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第31話 食欲がない異常事態
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心を幸せで満たす、けれどいつかは覚める儚い夢を結んだ後、体を気遣う言葉と口づけを残したアレクシス様は侍女を呼んでくると一足先に部屋を出て行った。
途端にこの部屋から熱が消え失せて寒々しくなってしまう。
すると。
扉が遠慮がちにノックされたので返事をする。
「おはようございます、奥様」
「先ほどはライカが失礼いたしました」
ライカさんが眉と肩を落として入って来た。本日はグレースさんも一緒だ。
「はい。失礼いたしました……」
「いえ。わたくしどもも失礼いたしました」
私はまだベッドの中からご挨拶させてもらう。
「奥様、お体はいかがでしょうか」
グレースさんが私に尋ねてきた。
「はい。大丈夫です。動くと少し体に響きますが」
体に刻まれたその感覚でさえも恋しく思う。
「そうですか。承知いたしました」
グレースさんの横で、そうでしょうね、朝までですものねと何だか感心しているのはライカさんである。立ち直りが早いのは彼女の長所だ。
「あの。誤解なさっているようなので申し上げますが」
別に申し上げなくてもいいのだが、なぜかアレクシス様の尊厳に関わるような気がして説明する。
「ほうほう。なるほど。旦那様はやはりヘタ――」
「あなたは本当に口が減らないわね」
ライカさんの言葉は最後まで出されず、グレースさんの手によって口が伸びる。
「グ、グレースさん、まあまあ」
グレースさんをたしなめると彼女はため息をついてライカさんを解放した。
「ですが侍従長も分かっていらっしゃったみたいですよ」
「え?」
「ふん、ようやくですかと旦那様のことを鼻で笑っていらっしゃいましたもの」
ライカさんは口元を撫でながらそう言った。
「そ、そうだったのですか」
アレクシス様のお見送り時のキスは、ボルドーさんを納得させるものではなかったということだ。そう思うと恥ずかしいが、もしかしたらアレクシス様の方がもっときまりの悪い思いをしているかもしれない。
「ええ。ライカのぎこちない態度で分かってしまっていたようですね。旦那様と奥様はとても仲睦まじく見えましたよ」
「え。そう、ですか?」
「ええ。特に旦那様が」
グレースさんはくすりと小さく笑う。
「とてもお幸せそうに見えました」
「そうですね。過保護と称して一身に降り注ぐような愛情表現をされていましたよね」
そうなのだろうか。
自分ばかり幸せな気持ちになっていたと思っていたが、アレクシス様もそう思ってくれていたのだろうか。
そういえばアレクシス様は私に言ってくれた。
愛していると。
……ブランシェに愛していると。
熱のこもった声でそう言ってくれた時に胸が燃えるように熱くなったが、瞬く間に現実に戻って痛みを感じた。苦しくなってしまった。一方で自分に対して嫌悪感を覚えた。清廉なアレクシス様に対して私はあまりにも汚れた存在だ。自分の恋情だけで取り返しのつかないことをしてしまったと思う。アレクシス様が愛しているのは、アンジェリカではなくブランシェなのに。
「奥様? 大丈夫ですか? お体がやはりおつらいですか?」
グレースさんが黙り込んだ私を気遣って尋ねてくる。
「いえ」
私はいつの間にかうつむいていた顔を上げて微笑む。
「お腹が空きました」
「そうですか。では早速ご準備をいたしましょう」
グレースさんは安心したように、ライカさんはそれでこそ奥様ですと笑った。
準備を済ませると、いつもより少し遅い朝食を取ることになった。
部屋で取りますかと言われたが、やはりアレクシス様とご一緒する食事の方がいいと思い、食堂に向かうことに決めた。
部屋を出ると、手持ち無沙汰にしているアレクシス様の姿が見える。
「アレクシス様」
