赤髪の免罪

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《奇妙な噂》

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 東ヨーロッパのある国には確立された集落があった。……その名も聖域サンクチュアリ。集落というよりかは支援団体が集結してできた小国である。
 その国はある神話を模倣して作られたルールがあり、そのなかには突飛すぎるものがある。――愛こそが正義。これが一番なのだ。
 金も大事なので献金も募るが、第一に自分の”性欲”を大事にするというおかしな掟なのだ。
 異性だろうが同性だろうが、精通していて近親者でなければ誰とでも結婚してもいいという、普通の信仰であったら頭が痛くなりそうな宗教。
 ……その信仰者の一人の大男は、夜の営みから家を出て礼拝堂へ向かった。彼は異国の地が混ざっているのか褐色肌ではあるが、筋肉質な身体で情事以外は身体を隠すように白と黒の修道服を着ている。
 そしてあどけない顔立ちは人の良さそうな顔をしていて、いかにも困っていそうな人が居たら助けてしまいそうな……不幸を自分が喜んで買ってしまいそうないで立ちだ。――だから彼には蝶も寄ってくるがハエも寄ってきてしまう。
 男は豪奢な礼拝堂に入室し、ある老人の前で跪いた。
「ゼウス様。ミサの時間に遅れてしまい申し訳ありませんでした」
 ”ゼウス”と呼ばれた老人は、椅子に座って足を組んだかと思えば息を吐いた。老人の割には肌がよく、程よい筋肉を保って黒いベースの修道服を着こんでいる。
「お前な……、また嫌な虫たちと戯れていたのだろう? あいつらはお前を”性玩具”としか思われていないと忠告したはずだが」
 ゼウスの発言に男は視線を罰が悪そうな顔をした。
「すみません……。ですが、ゼウス様! 愛は正義だと――」
「人間と見ない人間は論外だ。あぁかわいそうに……。首筋に嫌なあとがついている。あのような虫けらの分際が……」
 すると男は首筋に付いた青い痣を隠すように修道服を着なおした。確かにゼウスの言う通り、今、性行為をしている相手は最初一人であったが、次第に増えていき、今では三人がかりで相手することがあった。もっと多い時もあった。
 相手をするのは苦しかったが、相手が自分で満たされたような顔をされると嬉しくなって行為に励んでしまうのだ。
 そんな彼にゼウスは祈りを込める。
「あぁ神よ。わたくしもなんとかさせていただきますが、どうか”シギュン”に群がるハエどもに鉄槌を与えてください」
「……ゼウス様」
 ゼウスは神仏の象徴する像に祈るように手を組んで合わせた。シギュンはなんとも言えない複雑な気持ちになってしまうが、彼の心情と打って変わってゼウスはある噂を口にした。
「そういえばだが、この聖域サンクチュアリによそ者が現れたそうだ。そいつは罪人で、なんと死人を出させたのだ」
 滔々と話していくゼウスにシギュンは身震いをしてしまう。まさかこの地区に死人を出させるなんて思いもしなかった。
 性犯罪に走る人間はしょっちゅうあるのだが、この地区では警察と連携をして対策を練って罪を課している。しかし、死人が出るというのは驚きであった。
「その、その人は今もここに……?」
「おそらく今も居るはずだ。だが滑稽なことに、殺された死人は警察へ逮捕間際になっていたし……それに、お前に害を成したハエの一人だ。これを良いと言ってか、悪いと言ってかと言われると、私はこの聖域サンクチュアリのゼウスで良かったなと思ってしまう。……しかも焼身だぞ? 罪人にはふさわしいではないか」
 ゼウスがどこか満足げな顔をして雄弁に語るが、被害者であったシギュンは思い詰めたような顔をして彼の言葉を反芻する。
(焼身……焼き殺したのか。でもいったいどうして?)
 疑問が募るが、シギュンは疑問を傍らに悪戯に笑うゼウスへこのような申し出をした。
「ゼウス様。ミサにも遅れてしまいましたし、助言も受けさせていただきました。……なのでお詫びと言ってはなんですが、買い物に行かせてもらえせんか?」
「今日はお前の担当ではないぞ?」
「いえ、それでもさせてください。……今日から、家にいるあの者たちを穏便な形で出て行かせます。ゼウス様のお力を煩わせてしまうのは忍びありません」
 そう言ってゼウスに一礼をしたかと思えば、シギュンは「行って参ります」と言って踵を返すのだ。
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