男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する

こる

文字の大きさ
上 下
51 / 86
第五章

□豊穣の巫女の護衛3

しおりを挟む
 無知で恥ずかしいが、巫女というのはパレードをするだけではなかったのだな。

 巫女エルティナは、顔合わせ後すぐに神殿の奥にある泉で潔斎けっさいに入った。私は泉の入り口に立ち、護衛として見張りをしている。


 扉の奥から、一定間隔で水が流れる音が聞こえる。巫女エルティナが、薄衣一枚で泉の水で身を清めているのだろう。

 巫女エルティナと共に聞いた神官の説明では、鐘の音が響くまで、祝詞のりとを唱えながら泉の水でみそぎを行うということだ。鐘の音は、巫女にのみ聞こえるもので、その音を得ることで、巫女の資格を得るのだと言っていた。

「鐘の音か……」

 本当にそんなものが聞こえるのだろうか、だが世の中には不思議なことはいくらでもあるから、本当に鐘の音が聞こえ巫女の資格をえるのかもしれないな。

 いかんな、いまは護衛の任務中だ、余計な考えに囚われている場合ではない。廊下の先には騎士が待機しているが、距離があるのでなにかあった時はまずは私が対処しなければならない。

 重要な任務であることをもう一度自覚し直して、気を引き締めた。



 水の音が止んだ。

 巫女によっては、翌朝まで掛かる場合もあると言われていたので夜通し立ち番をする覚悟をしていたのだが、思いのほか早く済んだようだ。

 カタリとドアが細く開かれる。

「アーバイツ様、お、おわりまし、くしゅんっ」
「巫女エルティナ、お疲れさまでございました」

 ずぶ濡れで顔だけ出した彼女が青い顔でくしゃみをしたので、濡れた彼女を魔法で乾かし、温かい空気で彼女を包むと、ふわりと彼女の顔がほころんだ。

「ああ、温かい。ありがとうございます」
「よく頑張りましたね。まだ唇が青くていらっしゃいます。部屋へ戻って、なにか温かい飲み物を用意してもらいましょう」

 薄衣一枚で小刻みに震える彼女に、手にしていた巫女服を渡して着替えるように促すと。嬉しそうに笑んで一度扉を閉めた。

 なにか訳があっての人選だろうとは思うが、優しげな笑みを浮かべる彼女は、巫女に相応しい資質を持っているのだろうと感じる。

 自分には浮かべることができない彼女の笑みに胸が温められるのを感じながら、また一方で、女性らしさを隠すことなく居られる彼女に、うらやましさを感じる。

 いや、うらやむなど……大丈夫、あと一年足らずで私も戻ることができる、いまはただ職務を全うすることに全力を注ぐべきだ。

 巫女服が簡単な作で、着付けが要らぬのがありがたい。もし手伝うことになっていたら、巫女の素肌を見た騎士として、不名誉を得たかもしれない。そうなれば、あと数ヶ月で終わる騎士生活にケチが付いてしまうな、などという打算が過る。

 弟が成人するまでの繋ぎとしての身分だが、汚してもいいと思えるような甘い生活ではなかった。いや、非力な身ゆえ、並ならぬ努力をしてきたつもりだ。

 だから、最後は綺麗に幕を引きたい、そう望むくらいは許されるだろう。
 胸に湧いた苦い思いを溜息で吐き出し、気を取り直して頭をひと振りする。
 詮無いことを考えていると泉へと続く扉が開き、白い巫女服を纏った巫女エルティナが出てきて、私を見つけて微笑んだ。

「お待たせ致しました、アーバイツ様」

 ああ、やはり愛らしい笑顔だ。私とは違う、たおやかな女性だ。


 騎士を辞めた自分は、果たして彼女のような淑女の笑みを浮かべることができるのだろうか。いや、淑女になることができるのだろうか。

「では、部屋にもどりましょうか」

 騎士としての癖で、危うくエスコートするように出しかけた手をさりげなく引っ込め、顔合わせをした控えの間へと彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩いた。


