赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《契約のキス》

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 現場を目撃してしまったシギュンにヨルは諦めたように、少し唇を緩ませては謝罪をした。
「ごめん。嫌なもの見せてさ。俺はこういう人間なんだ。罪を被った人間だから、自分に触れた人間を……焼き殺してしまうんだ」
 なにも言葉が出ない。どういうわけかわからない。
 ただ、青年が……ヨルがひどく痛むような顔をしているが気が気でならない。呆然と立ち尽くすシギュンへ淡々と語る。
「俺の前世は最低野郎でさ。償ったんだけど、親父の罪は許されなかった。俺の親父は世界の終焉に向かわせたキッカケを作ったし、元来、嫌な奴なんだ。……でも、親父はそれが今も苦痛で仕方がなくて、許せなくて今もどこかに居て。だから俺は、親父の罪が少しでも晴れるように、親父の前世のすべてを、すべての罪をもう一度被ったんだ」
「……どうしてそんなことを?」
「この世界をまた壊したくないからさ」
 壮絶すぎる言葉にシギュンは絶句する。だがヨルは自分を助けてくれたのだ。無理強いで犯されそうになった自分を助けてくれたダークヒーローのように思ってしまう。
 ――そう思うとますます、恐れを通し越して”知りたい”と考えてしまうのだ。そう思うと、シギュンは変わった趣向の人間らしい。
 だがヨルはそうはいかない。
「まぁ、そんなわけだから。俺はこの国を去るよ。……やっぱり、この国もダメだったか~」
 焼いてしまった罪人に手を合わせて去ろうとするヨルに……シギュンはとっさに手を掴んだのだ。さすがに驚いて目を瞬くヨルに、シギュンは言葉を紡ごうとした……瞬間、上体を崩して草花に倒れ込んでしまう。
 ヨルにもいったいどういうわけなのかわからなかった。
「おい! おい、大丈夫かよ?」
 呼んでみても口を開閉して青ざめていくばかりでシギュンは動けない。動こうとすると縄できつくぐるぐると巻かれて縛られたような痛みを発するからだ。
 「どういうことだ……?」考え込むヨルではあったが、自身の特性とシギュンの……父親の正妻がしたことを想起した。
(そうだ。親父は毒蛇の毒を壺に溜めてもらって拷問を耐えていたんだよな。……そして俺は本来、”毒蛇”を司るモノ)
 ここでヨルは自分がなにをすれば良いのかがわかったような気がした。シギュンと束の間であったが楽しい時間をくれた。人間に触れられた。一目ぼれしたと言ってくれた。情けない話だが、そう告げられたのは初めてであった。
 だからいかにも息絶えそうなシギュンへ、ヨルは「ごめん、これでいなくなるから」そう言って、恐々として唇に触れて毒を吸いだしたのである。
 ――初めてのキスだった。罪人がこんな真似をしてもいいのかさえ思った。でも人命救助が今は先決だ。これ以上、死人を増やしたくなどない。
 ヨルは必死にシギュンの魅惑的な厚い唇から毒を吸いだし、吐き出した。自分の毒は苦いのに、今日はほのかに甘く感じられる。どうしてなのかわからない。
 すべての毒が吸い出されたかと思い、ヨルはぼんやりと見つめるシギュンへ尋ねる。
「ふぅ……。おい、息できるか?」
「……」
 虚空を見ていたシギュンの瞳がぐるりとヨルを見た。褐色肌に似合わない青い瞳は熱が込められている気がする。ヨルはどうしたら良いのかわからずに離れようとしたが、背中を屈強な腕で掴まれ抑え込まれ、シギュンの眼前までいってしまう。
「お、お前?」
 戸惑いを抱くヨルにシギュンは悪戯に笑った。
「へたくそ」
 すると流れるような動作でシギュンは唖然とするヨルの薄い唇を開いたかと思えば、そっと舌を入れてきたのだ。ヨルは焦って逃げようとするが、強く抱き締められているので逃げられない。
 淫靡な音を立ててなぞるようにキスをしてくるシギュンに、ヨルは戸惑いと快楽に目覚めてしまう。
 ……あぁ、キスってこんなに気持ちが良いんだ。
「ふぅ……んぅ……」
 息苦しさもあって涙を零しそうになるヨルを見て、シギュンは軽くキスをして離れる。そして胸を上下にして呼吸を整えるヨルへ、シギュンはしたたかに笑うのだ。
「キス、気持ちが良かったでしょう? 自分で言うのもなんですが、私は上手な方なのですよ」
「じ、ぶんで、言うな……!」
「あは。かわいいヒト。……食べてしまいたい」
 口説き文句にヨルはさらに顔を紅潮させてそっぽを向くが、それに構わずにシギュンはあることを話し出す。
「そういえばですが、この広場には掟があるのです」
「……掟?」
 なんだそれ? というヨルにシギュンは興奮交じりで告げるのだ。
「この広場で太陽が頭上に上がりキスをし、応えた者にはが約束されるのです」
「…………はい?」
 一瞬、なにを言っているのかがわからなかった咎人は呆然とした顔を見せたのだ。
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