68 / 113
連載
STAGE15・終わりの始まり
しおりを挟む
「お、よかった! 村が見えたぞ。なんとか野宿は避けられそうだな!」
背後から聞こえてきたダレンの声に、ハッと意識を取り戻す。
…………はて、私は今何をしていたのだろうか。
(“意識を取り戻す”って……おかしいわね。寝ていたわけでもないのに……)
右手には相棒の鋼鉄メイスがあり、足元には叩き潰された魔物の残骸が転がっている。うん、明らかに私が戦った跡だ。
ディアナ様の故郷であるエリーゴの街を出発したのは、つい先ほど。太陽が昇り切る前の午前中だったはず。
なのに、見上げた空は赤と橙色……いや、すでに夜の色が混じり始めていた。
「何これ……いつの間に……?」
まるで早送りでもされたかのように、時間がごっそりと進んでしまっている。これは一体どういうことだ?
思わず声をこぼせば、すぐ隣から聞き慣れた幼馴染の声が聞こえてきた。
「アンジェラ? 大丈夫?」
「ジュード……」
愛剣を鞘の中へしまう彼の姿は、髪も服も特に乱れていない。いつも通りのイケメンだ。
転がっている魔物もよく見かける弱い個体だし、時間を忘れるほど長く戦っていたというわけではないだろう。
「具合でも悪いの? なんだか、ずっと心ここにあらずって感じだったよ」
「……そういうわけではないんだけど」
そっと伸ばされた大きな手のひらが、私の額に触れる。伝わるジュードの体温と、心地よい空気。……感触があるのだから、夢でもない。
ということは、私はボーッとしたまま戦っていたようだ。我ながら、戦場で何をやっているのかしらね。
「熱はないけど、まだ疲れがとれていないのかな? もう少し進んだら村があるみたいだから、ゆっくり座っていきなよ。僕たちだけでも大丈夫だから」
「そう、ね……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね」
離れていく温もりを名残惜しく感じつつも、大人しくメイスを片付ける。
彼の言う通り、進行方向には村と思しき木の柵が見えている。恐らく二十分も馬車を走らせれば辿りつけるだろう。
いつも通り御者席に腰を下ろせば、すぐに中と繋がる窓から声をかけられた。
「大丈夫かい、アンジェラ殿。今日はまだそんなに戦っていないはずだけど」
話しかけてきたのは王子様だったけど、どうやら座席のほうには魔術師組も全員乗ったままのようだ。
彼らが動いていないのなら、大した戦闘はなかったということだ。……だからといって、呆けていい理由にはならないけど。
「すみません、ちょっとぼんやりしていたみたいです」
「具合が悪いのならすぐに言ってくれ。まだ座席には余裕もあるし」
「ありがとうございます」
本当に心配してくれている様子の彼に会釈を返して、視線を前へと戻す。先行するダレンたちと話を終えたジュードも、すぐに御者席ほうへ戻ってきた。
街を出る時はちょっとバタバタしていたけど、それ以外には問題もなく進行しているようだ。
(……ああ、そうだわ。マグマの跡地を迂回する時に、車輪が上手く曲がらなくて苦労したのよね。ちゃんと覚えているのに……私はいつから呆けていたのかしら)
隠密の魔法を発動させながら、自分の記憶を辿ってみる。
ハルトとディアナ様の話をしたことは忘れていない。しばらく触れていなかった乙女ゲームっぽい貴重な話だもの。それは忘れるはずがない。
曖昧になっているのは、その後……そうだ、自分の目の色に気付いた時からだわ。
(青い目の色。私のこれが、件の泥女と同じだと気付いた辺りから、ぼんやりしている?)
きっと大事なことなのに、どうしてボーッとしてしまったのだろう。
青眼なんてこの国では珍しくもない。なのに、この部隊では私だけが持っている。そこに意味があるかもしれないのに。
(熱があったり病気って感じもない。そもそも、強化魔法を使える私が、記憶が飛ぶほど呆けてしまうなんて)
トールマン邸ではちゃんと休ませてもらったし、疲れが残っているとも考えにくい。
何故だ? ――――“何か、おかしい?”
