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《来日》

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 長旅を経て乗り継ぎをし、やっとの思いで日本に着くことができた。
「あ~、やっと着きましたね~! ここが日本なんですか~!」
「日本って言ってもまだ空港だけどね。シギュン、お腹空いただろ? 食べに行こうよ」
 手続きを終えてかばんを携えたヨルと大きなトランクに物がいっぱい入っているシギュンは「はい!」そう言って隣を歩く。
 空港の近くにハンバーガー屋さんがあったのでシギュンに尋ねれば、不思議そうな顔をして頷いた。どうやらハンバーガーというものを食べたことがないらしい。
 店員にメニューを注文し、席について待つことができた。そしてお目当てのジューシーアボカドハンバーガーが出てくると、シギュンは海のように深い瞳を輝かせて店員から受け取ってくれたのだ。
「うわぁ~、なんだかすごいです! 美味しそう~!」
「ほらシギュン、食べたいのはわかるけれどその前に、だ」
 今にも手を出しそうなっているシギュンをヨルは頬を少し緩ませて手を取り、両手を合わせさせた。少し吊り上がっている翡翠の瞳が下がって笑う姿にシギュンは見惚れつつも、彼の手を離したヨルも鏡合わせのように手を合わせる。
 ――もっと触れて欲しいとシギュンは願ってしまう。
「はい、いただきます」
「……イタダキマス」
 初めて食したハンバーガーは濃厚な味わいとジューシーな肉汁に溢れていたおかげで、シギュンは目を丸くして「美味しいです!」と無邪気に食していた。
 その姿をヨルは顔を綻ばせて自身も食していく。やはり美味しい。でも一番は、キョウダイ以外で食事を摂ることが最高のスパイスだとなんとなく思った。
 ハンバーガーを食しながらヨルは「そういえば……」そう言ってメロンソーダを飲んでから一息吐いてシギュンに尋ねる。向かいに居るシギュンはハンバーガーを食し終えて熱々のポテトをふぅふぅと吹きかけていた。
「お前、なんで”パスポート”なんて持っていたんだよ? あの国から出ようとしていたのか?」
 すると彼はポテトを口に含んだ。
「むぐっ……。あぁ、”神の啓示”を受けたから、そのパスポートっていう奴を取得しました?」
「神の啓示?」
 オレンジジュースを飲んでからシギュンはよく見る夢のことを想起して話し出す。
「普段からある夢を見ていました。……私が一人の青年と一緒に空を飛ぼうとしたのですが、飛べずに彼が悲しそうな顔をして言ったんです」
 ――チケットを取って。
「チケットを……取って?」
 どういう意味だと考え込むヨルにシギュンはその夢の語りべのような発言をする。
「私はチケットという意味がわからなくて、初めはゼウス様に質問に行こうとしましたがやめました。夢がそう言っていた気がしたからです。だから私はその夢の意味をスマホで探して、パスポートという存在を知ったのです。夢の……神の啓示のおかげで、無知な私は取得することができました」
 お金はかかりましたけれどね? なんて言ってにっこりと人の良さそうな笑みをするシギュンに、ヨルは少し目線を下げて考え込む。
(夢か……。偶然にしては俺と出会うのにも遅すぎるもんな。……じゃあシギュンはその夢のおかげでパスポートを、ね)
 だがそれでもシギュンはポテトを完食して「ゴチソウサマデシタ」習いたての日本語で手を合わせて、また微笑む。
「初めはどういう意味なのかがわかりませんでしたが、私は待っていて良かったです。だってあなたに――ヨルに出会えましたから」
 口説き文句のように紡ぐ彼に、ヨルは頬を染めてメロンソーダをストローで含んだのだ。
 家に帰る前にシギュンの服を買いに行こうとヨルは控えめな様子で誘った。
「疲れているだろうから明日でも良いんだけどさ。……お前、ほかの服もシスターの服か際どい服だろう?」
「……際どい? ヨルはそう思うのですか?」
「いや、人の服にケチを使うのは良くないのは知っているんだけどさ、まぁ……。胸がはだけていて、ほとんど裸の服は良くないかな……とか思って」
 シギュンの服を思い出しては恥ずかしそうに顔を真っ赤にするヨルに、シギュンの妄想が広がる。
(ヨルは本当に恥ずかしがり屋で可愛らしいです。……あぁ、今すぐその顔を見せながら、私を辱めて犯して欲しいくらいで――)
「おい、シギュン?」
 シギュンがピンク色の妄想を繰り広げているなかで、ヨルは戸惑いを抱いて彼に声を掛けるのだ。
 空港内にて、大型店舗の服を見ながら悩んでいるシギュンとヨルは一旦、席を外してから一緒に選んでくれていた。キョウダイに電話を掛けたらしい。
「これなんてどうでしょう?」
 どこで見つけたのだろう腹部が開いていて胸まではだけている服を見たヨルは購入しないで、白シャツにニットとデニムジーンズという服を数点購入させたのだという。……シギュンは少しふてくされていたが。
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