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第五章
□豊穣の巫女の護衛2
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無事に神官のお眼鏡にかなった私は、神官と二人で絨毯敷きの廊下を、巫女の待機している部屋へと向かった。
部屋の前には第一騎士団の徽章を付けた騎士が二名立っており、巫女服に帯剣している私を見ても表情を変えずにいる。ジェンド団長からどの程度説明をされているのかわからないが、気にする必要はないのだろう、私も彼らの顔を覚えつつも、注視することはせずに神官のうしろに従う。
「巫女エルティナ。護衛の方をお連れ致しました」
神官が声を掛けると、室内から入室を認める声が返る。
「失礼致します」
彼に続き、一礼して私も入室する。
豪奢な部屋は、貴族のご令嬢が待機するに相応しい美しさだ。そして部屋の中央にあるソファから立ち上がり、私たちを迎えてくれたのは白い巫女姿の楚々とした女性だった。付き添いのメイドすらいないのは、過去に色々あって神殿のほうで許可していないかららしい。
「わたくしの我が儘をお聞き入れくださり、ありがとうございます」
「巫女エルティナ、大丈夫ですよ。こちらは、三日間あなたの護衛を務める、アーバイツ様です」
神官に怯えるように目を伏せたまま言った彼女に、神官はドアから数歩入ったところで立ち止まったまま、私を紹介をした。男嫌いとは聞いているが、神官ですら駄目なのか。
これはいよいよ騎士であることを知られるわけにはいかないな。緊張を表に出さないように、紗の覆いの下の表情を笑顔に変えて、スカートをつまみゆっくりと腰を落とす淑女の礼をする。
「アーバイツと申します。よろしくお願いいたします」
「アーバイツ様、こちらこそ、よろしくお願い……」
不自然に切れた挨拶の言葉に、顔を上げれば。私を凝視する彼女の視線とかち合った。
「どうかしましたか? 巫女エルティナ」
はじめて会った気はしないが、知り合いにこんな楚々とした女性は居ない。いやそもそも、女性の知り合いなど、ギルドの職員くらいなものだ。
疑問に思って声を掛けると、彼女の表情が輝いた。
「ああっ! あの時助けてくださったお方ではありませんか。神様、お引き合わせくださり、ありがとうございます」
祈りの形に手を組む彼女は、本物の巫女のように無垢だった。それにしても、あの時助けたとは?
「わたくし、あの日、あなた様に助けていただいた者です。あなた様がいなければ、あの男に慰み者にされておりました。本当にありがとうございます」
潤んだ目で見つめられ、すこし怯んでしまう。
「お知り合いなのですか?」
神官が伺うように巫女に問うと、巫女は嬉しそうに大きく頷いた。
「ええ、とある舞踏会でわたくしが難儀しておりましたときに、彼女が颯爽と現れて、わたくしを救ってくださったのです」
夢見る乙女のように頬を染める巫女に、以前女装して参加した仮面舞踏会で会った女性なのだと予想する。
「ああ、あの舞踏会でお会いした」
正直に言えば、少々酒に飲まれて記憶が怪しいが、間違いないだろう。だがあの時の女性は確か、夫に売られるようにしてあの場に連れられていたのではなかったのだろうか? 彼女自身『旦那様に裏切られ』と言っていた。ならば、清らかな乙女でなければならぬ豊穣の巫女には、選ばれぬはず。
過去に、乙女ではない巫女が選ばれ、その年多くの災害が起きた事によって、それは絶対条件になっていたはずだが。
迂闊に言及すべきではない話題は胸の奥にしまい、彼女を安心させるように笑みを作る。
「あの時は、仮面を付けておりましたが、よくおわかりになりましたね」
私の言葉に、彼女は少し照れるように可愛らしく頬に手を添えた。
「はい、あの時のアーバイツ様の勇士はとても素敵で、何度も夢に見ておりますし、お声も忘れることはありませんわ。ですから、どのような姿をしていらしても、わかる自信がありますわ」
得意げにそう言う彼女が眩しいが、無理矢理魔力渡しをして、男の精魂を尽き果てさせただけであるので、いっそ忘れていて欲しい。それに……今後、第五騎士団に戻ったときに、バレやしないだろうか。
「お二人とも顔見知りでしたらよかった。少々お時間をお借りして、今後の予定を説明してもよろしいでしょうか」
笑顔に不安を隠している私と、嬉しさを隠さぬ巫女に、神官が声を掛けてきたのを機に、我々と距離を取ったまま説明をはじめる彼に感謝した。
