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第七章
□食欲解禁
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王太子殿下と王太子妃殿下が退室されたが、目の前のテーブルには少々冷めてしまった料理が私が食べるのを待って並んでいる。
「そうか……もう、食べてもいいのか」
その最初の食事が、王宮の料理なのだから贅沢なことだ。
まずは空腹を満たそう、それからゆっくり考えればいい。回復するまで猶予をいただけるようだから。
空腹に背を押されるように、食事に手を伸ばした。
二日ぶりということで配慮された食事の味は優しく滋味深く、私の心を温める。ゆっくりと味わい、満たされるまで食べることができる喜びと、食事のおいしさに感謝する。
その後、王太子殿下の配慮で寄越された医師の診察を受け、身体の不調はなくとも体にひどい無理を掛けたのだからとにかく寝て休めとの指示を受けた。
「それにしても、魔力が肉体を補完するというのは、従来から予測されていたことだが、本当だとすれば実に興味深い」
また暇な時に話を聞かせて欲しいと言う医師を見送ると、部屋についてくれていたメイドがベッドで休むことを勧める。
「先生も、まだ本調子ではないから、しっかり休むようにとおっしゃっていたではありませんか。眠気はなくとも、ベッドで体を横にするのも大切ですよ」
年かさのメイドの言葉に、そういうものかと納得して言葉に従うことにした。
「ありがとう、そうします。ああ、そうだ。私が着ていた服はご存じありませんか? あれは、人からもらったもので、大切なものなのですが」
シュラからもらった値段の付けられない装備について尋ねると、一式をすぐに持ってきてくれた。
「こちらに居るときは、その制服をご着用くださいましね。では、そちらの寝間着に着替えて、ごゆっくりおやすみください。御用の際は、そちらのベルで合図いただければ、うかがいますので」
「わかりました、ありがとうございます」
にっこりと笑って部屋を出る彼女を見送り、言われたとおり用意された服に着替える。……女物の寝間着は久し振りで、なんだか罪悪感を感じてしまう。
「こんなに足元がスカスカするものだっただろうか……」
丈は長いが、裾が開いているのがとても心許ない。昔は平気で着ていたはずなのに。
そそくさとベッドにあがったものの横になってしまう程ではないかと、枕元にクッションを寄せて背を起こして座った。
片膝を立ててそこに顎を乗せて、正面にある窓の外を見るとはなしに見ていた。
昼をまわったばかりの空は澄み渡っていて、鳥が飛んで行く。
昨日……いや一昨日の殺伐とした怒濤の一日が嘘のようだ。
その窓から、コツコツとノックする音が聞こえ、息が止まりそうになった。
慌ててベッドを降りて靴も履かずに窓に寄り、ドアを上にスライドさせて止めてから、数歩横にずれて場所を空ける。
避けた私の前に風が通り過ぎ、部屋の中に漆黒で身を固めたシュラが立っていた。
「バルザクト様……っ」
大股で距離を詰めた彼の掠れた声に名を呼ばれ、その腕の中に閉じ込められる。力強いその腕に安堵した、あの日酷く負傷していた腕は問題なく回復したのだ。
そっと彼の背に腕を回し、その肩に頬を寄せる。
「無事で、よかった。これで、シュラが気にしていた未来は、最悪を回避したのだな?」
「はい……っ、はい、王都の被害ゼロ、主要人物は全員生還、かつて無いハッピーエンドです、バルザクト様のお陰――」
喋る彼の唇に、唇で軽く触れて止める。
驚き見開く漆黒の目を見つめ、微笑んだ。
「お前が頑張ったからだよ、シュラ」
「バル……ザクトさま……っ」
彼の瞳が潤み、そこからボロボロと涙がこぼれ落ちる。涙が出るほど頑張ったのだ、短い時間でこれほど逞しくなるほど、自らを酷使し運命に立ち向かった彼に愛しさが増す。
「よく、頑張った」
あやすように背中を撫でると、苦しいくらいに抱きしめられた。
「――バルザクト様が、生きてて、よかった……っ」
耳元で苦しげに吐き出された言葉に、私も泣きそうになる。そうか、シュラは私を生かすためにこれほどまでに頑張ったのか。
「ありがとう、シュラ。お前……いや、あなたのお陰だ」
お前、などと不遜には呼べない。
少しだけ体を離し、見下ろしてくる彼を見つめるが、視線が……強烈に胸元に注がれている。
寝間着を押し上げている胸は間違いようもなく豊かで、彼に押し当てる格好になっていることに気付いた。私は、なんて破廉恥なことを……っ。
