あぁ、妹の車……かな。こりゃすごいな~。リムジンで来たとはな~」
「リムジンって! この車もそうですけれど、高級な方が乗る車じゃないですか!? どういう経緯で――」
「妹のりんは”極道”……まぁ、シギュンの国で言う”マフィア”って言うのかな。その跡取り娘だから」
「え!?」
 さすがにマフィア発言には恐れおののき飛び上がったシギュンだが、「下手なことしなければ怒らないから平気だよ」そうヨルは伝えて、彼をなだめた。が、やはりシギュンは怖かった。
(そんな、かなりの悪人が妹さんだなんて……。どういう方なのでしょう? 果てしなく怖い方なのでしょうか)
「お~い。兄さんも、青ざめているシギュンさんも。着いたからちゃんと降りて、燐と合流するぞ~」
 いつの間にかバックをして駐車場に停車させた聖に、ヨルは礼を告げて冷や汗を掻いているシギュンの手を取る。……そして、囁くように慰めた。
「燐の顔は怖いけれど、家族の為ならちゃんと怒れる優しい子だから。そう、怯えるな。大丈夫だからさ」
「うぅ……」
「大丈夫。……俺を信じろ」
 ヨルが手を握り締めて緑色の瞳でシギュンを真剣に見つめる。新緑よりも深い緑は自分を安心させるように心地が良い。――だからシギュンも握り返す。
「信じます。あなたの為ならば」
「ありがとう、な」
 少し照れくさそうに笑う一目惚れ相手に鼓動を跳ねさせるシギュンと「……俺も居るんだけど」なんて言うかわいそうな伊達男と一緒に車を出れば、一人の少女が黒服に塗れた男たちのなかで声を発する。
「あなたですか。……兄さまの伴侶となるお方は?」
 透き通っていてこれまた滑らかな発音で尋ねられたのでシギュンはその顔を見て……驚いた。服装は自分が見たことがないものだが、左の首筋から額にかけて火傷のような跡があり、長い赤い髪と深緑の瞳はヨルにそっくりであった。
「初めまして。りん 獄曄ごくばなと申します。よろしくお願いします」
 礼儀正しく着物を着た少女は、小娘相手に怯えている大男に恭しく礼を済ませるのだ。
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