声をかけて足早に近付こうとすると彼の方から大股でやって来た。
「ブランシェ、体は大丈夫か」
「は、はい」
アレクシス様のお顔を拝見しながら食事したかったのに、彼の熱を思い出し、それが頬に集まってきてうつむいた。
「食事は部屋で取る方がいいか」
「い、いいえ」
気遣う声をかけられて私は慌てて顔を上げる。
しっかりと絡みあった視線に尻込みしそうになったが、今度は視線を逸らさないで微笑んだ。
「ご一緒したいです」
「そうか。では、行こう。抱いて……いくか?」
「い、いいえ。それは。大丈夫です」
今の今で恥ずかしすぎる。
「そうか」
がっかりしたような、しくじったようなアレクシス様の声に私は別のお願いをすることにした。
「ですが手を……繋いでいただけますか」
「ああ」
遠慮がちに伸ばされたアレクシス様の手は、大きくがっしりしている。手から伝わってくる熱にまた恥ずかしくなってきたが、それ以上にアレクシス様が気まずそうで私から視線を逸らして前を見ると、行こうと私を促した。
食事の時間はいつも楽しみなのに、本日はお腹が空いている割に食欲がない。こんな事態は初めてのことで自分自身も戸惑ってしまう。
「どうした? 今日は食欲が無いな」
「あ、いえ。今日も美味しいです、とても」
少しずれた回答を返す。
心配そうに見られていると余計に緊張して食べられない。
「ほ、本日はこの後どうしましょう」
「そうだな。今日は出かけるのは諦めて家で過ごすことにしよう。それでいいか?」
私の体を気遣ってのことだろう。町に行くことも私の心を気遣ってのことだ。アレクシス様はいつも私のことを気遣ってくださる。その気持ちがとても嬉しい。それはまるでブランシェではなく、目の前の私に向けてくれているみたいだから。
……だから、いけないと分かっていても私は自分の不誠実な行為から目を背けてしまう。
「はい。もちろん構いません。わたくしはアレクシス様とご一緒に過ごせる時間を幸せに思っております」
真っ正面から伝えた言葉にアレクシス様は面食らった様子で、目元を少し赤くした彼は視線を逸らし、ありがとうと呟いた。
途端にこの部屋から熱が消え失せて寒々しくなってしまう。
すると。
扉が遠慮がちにノックされたので返事をする。
「おはようございます、奥様」
「先ほどはライカが失礼いたしました」
ライカさんが眉と肩を落として入って来た。本日はグレースさんも一緒だ。
「はい。失礼いたしました……」
「いえ。わたくしどもも失礼いたしました」
私はまだベッドの中からご挨拶させてもらう。
「奥様、お体はいかがでしょうか」
グレースさんが私に尋ねてきた。
「はい。大丈夫です。動くと少し体に響きますが」
体に刻まれたその感覚でさえも恋しく思う。
「そうですか。承知いたしました」
グレースさんの横で、そうでしょうね、朝までですものねと何だか感心しているのはライカさんである。立ち直りが早いのは彼女の長所だ。
「あの。誤解なさっているようなので申し上げますが」
別に申し上げなくてもいいのだが、なぜかアレクシス様の尊厳に関わるような気がして説明する。
「ほうほう。なるほど。旦那様はやはりヘタ――」
「あなたは本当に口が減らないわね」
ライカさんの言葉は最後まで出されず、グレースさんの手によって口が伸びる。
「グ、グレースさん、まあまあ」
グレースさんをたしなめると彼女はため息をついてライカさんを解放した。
「ですが侍従長も分かっていらっしゃったみたいですよ」
「え?」
「ふん、ようやくですかと旦那様のことを鼻で笑っていらっしゃいましたもの」
ライカさんは口元を撫でながらそう言った。
「そ、そうだったのですか」
アレクシス様のお見送り時のキスは、ボルドーさんを納得させるものではなかったということだ。そう思うと恥ずかしいが、もしかしたらアレクシス様の方がもっときまりの悪い思いをしているかもしれない。
