男装の騎士は異世界転移主人公を翻弄する

こる

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第一章

□ステータス

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「た、食べ過ぎました」

 ベリルと競うように夕飯を食べていたシュラを部屋に押し込んで休ませてから、一度自分の寝室に戻る。基地に戻るのは、もう少し時間を空けてからの方がいいだろう。

 シュラが眠るのを待つ間に日記を付けてしまおうと、引き出しから取り出す。

 遺跡で彼と出会ったことや不思議な魔法などについて綴れば、いつもは無機質な日記が、不可思議な物語になってしまう。

「ふふ……後世この日記を他人が読んだら、このページだけなにがあったのだろうと思うだろうな」

 そんな夢想ついでに、むくりと湧き出した好奇心のまま、虚空に視線をあげる。

「シュラが言っていたのは確か、『すてーたすおーぷん』」

 彼の言葉を真似て、魔力を乗せて声に出した。
 期待がなかったわけではないが、まさか本当にあの透明な板が現れるとは思いもしなかった……それも、シュラの時とは違って、私にも読める言葉で書かれているじゃないか。

「は……ははっ。名前も、ちゃんと私のものだ」

 バルザクト・ファーネ・アーバイツ

 ファーネ、誰も知らない私の女性名は母がくれたものだ。今は亡き母と、私しか知らないそれが、我が名としてここに記されている。

 胸が熱くなり、目尻が濡れそうになって慌てて視線を表の中身に移した。年齢が二十、性別が女、体力が四二/六〇、攻撃力が四五/五〇、素早さ六〇/六〇、精神八〇/八〇、魔力が七二/∞……?

「丸が二つくっついているが……どういうことだ? 確か、/の後にあるのが、総量で前が現在の残量だったはずだが、一が抜けてるだけか? それにしては……」

 シュラから受けた説明を思い出すが、やはり∞という表記について聞いた記憶はない。

 まさか彼にこれを見せて聞くわけにもいかない。性別が載っていなければ、見せて聞くこともできたのだが、性別が書かれているばかりに迂闊にこの存在を伝えることもできないじゃないか。

 感動を共有できないことに気づき、肩を落としながらも、シュラがやっていたようにステータスを指先で上下に動かしてゆく。シュラのものよりも情報が少ないな。

 取得済魔法の欄には、私が覚えている魔法が一覧となって載っていた。魔法の横に出ている数字が、魔法に必要な魔力の量なんだというから素晴らしい。

 これなら魔力の残量から、使える魔法の組み合わせが逆算できるじゃないか。

 とはいえ、私が使える魔法は、回復魔法と付与魔法がそれぞれ数種類あるくらいだ。完全回復ならせいぜいできて一度だ、ああやっぱり、完全回復魔法の魔力使用量が三五になっている。魔力量が七二では余裕をみれば一度しか使えないな、部分回復や疲労回復ならば数回はできるか。

 他には、装備の項目がある。現在身につけている装備が一覧になっているんだな、常備しているナイフに騎士の制服、革のブーツ……革のブーツだけ説明がおかしい。

『ミスリル鉱の芯入り竜皮の安全靴。耐久値九九九、敏捷+三〇、魔法との親和性八五、固定使用者:バルザクト・ファーネ・アーバイツ』

 シュラからもらったブーツだが……本当に、もらっていい物なのだろうか。ミスリルとは幻の鉱物の名ではなかったか? それに、竜の皮……いや、なにかの間違いだとは思うが、本当だとすれば国宝級ではないか。

 だが、なんと言って返せばいい? ステータスを見て知ったとは言えないし。代替えの物を購入して、これを返せばいいだろうか。

 妙に足に馴染むこの靴を手放すのは惜しいが、借り物だから仕方ない。

 だが、返すことができないばかりか、むしろ他の物も与えられることになるとは、この時の私は知る由もなかった。

 しばらくそうしてステータスを楽しんでから、シュラの部屋の様子を伺い、ぐっすりと寝ている様子をドア越しに確認して、寮を出て基地へと向かった。


 私の仕事はまだ終わっていないからな。
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