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第四章

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「ティア」

「……っ! グレイド師長」

 ドアの近くの壁に背を預けて立っていたグレイドに気づき、驚きに目を大きくしたディアスは、彼だと気づくとそっと彼に近づいた。

 ディアスが近づくのが待ちきれないというように、大股で近づいたグレイドはそのままの勢いで彼女を抱きしめた。

「グレイド師長?」

 戸惑うように声をかけ、そのたくましい背中にそろりと腕を回したディアスは、彼が一層強く抱きしめてくれることに、ほぅと満足そうな吐息をこぼした。
 そして、トクトクと早く打つ自分の鼓動に誘われるように、顔をあげてそっとつま先立ちすると、引き寄せられるように彼の堅く閉じた唇の自分のそれを重ねた。
 何度かチュッチュと唇をつつくと、かみつくようなキスを返される。

「ん……っ」

 長い舌がディアスの口の奥まで舐めるように差し込まれ、口腔を縦横無尽に動き回る。
 なにか焦燥感に駆られているようなその口づけに、経験値の低いディアスはその快感に体を震わせて、膝から崩れ落ちそうになるのをグレイドにすがりついて堪えた。

「は……あっ。んっ」

 解放された濡れた唇からはなまめかしい吐息がこぼれ落ち、うるんだ瞳が情熱的にグレイドを見上げる。その凶悪な色気と強烈な熱い欲求に、グレイドは眼鏡の奥の目に劣情を浮かべた。

 腹を決めたグレイドは、ディアスの膝裏に片腕を差し入れてぐいっと横抱きに抱え上げ、そこでにやけた顔の宰相が廊下の先に居ることに気づいて顔をしかめた。

「ティア、顔を私にくっつけて。決して、目を開けないように」
「え?」

 グレイドの指示に戸惑いながらも、宰相の存在に気づいていないディアスは、素直に彼の指示に従って、彼の首筋に両腕をまわして顔をそこに伏せた。

 グレイドがじっと宰相を見れば、彼はあごで近くのドアを指し、近くにいた衛兵の一人が慇懃にドアを開けた。
 顔をしかめたグレイドだったが、意味するところを察して……思うところはあるものの、その部屋を使わせてもらうことを決める。

 部屋に入り際、すこし離れた場所に居る宰相の口が『励めよ』と動いたように見えて、グレイドはギリッと歯ぎしりしそうになった。

   ◇◆◇

 おとなしく目を閉じて、グレイドの肩口に顔を伏せていたディアスは、すこし汗の混じった彼の香りを嗅いで、彼のたくましい腕の中に居る幸福にうっとりと酔いしれていた。

 ドアが閉まる音が聞こえ、どこか室内に入ったのだと知る。

 目を開ける許可が出ないまま、どこか柔らかな布の上……ベッドの上に下ろされたディアスが、おとなしく目を閉じているのを見て、グレイドはその愛しい端正な顔をじっと見つめてから、ふといたずら心を起こす。

 ディアスが目を開ける許可を今か今かと待っていると、彼女の腕を首からほどいたグレイドは、目を閉じている彼女の手から手袋をするりと取り去り、次に髪に挿した飾り、そして靴を脱がせてベッドのしたに揃えて置く。

「グレイド師長……?」

 戸惑うディアスの声に、グレイドは唇だけでほほえみ、彼女の心配そうな頬を撫でる。

「ティア、もうそろそろ、グレイドと呼び捨ててくれないか」
「でも……んっ」

 グレイドがディアスの喉元に口づけを落とせば、彼女は目をつむったままちいさく息をのむ。
 その反応に、グレイドは外した眼鏡をサイドボードに置き、手早く上着を脱ぎ去ると床に放り投げディアスの腰を跨いで彼女を見下ろした。

 目を閉じたまますこし不安そうな顔をしている頬を撫で、耳をかるくつまみ、するりと首筋に指先を滑らせる。
 こぼれそうになる吐息を堪えているのを見て取って、グレイドはその健気な愛らしさに鼓動を早めながら、ドレスに手をかける。

 引き締まった彼女はコルセットを使わずにドレスをまとっており、グレイドの手がそれをするすると脱がせてしまう。

「グ、グレイドしちょ――」
「呼び捨てにしてくれ、ティア」

 耳元で囁かれて首をすくめるディアスに微笑んでから、ふと彼女の肌についた紅を見とがめた。
 無言で浄化の魔力石を使い彼女の肌を清めると、先ほど見た紅の痕跡を上書きするように彼女の肌に唇を落とす。