[くれぐれも気をつけてね。彼女に会うと、君の体は――]
「アンジェラ。村につくまで寝ていていいよ?」
答えが喉まで出かかったところで、ぽすんと頬に何かが触れる。
気付けば、私の肩にジュードの手が回されており、頭を彼の肩に預けてくれていた。
「…………考えごとの答えが、出かかっていたんだけど」
「あれ、邪魔しちゃった? ごめんごめん」
「まあ、いいけどさ」
促されるままに目を閉じれば、規則的な蹄の音とジュードの匂いだけの世界になる。手綱を片手だけで操れるとか、ジュードもすっかり馬車の扱いに慣れたものね。
(まあ、どうせ今のボーッとした頭で考えても、正しい答えは出ないわね)
ちょうどこれから休める場所へ向かうのだ。
落ち着いた場所で、意識をハッキリさせてからのほうがいいかもしれない。
なんとなくモヤッとした感覚は残るけど、そのまま馬車は目的地へと進んで行く。
そうして数十分後。私たちの一行は、日が落ちきる前に無事に村に辿りついた。
といっても、村というよりは小さな集落だったようで、宿屋などもないらしい。事情を話せば、今夜は集会所として使われている平屋を貸してもらえることになった。
日程的に野宿も覚悟していたし、屋根のある建物を借りられるだけでも充分ね。
「布団借りてきたぞー」
馬車から必要な荷物を下ろしていれば、ダレンが全員分のお布団も借りてきてくれたようだ。これで横になって眠ることもできる。
ヘルツォーク遺跡まではもう数日馬車を走らせなければならないし、こうした一日一日の回復はとても貴重だ。
……まあ、乗っている人間の立場を考えれば、ちょっとずさんすぎる対応かもしれないけど。
王子様が一切文句を言わないのだから、こういう点でもいい部隊よね。
「……おい、偽聖女」
「何よ外見詐欺師」
そんなこんなで休む準備をしていれば、ふいにカールから低い声がとんできた。
ちゃんと応えるのも癪なので嫌味で返せば、『ぽん』と軽い音を立てて何かが投げつけられる。
「ちょっと、何す……あ、おばけちゃん!」
条件反射で手を伸ばせば、その正体は彼の使い魔のおばけちゃんだったようだ。
風船のようにまんまるの体に重量はなく、ぽいんと私の手の上で弾んでからゆっくりと降りてくる。
デフォルメされた顔は、『ひさしぶりー!』とでも言わんばかりの明るい笑みだ。
「ふふ、相変わらず可愛いわねー! ねっ今度こそ私にくれるの!?」
「やらねえよ!! 貸すだけだ!!」
「チッ」
「聖女が舌打ちすんな!!」
カールのもっともなツッコミはスルーして、久しぶりのマスコット候補をきゅっと抱き締める。
おばけだから冷たいのかと思いきや、それっぽいのは外見だけらしい。まんまるの体は人肌同等に温かく、つつくとプニッとした柔らかな感触を指に伝えてくる。
私の腕の中に納まったまま、ゆらゆらとリズムをとる姿はなんだか楽しそうだ。
「ああ、可愛い……!! 癒されるわ! 肌触りもいいし、何でできてるのかしらねー? うりうり」
「うんうん、可愛いもの同士がじゃれてると、見てるこっちも癒されるよ」
プニプニ肌に思わず頬ずりしてみれば、ジュードをはじめとした仲間たちの笑い声が聞こえてくる。
やっぱりマスコットは必要よね? この部隊、戦力は足りているのだから、次は癒しを投入するべきよね!?