   ◇◆◇


「泉の水を浴びておりましたら。チリンチリンと、可愛らしい鐘の音が聞こえたのです」

 湯浴みを終えた巫女エルティナは、温かいお茶を飲みながら、鐘の音がどのように聞こえたのか教えてくださった。

「重畳でございます。ほんの数刻で豊穣の巫女に足るの資格を得られるとは、今年は良い年になりそうですね」

 離れた場所に座る神官が、頬をほころばせる。

 時間が短いほど適性が高いということなのだろうか。正直に言えば、私は神祭における豊穣の巫女の役割はよくわかっていない、いや、もちろん一般的にいわれているものについてはわかっている。
 豊穣の巫女という大役をまっとうした女性は、幸いを呼ぶと言われていて、結婚相手に事欠かないというのは知っているが、それは縁起がよいとか名誉であるとか、その程度のものだと思っていたのだが。

 神官の喜びぶりを見ていると、それだけではないように思える。

 のんびりとした空気を裂くように、部屋のドアがノックされ、神官が応対に出た。

「申し訳ありません。巫女エルティナにどうしても会いたいとおっしゃるかたが、お見えになっておりまして」

 神官の肩越しに神官服を着た小柄な男性が、申し訳なさそうにへこへこと頭を下げているのが見えた。嫌な感じがして、ドアと巫女エルティナの間に立つ。

 なぜこの儀式のときに来訪がある? あったとしても、こんな所まで通されるものだろうか。とすれば、火急の用件なのだろう。そうでなければ、廊下を守っているはずの第一騎士団の騎士が通すはずもない。

「豊穣の巫女であるエルティナに御用とは、一体どなたですか」
「豊穣の、巫女、ですって? 本当に巫女になるべきなのは、わたくしですわ! お退きなさい!」

 神官の問いかけに、キンと耳に痛い女の声があがった。異常事態に、腰に下げている剣に手を掛けて、いつでも抜刀できるように身構える。

 入ってきたのは白を基調とした豪奢なドレスをまとった、華やかな美女だった。巫女エルティナよりもすこし若く見えるが、自信に満ちあふれた表情が大人びて見せていた。

「あなたは……。候補を早々に外されたあなたが、どのような了見でこちらへ?」

 神官の静かな問いかけだが、口調の割りに内容は厳しい。

「あのような魔法の審査ひとつで落とされるなど、到底納得できるものではありませんわ! 再度、やり直すことを要求します!」

 魔法? 候補者の選定に魔法が使われるのか。新しい情報を頭の片隅に留めながら、巫女候補だったという女性から目を外さない。

「そもそも、そこの彼女は一度婚姻した身ではありませんか。白い結婚などとうそぶいてはいても、それが本当かなどわかったものではありませんわ。現に、ご主人は白い結婚だと認めていらっしゃらな――」
「お黙りなさい」

 厳しい神官の声に、彼女の声が遮られる。

「最初に行われる魔法は、神殿に伝わる秘技。決して違えることのない、処女性を判ずる魔法なのですよ。大地の神は無垢なる者を尊びます、他者と深く交わりし者を巫女とすることは、大地の神の悋気に触れる。過去に大枚を積み、豊穣の巫女の座を手にした女性がおりましたが、その年は飢饉と災害が続き、国が傾くほどとなりました。当時、巫女の裁定に関わった神官は全員罷免され、それ以降、巫女を選ぶには厳正さを――」
「わたくしが、無垢ではないと、そうおっしゃるの?」