慌てて身を離そうとするが、腰にまわった彼の手がそれを許さない。
「す、すまないシュラ。こんな格好でっ、いま着替え――」
「全然大丈夫ですっ」
「大丈夫なわけがあるか、馬鹿者。悪いが、少しの間、向こうを向いていてもらえるか。すぐに着替える。あなたに見てもらいたい服があるんだ」
「お、俺に、ですか? あっ、俺もっ、いえ、自分も着替えますっ!」
そう言ってシュラが後ろを向いたのを確認して、私はベッドサイドに畳んでおいた騎士服に着替えた。
振り向いたときには、シュラはもう着替えを終えていた。
その装いを見て、思わず頬が緩む。
「ああ、シュラ。騎士服がよく似合う」
凜々しく騎士の制服を着こなす彼を、喜びと共にしっかり見つめる。騎士に昇格したのだろう、例にない早さでの従騎士からの昇格だがすとんと納得できてしまう。
「バ、バルザクト様……それ……っ。かっこいい、ですっ」
私の騎士服を見た彼の表情が、晴れやかになる。
「王太子妃殿下が、私のためにあつらえてくださったのだ。……すこし、話はできるか?」
シュラをソファに誘い、この女物の騎士服を着ることになったいきさつを伝えた。
「女性王族の警護ですか」
「私も驚いたのだが……私が女だということは、どうやら、豊穣の神子の護衛をする前に、調べられていたらしい」
「それです! バルザクト様は、どうして性別を偽って騎士になったんですか? 貴族、なんですよね?」
彼の疑問はもっともなので、かいつまんで説明した。
「長男までの繋ぎ、ですか。それにしたって、仕官するなら騎士じゃなくて、文官のほうがよかったんじゃないですか? 訓練もないし、バルザクト様の事務処理能力は定評があるでしょ」
「我が家は武の家系だからな……武官以外の選択肢が思いつかなかったのだろうし、騎士団にしかコネがなかったんだろう」
至らぬ我が父の杜撰な思考を思うと、頭が痛くなる。当時は一五歳とまだ若かったとはいえ……いまならば諾々と従うことはないな。
「もう終わった話だが」
苦く笑った私の肩が、隣に座った彼に引き寄せられる。
「――だが、それがなければ、出会うことができなかっただろう。いまは、それもまた運命だと思っているよ」
強がりではなく、するりと出てきた言葉に、彼は同意してくれた。そして強く抱きしめられる。
「この出会いが運命なら。俺はあなたのすべてが欲しいです、心だけじゃなく――」
耳元で囁かれる抗いがたい言葉に、胸が熱くなる。
シュラがそこまで私を求めてくれるのならば、私も腹を決めよう。いや……私はこうして彼が求めてくれることを、ずっと待っていたのかもしれない。
彼に性別を偽りながら、それでもどんな性でもいいから私を求めてほしいと。
「シュラ、私が欲しいか?」
「は、はいっ、欲しい、ですっ」
裏返りかける彼の声に微笑み、体を離して彼の目を見つめる。
「ではまず、どうすれば、私がシュラに嫁げるか考えようか」
「と、嫁ぐ……っ、バ、バルザクト様が、俺のお嫁さん……っ!」
およめさん。
可愛らしいその呼びかたがくすぐったくて、思わず笑ってしまう。
「ああそうだ、お嫁さんにしてくれるのだろう?」
「しますっ! 結婚しますっ、一緒に暮らして、毎日いちゃいちゃしますっ」
固く逞しくなった両手で両手を包み込まれ、宣言されて声に出して笑ってしまった。
「ああそうだな、二人で幸せになろう」
すこし伸び上がるようにして、彼の唇に唇を押しつけて離す。私の喜びが伝わっただろうか? シュラと二人ならばどんなことでも乗り越えられると思える、湧き上がる熱情を。
背を強く引き寄せられ覆い被さるようにして深く口づけられ、目眩がするような陶酔感に酔った。
「は……ぁ、好きですっ」
唇が離れると同時に抱きしめられる。
「ああ、バルザクト様かわいい、最高に好きです」
頬ずりされて、しみじみと呟かれるのが恥ずかしく、口づけて熱くなった顔を彼の肩に伏せた。
「あまり、そういうことを言わないでくれないか。恥ずかしい」
「かわ……っ、わ、かりました、善処します」
今日はようすを見に来ただけだという彼は、また会いに来ることを約束すると、一瞬で着替え、来たときと同じように姿を消して窓から出ていった。
彼が出ていった窓から頭を出して、この部屋がどの位置にあるのか把握して首を傾げる。
「シュラは、どうやって私がここにいることがわかったんだ……」
また来ると言っていたからその時に確認すればよいかと結論して窓を閉め、服を着替えてベッドに潜り込んだ。