「この子、欲しいなあ……」
「調子に乗るな、貸すだけだっての! ……全く、珍しく落ち込んでいると思ったら元気じゃねえかよ」
「……落ち込む?」
意外な言葉に視線を向ければ、カールは何とも言えないしかめっ面で私を見ていた。
もしかしなくても、彼なりに気を遣ってくれたのだろうか。
「私、落ち込んでいるように見えた?」
「少なくとも、元気なようには見えなかったな。魔物が出たら、いつもノリノリで撲殺していくお前にしては」
「破壊工作班に言われたくないわよ」
まあ、戦闘脳であることは否定しないけど。相棒をふり回すのは、実際大好きだし。
でも、それをカールが気にかけてくれるのはちょっと意外だったわね。……今向かっている先が『私に対する罠』である可能性が高いからかしら。
なんとなく視線を動かせば、他の皆も穏やかな表情で私とカールのやりとりを見守ってくれている。
……思ったよりも、私は皆に心配をかけてしまっていたのかもしれない。
(それはそうか。だって、ヘルツォーク遺跡へ行くことになった理由は、私だものね。心配……してくれたんだ)
全く、本当に、私の仲間たちはいい人ばかりで困ってしまうわ。私が皆に返せることなんて、戦闘と回復魔法ぐらいしかないのに。
「…………ありがとう」
噛み締めるようにお礼を口にすれば、『どういたしまして』と皆から返ってくる。
ああ、胸がぽかぽかする。抱き締めたおばけちゃんの温もりはもちろんだけど、もっと奥のほうから温かい。
世界はハードで鬼畜だけど、本当にいい仲間たちに出会えたわ。……今回は、カールも含めてね。
「それでアンジェラ。今日、君が煩わされていたのは、結局なんだったの?」
止めていたお布団敷きを再開しながら、ジュードが問いかけてくる。
やっぱり私は何かを思い悩んでいたように見えていたみたいね。実際には、記憶がないぐらいにぼんやりしていたわけなんだけど。
「んー……正直、私自身もよくわからないんだけどね」
もう一度おばけちゃんに頬ずりをすれば、慰めるようにプニプニと応えてくれる。よし、今夜は一緒に寝よう! ……じゃなくて。
「考えていたというか、気付いてしまったことに煩わされていたというか……」
「気付いてしまった?」
首を少し動かすと、壁際の木枠の窓が目に入る。ごくごく一般的な、ガラス張りの窓だ。
外はすっかり暗くなっており、日本のように明るい街灯がともっているようなこともない。
おかげで鏡の役割を果たすそこには、私とおばけちゃんの顔が映っている。きょとんとした可愛いこの子と、私の――青い目が。
「私が泥の中に見ていた青い眼球は――――私の」
――――そこで、私の意識は途切れた。
背後から聞こえてきたダレンの声に、ハッと意識を取り戻す。
…………はて、私は今何をしていたのだろうか。
(“意識を取り戻す”って……おかしいわね。寝ていたわけでもないのに……)
右手には相棒の鋼鉄メイスがあり、足元には叩き潰された魔物の残骸が転がっている。うん、明らかに私が戦った跡だ。
ディアナ様の故郷であるエリーゴの街を出発したのは、つい先ほど。太陽が昇り切る前の午前中だったはず。
なのに、見上げた空は赤と橙色……いや、すでに夜の色が混じり始めていた。
「何これ……いつの間に……?」
まるで早送りでもされたかのように、時間がごっそりと進んでしまっている。これは一体どういうことだ?
思わず声をこぼせば、すぐ隣から聞き慣れた幼馴染の声が聞こえてきた。
「アンジェラ? 大丈夫?」
「ジュード……」
愛剣を鞘の中へしまう彼の姿は、髪も服も特に乱れていない。いつも通りのイケメンだ。
転がっている魔物もよく見かける弱い個体だし、時間を忘れるほど長く戦っていたというわけではないだろう。
「具合でも悪いの? なんだか、ずっと心ここにあらずって感じだったよ」
「……そういうわけではないんだけど」
そっと伸ばされた大きな手のひらが、私の額に触れる。伝わるジュードの体温と、心地よい空気。……感触があるのだから、夢でもない。
ということは、私はボーッとしたまま戦っていたようだ。我ながら、戦場で何をやっているのかしらね。
「熱はないけど、まだ疲れがとれていないのかな? もう少し進んだら村があるみたいだから、ゆっくり座っていきなよ。僕たちだけでも大丈夫だから」
「そう、ね……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわね」
離れていく温もりを名残惜しく感じつつも、大人しくメイスを片付ける。
彼の言う通り、進行方向には村と思しき木の柵が見えている。恐らく二十分も馬車を走らせれば辿りつけるだろう。
いつも通り御者席に腰を下ろせば、すぐに中と繋がる窓から声をかけられた。
「大丈夫かい、アンジェラ殿。今日はまだそんなに戦っていないはずだけど」
話しかけてきたのは王子様だったけど、どうやら座席のほうには魔術師組も全員乗ったままのようだ。
彼らが動いていないのなら、大した戦闘はなかったということだ。……だからといって、呆けていい理由にはならないけど。
「すみません、ちょっとぼんやりしていたみたいです」
「具合が悪いのならすぐに言ってくれ。まだ座席には余裕もあるし」
「ありがとうございます」
本当に心配してくれている様子の彼に会釈を返して、視線を前へと戻す。先行するダレンたちと話を終えたジュードも、すぐに御者席ほうへ戻ってきた。
街を出る時はちょっとバタバタしていたけど、それ以外には問題もなく進行しているようだ。
(……ああ、そうだわ。マグマの跡地を迂回する時に、車輪が上手く曲がらなくて苦労したのよね。ちゃんと覚えているのに……私はいつから呆けていたのかしら)
隠密の魔法を発動させながら、自分の記憶を辿ってみる。
ハルトとディアナ様の話をしたことは忘れていない。しばらく触れていなかった乙女ゲームっぽい貴重な話だもの。それは忘れるはずがない。
曖昧になっているのは、その後……そうだ、自分の目の色に気付いた時からだわ。
(青い目の色。私のこれが、件の泥女と同じだと気付いた辺りから、ぼんやりしている?)
