男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する

こる

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第四章

□冒険者ギルド2

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 武器の使用は禁止、肉体ひとつで勝負せよと言わた。派手にわかりやすく勝利すればいい、という解釈で問題ないだろう。

 拳に、固い綿入りの手袋を付けさせられる。

「無茶はするなよ。目立つな、とはもう今更言えねぇが。バレぬように頼む」
「ありがとうございます」

 固い手袋を付けるのを手伝ってくれながら、口を動かさずに囁くシュベルツに、私は礼だけを返した。騎士であることを明かすような、下手を打つつもりはない。だから、剣ではなく肉弾戦であることに、内心安堵する。

 武器の使用は禁止されたが、魔法の禁止は言い渡されなかったので、多少なら使っても構わないのだろう。

「いつでもいいぜ、かかってきな!」

 私より一回り程大きな男が、威圧するように両手を構えた。その彼に右手を出してちょっと待って貰う。周囲を見渡し、金をまとめ、紙に書き付けをしている男をみつけた。

「賭けのオッズはどうなってますか?」
「ああ? ざっと九対一ってところだな。大穴狙いの奴らに感謝しろよ、一応賭けの体裁はできたんだからよ、けけっ」

 笑った男に、ポケットに入れてあったコインを投げて渡す。

「では、その大穴に」
「けけっ、いい心意気だ。頑張れよ、兄ちゃん! オレの懐を暖めてくれ!」

 跳んでいったコインを軽々と掴んだ彼が、親指を立ててウィンクした。なんだ、私に掛けてくれていたのか。

「頑張ります」

 肩幅に足を開き、拳を軽く構えて相手を見据えれば、向こうも力をみなぎらせた。

「治癒の魔法を使う職員は準備させたから、お互い、殺さぬ程度に。では、はじめっ!」

 婦人の声を聞いた瞬間に、私の顔から表情が抜ける。靴に付与魔法をかけ一気に間合いを詰め、うしろに引いた拳を男に向けて繰り出し、当たる瞬間にのみ肉厚の手袋に魔力を纏わせて威力を増す。

『インパクトの瞬間にだけ付与魔法を使うんです、そうすれば魔力も節約できるから』

 シュラの声が耳に過り、口元が緩む。彼の指摘は的確で、本当にどっちが騎士かわからなくなる。

「くっ! や、やるじゃ――」

 咄嗟に肘で庇った男の反射神経を忌々しく思いながら、言い切らぬうちに、右の拳の反動を利用して、左の拳を男の死角になる斜め下から体を捻るように打ち上げる。

「ごふ……っ」

 綺麗に脇腹に決まった。だが、この程度だと合格には達してはいまい、周囲の人たちをまだ納得させていない証拠に、歓声も野次もないのだから。

 崩れ落ちる男の後ろ襟を掴んで引き、倒れる反動を利用して膝をたたき込もうと、かしぐ男の肩に両手を突いて逆立ちになり、勢いよく膝を振り下ろし――。

 突然横から向けられた殺気に、男の肩を離し、素早く距離を取る。視線の先にいる殺気の主は、シュベルツで、殺気は一瞬で消されていた。

「やり過ぎだ、馬鹿。殺す気か」
「まさか、ちゃんと殺さないように、手加減してましたよ」

 馬鹿呼ばわりは心外で口を尖らせれば、静かだった周囲が、一気に騒然とする。

「けけっ、まさかの大番狂わせ!」

 賭けをまとめていた男が、嬉しそうに小躍りしている。掛けに負けた周囲の冒険者たちは、怒ったりいかさまを叫ぶことなく粛々と結果を受け入れていた。

「兄ちゃん、あんたの取り分だ!」
「いや、私の分はいいから、それはみんなで飲んでくれ」

 さすがにいかさまのようで申し訳ないから、元金だけは返してもらってそう申し出ると、見物人がわっと湧きあがり口々に礼を言って町に繰り出していった。

 そして、私の対戦相手の治療を指示していた婦人が、こちらに近づいてきた。

「約束だからね。ギルド登録をするよ、ついておいで」

 顎でしゃくる彼女のうしろについて、カウンターへと戻った。
 カウンターの向こうの席に、どっかりと座った彼女に、先程仕事を変わっていた職員が、一枚のカードを手渡し、もう一人の職員がわたしの前に用紙を置いてゆく。

 冒険者の心得と、ギルドとの契約書だ。

 ざっと目を通し、不穏なところや腑に落ちないところも見受けられなかったので、署名欄にサインすべくペンを手にした。名か……本名を書くわけにはいくまい。

「本名である必要はないが、変更はできないからね。いい名をお書き」

 ペンを迷わせていた私に、婦人がこっそりと教えてくれた。そうか、どんな名でもいいのか。
 ゆっくりと、書き慣れぬその名を綴る。

「『ファーネ』かい、随分可愛らしいが。まぁ、あんたに似合ってるよ」
「ありがとうございます」

 礼を言えば、ひょいっと婦人の眉があがる。なにか言いたげな視線を感じたが、婦人は無言でカードに鉄でできたペンを走らせた。

「できたよ、これであんたも冒険者ギルドの一員だ。無くすんじゃないよ」
「はい、ありがとうございます」


 手渡されたカードには、美しい飾り文字で私の名が記されていた。
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