シュラと会えたからだろうか、それとも自分が思っているよりも体が疲れが蓄積していたのかも知れない、ベッドに横になってすぐに心地よく眠りに落ちてしまった。
「そうか……もう、食べてもいいのか」
その最初の食事が、王宮の料理なのだから贅沢なことだ。
まずは空腹を満たそう、それからゆっくり考えればいい。回復するまで猶予をいただけるようだから。
空腹に背を押されるように、食事に手を伸ばした。
二日ぶりということで配慮された食事の味は優しく滋味深く、私の心を温める。ゆっくりと味わい、満たされるまで食べることができる喜びと、食事のおいしさに感謝する。
その後、王太子殿下の配慮で寄越された医師の診察を受け、身体の不調はなくとも体にひどい無理を掛けたのだからとにかく寝て休めとの指示を受けた。
「それにしても、魔力が肉体を補完するというのは、従来から予測されていたことだが、本当だとすれば実に興味深い」
また暇な時に話を聞かせて欲しいと言う医師を見送ると、部屋についてくれていたメイドがベッドで休むことを勧める。
「先生も、まだ本調子ではないから、しっかり休むようにとおっしゃっていたではありませんか。眠気はなくとも、ベッドで体を横にするのも大切ですよ」
年かさのメイドの言葉に、そういうものかと納得して言葉に従うことにした。
「ありがとう、そうします。ああ、そうだ。私が着ていた服はご存じありませんか? あれは、人からもらったもので、大切なものなのですが」
シュラからもらった値段の付けられない装備について尋ねると、一式をすぐに持ってきてくれた。
「こちらに居るときは、その制服をご着用くださいましね。では、そちらの寝間着に着替えて、ごゆっくりおやすみください。御用の際は、そちらのベルで合図いただければ、うかがいますので」
「わかりました、ありがとうございます」
にっこりと笑って部屋を出る彼女を見送り、言われたとおり用意された服に着替える。……女物の寝間着は久し振りで、なんだか罪悪感を感じてしまう。
「こんなに足元がスカスカするものだっただろうか……」
丈は長いが、裾が開いているのがとても心許ない。昔は平気で着ていたはずなのに。
そそくさとベッドにあがったものの横になってしまう程ではないかと、枕元にクッションを寄せて背を起こして座った。
片膝を立ててそこに顎を乗せて、正面にある窓の外を見るとはなしに見ていた。
昼をまわったばかりの空は澄み渡っていて、鳥が飛んで行く。
昨日……いや一昨日の殺伐とした怒濤の一日が嘘のようだ。
その窓から、コツコツとノックする音が聞こえ、息が止まりそうになった。
慌ててベッドを降りて靴も履かずに窓に寄り、ドアを上にスライドさせて止めてから、数歩横にずれて場所を空ける。
避けた私の前に風が通り過ぎ、部屋の中に漆黒で身を固めたシュラが立っていた。
「バルザクト様……っ」
大股で距離を詰めた彼の掠れた声に名を呼ばれ、その腕の中に閉じ込められる。力強いその腕に安堵した、あの日酷く負傷していた腕は問題なく回復したのだ。
そっと彼の背に腕を回し、その肩に頬を寄せる。
「無事で、よかった。これで、シュラが気にしていた未来は、最悪を回避したのだな?」
「はい……っ、はい、王都の被害ゼロ、主要人物は全員生還、かつて無いハッピーエンドです、バルザクト様のお陰――」
喋る彼の唇に、唇で軽く触れて止める。
驚き見開く漆黒の目を見つめ、微笑んだ。
「お前が頑張ったからだよ、シュラ」
「バル……ザクトさま……っ」
彼の瞳が潤み、そこからボロボロと涙がこぼれ落ちる。涙が出るほど頑張ったのだ、短い時間でこれほど逞しくなるほど、自らを酷使し運命に立ち向かった彼に愛しさが増す。
「よく、頑張った」
あやすように背中を撫でると、苦しいくらいに抱きしめられた。
「――バルザクト様が、生きてて、よかった……っ」
耳元で苦しげに吐き出された言葉に、私も泣きそうになる。そうか、シュラは私を生かすためにこれほどまでに頑張ったのか。
「ありがとう、シュラ。お前……いや、あなたのお陰だ」
お前、などと不遜には呼べない。
少しだけ体を離し、見下ろしてくる彼を見つめるが、視線が……強烈に胸元に注がれている。
寝間着を押し上げている胸は間違いようもなく豊かで、彼に押し当てる格好になっていることに気付いた。私は、なんて破廉恥なことを……っ。
慌てて身を離そうとするが、腰にまわった彼の手がそれを許さない。
「す、すまないシュラ。こんな格好でっ、いま着替え――」
「全然大丈夫ですっ」