きっと大事なことなのに、どうしてボーッとしてしまったのだろう。
青眼なんてこの国では珍しくもない。なのに、この部隊では私だけが持っている。そこに意味があるかもしれないのに。
(熱があったり病気って感じもない。そもそも、強化魔法を使える私が、記憶が飛ぶほど呆けてしまうなんて)
トールマン邸ではちゃんと休ませてもらったし、疲れが残っているとも考えにくい。
何故だ? ――――“何か、おかしい?”
[くれぐれも気をつけてね。彼女に会うと、君の体は――]
「アンジェラ。村につくまで寝ていていいよ?」
答えが喉まで出かかったところで、ぽすんと頬に何かが触れる。
気付けば、私の肩にジュードの手が回されており、頭を彼の肩に預けてくれていた。
「…………考えごとの答えが、出かかっていたんだけど」
「あれ、邪魔しちゃった? ごめんごめん」
「まあ、いいけどさ」
促されるままに目を閉じれば、規則的な蹄の音とジュードの匂いだけの世界になる。手綱を片手だけで操れるとか、ジュードもすっかり馬車の扱いに慣れたものね。
(まあ、どうせ今のボーッとした頭で考えても、正しい答えは出ないわね)
ちょうどこれから休める場所へ向かうのだ。
落ち着いた場所で、意識をハッキリさせてからのほうがいいかもしれない。
なんとなくモヤッとした感覚は残るけど、そのまま馬車は目的地へと進んで行く。
そうして数十分後。私たちの一行は、日が落ちきる前に無事に村に辿りついた。
といっても、村というよりは小さな集落だったようで、宿屋などもないらしい。事情を話せば、今夜は集会所として使われている平屋を貸してもらえることになった。
日程的に野宿も覚悟していたし、屋根のある建物を借りられるだけでも充分ね。
「布団借りてきたぞー」
馬車から必要な荷物を下ろしていれば、ダレンが全員分のお布団も借りてきてくれたようだ。これで横になって眠ることもできる。
ヘルツォーク遺跡まではもう数日馬車を走らせなければならないし、こうした一日一日の回復はとても貴重だ。
……まあ、乗っている人間の立場を考えれば、ちょっとずさんすぎる対応かもしれないけど。
王子様が一切文句を言わないのだから、こういう点でもいい部隊よね。
「……おい、偽聖女」
「何よ外見詐欺師」
そんなこんなで休む準備をしていれば、ふいにカールから低い声がとんできた。
ちゃんと応えるのも癪なので嫌味で返せば、『ぽん』と軽い音を立てて何かが投げつけられる。
「ちょっと、何す……あ、おばけちゃん!」
条件反射で手を伸ばせば、その正体は彼の使い魔のおばけちゃんだったようだ。
風船のようにまんまるの体に重量はなく、ぽいんと私の手の上で弾んでからゆっくりと降りてくる。
デフォルメされた顔は、『ひさしぶりー!』とでも言わんばかりの明るい笑みだ。
「ふふ、相変わらず可愛いわねー! ねっ今度こそ私にくれるの!?」
「やらねえよ!! 貸すだけだ!!」
「チッ」
「聖女が舌打ちすんな!!」
カールのもっともなツッコミはスルーして、久しぶりのマスコット候補をきゅっと抱き締める。
おばけだから冷たいのかと思いきや、それっぽいのは外見だけらしい。まんまるの体は人肌同等に温かく、つつくとプニッとした柔らかな感触を指に伝えてくる。
私の腕の中に納まったまま、ゆらゆらとリズムをとる姿はなんだか楽しそうだ。
「ああ、可愛い……!! 癒されるわ! 肌触りもいいし、何でできてるのかしらねー? うりうり」
「うんうん、可愛いもの同士がじゃれてると、見てるこっちも癒されるよ」
プニプニ肌に思わず頬ずりしてみれば、ジュードをはじめとした仲間たちの笑い声が聞こえてくる。
やっぱりマスコットは必要よね? この部隊、戦力は足りているのだから、次は癒しを投入するべきよね!?