 彼女の声音が変わった。低く、絞り出すようなその声に、肌が震える。

 血走った目が、こちらを睨む。いや、私のうしろにいる巫女エルティナを、だろうか。

「あなたは無垢ではない、そう断言いたしましょう。速やかにここから立ち去りなさい」

 神官の厳しい声に、彼女の目がギリとつり上がった。次の瞬間、神官を押しのけてこようとした彼女に、私は素早く近づいて腕を掴み、後ろ手に捻り上げる。

「痛いっ! 離しなさいっ! ひぃっ!」
「何事かっ!」

 悲鳴をあげた声に、廊下の警備をしていた騎士がやってきた。その時にはもう、私は彼女を床に引き倒していた。

「暴漢が侵入しました、そこの男を確保してください」

 淡々と私が第一騎士団の騎士に伝えるが、彼は私の言葉には従わず、女を腕を捻り膝で押さえつけている私の肩を掴んで、強引に退けようとした。

「さっさと退かぬか、第五の護衛よ! 貴様が触れることの叶わぬ身分のお方だぞ」

 『第五の』――侮蔑が込められたその言葉と視線で、この男が敢えてこの女をここまで通したと理解できた。まさか、第一騎士団として、私の実力を見る為に試したのか……いや、豊穣の巫女が居るこの場でそれをするのは、騎士としてあるまじき行為だ。

 じくりと頭のうしろが怒りで熱くなるものの、努めて怒りを表さぬようにゆっくりとひと呼吸し、騎士を見上げた。

「これは、あなたの差し金か? 騎士ピルケス・オルドー」
「さすがに、私の名くらいは知っていたか」

 本来であれば、豊穣の巫女の騎士を務めると黙されていたのが彼だ。だが、私を見おろす侮蔑の表情を見てしまえば、彼が本当に巫女の騎士たり得るとは到底思えなかった。

「アーバイツ殿、気を失っているようです」

 そっと近づいてきた神官に掛けられた言葉で手元に視線を戻せば、確かに膝の下で白目を剥いた女がいた。

 さすがにやり過ぎたかと思い、横たわる女性を軽々と横抱きに抱き上げる。面倒なので、付与魔法の補助を使ってだ。
 ふわりとしたスカートは中に入っている芯で嵩張り、実際よりも重く感じる。盛り上げられた胸元はきわどい露出で、てんで巫女には見えやしない。

「ジェンド団長には、こちらからも報告をあげさせていただきますが、よろしいですね?」

 女性を差し出しながらそう尋ねれば、騎士ピルケスは口元を愉快そうに歪める。

「団長が第五の言を、真に受けるとは思えんがな」

 女性を受け止めようと差し出された腕に彼女を乗せれば、ガクリと彼の体が傾いだ。騎士だけあって咄嗟に足を踏み出して堪えた彼だが、僅かに瞠った目で私を見た。

 騎士が、女性を抱いて重いとは言えまい。

「なぜ私が巫女の護衛に付いたか、よもやご存じないとは思いませんでした。ジェンド団長には、通達不足をご報告させていただきます」

 彼女を抱いて両手が塞がっているピルケスの背を押して、小声で伝えながら部屋から出す。いまも震えているであろう、巫女エルティナの恐怖を排除しなければならない。

 それに、騎士団の醜態を見せたくないという思いもある。

「知らされていないわけがなかろう。だが、私は――」

 追い出そうとするのを踏みとどまろうとする男に、苛立つ。

「知らされたうえでの、この体たらくだと? 栄えある、第一騎士団が?」

 コレが、この国の王宮警護の要である第一線に配された人間なのか? 怒りで、目の前がくらりと歪み、ふらつかぬように両足に力を込め、怒気をそのまま目の前の男に向ける。

 彼の顔色が明らかに悪くなる。私などの威圧で顔色を悪くするとは、本当に不甲斐ない。

「ア、アーバイツ様……?」

 か弱い女性の声に、意識が怒りから引き剥がされた。

 そうだ、私がいま守るべき人は、背後に居る豊穣の巫女エルティナだった。なによりも彼女の心の安寧を優先せねばならない。

「エルティナ様、お騒がせして申し訳ありません。そういうことですので、騎士ピルケス、手数を掛けて申し訳ないが、そちらの女性をよろしくお願いいたします」
「あ、おいっ」

 女性を抱えたままの彼を部屋から押し出し、廊下で小さくなっている小柄な男を睨み付ける。こちらの男は自分がやった罪を理解しているようだから、神殿に任せればいいだろう。

