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第65話 次の旅

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先代勇者の1人カズこと和樹が涼達に受け入れられた頃。

「痛っつつ…」

街の裏手で顔が痣になるまで殴られたカイトが起き上がる。

服は水溜まりで濡れてしまい頭はフケだらけな上に情けないほどに見窄らしくなってしまった。
彼は先代勇者の1人で3人の中で年長者のカイト。本名は陣内海斗(じんないかいと)。

和樹と同じくあの日共にゲームにログイン中に異世界へ召喚された1人だった。
和樹と同じくこの世界が遊んでいたVRMMOと全く同じだった為にゲームのイベントと思い込み現実とは気づかず悪党の肩簿を担いで殺しをしていたのだ。

「くそっ!」

カイトは地面を殴る。

痛みがじんじんと拳に伝わる。この痛みは本物だ。

カイトは食事をする為にレストランへ行ったのだが顔が割れている為誰もカイトを入れずに門前払いばかりされ先程肩が当たったガラの悪い連中と殴り合いになり散々やられた上に有り金を全て奪われてしまったのだ。

夜中の森ではカイトがその辺りにあった草や虫に木の皮など食べられる可能性がある物を根こそぎ口に入れていた。
そして腹をくだして草陰へ駆け込むを繰り返していたのだ。

ぐーと森に響く腹の音。

「腹…へった…何か食べ物…」

余りの空腹に倒れた。カイトの意識が飛んでいく。

「カイト様」

「…?」

意識が朦朧とする中カイトが顔を上げるとそこには自らを裏切ったアイカがしゃがんでいる。

「アイカ…?か?」

「そうです」

「へへ…パンツ…見えてる…ぜ…」

性懲りも無くいやらしい男ですわねコレは!

「何の…用だ…?裏切った事…謝りに来たのかい?」

「ええ、カイト様に差し入れを!」

アイカは黒い石をカイトの口の中へ入れた。

「っ!?う…うぁぁぁぁ!!」

次の瞬間カイトの身体が黒い煙に飲み込まれた。

煙が晴れるとそこにはお腹に巨大な口を開けっぱなしに涎を垂らした気味の悪い怪物がいた。角も生やし顔は何だスケベ丸出しみたいなムカつく面だ。

「さあ、カイト様。お食事に行きましょう!」

「あ…喰わせろ…飯…女ーー!!」

怪物に変貌したカイトは雄叫びを上げアイカと何処へ行った。


王都ガネットでは涼達が和樹を連れてガネット国王の元へ向かっていた。

玉座の間で膝をつき頭を下げている和樹。

「これまでの無礼大変申し訳ありませんでした」

「頭を上げよ。紛いなりにも其方は元勇者だ。罪を反省したならば涼殿達と共にこの世を本当の平和へともたらしてみよ!そして其方は涼殿達の管理下に置く。平和訪れるその日までの自由は無いと思え!それが罰だ。」

