男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する

こる

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第七章

■五月山修羅は第一騎士団長に発破を掛けられる

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□修羅サイド□


「迂闊だろう、馬鹿者が」

 ジェンドに襟首を掴まれて引きずられた先で、説教の続きが開催された。ジェンドの怒気に自発的に正座をして、しおらしく項垂れる。

 宿舎にある共用の応接室のソファの背に立ったままもたれ、腕組みをしたジェンドが修羅を睥睨する。

「わかっているのか、いまが正念場なんだ。あれが、地位を確立できるか否か。もしあれがここで折れるならば、今後我が国に女性騎士は誕生せぬだろう」

「ですがっ、バルザクト様ひとりで、なにができるんですかっ。女性の騎士団を作りたいのならば、もっと大々的に募集をするなりなんなりしないと、無理でしょう」

 思わず顔を上げて言い返した修羅に、ジェンドは口元を歪めて鼻を鳴らす。

「わかっている。だが、志を持つ者を見つけるのに、彼女はよい旗印となるだろう」

「でも、バルザクト様のような、身体能力や根性のある女性なんて、そうそう居ないでしょうっ」

「居ないと断じるのはちがうだろう? 現に、バルザクトはできている」

 あれは彼女だからこそと訴えたところで、あり得なかったゼロが一になったという現実は、二や三があってもおかしくはないという事実を指している。

 それがわかるから、修羅も黙るしかない。

「実際に、女性の騎士団が運用されるようになるには時間がかかるだろう。だが、いまはじめねば、その時すら来ぬのだ。わかれ」

 理解しろと押しつけてくるジェンドに、修羅は俯いて歯がみする。

 そんな彼を見下ろしながら、ジェンドは更に爆弾を落とす。

「私に、彼女との縁談が持ち上がっている」

「は? はぁっ? え? 早すぎませんかっ」

 なくはないと思っていた。未婚の第一騎士団長と女性初の騎士の婚姻は、あり得ない話ではない。いやむしろ、バルザクトがジェンドの妻となるならば、彼女に近づく男がいなくなるわけだからメリットしかない。家格の違いなど、今回に至っては問題視されないだろう。

「私も、悪くはないと思っている」

 そうジェンドが言った途端、修羅からおびただしい殺気があふれ出し、ジェンドはにやりと口元を緩ませた。

「若いな、いや、青いと言ったほうがいいか、小僧」

「バルザクト様は、誰にも渡さない――俺のものだ」

 片膝を立ていまにも飛びかからんばかりの態勢で、射殺さんばかりに睨み上げてくる修羅に、ジェンドは胸の内がゾクゾクとするのを感じて凶悪に笑った。


「よかろう、我を通すならば、相応の力を見せてもらおうか。来い、存分に戦える場所に移るぞ」





 第一騎士団と第二騎士団が訓練に使っている訓練場に、修羅は怒りを持ったまま立っていた。
 正面には修羅と同じ訓練用の剣を持ったジェンドが自然体で立っている。

 先程までここで訓練していた騎士達はフィールドから出て、成り行きを見守っていた。

「いつでもいいぞ、なんならこちらから行こうか?」

 柔らかな声音で、笑みすらのせて言うジェンドに、修羅は低く腰を落とす。

「ぶっ潰す」

 怨嗟めいた低い声と共に、修羅が飛び出した。

 鋭い剣先がジェンドの胴を薙ぎにいくが、素早く後方に跳んだジェンドにかすりもしない。返す剣で連激を繰り出すが、それもすべてジェンドの剣に捌かれて傷つけることはできない。

「単調だな。彼女は機動力を活かして、もっと私を翻弄したぞ?」

 揶揄う口調で言うジェンドに、修羅の眦が上がる。

「あの人とやったのかっ」

「ああ。実に楽しかったよ」

 ニヤリと口の端をあげるその横っ面に、剣を手放した修羅の拳が迫るが、紙一重それを避ける。

「動きが鈍いのではないかね? それに、剣を手放してどうする、貴様は騎士だろう」

 突き上げるように放たれたジェンドの一撃を躱したと思ったその顎に、強烈な回し蹴りが入った。
 弧を描いて吹っ飛ぶ修羅は、消えゆく意識に歯を食いしばり、空中で回復魔法を行使する。着地寸前に体を反転させ、四つん這いになりながらもなんとか姿勢を立て直した。

「お前たちは、実に面白い。そら、忘れ物だ」

 ジェンドは足先で跳ね上げた剣を掴み、それを修羅に向けて投げる。
 己に肉薄する剣の柄を違えず掴んだ修羅は、口の端から零れた血を手の甲で拭った。

「なかなかえげつないですね、ジェンド団長。おかげさまで、すこし頭が冷えました」

 血の混じる唾液を吐き出して苦く笑う修羅に、ジェンドは晴れやかな笑みを浮かべる。

「それはよかった。私も、やっと体が温まってきたところだ、もうすこし楽しませてもらえそうで嬉しいよ」

 その後の戦いは、第一騎士団でも指折りの激しい戦いだったと、観戦していた騎士達は言う。ジェンドの本気の戦いを見た若い騎士は慄き、古参の騎士達はかつての内乱で名を上げたジェンドの二つ名を思い出していた。





 満身創痍、回復魔法も尽きて地面に仰臥する修羅を、こちらもかなりくたびれた様相のジェンドが見下ろす。


「守りたいのならば、力を手に入れろ。手は貸してやる」



 ジェンドの言葉を聞きながら、借りにするのは恐ろしいので、迷宮暴走の情報と相殺してもらう方法を模索した
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