「二度目はありません」

 騎士ピルケスが反論するまえにドアを閉める。

 本当はもっと言いたいことがあったし、拳のひとつもくれてやりたかったが。腐っても第一騎士団の騎士だ、容易に果たせそうにもないし、巫女エルティナがこれ以上怯えてしまってはいけないので堪えた。

 どう取り繕ったものかと、振り向けば、神官が巫女エルティナに向かって深く頭をさげた。

「巫女エルティナ、お騒がせして申し訳ありません。夕飯をご用意いたします、夕飯を取ったらすぐにお休み下さい。明日は朝から禊ぎがあり、その後、パレードがありますので」
「はい、承知しております」

 神官の言葉に頷く彼女に、神官は頭をあげて微笑んだ。

「巫女エルティナが、歴代の豊穣の巫女でもかなりの早さで、豊穣の巫女としての資質を開花なさったお陰で、準備する時間に余裕があってありがたいことです。それでは、少々失礼をいたします」

 神官はそう言うと、食事を用意しに部屋を出て行った。いや、先程の小柄な男について、なんらかの処置をするために離席したのかもしれない。

 私も騎士ピルケスについて、話し合いたいところではあるが。ここに彼女を一人きりにするわけにもいくまい。

「巫女エルティナ、温かいお茶をいれましょう」
「はい。あの、アーバイツ様も、ご一緒に……」

 心細げな声に胸が痛くなり、固くなりそうな表情を努めて和らげ、微笑みを向ける。

「ではご相伴に預かります」

 茶葉を入れ替え、魔法でお湯を温め直してゆっくりとお茶をいれる。彼女の前にカップを置き、その横に私も自分の分のお茶を用意して座った。

「ありがとうございます」

 ぎこちない微笑みでカップを取り上げようとした彼女の手は震えていて、彼女は躊躇った末にカップを持つのを諦めた。

「駄目ですね、情けなくって。わたくし――」

 自嘲気味に呟いて指先を温めるように自らの手を握る彼女の手に手を伸ばし、逃げぬその手をそっと両手で包み込んだ。

 ああ、こんなに冷えて。どれ程恐ろしかったのだろう。

「駄目なことなど、なにもありませんよ。あなたは、素敵な女性だ」

 自分の熱を移すように、彼女のちいさな手をさすりながら、彼女の潤んだ目を見つめる。

 彼女の冷えてしまった指先を温めるように、冷えてしまったであろう心を温めるように。

「自信をお持ちください。神官殿も言っていたでしょう? あなたは豊穣の巫女の資格を得るのに、とても早くあられた。繁栄と豊穣を司る神が、あなたをお認めになったのですよ」

 だから、どうかそんなに心を弱くしないでほしい。

 冷たい頬に手のひらを滑らせ、もう片方の手で彼女の細い肩を抱き寄せる。
 平均的な男性の身長程はある私の腕に、すっぽりと納まる小柄な体は、最初強張っていたものの、すぐに緊張を解いて私にもたれてくれた。

「わたくしの中に、もう自信などはないのです。だって、本当に、駄目なんですもの。父にも、夫にも必要とされず。一度結婚した身ではあるのに、こうして父の命令で、不遜にも豊穣の巫女に名乗りをあげ……本来ならば、最初に落とされてしかるべきですのに、ここまで来てしまって……っ。きっと、父が無理やり――」
「それはありえませんよ。貴族の権力は、神殿の深部には及びませんから」

 いつの間に戻ってきたのか、食事の乗ったワゴンを押した神官が、穏やかな声で彼女の訴えをきっぱりと否定した。

「あなたが自分を疑うことは、神を疑うことです。心の傷が癒えるには時がかかりますが、どうか巫女でいる間だけでも、強くあっていただきたい」
「神官様」

 神官の切実な声に、私の腕の中から顔をあげた巫女エルティナは、戸惑いに揺れる瞳で神官を見上げた。


 その儚い様子は、同性であっても庇護欲がそそられるものだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

処理中です...