「ハイ。感謝いたします。」

「王様ありがとう!」

「涼。今は大事な話し中よ!」

アリシアが涼に注意する。

「では次に問う。其方は本当に魔人族のアジトを知らぬのか?」

「はい。俺達がいた場所は閉鎖されていて。もぬけの殻でした。」

そう和樹達が魔界と行き来していた道があった古い城は廃棄になっておりもぬけの殻になっていたらしい。

「そういや他の2人はどうしたんだ?」

「涼。だから静かにして!」

アリシアは再び注意する。

「他の2人の元勇者はどうした?」

「2人とは後に合流する予定でしたが…その後連絡が取れなくてなって何処にいるかまでは」

「そうか。もう良い下がれ」

和樹はそう言うと先に馬車へ戻って行った。

「さて本題ですが、涼殿達に仕事をお願いしたい。」

「仕事?」

「実は最近妙な怪物がビクセントに現れ飲食店と女性が襲われているのです。」

「ビクセント?」

「南にあるガネットの次に大きい国なの」

ビクセント大国はガネットと並ぶ南の王国で産業が盛んな国で様々な武器が作られている職人の国とも呼ばれている。

「それで依頼とは?」

「ビクセントへ出向き事の次第を調べ出来れば解決してほしいのです。勿論報酬は授けます」

「我輩達にビクセントへ行けとですか?」

「そう言ってんだろルーガル」

「ジョークですぞカイエン殿!」

涼と同じで馬鹿だからなコイツ絶対にわかってない。

「いいじゃないか!俺達は戦隊だ!」

「言うと思った」

「ですね」

「君はそればっかりだな」

「という訳で父上。私達は遺言はありませわん。」

「でわ、頼んだぞ。」

涼達は調査のためにビクセントへ旅立つ事になった。

涼達が馬車へ戻ると国王からの依頼をベル達に報告すると涼達は旅立つ準備を始める。

「いつもこの馬車で旅をしているのか?」

「ああ。和樹みんなとは慣れたか?」

「ぼちぼちだな。今までの事があるから中々信用は得られないな。特に宝石獣達からは」

宝石獣達にとっては和樹達は仲間を滅ぼした仇の1人だそりゃ中々受け入れられる訳ないか。

「涼。支度できたの?」

「おう。他のみんなは?」

「各自でまだ準備してるわ。ビクセントは結構遠いから皆んな用事を済ませてるわ」

「そんなに遠いのか?」

和樹は馬車で旅した事ないからな。

「馬車で2日なの。結構な長旅だから和樹も今のうちに支度しときなさいよ」

「ああ、わかった。ありがとう姫様」

一様涼がお父様に話つけて必要最低限のお金を工面してくれる様に話をしてくれたから。

「そうと決まれば。和樹まだ時間あるから俺達も街へ行って買い物しようぜ!」

「え、でも俺は…」

「俺達が一緒だから大丈夫だ。行くぜルビティラ!」

「涼。焼き鳥が食いたいティラ!」

「仕方ないな~わかったよ」

「やった!ティラ。姫行ってくるティラ!」

「うん。後でねルビティラちゃん!」

涼は和樹を連れて城下町へ向かった。

アリシアは旅立つ前に公務を片付けるべく城へ戻っていった。勇者になったとは言え王族なのだから。

街ではこの前の爪跡が酷く残ってはいたが。涼達や宝石獣。さらに街の皆んなと力を合わせてガネットは元の美しい街へ戻りつつあった。
和樹は顔が見られたくないのかフードを羽織って顔を隠していた。

「何やってんだよ」

「俺はお尋ね者だ。見つかったら…」

「大丈夫だよ」

「涼。焼き鳥!!」

焼き鳥の屋台を見つけたルビティラが涼にせがむ。

「やあ、勇者さん」

「おやっさん焼き鳥3つね!」

「あいよ。銅貨12枚ね!」

涼は懐から皮袋を取り出し銅貨を12枚渡した。
この世界の通貨は金貨、銀貨、銅貨である。

金貨1枚がやく一万円位の価値。
銀貨が1枚で千円位の価値。
銅は10枚で百円位らしい。

涼が払った金額は役120円位だ。

「美味いティラ!」

涼達は歩きながら買った焼き鳥を食べている。

「この世界の金の事も勉強したのか?」

「いや、のぶさんの店の手伝いで自然に覚えたんだよ」

「信道さんは居酒屋なんだよな?」

「ああ、馬車にも簡易式の店を取り付けて旅先で開いてるんだ。」

ああ~信道さんが整備してたあの屋台か。

「近いうちにお前にも働いてもらうからな」

「あ、ああ。」

居酒屋で仕事か~バイトひとつした事ないが大丈夫だろうか。

「涼、和樹!」

「噂をすれば」

「のぶティラ!」

紙袋を持ったのぶさんが誰かと歩いている。

「のぶさんその人は?」

「ああ。ウチの従業員だよ。」

「始めまして。涼さんですね?話は店長から聞いています。私は従業員のアンズです」

「のぶさんの彼女か?」

「ばーか」

信道は笑いながら涼をデコピンした。

「いてぇよ!」

「一丁前な口聞くからだ!」

「全くティラ!」

「お前が言うか!」

「店長ったら。私は店長…信道くんのいとこです」

「いとこ?家族でやってるのか?」

「ああ、俺は勇者業も始めたからな。実家からお袋達を呼んだんだよ」

「それで最近いなかったのか」

「ああ、お袋達に話をつけていてな」

信道は勇者業も始めた為店の方が疎かになってしまった為実家から家族を呼んで店を任せたのだ。今は店にはいとこのアンズと母親と彼女の父であり叔父が留守の間店を任しているのだ。勿論戻れる時は戻っているが。