「この子、欲しいなあ……」
「調子に乗るな、貸すだけだっての! ……全く、珍しく落ち込んでいると思ったら元気じゃねえかよ」
「……落ち込む?」
意外な言葉に視線を向ければ、カールは何とも言えないしかめっ面で私を見ていた。
もしかしなくても、彼なりに気を遣ってくれたのだろうか。
「私、落ち込んでいるように見えた?」
「少なくとも、元気なようには見えなかったな。魔物が出たら、いつもノリノリで撲殺していくお前にしては」
「破壊工作班に言われたくないわよ」
まあ、戦闘脳であることは否定しないけど。相棒をふり回すのは、実際大好きだし。
でも、それをカールが気にかけてくれるのはちょっと意外だったわね。……今向かっている先が『私に対する罠』である可能性が高いからかしら。
なんとなく視線を動かせば、他の皆も穏やかな表情で私とカールのやりとりを見守ってくれている。
……思ったよりも、私は皆に心配をかけてしまっていたのかもしれない。
(それはそうか。だって、ヘルツォーク遺跡へ行くことになった理由は、私だものね。心配……してくれたんだ)
全く、本当に、私の仲間たちはいい人ばかりで困ってしまうわ。私が皆に返せることなんて、戦闘と回復魔法ぐらいしかないのに。
「…………ありがとう」
噛み締めるようにお礼を口にすれば、『どういたしまして』と皆から返ってくる。
ああ、胸がぽかぽかする。抱き締めたおばけちゃんの温もりはもちろんだけど、もっと奥のほうから温かい。
世界はハードで鬼畜だけど、本当にいい仲間たちに出会えたわ。……今回は、カールも含めてね。
「それでアンジェラ。今日、君が煩わされていたのは、結局なんだったの?」
止めていたお布団敷きを再開しながら、ジュードが問いかけてくる。
やっぱり私は何かを思い悩んでいたように見えていたみたいね。実際には、記憶がないぐらいにぼんやりしていたわけなんだけど。
「んー……正直、私自身もよくわからないんだけどね」
もう一度おばけちゃんに頬ずりをすれば、慰めるようにプニプニと応えてくれる。よし、今夜は一緒に寝よう! ……じゃなくて。
「考えていたというか、気付いてしまったことに煩わされていたというか……」
「気付いてしまった?」
首を少し動かすと、壁際の木枠の窓が目に入る。ごくごく一般的な、ガラス張りの窓だ。
外はすっかり暗くなっており、日本のように明るい街灯がともっているようなこともない。
おかげで鏡の役割を果たすそこには、私とおばけちゃんの顔が映っている。きょとんとした可愛いこの子と、私の――青い目が。
「私が泥の中に見ていた青い眼球は――――私の」
――――そこで、私の意識は途切れた。
0
お気に入りに追加
2,740
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】婚約している相手に振られました。え? これって婚約破棄って言うんですか??
藍生蕗
恋愛
伯爵令嬢のマリュアンゼは、剣術大会で婚約者を負かした事で婚約破棄をされてしまう。
嘆く母を尻目に、婚約者であるジェラシルへの未練は一切無いマリュアンゼは、今日も熱心に母の言付け通りに淑女教育を受けていた。
そんな中、友人から頼まれた人体実験を引き受けてくれないかと、気軽に妹を売る兄の依頼を受ける事になり────
※ この話の最後は読み手のご想像にお任せする作りになっております。苦手な方はご注意下さい。
※ 他のサイトでも投稿しています
【完結・全7話】妹などおりません。理由はご説明が必要ですか?お分かりいただけますでしょうか?
BBやっこ
恋愛
ナラライア・グスファースには、妹がいた。その存在を全否定したくなり、血の繋がりがある事が残念至極と思うくらいには嫌いになった。あの子が小さい頃は良かった。お腹が空けば泣き、おむつを変えて欲しければむずがる。あれが赤ん坊だ。その時まで可愛い子だった。
成長してからというもの。いつからあんな意味不明な人間、いやもう同じ令嬢というジャンルに入れたくない。男を誘い、お金をぶんどり。貢がせて人に罪を着せる。それがバレてもあの笑顔。もう妹というものじゃない。私の婚約者にも毒牙が…!
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*書籍化に伴い10月中旬に取り下げしますので、ご了承下さい*
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。