「ええ。ライカのぎこちない態度で分かってしまっていたようですね。旦那様と奥様はとても仲睦まじく見えましたよ」
「え。そう、ですか?」
「ええ。特に旦那様が」
グレースさんはくすりと小さく笑う。
「とてもお幸せそうに見えました」
「そうですね。過保護と称して一身に降り注ぐような愛情表現をされていましたよね」
そうなのだろうか。
自分ばかり幸せな気持ちになっていたと思っていたが、アレクシス様もそう思ってくれていたのだろうか。
そういえばアレクシス様は私に言ってくれた。
愛していると。
……ブランシェに愛していると。
熱のこもった声でそう言ってくれた時に胸が燃えるように熱くなったが、瞬く間に現実に戻って痛みを感じた。苦しくなってしまった。一方で自分に対して嫌悪感を覚えた。清廉なアレクシス様に対して私はあまりにも汚れた存在だ。自分の恋情だけで取り返しのつかないことをしてしまったと思う。アレクシス様が愛しているのは、アンジェリカではなくブランシェなのに。
「奥様? 大丈夫ですか? お体がやはりおつらいですか?」
グレースさんが黙り込んだ私を気遣って尋ねてくる。
「いえ」
私はいつの間にかうつむいていた顔を上げて微笑む。
「お腹が空きました」
「そうですか。では早速ご準備をいたしましょう」
グレースさんは安心したように、ライカさんはそれでこそ奥様ですと笑った。
準備を済ませると、いつもより少し遅い朝食を取ることになった。
部屋で取りますかと言われたが、やはりアレクシス様とご一緒する食事の方がいいと思い、食堂に向かうことに決めた。
部屋を出ると、手持ち無沙汰にしているアレクシス様の姿が見える。
「アレクシス様」
声をかけて足早に近付こうとすると彼の方から大股でやって来た。
「ブランシェ、体は大丈夫か」
「は、はい」
アレクシス様のお顔を拝見しながら食事したかったのに、彼の熱を思い出し、それが頬に集まってきてうつむいた。
「食事は部屋で取る方がいいか」
「い、いいえ」
気遣う声をかけられて私は慌てて顔を上げる。
しっかりと絡みあった視線に尻込みしそうになったが、今度は視線を逸らさないで微笑んだ。
「ご一緒したいです」
「そうか。では、行こう。抱いて……いくか?」
「い、いいえ。それは。大丈夫です」
今の今で恥ずかしすぎる。
「そうか」
がっかりしたような、しくじったようなアレクシス様の声に私は別のお願いをすることにした。
「ですが手を……繋いでいただけますか」
「ああ」
遠慮がちに伸ばされたアレクシス様の手は、大きくがっしりしている。手から伝わってくる熱にまた恥ずかしくなってきたが、それ以上にアレクシス様が気まずそうで私から視線を逸らして前を見ると、行こうと私を促した。
食事の時間はいつも楽しみなのに、本日はお腹が空いている割に食欲がない。こんな事態は初めてのことで自分自身も戸惑ってしまう。
「どうした? 今日は食欲が無いな」
「あ、いえ。今日も美味しいです、とても」
少しずれた回答を返す。
心配そうに見られていると余計に緊張して食べられない。
「ほ、本日はこの後どうしましょう」
「そうだな。今日は出かけるのは諦めて家で過ごすことにしよう。それでいいか?」
私の体を気遣ってのことだろう。町に行くことも私の心を気遣ってのことだ。アレクシス様はいつも私のことを気遣ってくださる。その気持ちがとても嬉しい。それはまるでブランシェではなく、目の前の私に向けてくれているみたいだから。
……だから、いけないと分かっていても私は自分の不誠実な行為から目を背けてしまう。
「はい。もちろん構いません。わたくしはアレクシス様とご一緒に過ごせる時間を幸せに思っております」
真っ正面から伝えた言葉にアレクシス様は面食らった様子で、目元を少し赤くした彼は視線を逸らし、ありがとうと呟いた。
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