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第二章
■五月山修羅は己を鼓舞する
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□修羅サイド□
物語の顛末を知ったバルザクトの動揺に、修羅はやっと迷宮暴走がどれ程恐ろしいものなのかを理解するに至った。
ゲーム内では四人でパーティーを組み、マップを進み遭遇する魔獣を機械的に倒してゆく。パーティーメンバーのレベルを上げてさえおけば、そう難しくはなかった。
だが、いまはこの現実で、魔獣との戦闘とは一体どのように行うのかわからない。迷宮のマップだってゲームのように俯瞰で道が見えるわけではないだろう。本当に森の中を歩き、獣を倒すのだ。
ゾッと身の内が寒くなった。
だが、動揺しているバルザクトを宥めるために、修羅はわざと明るい声で解決の糸口となるであろう二人の騎士団長をあげ、そして強引に解決を導く。
きっと、バルザクトも納得なんてしていないだろう。
両極にあるふたりの騎士団長の助力を仰ぐなんて、何度もエンディングを見てきた修羅であっても、そんなルートは記憶になかった。
だが、ここは現実なんだ。できないことなんてないはずだ。
それだけを確かな強みとして必ず成し遂げる、それしか『バルザクトルート』で、被害を最小限に抑える手立てを考えられなかった。
このゲームを進行する中で、最も大きな迷宮暴走が発生するのが、バルザクトルートだった。
どう頑張っても、王都は半壊する。迷宮暴走の発生の察知が遅れ、王都に暴れ狂う魔獣達がなだれ込んできてからが最終章のスタートという有様なのだ。
そんなことは、口が裂けても言えない。
だから、震えるバルザクトの手を握り、己に言い聞かせるように言葉にした。
「――みんなで、生き残りましょう」
物語の顛末を知ったバルザクトの動揺に、修羅はやっと迷宮暴走がどれ程恐ろしいものなのかを理解するに至った。
ゲーム内では四人でパーティーを組み、マップを進み遭遇する魔獣を機械的に倒してゆく。パーティーメンバーのレベルを上げてさえおけば、そう難しくはなかった。
だが、いまはこの現実で、魔獣との戦闘とは一体どのように行うのかわからない。迷宮のマップだってゲームのように俯瞰で道が見えるわけではないだろう。本当に森の中を歩き、獣を倒すのだ。
ゾッと身の内が寒くなった。
だが、動揺しているバルザクトを宥めるために、修羅はわざと明るい声で解決の糸口となるであろう二人の騎士団長をあげ、そして強引に解決を導く。
きっと、バルザクトも納得なんてしていないだろう。
両極にあるふたりの騎士団長の助力を仰ぐなんて、何度もエンディングを見てきた修羅であっても、そんなルートは記憶になかった。
だが、ここは現実なんだ。できないことなんてないはずだ。
それだけを確かな強みとして必ず成し遂げる、それしか『バルザクトルート』で、被害を最小限に抑える手立てを考えられなかった。
このゲームを進行する中で、最も大きな迷宮暴走が発生するのが、バルザクトルートだった。
どう頑張っても、王都は半壊する。迷宮暴走の発生の察知が遅れ、王都に暴れ狂う魔獣達がなだれ込んできてからが最終章のスタートという有様なのだ。
そんなことは、口が裂けても言えない。
だから、震えるバルザクトの手を握り、己に言い聞かせるように言葉にした。
「――みんなで、生き残りましょう」
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