一抹の不安を抱えたまま、三日間の護衛の任務がはじまった。
部屋の前には第一騎士団の徽章を付けた騎士が二名立っており、巫女服に帯剣している私を見ても表情を変えずにいる。ジェンド団長からどの程度説明をされているのかわからないが、気にする必要はないのだろう、私も彼らの顔を覚えつつも、注視することはせずに神官のうしろに従う。
「巫女エルティナ。護衛の方をお連れ致しました」
神官が声を掛けると、室内から入室を認める声が返る。
「失礼致します」
彼に続き、一礼して私も入室する。
豪奢な部屋は、貴族のご令嬢が待機するに相応しい美しさだ。そして部屋の中央にあるソファから立ち上がり、私たちを迎えてくれたのは白い巫女姿の楚々とした女性だった。付き添いのメイドすらいないのは、過去に色々あって神殿のほうで許可していないかららしい。
「わたくしの我が儘をお聞き入れくださり、ありがとうございます」
「巫女エルティナ、大丈夫ですよ。こちらは、三日間あなたの護衛を務める、アーバイツ様です」
神官に怯えるように目を伏せたまま言った彼女に、神官はドアから数歩入ったところで立ち止まったまま、私を紹介をした。男嫌いとは聞いているが、神官ですら駄目なのか。
これはいよいよ騎士であることを知られるわけにはいかないな。緊張を表に出さないように、紗の覆いの下の表情を笑顔に変えて、スカートをつまみゆっくりと腰を落とす淑女の礼をする。
「アーバイツと申します。よろしくお願いいたします」
「アーバイツ様、こちらこそ、よろしくお願い……」
不自然に切れた挨拶の言葉に、顔を上げれば。私を凝視する彼女の視線とかち合った。
「どうかしましたか? 巫女エルティナ」
はじめて会った気はしないが、知り合いにこんな楚々とした女性は居ない。いやそもそも、女性の知り合いなど、ギルドの職員くらいなものだ。
疑問に思って声を掛けると、彼女の表情が輝いた。
「ああっ! あの時助けてくださったお方ではありませんか。神様、お引き合わせくださり、ありがとうございます」
祈りの形に手を組む彼女は、本物の巫女のように無垢だった。それにしても、あの時助けたとは?
「わたくし、あの日、あなた様に助けていただいた者です。あなた様がいなければ、あの男に慰み者にされておりました。本当にありがとうございます」
潤んだ目で見つめられ、すこし怯んでしまう。
「お知り合いなのですか?」
神官が伺うように巫女に問うと、巫女は嬉しそうに大きく頷いた。
「ええ、とある舞踏会でわたくしが難儀しておりましたときに、彼女が颯爽と現れて、わたくしを救ってくださったのです」
夢見る乙女のように頬を染める巫女に、以前女装して参加した仮面舞踏会で会った女性なのだと予想する。
「ああ、あの舞踏会でお会いした」
正直に言えば、少々酒に飲まれて記憶が怪しいが、間違いないだろう。だがあの時の女性は確か、夫に売られるようにしてあの場に連れられていたのではなかったのだろうか? 彼女自身『旦那様に裏切られ』と言っていた。ならば、清らかな乙女でなければならぬ豊穣の巫女には、選ばれぬはず。
過去に、乙女ではない巫女が選ばれ、その年多くの災害が起きた事によって、それは絶対条件になっていたはずだが。
迂闊に言及すべきではない話題は胸の奥にしまい、彼女を安心させるように笑みを作る。
「あの時は、仮面を付けておりましたが、よくおわかりになりましたね」
私の言葉に、彼女は少し照れるように可愛らしく頬に手を添えた。
「はい、あの時のアーバイツ様の勇士はとても素敵で、何度も夢に見ておりますし、お声も忘れることはありませんわ。ですから、どのような姿をしていらしても、わかる自信がありますわ」
得意げにそう言う彼女が眩しいが、無理矢理魔力渡しをして、男の精魂を尽き果てさせただけであるので、いっそ忘れていて欲しい。それに……今後、第五騎士団に戻ったときに、バレやしないだろうか。
「お二人とも顔見知りでしたらよかった。少々お時間をお借りして、今後の予定を説明してもよろしいでしょうか」
笑顔に不安を隠している私と、嬉しさを隠さぬ巫女に、神官が声を掛けてきたのを機に、我々と距離を取ったまま説明をはじめる彼に感謝した。
一抹の不安を抱えたまま、三日間の護衛の任務がはじまった。
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