「グレイド師長……っ、んっ、あっ待って」

「ちゃんと呼ばないのならば、応じないし、目も開けてはいけない」

「ええっ、んんっ!」

 敏感な傷の上を舐められ身をよじった途端、胸の先端をパクリと咥えられ、舌先で転がされて快感に腹部が上下する。

「あっ、あっ、だめ、だめ……! グレイド……っ」

「いい子だ。いい子にはご褒美、だな」

 かろうじて残っていた下着を抜き取られ、両足を広げられたディアスは思わず目を開け、足の間にグレイドの舌が伸びるのを見てしまった。

 溢れる愛液をすくい取るように大きくひと舐めしたグレイドの舌が、割れ目のうえにちょこんとついているそこをチロチロと刺激する。

「はっ、あんんんっ! だめ、あっ、あっ、あああっ」

 強い快感に背を仰け反らせるディアスの足を大きくM字に曲げさせて、執拗にその小さな芽を舐れば、ディアスの背が弓なりに反り、達した。
 荒く息を継ぐディアスの足を拘束していた手を離したグレイドは、ベッドを降りると勢いよく身につけている服を脱ぎ捨てた。

「さて、ティア。これで、君の欲望は昇華されたね?」

「え、あ、は、はい」

 ベッドの上のディアスのもとへ、じわりじわりとにじり寄るグレイドに、ディアスは戸惑いの視線を向けながら恥ずかしそうに足を閉じて胸を両腕で隠した。

 とうとうディアスの上に覆い被さったグレイドは、乱れた髪を軽くかきあげると、熱をはらんだ目で愛しい彼女を見下ろした。


「ここからは――私の欲望で君を抱く」

 そう宣言したグレイドは、ディアスの両足をまたしても大きく開かせると、散々舐ってとろけさせた秘所へイキリ立つ自身の先端を押し当て、ゆっくりと腰を進めた。

「あ、あああ……んんんっ」

 その質量に身もだえるディアスにキスを降らせてなだめながら、慎重に挿入をするグレイドに、ディアスは両腕を伸ばし抱きしめることをねだる。
 口づけをねだるディアスに、グレイドは何度も噛みつくようなキスを繰り返しながら、合間にゆっくりと挿入を行う。

 一度は遂げたディアスの欲望はすっかり再燃していたが、二人はもう彼女の体質のことなど気にもせずに、お互いの熱を求め合った。

「あぁ……グレイド、もっと、奥……っ」

 ディアスの求めに、グレイドは男らしい顔に欲望にまみれた笑みを浮かべる。

「愛しい君の願いなら、叶えよう」
「あ、ああああっ!」

 腰を大きな手で掴むと、ぐぐぐぐっと力強く雄芯をすべて彼女の中へ納めた。
 先端が、彼女の求める場所をぐりぐりとこじ開けるように押しつけられ、その度にディアスは強い快感に背を反らせ、求めるようにぎゅうぎゅうとグレイドの雄芯を締め付けた。

「たまらない……。君を全身で感じることが……くそっ! なんて、幸福なんだ」

 はじめて裸同士で抱き合い、その心地よさに目がくらむ。

 なにがあろうと彼女を離さないと、グレイドは決意する。そして、ディアスもまた、同じ思いを抱いていた――なにがあろうと、彼と共にあろうと。

 見交わした視線が強く絡み合い、グレイドは引き寄せられるようにディアスの唇を貪り、彼女を抱きしめて結合した腰を力強くグラインドさせる。


 そして二人、お互いをきつく抱きしめたまま、身を離すことなく絶頂した――




「ティア……」

 額に口づけられた感触で目を開けたディアスは、柔らかな笑みを浮かべ自分を見下ろす愛しい男を見つけて、ふんわりと頬を緩めた。

「すまない。ティアが素敵すぎて、加減ができなかった」

 ぼんやりしているディアスに口づけを落としながら、彼女が気絶するまで抱きつぶしたことを謝罪するグレイドに、ディアスはだんだんと思い出してきた痴態に頬を赤く染め、素肌にかけられていたシーツで顔を隠した。

「そ、そんな恥ずかしいこと……っ、わざわざ言わないでくださいっ」

 くぐもった声に、グレイドは低く笑ってシーツごとディアスを抱きしめる。

「まだ、時間がある。もう一度、してもいいか?」
「……っ! だからっ、んんんっ!」

 わざわざ言うなと言おうとしたディアスの、愛液と何度もなかで吐き出されたグレイドの精液で濡れそぼっているそこへ。ディアスの片足を抱えたグレイドは、既に堅く立ち上がっている己をゆっくりと差し込んだ。

「恥ずかしがるティアも、かわいいな」

 シーツを引きはがしたグレイドはのしかかるように態勢を変えながら、両手で顔を覆っているディアスの手の甲に口づけを繰り返す。

「グレイドは、いじわる……んんっ、あ、動いちゃ――」
「ゆっくりするさ。ゆっくり、な」

 宣言通りゆっくり、じっくり、その焦れったい動きにディアスが音を上げるまで、グレイドは彼女を堪能した。
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