「じゃあもう少しで仕込みが終わるから」

「失礼します」

「おう。後でな!」

涼達は信道達と別れた。

「涼さん!」

「2人も買い物ですか?」

「俺も居るティラ!」

「ごめんでありますルビティラ」

ベルはルビティラを撫でる。

「リア、ベル。お前達もか!」

「はいであります。必要なコンテナパーツとルーンを刻む為の道具とか色々」

「私はベルちゃんの付き添いです」

リアとベルはこれからの戦いに備えて壊れた道具を修理したり新しいアイテムの開発の為に材料を買い出しに行っていたのだ。

「和樹さんは?」

「俺はちょっと気分転換に涼が連れ出してくれたから」

「いつまでも暗いでありますね。もっと胸を張るでありますよ!」

「そうですよ。和樹さんはもう私達の仲間ですから。」

仲間か…

「じゃあ先に戻るでありますね!」

「2人共また!」

「おう、後でな!」

「和樹次行こうぜ!」

「お、おい!」

「俺も買い食いティラ!」

涼と和樹はその後旅に必要な下着などの衣類や雑貨などを買い買い食いしながら馬車へ戻ると、コハク達が宝求剣で模擬稽古をしていた。

「腕を上げたなルーガル!」

「カイエン殿こそ流石ですぞ!」

「2人共相変わらずいいコンビネーションだな」

どうやら2対1で模擬稽古をしているようだ。

カイエンとルーガルはお互いに相性がいいのかいつも息の合った名コンビっぷりを発揮している。コハクも2人を相手にしているのに無駄のない動きで2人の剣をいなして弾き着地する。

「よう。せいがでるな!」

「涼殿!」

「何処で道草食っていたんだ?」

「ちょっと和樹と買い食いしててな!」

「何が買い食いだよ。君は…」

「美味かったティラよ!」

「はいはいわかったから…」

たく能天気だなこいつらは…これから旅立つってのに。

「ん?何だい?」

「いや、剣の稽古をしてたんだな」

「鍛錬無くして勇者は勤まらぬからな」

「鍛錬しなくて弱いままだった奴にはなりたくないからな」

「…」

和樹は身にしみてコハク達の言葉が突き刺さる。

鍛錬もしないで武器にばかり頼っていた。ゲームならレベルと強い武器でごり押し出来たかも知れないが異世界だが現実の世界ではやはり差がかなりついてしまう。

「みんないい加減に仲良くしろよ!」

「お前みたいな能天気と一緒にすんな」

「割り切れませぬ」

「でもな!」

「いいんだ、涼。」

「和樹…」

「2人が言うのも今なら判る…俺は大丈夫だ…」

コハクは稽古用の木刀を和樹に手渡す。

「え!!」

「コハク!」

「どうして?」

「勘違いしないでくれ。これからの旅で足手まといになってもらいたくない。ただそれだけだよ。いいから構えてくれ」

「コハク!」

「宜しくお願い…します…」

和樹は木刀を構えた。

「他人行儀はいいから。かかって来い和樹」

「ああ、頼むコハク!」

「よし、始め!」

涼の掛け声で2人は木刀を構えてぶつけ合う。結果は言うまでもなく和樹の惨敗だった。だが、剣を使っていただけあり筋はいいらしくちゃんと鍛錬すれば化ける見込みありとマナリアが言ってくれた。

旅の準備を終えた涼達は馬車へ乗り込む。

「さあ、目指すはビクセント王国だ。南へ向かえルビティラ!」

「出発進行ティラ!」

ルビティラはご機嫌に馬車を引くとどんどんガネットから離れていく。
涼達はビクセント王国目指して旅立つって行った。

しかし、この先にある危険な悪食の怪物の正体はまだ知らない。
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