「大丈夫なわけがあるか、馬鹿者。悪いが、少しの間、向こうを向いていてもらえるか。すぐに着替える。あなたに見てもらいたい服があるんだ」
「お、俺に、ですか? あっ、俺もっ、いえ、自分も着替えますっ!」
そう言ってシュラが後ろを向いたのを確認して、私はベッドサイドに畳んでおいた騎士服に着替えた。
振り向いたときには、シュラはもう着替えを終えていた。
その装いを見て、思わず頬が緩む。
「ああ、シュラ。騎士服がよく似合う」
凜々しく騎士の制服を着こなす彼を、喜びと共にしっかり見つめる。騎士に昇格したのだろう、例にない早さでの従騎士からの昇格だがすとんと納得できてしまう。
「バ、バルザクト様……それ……っ。かっこいい、ですっ」
私の騎士服を見た彼の表情が、晴れやかになる。
「王太子妃殿下が、私のためにあつらえてくださったのだ。……すこし、話はできるか?」
シュラをソファに誘い、この女物の騎士服を着ることになったいきさつを伝えた。
「女性王族の警護ですか」
「私も驚いたのだが……私が女だということは、どうやら、豊穣の神子の護衛をする前に、調べられていたらしい」
「それです! バルザクト様は、どうして性別を偽って騎士になったんですか? 貴族、なんですよね?」
彼の疑問はもっともなので、かいつまんで説明した。
「長男までの繋ぎ、ですか。それにしたって、仕官するなら騎士じゃなくて、文官のほうがよかったんじゃないですか? 訓練もないし、バルザクト様の事務処理能力は定評があるでしょ」
「我が家は武の家系だからな……武官以外の選択肢が思いつかなかったのだろうし、騎士団にしかコネがなかったんだろう」
至らぬ我が父の杜撰な思考を思うと、頭が痛くなる。当時は一五歳とまだ若かったとはいえ……いまならば諾々と従うことはないな。
「もう終わった話だが」
苦く笑った私の肩が、隣に座った彼に引き寄せられる。
「――だが、それがなければ、出会うことができなかっただろう。いまは、それもまた運命だと思っているよ」
強がりではなく、するりと出てきた言葉に、彼は同意してくれた。そして強く抱きしめられる。
「この出会いが運命なら。俺はあなたのすべてが欲しいです、心だけじゃなく――」
耳元で囁かれる抗いがたい言葉に、胸が熱くなる。
シュラがそこまで私を求めてくれるのならば、私も腹を決めよう。いや……私はこうして彼が求めてくれることを、ずっと待っていたのかもしれない。
彼に性別を偽りながら、それでもどんな性でもいいから私を求めてほしいと。
「シュラ、私が欲しいか?」
「は、はいっ、欲しい、ですっ」
裏返りかける彼の声に微笑み、体を離して彼の目を見つめる。
「ではまず、どうすれば、私がシュラに嫁げるか考えようか」
「と、嫁ぐ……っ、バ、バルザクト様が、俺のお嫁さん……っ!」
およめさん。
可愛らしいその呼びかたがくすぐったくて、思わず笑ってしまう。
「ああそうだ、お嫁さんにしてくれるのだろう?」
「しますっ! 結婚しますっ、一緒に暮らして、毎日いちゃいちゃしますっ」
固く逞しくなった両手で両手を包み込まれ、宣言されて声に出して笑ってしまった。
「ああそうだな、二人で幸せになろう」
すこし伸び上がるようにして、彼の唇に唇を押しつけて離す。私の喜びが伝わっただろうか? シュラと二人ならばどんなことでも乗り越えられると思える、湧き上がる熱情を。
背を強く引き寄せられ覆い被さるようにして深く口づけられ、目眩がするような陶酔感に酔った。
「は……ぁ、好きですっ」
唇が離れると同時に抱きしめられる。
「ああ、バルザクト様かわいい、最高に好きです」
頬ずりされて、しみじみと呟かれるのが恥ずかしく、口づけて熱くなった顔を彼の肩に伏せた。
「あまり、そういうことを言わないでくれないか。恥ずかしい」
「かわ……っ、わ、かりました、善処します」
今日はようすを見に来ただけだという彼は、また会いに来ることを約束すると、一瞬で着替え、来たときと同じように姿を消して窓から出ていった。
彼が出ていった窓から頭を出して、この部屋がどの位置にあるのか把握して首を傾げる。
「シュラは、どうやって私がここにいることがわかったんだ……」
また来ると言っていたからその時に確認すればよいかと結論して窓を閉め、服を着替えてベッドに潜り込んだ。
シュラと会えたからだろうか、それとも自分が思っているよりも体が疲れが蓄積していたのかも知れない、ベッドに横になってすぐに心地よく眠りに落ちてしまった。
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